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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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51/71

51旅―冒険者(サレム国)31

終わったんだ。

そう思った瞬間、胸が少し軽くなった。

でも、その安堵は長く続かなかった。

道の先に、人影が立っていた。

青い衣をまとった女性。髪は乱れ、瞳は虚ろで、まるで霧の中に溶けているみたいだった。

「……誰?」

僕の声が震える。ブランデットお兄様が剣に手をかけ、フーマが低く唸った。

その瞬間、僕は見た。

闇が…黄金の池同じ闇を纏っている池に行ったの?、…闇が深い…闇が彼女の肩を覆い、旦那さんの影を鎖で縛りつけているみたい

鎖は蛇のようにうねり、擦れる音が耳の奥で鳴った。

湿った土の匂いが漂い、胸がぎゅっと鳴る。

こんなの、悲しすぎる。

彼女の指には、擦り切れた銀の指輪が光っていた。

きっと、最後まで旦那さんを守りたかったんだ。

その想いが、闇に変わったんだ。

カーロ姉様が淡い光をまとい、静かに前に出る。

「……死者は風に還るもの。人に縛られれば、風も泣いてしまうの。」

その声は、風みたいに柔らかく、でも鋭かった。

光が彼女の指先から広がり、闇に触れると、しゅっと音を立てて揺れる。

『光の言葉を紡げ』

闇の精霊の声が、僕の胸に響いた。

僕は深く息を吸い、カーロ姉様と目を合わせる。

二人は同時に、詠唱を始めた。

『「日々の塵や穢れを洗い流し、心を澄みわたらせる力を持ち、聖なる魂の疲れを浄化せよ。」』

言葉が空気を震わせ、祠で編んだ時の糸が僕の指先に集まる。

銀色の糸と淡い光が絡み合い、闇を包み込む。

でも、闇は簡単には離れなかった。

『執着は強い。切らなければ、未来は閉ざされるぞ』

闇の精霊の声が冷たく響く。

僕の指先が震える。

切ったら、彼女の想いまで消えてしまうんじゃないか、そんな声が胸の奥で囁いた。

でも、迷っていたら、この命は消える。

僕は唇を噛み、黒い力を掴んだ。

冷たい感覚が腕に走り、視界が暗くなる。

その瞬間、僕の中で言葉が生まれた。

“奪う癒し”

『“願い”は、誰かを思う心。“共鳴”は、その痛みに寄り添う力。“赦し”は、過去を受け入れる勇気。“再生”は、未来を信じる希望。

癒しの力は、与えるだけではない。奪う力もまた、神の意志。貴の……あなたの魂に、安らぎを』

黒い力が光と絡み、執着の糸を断ち切った。

女性の体がふっと軽くなり、闇が霧のように消えていく。

その奥で、旦那さんの影が静かに微笑んだ気がした。

――ありがとう、と。

女性の体がふらりと揺れた瞬間、僕は息を呑んだ。

何か、おかしい。

彼女の胸じゃない……お腹の奥から、別の鼓動が響いている。

小さな、でも確かな命の音。

「……お腹に……鼓動がある」

僕の声が震えた。

ブランデットお兄様が一瞬、目を見開く。

「子供……?」

カーロ姉様の光が強く揺れた。

「……まだ、生きている命があるのね」

女性が崩れ落ちる。

「……大丈夫?」

僕は駆け寄り、お兄様と一緒に手をかざした。

二人の声が重なる。

『天と地の祈りよ、なにものにも染まらぬ強き魔力よ。貴を癒やし魂の記憶、輪廻の環を超えて、黄泉の淵より響く声。 神気を宿し賜う貴方、我は願う。天地を貫き、森羅万象に働くこの「黒の祈り」「白の祈り」を』

