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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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㊲旅―冒険者 17

辺境伯館への正式訪問。

秋の風が静かに吹き抜ける昼下がり。ドラン辺境伯領の街は、陽光に包まれ、石畳が柔らかく輝いていた。

館の門前に立つのは、六人の旅人たち。

先頭に立つのは、帝国一のAランクギルドに所属する銀狼の獣人フーマ。その背には長年の戦いで刻まれた風格があり、鋭い眼差しは館の奥を見据えていた。

その隣には、冷静な剣士デジル。彼は無言で周囲を警戒しながら、子供たちの動きを見守っていた。

そして、三人の子供たちが並ぶ。

青白魔法士の少年スワロ・タスク・コクベック・マルタ・ブランデット。その瞳は静かに燃えるような意志を宿し、弟を守るように立っていた。

黒魔法士であり、旅の中心にいる幼き子スワロ・タスク・コクベック・マルタ・メデル。彼はふわりと浮きながら、風の精霊と語らい、館の空気を感じ取っていた。

その後ろには、優しい少年ルククと好奇心旺盛な少年いや28歳なのだから青年マルコが並び、少し緊張した面持ちで門を見上げていた。

門番が一礼し、重厚な扉が静かに開かれる。

「お待ちしておりました。ドラン辺境伯爵、ドラン・ドランビネス・ケルクマージス様がお待ちです」

一行は静かに頷き、館の敷地へと足を踏み入れた。

館の中は、格式と静寂が調和した空間だった。廊下には古の騎士たちの肖像が並び、壁には魔法紋が刻まれている。精霊たちはその紋に触れながら、何かを訴えるように揺れていた。

応接間に通された一行を迎えたのは、若き領主――ケルクマージス。彼は深い青の礼服に身を包み、静かな威厳を漂わせていた。

「遠路をありがとう。コクベックから聞いたよ。君たちが来てくれたことに、感謝する。麻酔草の件・聖女の件報告は貰っている。聖女にはならないとの宣言口外しない様遵守する。」

彼の声は静かで、礼節を保ちながらも、どこか探るような響きを持っていた。

ブランデットが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。

「スワロ・タスク・コクベック・マルタ・ブランデットです。弟メデルと共に、館に残る“歪み”を癒すために参りました」

館の奥に漂う“何か”に気づいていた。精霊たちがざわめき、空気が重くなる。

メデルもふわりと浮きながら、静かに礼をする。

「……館の空気に、精霊たちがざわめいています。何かが、まだ癒されていないと感じます」

ブランデットとメデルが静かに言う。

「“何か不穏な空気”があると精霊達は言っています。」

「それを正すのは僕たちの使命です。」

フーマが静かに言葉を継いだ。

「俺たちは、ただの訪問者じゃない。この子たちが“選ばれた者”なら、館に残る痛みを受け止める力がある」

ケルクマージスは一行を見渡し、深く息を吐いきゆっくりと語り始めた。

「……ならば、どうかこの館の“真実”に触れてください。母が守ろうとした命、父が背負った傷、そして……裏切られた子供たちの記憶を」

その言葉に、精霊たちが静かに舞い、風が廊下を通り抜けた。

そして、正式な邂逅は始まった。

十五年前、帝国外れの町ガルバトリアで、人攫いの奴隷商人が森に入ったという報せが届いた。領地を守る父に代わり、母エリザマージスは赤魔法士として現地へ向かった。

「母は、領民を守るために剣を取った人でした。あの日も、攫われた子供たちを救うため、単身で森へ向かったのです」

だが、突如として青の泉が闇に覆われ、闇を纏った魔獣や猛獣が現れた。辺境騎士団は応戦するも疲弊し、命からがら戻った騎士が前辺境伯爵私の父ケルメデスアールに助けを求めた。

