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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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㊽旅―冒険者(サレム国)28

黄金の池から最寄りのギルドへの途中、

冷たい風が頬を撫でる中、メデルはふと背後を振り返った。

そこにあるはずの気配が――ない。胸の奥がざわつき、心臓が跳ねる。

「……ブランジェ? あ”!」

その声にブランデットも振り返り、目を見開いた。

「あ”! ブランジェ!」

フーマ、ルクク、マルコも一斉に声を上げる。

「フェンリル!」

「もふもふがいない!」

「やばい、置いてきた!」

仲間たちの足が止まり、静寂が落ちる。帝国を出てから、もうかなり距離を稼いでしまっていた。

一方でケルビスとケルメデスアールは、何が起きているのか分からず、頭上に「?」が飛び交っている。

「……フェンリルって何? もふもふって何?」

「置いてきたって事は…仲間……なのか?」

メデルは深く息を吸い、目を閉じる。黒い魔力が静かに広がり、心の奥で名前を紡ぐ。

『ブランジェ……聞こえる? 僕だ、メデルだよ。どこにいるの? 返事して……』

遠くで、かすかな風の音に混じって低い唸り声が響いた気がした。

『……メデル……? ブランデット……僕を置いていったねぇ……涙』

その声は怒りでも悲しみでもなく、ただ寂しさを帯びていた。

ブランデットとメデルは即座にあやまる。

『ごめんなさい。…急いでいて、入った門と違う門から出ちゃった(汗)』

ブランデットは直ぐに伝える

『ブランジェごめん…今サレム国なんだけど来れる?』

ブランジェ答える

『うん…大丈夫…駆けるね。』

メデルとブランデットが念話で呼びかけた瞬間、空気が震えた。

次の瞬間――

ドォンッ!

