58旅の前の日―38
メデル達が帝国を出る前日、伯父様のコルベックは領地の森へと足を運んだ。森の奥深くには、キルとバルグという二人の管理人が住んでいる。彼らはこの広大な森を代々守り続けている一族だ。
コルベックは、普段からこの森の空気が好きだった。自然に囲まれていると、帝国の喧騒を忘れ、心が穏やかになるのを感じる。
「キルさん、バルグさん、お元気にされていますか?」
コルベックが声をかけると、ログハウスの陰から二人の人物が現れた。二人とも、年季の入った作業着を身に着けている。
「おお、公爵様!お久しぶりですな」
朗らかな笑顔で応えるのは、少し小柄で優しい雰囲気のキル。そして、キルの隣に立つのは、大柄で口数の少ないバルグだ。
「ええ、おかげさまで。皆様もお変わりなく」
コルベックは優雅に挨拶を交わす。キルとバルグの穏やかな雰囲気に、心が安らぐのを感じていた。
皆んなでわいわい話している時、キルがふとコルベックの耳元に何かを囁いた。その瞬間、コルベックの顔がみるみるうちに赤くなり、手で口元を覆い、涙ぐむような仕草を見せた。
「公爵様、どうかなさいましたか?キル、公爵様にいじわるをいったのか?」
バルグは冗談めかして問いかけたが、コルベックの様子は尋常ではなかった。まさか、キルがいじめているとは思わないが、何か気になることがあったのかもしれない。バルグはそっと風の精霊に協力を仰いだ。風がそよぎ、キルの言葉を耳に運ぶ。
「公爵様は、世界を楽しんで最後500年ぐらいになったら、わかるでしょう。森の小屋に来なさい。早くても良いですよ。これだけ大きいのは、交代時期に家族が沢山住むからですからね(笑)ふふふ。残り100年切ったらハイエルフの方が男(同性)でも子供が出来ますから、街でも家族で過ごす事が出来ますよ!(笑)ハイエルフとヒューマンの同性同士では、子はヒューマンになるから問題無いですし、先祖返りも無いから安心して(笑)私達もその頃、二人ぐらい欲しいと言っているんですよ(笑)」
キルの言葉が耳元で反響し、コルベックの理解が追いつかないみたいだ。500年?ハイエルフ?同性で子供?コルベックは混乱しながらも、キルの言葉の奥に隠された真意を探ろうとした。コルベックはその言葉に深く感じ入り、何かを決意したかのように、真っ直ぐに空を見つめた。
バルグは思わず苦笑し、公爵様の肩にそっと手を置いた。
「公爵様、どうやらキルさんは、公爵家の森の管理人としての役目、そしてその先にある未来について、話したようですね。そして、私とキルにも、その未来が訪れる」
コルベックは、キルの言葉が指し示す「500年後」という遥か遠い未来、そして「ハイエルフとヒューマンの同性同士の子」という、常識では考えられないような可能性に、まだ思考が追いついていなかった。しかし、コルベックは自分とベルセルを重ねて語るキルの言葉には、何か重大なヒントが隠されているような気がしていた。
共に歩みたい――。その想いが、コルベックの胸の中で確かな形を帯び始める。
王宮の一室。
夕日でオレンジ色に染まっていた。一日の執務を終えたコルベックは、窓辺に立ち、ぼんやりと外を眺めて、森でキルさんから聞いた話が、頭の中をぐるぐると駆け巡っていました。500年…いや、もっと早くに訪れるかもしれない未来。ベルセルと一緒に、その未来を歩めるかもしれない。そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
ガチャリ、と扉の開く音。振り返ると、そこにはベルセル王子が立っていました。いつもの公務の疲れはありつつも、その瞳は期待に満ちています。
「コル、ようやく会えたね。」
ベルセルは、ゆっくりとコルベックのそばへ歩み寄り
「執務中も、ずっとコルのことが頭から離れないよ、君とといると、本当に心が落ち着く。大変なことも、君と一緒なら乗り越えられるって、そう思わせてくれる。」
ベルセルの視線は、真っ直ぐにコルベックを見つめていました。
「だから、これからもずっと一緒にいたい。私の隣で、コル…共に生きてくれませんか?」
ベルセルの言葉は、偽りのない、まっすぐな気持ちが込められていた。コルベックは、その手をそっと取り、優しく握り返した。
「ベル…」
コルベックが、昔の愛称で呼ぶと、ベルセルは嬉しそうに目を見開きました。
「君の気持ち、ちゃんと伝わったよ。私も同じ気持ちだ。君の優しい人柄に、この王都での慌ただしい日々の中で、どれだけ心を癒されてきたか。」
コルベックは、キルさんの話に触れることなく、それでも未来への確かな希望を込めて、優しく語りかけます。
「一緒にいる未来は、きっと想像以上に長くて、素晴らしいものになるだろうね。もちろん、大変なこともあるかもしれない。でも、ベル…君と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。私も、君の隣で、君の人生の一部でありたいと、心からそう願うよ。」
二人の手は、まるで二人の誓いを確かめ合うかのように、強く握りしめ。夕焼けの光が、二人の約束を祝福するように部屋いっぱいに広がり、そっと二人を包み込む。
そこまで言って、コルベックは少しだけ言葉を区切りました。そして、大切な秘密を打ち明けるかのように、ベルセルの顔をそっと引き寄せます。
「そしてね、ベル…実は、もう一つ、君に伝えたいことがあるんだ。」
ベルセルは、その真剣な表情に少し驚きながらも、コルベックの言葉を静かに待ちました。
「私には、ハイエルフの血が流れているそれは知っていると思う。そして、私たちハイエルフには…特別な『契り』の儀式があるんだ。それはね、本当に愛し合う相手と結ばれることで、その絆が身体に、そして魂に深く刻まれるものなんだ。」
コルベックはそう言うと、ベルセルの手を触れ、優しい眼差しを向けた。
「この契りを交わすと、私たちハイエルフは、最も深い愛を誓った相手と『先祖返り』の形で、体が一番良い状態に若返る。若返るだけじゃない。その恩恵は、私を愛し、契りを交わした君にも訪れるんだ。君も同じように、最も若く、活力に満ちた頃の体に戻る。」
ベルセルの瞳が、驚きに見開かれるのが見え。コルベックは、そんなベルセルの反応を愛おしく感じながら、さらに続けます。
「年齢や時の流れに縛られず、君と私は、最も輝かしい姿でずっと一緒にいられる。まるで、時が止まったかのようにね。これは森のキルさんたちが、私に教えてくれたんだ。二人の愛の絆が強ければ強いほど、その恩恵は確かなものになる、と。」
コルベックの言葉は、ベルセルにとって信じられないような、しかし同時に途方もなく甘美と恐怖の響きを持っていました。「若返り」という言葉に、ベルセルの心には深い感動と不安と共に、コルベックとの永遠の愛への確信が湧き上がって、彼の頬には、熱いものが流れた。
「ベル…」
コルベックは、嬉しくなりもう一度ベルセルの名前を呼び、その首に腕を回しました。二人の手は、まるで二人の誓いを確かめ合うかのように、強く握りしめられました。夕焼けの光が、二人の約束を祝福するように部屋いっぱいに広がり、そっと二人を包み込んだ。この瞬間、二人の新しい物語が、温かく静かに始まった。
すみません。
短いです。