「母は、幼い獣人の子を庇って……闇を纏った魔獣の一撃を受けて、命を落としました。父はその瞬間、母を庇い、右腕を貫かれ、魔獣の血を浴びて右目を失いました」

メデルは息を呑み、ブランデットは拳を握りしめた。

「……その獣人の子供たちは?」

ケルクマージスは目を伏せた。

「耳を奪われた子、声を奪われた子……呪いを受け、時間が止まり、成長しなくなった。騎士団で育てていたが……2、3年前、彼らは館を出ました」

「黙って出たんじゃないんですよね?」

ケルクマージスは静かに頷いた。

「現騎士団長に惚れた街娘が、彼らを人攫いに売ったのです。父はその事実を知った時、再び右目から血を流しました。母を失った日と同じように」

館の空気が震えた。精霊たちがざわめき、風が廊下を通り抜ける。

「……この館に残る“歪み”は、失われた命と、裏切りの記憶。そして、癒されなかった悲しみです」

メデルはそっと言った。

「僕たちが来たのは、偶然じゃない。精霊たちが導いてくれた。この場所に、何かを癒す力が必要だって」

ブランデットは静かに頷いた。

「僕たちは、精霊と共に歩いてきました。だから、闇に触れた者の痛みを、少しでも受け止めたい」

ケルクマージスは、彼らを見つめたまま、ゆっくりと立ち上がった。

「君たちが来てくれたことに、感謝します。母が命を懸けて守った子供たちの“その後”を、君たちが癒してくれるなら……この館は、ようやく前へ進める」

その言葉に、精霊たちが静かに舞い、風が廊下を通り抜けた。

そして、館の奥に眠る“歪み”へと、彼らは歩みを進める。


館の奥の邂逅 。

館の奥へと案内された一行は、重厚な扉の前で足を止めた。空気はひんやりと澄んでいるが、どこか張り詰めた気配が漂っていた。

扉が静かに開かれると、そこには一人の男が立っていた。

ドラン・ドランビネス・ケルメデスアール――前ドラン辺境伯爵。大柄な体躯に、鋭い輪郭。顔は厳しく、目元には深い影が刻まれていた。右目には眼帯が巻かれ、長い年月の痛みを物語っていた。

だが、ブランデットとメデルは、その姿を見た瞬間、ふらふらと近づいていった。

「……あの人、魔力が……優しくて、綺麗……」

二人は同時に両手を広げ、まっすぐにケルメデスアールの前に立ち、抱っこをせがんだ。

「だっこ……!」

「だっこして……!」

フーマは頭を抱え、思わず叫んだ。

「坊主達!! お前ら何してんだ!」

デジルは目を見開き、マルコは口をぽかんと開け、ルククは驚きながらも微笑んだ。

ケルクマージスはその様子を見て、思わず笑みをこぼした。

「……父が子供に抱っこを求められるなんて、何年ぶりだろうな」

ケルメデスアールはゆっくりと膝をつき、二人を優しく抱き上げた。その腕は大きく、温かく、どこか懐かしい香りがした。

「……君たちの魔力は、柔らかい。精霊たちが君たちを守っているのが、よくわかる」

その言葉に、風の精霊がふわりと舞い、花の精霊がそっと花びらを降らせた。

そして、ケルメデスアールは静かに語り始めた。

「十五年前、青龍の聖獣が闇を纏い、“歪み”を生み出した。妻を亡くし、私はその場を何とかやり過ごした。」

一行は息を呑んだ。

その時、聖獣の卵がふわりと光り、二人の胸元で微かに震えた。

『青の泉の精霊たちの力を借りて、聖獣は最後の力を振り絞り、郷へ還った。青の泉は……君たちが癒したと聞いている』

た。

ブランデットとメデルは顔を見合わせ、そっと卵に触れ静かに言った。

「……あの泉、精霊たちが泣いていました。だから、僕たちが癒したんだね。」

聖獣の卵がふわりと光り、二人の胸元で微かに震えた。

「残るは、ケルメデスアールと……あの時庇った獣人の子供たち――ギギとフォルだよ。」

その名を聞いた瞬間、フーマが目を見開いた。

「……ボブの家の子か!? ギギとフォルって……!」

デジルも驚き、マルコは思わず声を上げた。

「えっ!? あの子たちが……!」

ルククは静かに呟いた。

「……だから、成長してなかったんだ……」

聖獣の卵がふわりと光り、二人の胸元で静かに震えた。

『彼らは、呪いの残滓に触れた。耳を奪われ、声を奪われ、時間が止まった。だが、君たちが来た今――“儀”を行う時が来た』

ブランデットとメデルは、そっと手を取り合った。

「……僕たちが、癒します。」

「ギギとフォルにも、祈りを送ります。精霊たちの力を借りて、癒します」

フーマは静かに頷いた。

「……なら、俺たちも支える。あの子たちを守るために、ここまで来たんだ」

ケルクマージスは深く頭を下げた。

「……ありがとう。この館に、ようやく光が差す」

そして、館の奥にて――闇の残滓に触れる儀が始まる。


館の奥、静寂に包まれた広間。石造りの床には古代精霊語で刻まれた紋章が浮かび上がり、空気は張り詰めていた。

中央には、ケルメデスアールが静かに立っていた。右目に巻かれた眼帯の奥には、十五年前の“歪み”によって刻まれた痛みが眠っている。

メデルとブランデットは、聖獣の卵の導きに従い、祭壇の前に立つ。風の精霊がふわりと舞い、花の精霊がそっと香りを運ぶ。水の精霊が足元に波紋を描き、土の精霊が柔らかな苔を敷いて道を作る。