遠くの空に黒い影が走り、雷鳴のような音とともに巨大な銀灰の獣が雲を裂いて駆けてくる。

風が唸り、木々が揺れ、仲間たちは思わず目を見張った。

「……来た!」

ルククが歓声を上げる。

「もふもふぅぅ!」

フーマは口角を上げて低く笑った。

「……速ぇな」

ケルビスとケルメデスアールは完全に固まっている。

「え……あれ、何? 獣? 飛んでる?」

「いや、走ってる……いや、飛んでる……どっちだ?」

フェンリルのブランジェは、空を駆けるように疾走し、砂塵を巻き上げて着地すると、巨大な体を低く伏せ、メデルの前に顔を寄せた。

その銀灰の毛並みが風に揺れ、琥珀色の瞳が潤んでいる。

『……置いていったねぇ……でも、来たよ』

メデルは思わず駆け寄り、そのふわふわの頬に両手を埋めた。

「ごめんね、ブランジェ……僕、気づかなかった…ってブランジェ大きくなってる~!!」

ブランジェは鼻先でメデルをそっと押し、喉を鳴らす。

『……もう、離れないでね……うん♪森で鍛錬したの~』

ブランデットも笑って毛並みに手を伸ばす。

「小さくてももふもふ、だったけど大きくなったら凄くもふもふ、だね!」

ルククは歓声を上げて飛びつこうとするが、フーマに首根っこを掴まれて止められる。

「落ち着け、ルクク。あれは甘えタイムだ」

「えええぇ~!」

マルコも笑いながら毛並みに手を伸ばす。

「おい、順番待て!」

フーマがルククを引き剥がしながら苦笑する。

「重いぞ、坊主」

ブランデットも笑いながら毛並みに手を伸ばす。

「ブランジェ、もう泣かないでね」

『泣いてない……ちょっとだけ、寂しかっただけだよ…。』

ケルビスとケルメデスアールは完全に固まっていた。

「……これ、仲間なの? でかすぎない?」

「もふもふって……これは…伝説のフェンリルか?」

ブランジェはそんな騒ぎを気にせず、メデルの肩に顔をすり寄せて喉を鳴らした。

その仕草は、帝国を離れた不安をすべて溶かすように、ただ優しかった。

メデルはブランジェの額に手を置き、静かに語りかけた。

「ごめんね。火の精霊王が閉ざされそうだったんだ…急いで帝国を出て、サレム国で黄金の池を癒したんだ。歪みを糺して、精霊たちも笑顔になったよ」

ブランジェの耳がぴくりと動き、瞳が柔らかくなる。

『……メデルたち、すごいね……僕も一緒にいたかった』

「ごめんね、ブランジェ。次は絶対に置いていかない」

メデルは笑みを浮かべ、続けた。

「今は次の国へ行く前に、路銀を稼ぐためにギルドに向かってるんだ」

ブランジェは鼻先でメデルを軽く押し、喉を鳴らす。

『……路銀? じゃあ、僕も手伝う。僕の力、見せてあげる』

ルククが目を輝かせて叫ぶ。

「もふもふパワーだぁ!」

フーマが肩をすくめて笑う。

「ギルドで暴れすぎるなよ」

ケルビスとケルメデスアールは、まだ「?」を浮かべたまま。

「……路銀って何? もふもふって何?」

「……この旅、想像以上にカオスだな」

ブランジェはメデルの肩に顔をすり寄せながら、ふっと鼻を鳴らした。

『……それとね、僕、小さくなれるようになったんだ。街の中にも入れるよ』

メデルは目を丸くした。

「えっ、本当に? それなら街で困らないね!」

ルククが飛び跳ねる。

「ブランジェが街に入れる!? 最高じゃん!」

フーマは腕を組み、にやりと笑う。

「……でかいまま入って騒ぎになるのを楽しみにしてたんだがな」

ケルビスとケルメデスアールは、さらに混乱している。

「……小さくなるって、どういうこと?」

「……この旅、常識がどんどん壊れていく……」

ブランジェは得意げに尻尾を振り、ふわりと光をまとった。

次の瞬間。

巨大な銀灰の獣は、もふもふ感を残したまま、メデルの腰ほどのサイズに縮んでいた。

ルククが歓声を上げる。

「ちっちゃもふもふだぁぁ!」

ケルビスは目をまだたかせて小さい声で呟く

「小さい犬?」

ブランジェは胸を張って言った。

『……これで、ギルドも問題なし! でも、撫でるのは許可制だからね!ふんす』

仲間たちの笑い声が響き、旅路は再び軽やかに続いていく。

笑い声と風が混じり、仲間たちは再び歩き出した。

――絆は深まり、次なる冒険への期待が胸を満たしていく。


ブランジェとの再会で胸を撫で下ろした一行は、夕暮れの空を見上げた。

「……今日はもう遅いな」

フーマが低く呟く。

「宿に行こう。最寄りのギルドの近くにあるはずだ」

彼はケルメデスアールに視線を向ける。

「パーティー用の部屋で構わないか?」

ケルメデスアールは一瞬きょとんとした後、笑みを浮かべた。