淡い光が女性の体を包み、お腹の鼓動が確かに響いた。

命は、まだここにある。


暗い。

ずっと暗かった。

炎に呑まれた夜から、私は何も見えなくなった。

旦那さんの声だけが、遠くで響いていた。

『守れ……この子を……』

その言葉に縋った。

でも、彼は帰らなかった。

灰になった。

その瞬間、私の心は壊れた。

守らなきゃその想いが、黒い糸になって私を締めつけた。

けれど今、光が私を包んでいる。

冷たい闇が剥がれ、頬に風が触れた。

目を開けると、知らない少年が私を見つめていた。

黒い瞳が、深い湖みたいに揺れている。

その隣に、少女?少年?その光は、人じゃない。神様みたいに澄んでいる。

「……ここは……?」

声が震えた。喉が乾いて、言葉が途切れそうになる。

「もう大丈夫だ。闇は消えた」

優しい声が耳に届く。剣を持った青年その目も、どこか懐かしい。

私は、自分の胸に手を当てた。

生きている。

でも、その奥から別の鼓動が響いている。

お腹に触れた瞬間、涙が溢れた。

「……この子……生きてる……」

嗚咽がこみ上げる。

守れなかったと思っていた。

全部失ったと思っていた。

でも、まだここに命がある。

未来がある。

私は震える手でお腹を撫でた。

「……あなた、私達は生きます。私が、未来を編む」

外から笑い声が聞こえる。

湯気が立ち上り、饅頭の香りが漂ってくる。

その匂いに、胸が温かくなる。

命を守った後に、こうして食べ物を作るそれは、再生の儀式みたいだ。

私は静かに目を閉じ、心の奥で祈った。

どうか、この子に、光を。


白い煙は、闇を祓った光みたいに見えた。

命を守った後に、こうして温かい食べ物を作る…それは未来を編むことなんだ。

女性の顔に、少しずつ笑みが戻っていくのを見て、僕はお兄さまを抱きしめた。

鞄の花模様がきらりと光り、葉っぱがひらりと増える。

未来は、まだ続いていくんだ。

炎の気配が強く、空気が熱を帯びている。

「……食べ物、作らなきゃ」

ルククがぽつりと言った瞬間、土の小人たちがひょこっと現れた。

『ここサレム国だから、お湯の蒸気が出るよ(笑) クスクス。蒸し場、作ってあげるよ!』

楽しそうな声とともに、家の裏に小さな蒸し場ができていく。

土の小人たちは、裏庭の隅に積まれた石を選び、手際よく並べていく。

石の間に粘土を詰め、隙間を埋めると、まるで職人の窯みたいに頑丈になった。

その上に平たい石を敷き蒸気が通る親指の爪ぐらいの穴をあけ、蒸し器を置ける台を作る。

さらに、蒸気の逃げ道の煙突をつけるために細長い石を積み上げ、土で固める。

煙突の先には小さな穴を開け、風の精霊がそこに息を吹き込むと、空気がすっと流れた。

「どうして湯気が出るの?」

僕が首をかしげると、土の小人が笑った。

『地下に温泉脈があるんだよ。サレム国は地熱が強いから、蒸気を引き上げればすぐに使えるの!』

小人たちは地面に小さな穴を掘り、そこに石管を差し込む。

じゅわっと音がして、温かい蒸気が吹き上がった。

『ほらね、自然の力って便利でしょ?』

蒸し場の煙突から白い湯気が立ち上りっていた。

ふとメデルは視線を白い湯気から下に落とした時蒸し場の横の小さな枯れかけた畑を発見した。

土は乾いているけれど、まだ力を失っていない…。

「これ……使える?」

僕が尋ねると、土の小人が頷いた。

『もちろん!水と魔力を少しあげれば、すぐに芽吹くよ。ほら、葉っぱの精霊も呼んであげる!』

小人たちが土をほぐし、風の精霊が湿り気を運び、光の精霊が葉に触れる。

枯れた茎がゆっくりと緑を取り戻し、畑に命が戻っていく。

「未来は、こうして温かくなるんだよ(笑)」

炎の精霊が赤い光を揺らしながら言った。

火の小人と風の精霊が、クスクス笑いながら言った。

『次は食べ物だよね!蒸し場を使うなら”肉包”だねぇ~小麦粉を練って皮を作るんだよ。それで甘辛い肉と野菜を包んで、蒸すの!』

小人と精霊に教わりながら…主にルククとマルコが肉包を作り始めた。

僕たちは袋から小麦粉を取り出し、水と塩を加えてこねる。

手のひらで押し、折り返し、また押す…生地がしっとりして、指に吸い付くようになった。

「これ、柔らかい!」

ルククが笑う。

次に、肉と復活した畑の野菜を刻む。

肉は塩と甘辛いタレ、少しの薬草で味をつけ、野菜は細かく切って混ぜる。