二人は手を取り合い、胸元の卵が淡く光を放つと、空気が震えた。

そして、ブランデットとメデルが静かに詠唱を始める。

「「天と地の祈りよ、なにものにも染まらぬ強き魔力よ。闇を癒やし、魂の記憶、輪廻の環を超えて、黄泉の淵より響く声。神気を宿し賜う貴方、我は願う。天地を貫き、森羅万象に働くこの――『黒の祈りと白の祈り』を。」」

その言葉に呼応するように、精霊たちが集い、風が祈りを運び、花が癒しを降らせる。ケルメデスアールの眼帯がふわりとほどけ、黒い残滓が揺らぎ始める。

ブランデットが続けて祈る。

「……あなたの痛みが、過去の闇に囚われぬように。精霊たちの光が、今を照らします」

聖獣の卵がふわりと光り、ケルメデスアールの右目に宿る痛みが、静かにほどけていく。十五年前の記憶――青龍の聖獣が闇に染まり、妻を失ったあの日の苦しみが、精霊の祈りによって癒されていく。

ケルクマージスは静かに頭を垂れ、フーマは剣を地に置いて膝をついた。デジルとマルコは手を取り合い、ルククは目を閉じて精霊の歌に耳を傾ける。

そして、ケルメデスアールが静かに呟いた。

「……君たちの魔力は、過去を赦し、未来を照らす。精霊たちが君たちを選んだ理由が、今、わかった気がする」

――儀は終わり、館に再び“光”が戻った。


そして、“黒の祈りと白の祈り”が祭壇に響き渡った瞬間、聖獣の卵がふわりと光を放ち、空間が震えた。

その光は、館の奥に留まることなく、風の精霊に乗って外へと広がっていく。空を越え、森を越え、時を越えて――遠く離れた場所にいる、ギギとフォルのもとへと届いた。

彼らは今、帝国外れの町ガルバトリアボブの家の中で穏やかに眠っている。耳を奪われ、声を奪われ、時間の流れから外れたまま、誰にも気づかれずに。

だがその瞬間、風がそっと彼らの頬を撫で、花の精霊が香りを運ぶ。聖獣の卵の光が、彼らの胸元に届き、微かに震えた。


「天と地の祈りよ、なにものにも染まらぬ強き魔力よ。闇を癒やし、魂の記憶、輪廻の環を超えて、黄泉の淵より響く声。神気を宿し賜う貴方、我は願う。天地を貫き、森羅万象に働くこの――『黒の祈りと白の祈り』を。」