「もちろんだ。君たちの仲間は……随分と賑やかだな」

ブランジェはメデルの隣で尻尾をゆったり振り。

ルククは目を輝かせる。

「もふもふと一緒に寝られる!?」

フーマはため息をつきながらも、どこか楽しげだった。


街の門へ向かう途中、森の出口が見えてきた頃

ブランジェはふと足を止め、メデルに視線を向ける。

『……ここからは、人の町だね』

その声と同時に、銀灰の毛並みが淡い光に包まれた。

巨大な体がゆっくりと縮み、風に舞うように姿を変えていく。

数息の間で、ブランジェはメデルの腰ほどの大きさになり、ふわふわの毛並みを残したまま軽やかに尻尾を振った。

「……小さくなった!」

ルククが目を丸くする。

「これなら宿に入れるな」

フーマが感心したように頷く。

ケルビスとケルメデスアールは、さらに混乱していた。

「伝説のフェンリル…伝説…伝説」

メデルは笑ってブランジェを抱き上げる。

「ありがとう、ブランジェ。これで一緒にいられるね」

ブランジェは喉を鳴らし、頬をすり寄せた。

『……僕を、忘れないでね。』


宿の扉を開けると、温かな灯りと香ばしいパンの匂いが迎えてくれた。

奥には暖炉があり、炎が静かに揺れている。木の梁と石壁が落ち着いた雰囲気を醸し出し、窓辺には小さな花瓶が並んでいた。

案内された部屋は広く、奥に二つ並んだ大きなベッド、その手前に三つのベッドが横並びになっている。

「……ここなら全員入れるな」

フーマが頷く。

ブランジェはすぐにメデルの隣に腰を下ろし、ふわふわの毛並みを押し付けるように甘えてきた。

『……メデル、ここが僕の場所だよ』

メデルは笑ってその首に腕を回す。

「うん、ここだね」

ルククは目を輝かせて飛び込もうとするが。

「待て!」

フーマが首根っこを掴んで止める。

「また甘えタイムだ。邪魔すんな」

「えぇぇぇ! もふもふぅぅ!」

ルククはじたばた暴れるが、ブランジェは気にせずメデルに顔をすり寄せて喉を鳴らしている。

ケルビスとケルメデスアールは、まだ現実を受け止めきれずにぽかんとしたまま。

「……これ、宿に入れていいの?」

「……伝説だから…伝説…伝説…。」

暖炉の火がぱちぱちと音を立て、旅の疲れを癒す夜が始まろうとしていた。

夜が更け、暖炉の炎が柔らかく部屋を照らす中――

メデルはブランジェの首に腕を回したまま、ベットで静かに目を閉じていた。

その隣で、ルククがそろりそろりと近づく。

「……ちょっとだけ……ちょっとだけ……」

フーマが片目を開ける。

「やめろって言っただろ」

「だって……もふもふが……僕を呼んでる!」

次の瞬間、ルククはブランジェの背中にダイブ!

「もふもふぅぅぅぅぅ!」

ふわふわの毛に埋もれ、顔だけ出して幸せそうに笑う。

「……ここが天国……」

ブランジェは一瞬きょとんとした後、ため息のように喉を鳴らし、ブランデットに視線を送る。

『……この子、どうする?』

ブランデットは苦笑しながら撫でる。

「少しだけ、ね」

フーマは頭を抱えた。

「……もう好きにしろ」

ケルビスとケルメデスアールは、もはや言葉を失っていた。

「……伝説って……こういう使われ方するんだ……」

暖炉の火がぱちぱちと音を立て、笑い声と毛並みの温もりに包まれた夜が、静かに更けていった。


朝が開けると、しとしとと雨が窓を叩いていた。

暖炉の火がぱちぱちと音を立て、部屋にオレンジの光が広がる。

子供たちはテーブルに集まり、野菜スティックをつまみながら相談を始めた。

「路銀、どうする? このままじゃ旅が続けられない」

ブランデットが真剣な顔で切り出す。

メデルは顎に手を当てて考え込む。

「地竜蜥蜴の革、何かに使えないかな?」

「もふもふグッズにする? 売れるよ!」

ルククが目を輝かせるが、ケルビスが即座に突っ込む。

「革はもふもふにはならない。実用的なものにしよう、防具とか……」

テーブルの上でアイデアが飛び交う。

「革のポーチ」「防具」「靴」「ベルト」――現実的な案が並ぶ中、ルククがまた暴走する。

「もふもふ付きバッグ!」

「それ、革の意味ないよ……」ケルビスがため息をつく。

メデルがぽつりと呟いた。

「鞄……袋って作れないかな?」

その瞬間、暖炉の炎が揺れ、火の精霊が元気に声を上げた。

『魔法袋! 古代の遺物だよ! 失われた技術! ダンジョンで見つかるやつ!どう? 多分全員で力を合わせたら――

青魔法の防御ブランデット、黄魔法の障壁ケルビス、赤魔法の攻撃熱ルクク、黒魔法の固定メデル、それに調和者メデルとブランデットが居れば作れるよ(笑)!