香りがふわっと広がり、僕の胸が温かくなる。

生地を丸く伸ばし、具を包み込む。

端をひねって閉じると、ぷっくりした肉包ができた。

『蒸し籠が必要だね僕編んであげる!』

木の小人さんがぴょんぴょん石窯の上で跳ねながら木で籠を編んでくれた。

出来た蒸し器に肉包を並べ、蓋を閉じる。

しゅわしゅわと蒸気が立ち上る、蒸気の上に蒸し籠を置いたら瞬く間に肉包がふわりと膨らんでいく。

『ふわふわで、あったかい肉包!』

火の小人が赤い光を揺らしながら笑った。

蒸し場から立ち上る湯気が、夕暮れの空に溶けていく。

女性の顔に、少しずつ笑みが戻っていくのを見て、僕はお兄さまを抱きしめた。

鞄の花模様がきらりと光り、葉っぱがひらりと増える。

『ふわふわ、出来たよ~ふわふわ肉包!』

水の小人が全身を揺らしながら言った。

あちち…あちち…ババの葉をお皿にして皆で手に取った。

マルコが肉包を一口かじって、真顔で言った。

「これ……売れるな」

「町で出したら、行列できるぞ」

「蒸し場!すごい!」

ルククがはしゃぎながら、土の小人たちと一緒に煙突を見上げている。

ケルビスが肉包を見て、ぽつりと呟いた。

「……食堂でもやったら、儲かるな」

その横で、ケルメデスアールが固まっていた。

大きな体で、肉包を手に持ったまま、どう食べていいのかわからない顔をしている。

「……こういうの、初めてだ」

その声に、みんなが笑った。

フーマは手本を見せる様に大きく齧って食べた。

炎の精霊が、赤い光を揺らしながら言った。

『未来は、こうして温かくなるんだよ』

僕は深く息をつき、胸の奥で思った。

守るって、こういうことなんだ。


家の中は、急に静かになった。

さっきまで笑い声と湯気に包まれていた空気が、落ち着いた温もりだけを残している。

私は布団に腰を下ろし、まだ震える指でお腹を撫でた。

命の鼓動が、確かにそこにある。

ありがとう。守ってくれて。

戸口が軋む音がした。

顔を上げると、年老いた二人が立っていた。

旦那のご両親だ。

白髪の父と、背を丸めた母。

二人の目は赤く、でも私を見た瞬間、涙が溢れた。

「……おまえ……」

父の声が震える。

母は私のそばに駆け寄り、手を握った。

「生きて……いてくれたのね……」

私は言葉が出なかった。

ただ、涙が頬を伝う。

「……ごめんなさい……。」

嗚咽がこみ上げる。

母は首を振り、私の手を強く握った。

「いいのよ……あなたが生きていてくれた。それだけで……」

父がゆっくりと膝をつき、私のお腹に視線を落とした。

「……この子は……」

私は頷いた。

「生きてます……まだ……」

その瞬間、二人の顔に光が差したように見えた。

母は震える指でお腹を撫で、涙をこぼした。

「……この子が……未来なのね……」

父は深く息をつき、静かに言った。

「……あいつも、きっと喜んでる……」

私は胸が熱くなり、視界が滲んだ。

守らなきゃ。

この命を。

この家族を。


母がふと、裏庭を見て言った。

「……あれは……?」

私は振り返った。

窓の向こうに、小さな蒸し場があった。

土の小人たちが作ってくれた、石を積み、煙突までついた不思議な蒸し場。

常に湯気が立ち上り、甘い香りが漂っている。

「……女神様の使い達が……作ってくれたんです」

私は微笑んだ。

「女神様の使いみたいな子たちが……」

母は目を見開き、父は黙って湯気を見つめた。

私はそっと、蒸し場に置かれた饅頭を手に取った。

ふわふわで、あったかい。

その白い湯気は、闇を祓った光みたいに見えた。

「……食べてください」

私は肉包を二人に差し出した。

「あの子たちが、未来を温めてくれたんです」

父は震える手で肉包を受け取り、母は涙を拭いながら頷いた。

「……女神様の使い……本当に、そうね……」

私は胸の奥で静かに誓った。

もう、闇には負けない。

この命と、この家族を守る。


その夜、義父母と私は決めた。

蒸し場で作った肉包は、ただの食べ物じゃない。

それは、私の闇を祓った光のようで、命を守った証だった。

だから私は決めたこの味を町に広げたい、と。

義父母も賛成してくれた。

「この肉包なら、きっと皆が笑顔になる」

父の声には、久しぶりに力があった。

母は、湯気に包まれた肉包を見つめながら言った。

「この匂い……何かの祭りみたいね」


料理名:

《女神様の使い肉包》

(食べたら少し元気になる)

材料(10個分)

小麦粉:500g(精霊が選んだ白い粉が望ましい…気まぐれに選んでくれる)

水:250ml(森の湧き水は魔力が宿る)

塩:ひとつまみ

魔力酵母:小さじ1(夜、窓辺に置き精霊の笑い声で発酵を早める)

肉:300g(猪肉や鶏肉がおすすめ)

野菜:赤ねぎ1個、葉物のマルベツ100g、根菜キャロ50g

調味料:醬大さじ2、塩少々、薬草(香り付け)


家の前に小さな屋台を出した。

最初は誰も近づかなかった。

けれど、湯気と香りが風に乗って広がると、人々が足を止めた。

「……何だ、この匂い」

「ふわふわだ……触っていい?駄目?なら買うわ!1個ちょうだい」

「中身は……肉?野菜?甘いの?」

一口食べた瞬間、町の空気が変わった。

「……うまい!」

「こんなの、初めてだ!」

「もう一つ!」

「うまい!森へ行ってから調子悪かったけど何か元気になったよ~」

子供たちは頬をふくらませ、笑いながら肉包を頬張った。

年寄りは目を細めて、呟いた。

「何かの祝いみたいだなぁ」

旅人は笑いながら言う。

「これ、王都でも売れるぞ」

その日、屋台の前には長い列ができた。

湯気が立ち上り、笑い声が広場に響く。

私は胸の奥で思った。

未来は、こうして温かくなるんだね。

やがて、この蒸し場は町の人々の話題になった。

「屋台の時間外で良いから野菜を蒸したいんだけど、使わせてもらえる?」

「もちろん!蒸し場はみんなのものだよ!」

裏庭には、籠いっぱいの芋やカボチャを持った近所の人たちが集まり、笑い声と湯気が絶えなかった。

蒸し場の煙突から立ち上る白い蒸気は、町の新しい希望の象徴になった。


町に広がる湯気は、まるで祝福の白い花のようだった。

蒸し場から立ち上る香りは、風に乗って路地を抜け、広場へと届く。

「祝いの饅頭」――人々はそう呼ぶようになった。

私は屋台の隅で、蒸し器の蓋をそっと開ける。

ふわりと立ち上る白い湯気が、空気を撫でるように広がった。

その瞬間、花模様の鞄がきらりと光り、葉っぱがひらりと増える。

……精霊の仕業だ、と義母は言う。

でも、私には見えない。声も聞こえない。

ただ、湯気の揺れ方や、土が勝手に動く様子で「いる」とわかるだけ。

それでも、信じている。

あの夜、命を守ってくれたのは、確かにこの力だから。

「……今日も完売だな」

義父が木箱を閉じながら笑った。

私は頷き、胸の奥で小さく呟く。

ありがとうございます。精霊様。見えなくても、あなたたちがいること、わかっています。

その時だった。

屋台の前に、一人の男が立った。

深い紺色の外套に、銀の刺繍が光る。

旅人にしては上質すぎる服。

彼の目は、屋台の湯気に吸い寄せられるように輝いていた。

「……これが噂の饅頭か」

低く落ち着いた声。

私は慌てて頭を下げた。

「はい……肉包です。蒸したてなので、熱いですが……」

男は一つ手に取り、ゆっくりと口に運んだ。

噛んだ瞬間、彼の目が見開かれた。

「……これは……サレム国の祭りに出せる味だ」

私は息を呑んだ。

「祭り……?」

男は微笑んだ。

「私はサレム交易商会の支配人、カーロス・ヴェルメール。来月、王都サレムで開かれる収穫祭に、この饅頭を出したい」

私は蒸し場を見た。

白い湯気が、夜空に溶けていく。

この光を、もっと遠くへ。

胸の奥で、何かが強く鳴った。

「……わかりました」

私は深く息を吸い、カーロスを見つめた。

「この肉包で、サレムを温めます」


義父と義母と話し合う。

「……蒸気って、どうやって出す?…」

私は蒸し場の前で立ち止まり、湯気を見つめた。

白い煙がふわりと立ち上り、空に溶けていく。

でも、私には精霊様の声も姿も見えない。

義母は笑って言った。