そこの時の精霊が陣と呪文を知ってるから(笑)』

「えぇぇ!?」子供たちは声を揃えた。

スーッと窓の縁に時の精霊が現れ、静かに語る。

『魔法袋は、時空魔法を扱える者だけが作れる。古代の儀式と呪文が必要だ。

その術は、時の流れを編み、空間を折り畳む――簡単なことではない』

火の精霊がぱちぱちと笑いながら補足する。

『むかしむかし、時の神殿で作られていたんだよ。

その袋は、世界の理を少しだけ曲げる力を持っていた。

小さな袋に、山ほどの荷物を詰め込める――旅人にとって夢の道具さ!』

時の小人がテーブルにちょこんと座っていた。

その小さな声は、雨音に溶けるように囁く。

「でもね、今はもう作れる人がいないんだ。だから、古代の移転陣と呪文を探す旅になるよ。時の神殿の記録……まだどこかに眠っているはず」

子供たちは顔を見合わせ、胸が高鳴るのを感じていた。

「え?」

ブランデットが大きな声をあげた。

メデルは首をかしげて聞く。

「お兄様、どうしたんですか?」

ブランデットはメデルと時の小人、さらには時の精霊を何度も見比べる。

「………。」

ケルビスが肩に手を置いて確認する。

「ブランデット、どうした! 息をしろ!」

ブランデットは慌てて自分の胸に息を吸い込む。

「すっ……は……だ、大丈夫です。驚き過ぎて……」

ルククは心配そうにブランジェを撫でながら覗き込む。

「大丈夫?」

ブランデットは何度も深呼吸して言った。

「大丈夫です。落ち着きました……いや、落ち着いてはいないですが……。詳細は省きますが、メデルは古代の移転陣と呪文を知ってます!」

メデルは目を大きく開いて聞き返す。

「僕ですか? お兄様??」

ブランデットは何度も頷き、珍しく興奮して語った。

「ボブの家の地下で、精霊さんと小人さんと聖獣の卵と歌いながら移転陣を書いていたじゃないか!! 花書いたり、キラキラ書いたり!!」

ブランデットは深呼吸を繰り返しながら、真剣な顔でメデルに向き直った。

「メデル、今すぐ紙に書いてみてくれ。あの時、地下で描いた移転陣を……思い出せるだけでいい」

メデルはきょとんとしたまま首をかしげる。

「え? 僕、絵を描くんですか?」

「絵じゃない、陣だ!」

ブランデットは力強く言う。

「花やキラキラも書いてたけど……あれ、ただの飾りじゃない。呪文の一部だったんだ」

メデルの目が丸くなる。

「え……歌も?」

ブランデットは頷き、声を低くした。

「そうだ。歌は呪文だ。だから、今は絶対に歌うな。ここで発動したら……どうなるか分からない」

メデルは小さく息を呑み、真剣な顔になる。

「……わかりました、お兄様。歌いません」

時の精霊が静かに微笑む。

『その記憶……鍵になるよ。君が描いた陣は、古代のものと同じ構造を持っているかもしれん。』

子供たちは顔を見合わせ、胸の奥で何かが高鳴るのを感じていた。

メデルは紙を広げ、ペンを握った。

「……こうだったと思う」

彼の指が走るたび、複雑な線と花の模様、そしてキラキラした装飾が現れる。

ブランデットは身を乗り出して見つめ、息を呑んだ。

「……これ、古代文字に似てる……!」

暖炉の火がぱちぱちと音を立てる中、火の精霊が驚きの声を上げる。

『おおっ! 本当に古代陣だ! しかも呪文の構造が残ってる!』

「キラキラって呪文なの!?」

ルククが目を丸くして叫ぶ。

「ただの飾りじゃなかったの!?」

ケルビスは腕を組み、現実的な提案をする。

「これ、ギルドに見せたら高額依頼になるかもな」

しかし、ブランデットは即座に首を振った。

「駄目だ。これは見せちゃいけない。……危険すぎる」

その声には、兄としての強い決意が込められていた。

場の空気が少し重くなったところで、ルククが革を二枚抱えて立ち上がる。

「じゃあ、ちょっと! おかみさんに頼んで鞄作ってもらう!」

彼は宿のおかみさんに手間賃を渡し、腰に付けられる手のひら二つ分の大きさの鞄を七個注文した。

通常なら金貨二枚のところ、材料持ち込みで金貨三枚。

「いいのかい?今日は雨で客が少なく暇をしていたんだよぉ…臨時収入は助かるよ…手の空いている者で作るから直ぐ作れるよ」

「これで、みんな分の小物入れは確保!」

ルククは胸を張り、仲間たちに笑顔を向けた。

ケルビスは汗をかきながら少し震えてブランデットに話しかける。

「…ブランデット…鞄があり…陣があり…呪文…歌があり…青、黄、赤、黒…調和者の魔力があれば…魔法袋――マジックバッグが…出来る…。」

暖炉の火が揺れ、火の精霊が静かに舞う。

『そうだね……その力が揃えば、失われた技術を取り戻せるかもしれない』

緊張で張り詰めた空気

その時、部屋の扉が「コンコン」と叩かれた。

全員が一斉に扉に振り向く。

「はい?」

ブランデットが声をかけると、扉の向こうからおかみさんの明るい声が響いた。

「鞄、できたよ!」

「えっ!?」

まだ一時間しか経っていないのに、子供たちは目を丸くした。

おかみさんは笑顔で部屋に入ってきて、テーブルに七つの鞄を並べる。

「ひとり一個で七人で作業したから、早かったのよ」

ルククは出来上がりの質をじっくり確認し、満足そうに頷いた。

「すごい……完璧!」

彼は金貨四枚を手渡す。

「通常なら二枚だけど、材料持ち込みだし、丁寧で早い!手間賃込みで四枚!」

おかみさんは目を丸くし、次の瞬間、顔をほころばせた。

「金貨一枚増えた!? ありがとねぇ!」

その声には、心からの喜びがこもっていた。

鞄は腰に付けられる手のひら二つ分の大きさで、旅にぴったりだ。

子供たちはそれぞれ鞄を手に取り、胸を高鳴らせながら次の計画を思い描いていた。

メデルは時の精霊に向かって、少し不安そうに尋ねた。

「魔法袋――マジックバッグを作るには……魔力、たくさん必要ですか?」

時の精霊は静かに頷く。

『ああ、莫大な魔力が必要だ。時空を固定し、空間を折り畳むには、普通の魔術師では一生かけても足りない』

その言葉に、部屋の空気が一瞬重くなる。

メデルが唇を噛んだその時。

ふわりと光が溢れた。

ブランデットの背から、柔らかな白い光が広がり、暖炉の炎さえ霞むほどの輝きが部屋を満たす。

「お、お兄様……? 魔力が満ちてる」

メデルが目を見開く。

ブランデット自身も驚いていた。

「な、何だ……これ……すごく湧いてきている感じがする」

その瞬間、聖獣の卵から念話が響く。

『……作っても良い。お前たちの絆と目的なら、力を貸そう』

時の精霊が微笑む。

『聖獣の加護……これなら可能だ。だが、呪文と陣は正確でなければならないぞ』

メデルは胸の奥が熱くなるのを感じた。

「頑張ります」

聖獣の卵が再び語りかける。

『……先に昼をとれ。そして、大人と相談しなさい』

暖炉の炎がぱちぱちと音を立て、雨音が静かに窓を叩いていた。

子供たちは顔を見合わせ、胸の奥で何かが始まる予感を感じていた。


昼食の時間、食堂の奥のテーブルに子供たちと大人たちが集まった。

窓の外ではしとしとと雨が降り続き、遠くで雷鳴が小さく響く。

暖炉の炎が揺れ、香ばしいパンと煮込み料理の匂いが漂う中、ブランデットが真剣な顔で切り出した。

「……魔法袋を作る話なんだけど」