「小人たちがやってくれるわよ」

その瞬間、土の小人がひょこっと現れた――いや、私には見えない。

けれど、土が揺れる感覚が足元に伝わった。

小さな手で石を積む音が、耳の奥で響くような気がした。

『見てな!こうやるんだ!』

義母が笑っている。

「何か動いているね(笑)」

小人は、まず石を積んで小さな炉を作った。

その上に黒い鉄鍋を置き、中に水を注ぐ。

水面がきらりと光り、鍋の底からじゅわっと音がした。

「……薪で火を付けるって事?」

私は首をかしげる。

義母が説明する。

「下の窯で火で熱を送ってるのね!!」

確かに、空気がじんわりと熱を帯びてきた。

次に、小人は鍋の上に丸い木枠を置き、その上に編み目のざるを乗せた。

『ここに食べ物を置くんだ!』

義母が笑う。

「ここに食べ物を置くのね!!」

ざるの上に並べられた白い生地――ふわふわの肉包。

鍋の水が沸き始めると、しゅわしゅわと音がして、白い湯気が立ち上った。

その湯気がざるを包み込み、生地がふっくらと膨らんでいく。

「……こうやって蒸すのね!!」

私は呟いた。

見えない精霊様たちが、確かにここにいる。

火の熱、水の音、土の匂い…全部が命を守る力になっている。

小人は最後に、ざるの上で膨らんだ肉包を指差し、胸を張った。

『ほら、できた!ふわふわで、あったかいだろ?』

義父が笑って言う。

「出来たって感じだな(笑)」

私は肉包をそっと手に取った。

湯気が指先を撫で、心まで温めてくれる。

「……ありがとう」

見えないけれど、確かに届いている。

サレム国

収穫祭の日

サレム王都の広場は、色とりどりの旗と花で飾られ、楽師の音楽が風に乗って響いていた。

人々の笑い声、果物の甘い香り、焼き菓子の匂い…その中で、私たちの屋台から立ち上る白い湯気がひときわ目を引いていた。

「祝いの饅頭だ!」「あれが噂の肉包!」

行列は広場の端まで伸び、商会の人たちが必死に声を張り上げる。

「蒸したてです!ふわふわの祝い饅頭、どうぞ!」

カーロス・ヴェルメールは笑みを浮かべ、私に耳打ちした。

「見ろ、この列。サレムの祭りで、これほど人を集める料理はない」

私は蒸し器の蓋を開ける。

ふわりと立ち上る白い湯気が、空気を撫でるように広がった。

……精霊様の仕業だろう。でも、私には見えない。

ただ、湯気の揺れ方で「いる」とわかるだけ。

…ありがとうございます、精霊様。


「もう一つ!」

「三つください!」

「食べたら元気になった気がする~!!」

子供たちの笑い声、大人の歓声、旅人の驚き。

そのすべてが、胸に温かい火を灯す。

カーロスが私に手を差し出した。

「毎年、この祭りに来てくれ。サレムを、この湯気で満たしてほしい」

私は深く頷いた。

「約束します。この祝いの饅頭で、未来を笑顔に…!」


10年後

サレム王都の収穫祭。

広場の中央に立つ屋台には、変わらぬ白い湯気が立ち上っていた。

義父と義母は健在で、笑顔で客を迎えている。

「今年もあと少しで完売だな!」

義父が声を張り上げる。

「ほら、パルク、もっと元気に!」

義母が笑う。

売り子をしているのは、私の子供…パルク。

まだ十歳なのに、声は広場に響き渡る。

「祝いの饅頭だよ!ふわふわで、あったかいよ!」

パルクの目はきらきらしていた。

精霊様が見えるからだ。

土の小人と笑いながら煙突を磨き、風の精霊様と遊びながら湯気を広げる。

「お母さん、火の精霊様が『ちょっと赤くする?』って!」

私は笑って頷く。

見えない私と、見えるパルク。

その違いが、未来をもっと広げていく。

湯気が立ち上り、笑い声が広場に響く。

私は胸の奥で思った。

――未来は、こうして温かくなるんだね。

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