その言葉に、フーマが眉をひそめ、スプーンを止める。

「魔法袋? おい、それ本気で言ってるのか? あれは古代遺物だぞ」

低い声には、長年の経験からくる現実的な重みがあった。

ケルメデスアールはワインを傾けながら、静かに言った。

「時空魔法を扱える者が必要だ。普通は王宮の魔術師団でも無理だろう」

その言葉に、場の空気が一瞬重くなる。

メデルが小さく頷き、ためらいながら口を開いた。

「でも、時の精霊が……僕たちならできるって」

その瞬間、マルコがスプーンを落とし、カランと音が響いた。

「……俺、平民だよ? これ聞いて大丈夫? なんか機密っぽくない?」

彼の顔は真剣そのものだが、その言葉で場の緊張が少し和らぎ、ルククが吹き出しそうになる。

フーマはため息をつき、現実的な視点を示す。

「魔力の問題はどうする? あれは空間を折り畳むんだぞ。普通の魔術師なら一生分の魔力を使う」

その言葉が落ちた瞬間――

ブランデットの背から、微かにふわりと光が溢れた。

全員が息を呑んだ。

「お、お兄様……?」

メデルが目を見開く。

ブランデット自身も驚いていた。

ケルメデスアールが椅子を押しのけて立ち上がり、目を見開く。

「……これは……聖獣の加護?」

その瞬間、聖獣の卵から念話が響いた。

『……ああ、ブランデットとメデルに加護を与えた。力を貸そう』

その声は、頭に深い森の奥から響くような、静かで力強い響きだった。

フーマは椅子に深く腰を下ろし、低く笑った。

「……マジかよ。お前ら、本当にとんでもない旅になるな」

マルコは顔を両手で覆いながら小声で呟く。

「……俺、やっぱ聞かなかったことにする……」

その言葉に、ルククが「無理だよ、もう聞いちゃった!」と笑い、場の緊張が少し解けた。


暖炉の火がぱちぱちと音を立てる食堂で、子供たちの声が弾んだ。

「おかみさん、今度は……手のひら三つ分くらいの手提げ鞄、作ってもらえませんか?」

ブランデットが両手を合わせて見せると、おかみさんは眉をひそめて笑った。

「三つ分? あんたら、午前中の手の平2つ分の腰鞄はどうしたんだい?」

「あるよ! でも、ちょっとした薬草とか、精霊のおやつとか……別に入れたいんだ」

メデルが小さな声で言うと、ルククが勢いよく続ける。

「あと、角兎の角! 前に捕ったやつ!」

「持って来たのか……」

マルコが呆れながら言う。

おかみさんは肩をすくめたが、目は楽しそうだ。

「で、素材は? 普通の革か、それとも魔力を通すやつ?」

「今回もこちらで渡します。同じ地竜蜥蜴の革で!」三人の声がそろって弾ける。

その瞬間、食堂の空気がぱっと明るくなる。

メデルの黒い瞳がきらきらと輝き、ブランデットは胸を張り、ルククはもう頭の中で鞄に詰めるものを数えている。

「よし、任せな! 精霊樹の繊維を編み込んでやろう。軽くて丈夫だし、魔力も馴染む。――あんたらの旅がうまくいくように、腕によりをかけるよ!」

おかみさんの声は、まるで戦場に向かう戦士のように力強かった。

「えっ、そんなのあるの!?」

「繊維を編み込む…縫うんですか?」

「どんな樹?」

坊主達がわちゃわちゃ話している様子を見ていたフーマがおかみに言う。

「大金貨1枚で10個作れるか?」

おかみさんは驚いて言う。

「いいのかぃ? 大金貨1枚10個て、金貨5枚でも引き受けるよ?」

フーマがかえす。

「構わない…先に作成して貰った鞄が丁寧だったと聞いている。よろしく頼んだ!」

その言葉に、おかみさんの顔がぱっと輝いた。

「やったねぇ! 臨時収入だよ! 亭主に内緒で新しい裁縫台、買っちゃおうかね!」

彼女は両手を腰に当てて笑い、奥で下働きの青年が目を輝かせる。

「えっ、俺にもまた歩合出ます!?」

「もちろんさ! あんた、夜通し手伝う覚悟しな!」

「やったー!」

青年は拳を突き上げ、暖炉の火がその影を大きく揺らした。

その時、暖炉の奥で小さな精霊がひょっこり顔を出す。

「その鞄、私も入れる?」

「入れないよ!」

子供たちが笑いながら突っ込むと、フーマが大笑いした。

交渉は、笑い声とワクワク、そしておかみさんの張り切りで満ちていった。

昼が過ぎ、食堂はしんと静まり返っていた。

テーブルを寄せ、依頼を受けた鞄を並べると、おかみさんが両手を打ち鳴らした。

「さあ、始めるよ! 今日は腕の見せどころだ! 革を広げて! 針と糸を準備!」

「地竜蜥蜴の革……すげぇな、こんな高級素材、今日初めて触ったのに!また触ってる(笑)」

「手ぇ震えてるよ、しっかり!」

お姉さんが笑いながら糸を通す。

おばちゃん二人は息を合わせて縫い目を確認し、少女は油壺を抱えて待機している。

「ババ葉の油、たっぷり使うよ! 仕上げは私に任せて!」

「はいはい、焦るんじゃないよ!」

おかみさんの笑い声が響く。

丁寧に、丁寧に――革を縫い、繊維を編み込み、魔力を馴染ませる。

1時間と少しで、見事な手提げ鞄が完成した。

「よし、時間あるし……男衆、カービング入れな!」

「おおっ、模様彫りか!失敗できない~(笑)」

青年と少年が目を輝かせ、鞄に精霊の紋様を刻む。

女衆はババ葉の油で磨き上げ、艶やかな光沢が現れる。

「見て見て! 高級品みたいじゃない!」

少女が歓声を上げると、皆が笑った。

おかみさんは腰に手を当て、満足げに頷く。

「これで大金貨1枚……1個金貨1枚だよ!臨時収入だよ! 新しい裁縫台、買っちゃおうかね!」

「え!今回も俺、歩合もらえるの!?」

少年が声を弾ませる。

おかみさんの笑いながら言う。

「もちろんさ!大事に使いなよ!」

「うおおお、学園の本が買える!」

少年が飛び跳ねて笑う。

「髪飾り買えるね!」少女も同僚のお姉さんと喜ぶ。

革の香りと笑い声に包まれた午後。鞄づくりは、楽しく、明るく、誇らしい時間になった。


夜、食堂の片隅。昼間の革の香りがまだ残る中、暖炉の火がゆらゆらと影を揺らしていた。

丸テーブルを囲む下働きたちの前に、おかみさんが湯気の立つハーブ茶を置く。

「いやぁ、今日は頑張ったな!」

「頑張ったどころじゃないよ! 俺、歩合で金貨一枚だって!?」少年が目を輝かせる。

「何に使うんだい?」お姉さんがニヤリ。

「学園の本! 魔法のやつ! 新品……いや、中古で残りは貯める(笑)」

「おお、夢あるねぇ!」青年が笑う。

「俺は……新しい靴かな。狩り用のやつ、もう穴だらけだし」

「私は髪飾り!」少女が両手を頬に当ててうっとり。

「精霊の模様入りのやつ! 青い石がついてるやつ!」

「おしゃれだねぇ!」おばちゃんが肩を揺らして笑う。

「私は鍋だよ、鍋! 亭主に内緒で鉄鍋!」

「私も! うちの鍋、底抜けてるんだよ!」もう一人のおばちゃんが即座に乗る。

「みんな現実的だなぁ……」青年が苦笑する。

「おかみさんは?」少年が首をかしげる。

「決まってるじゃないか、新しい裁縫台さ!あの高貴な方々、1か月居るらしいからねぇ(笑) 今日の鞄で味しめたよ、もっと腕を振るうんだ!」

その言葉に、全員が「おおー!」と拍手。

笑い声が夜の食堂に響き、ハーブ茶の香りと暖炉のぬくもりが、幸せな空気を包み込んだ。

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