その言葉が、風に乗って届いたのだ。

ギギとフォルの体が微かに震え、止まっていた時間が、動いた。2人の体に、光が差し込む。

彼らの魂に、優しい祈りが届いた。

館の祭壇では、メデルとブランデットが静かに目を閉じていた。彼らは確かに感じていた――遠く離れた場所で、ギギとフォルが癒されたことを。

ケルメデスアールはその光を見つめながら、静かに呟いた。

「……あの子たちにも、届いたのか。ならば、もう一度……生きる道がある」

フーマは拳を握りしめ、デジルとマルコは目を潤ませ、ルククはそっと祈りを捧げた。

――儀式は、館の闇だけでなく、遠く離れた幼い獣人の魂にも光を届けた。


儀式が静かに終わり、館の広間には穏やかな光が満ちていた。精霊たちは舞い、聖獣の卵は安らぎの光を放ち続けている。

ケルメデスアールは膝をついたまま、深く息を吐いていた。右目の痛みがほどけ、心に残っていた闇が少しずつ消えていくのを感じていた。

そのとき、メデルとブランデットがそっとフーマの袖を引いた。

「……ふーま」

「うん?」

「ケルメデスアール様に……もう一回、だっこしてもらってもいい?」

ブランデットも、少し恥ずかしそうに言葉を添える。

「……儀式のとき、すごくあったかかったから……もう一度、お願いしたいです」

フーマは一瞬、目を見開いたが、すぐに苦笑して頭をかいた。

「お前らなぁ……さっきの儀式で、あんだけ神聖なことやった後に、だっこかよ……」

そう言いながらも、フーマはケルメデスアールをちらりと見て、静かに頷いた。

「……いいさ。あの人も、きっと嬉しいと思うぜ。行ってこい」

メデルとブランデットはぱっと顔を輝かせ、ケルメデスアールのもとへ駆け寄った。

「だっこ、もう一回、してもらえますか?」

ケルメデスアールは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しく微笑み、両腕を広げた。

「……もちろん。君たちの祈りが、私を救ってくれた。今度は、私が君たちを包もう」

二人はその腕に飛び込み、ケルメデスアールはそっと抱き上げた。

その腕は、儀式の前よりもさらに温かく、精霊たちの祝福が宿っているようだった。

フーマは少し離れた場所で腕を組みながら、ぼそりと呟いた。

「……まったく、あいつらは、癒しの天才だな」

ケルクマージスは静かに笑い、館の奥には、確かな再生の気配が満ちていた。


ケルメデスアールの腕の中で、メデルとブランデットは静かに目を閉じていた。聖獣の卵が胸元で淡く光を放ち、精霊たちの気配が優しく広がっている。

ふと、メデルがそっと顔を上げて言った。

「……ケルメデスアール様の魔力、すごく優しくて、綺麗で、あったかいです」

ブランデットも頷きながら、言葉を添える。

「ベルセル王子様の魔力と、リュスクマテルテス神官様の魔力に、少し似てる気がします。……それから、テティソさんの魔力にも。あの人の魔力も、すごく好きです」

ケルメデスアールは目を細め、静かに微笑んだ。

「……青い小屋亭の亭主のテティソを知っているのか。あの者の魔力は、確かに“癒し”と“再生”の系譜にある。私の魔力と似ていると感じるのは、君たちの心が、精霊の流れを正しく見ているからだろう」

メデルは小さく頷きながら、ぽつりと呟いた。

「……好きです。ケルメデスアール様の魔力。安心するし、泣きたくなるくらい、優しいです」

ケルメデスアールは、少しだけ目を潤ませながら、二人をそっと抱きしめた。

「ありがとう。君たちの言葉は、私の心を癒してくれる。魔力とは、力ではなく、心の在り方なのだと……君たちが教えてくれた」

フーマは少し離れた場所で腕を組みながら、ぼそりと呟いた。

「……テティソの名前まで出すとはな。あいつの魔力を感じ取るなんて、やっぱりただ者じゃねぇ」

その言葉に、ケルクマージスが静かに笑いながら言った。

「父は前王の弟ですよ(笑)似ているはずです。テティソの事は……青騎士団長が変わるごとに此方に来られますよ(意味深な笑み)」…知っているのでしょ。

その場にいた誰もが、ケルクマージスの言葉の裏にある“何か”を感じ取ったが、精霊たちはただ静かに舞い続けていた。

ケルクマージスは静かに笑い、館の奥には、確かな再生の気配が満ちていた。


館の奥から、何やら騒がしい気配がした。

ケルビスは眉をひそめ、廊下を駆け抜けて広間へと向かった。扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは――

ケルメデスアールの腕の中で、ブランデットと見知らぬ小さな子供が、満足そうに抱っこされている姿だった。

「……えっ!? じいちゃん!? じいちゃんが……知らない子を……だっこしてる!?」

ケルビスはその場で固まり、目を見開いた。

「じいちゃんとられた!!」

思わず叫んだその声に、精霊たちがふわりと揺れ、ブランデットが振り返る。

「ケルビス君? あ、違うよ! これは“儀式のあと”で……!」

メデルも慌てて手を振る。

「ケルメデスアール様が、僕たちを癒してくれたから……その、お礼のだっこで……!」

ケルメデスアールは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しく微笑んだ。

「ケルビス。君の“じいちゃん”は、誰にでも優しいわけではない(笑)。だが、君と同じように、この子たちも……私の心を癒してくれたのだよ」

ケルビスは唇を尖らせながら、じいちゃんの腕の中の二人をじっと見つめた。

「……でも、僕のじいちゃんなんだからね……!」

フーマは後ろで肩を震わせて笑いをこらえ、ケルクマージスは静かに笑って言った。

「……ケルビス、お父様は…君の“じいちゃん”は、誰かを癒すたびに、少しずつ“みんなのじいちゃん”になるんだよ(笑)」

ケルビスはむすっとしながらも、じいちゃんの腕の中にそっと近づいていって両手をひろげた。

「僕も抱っこ」

ケルメデスアールは、少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて、ケルビスをそっと抱き上げた。

「……よく来たな、ケルビス。君の“じいちゃん”は、ちゃんと君のことを覚えているぞ」

三人の子供たちを腕に抱きながら、ケルメデスアールはゆっくりと立ち上がった。その姿は、まるで精霊たちの祝福を受けた“守り人”のようだった。

風の精霊がふわりと舞い、花の精霊が三人の頭上に柔らかな花びらを降らせる。聖獣の卵は、三人の胸元で淡く光りながら、静かに震えていた。

ケルビスはじいちゃんの胸元に顔をうずめながら、ぽつりと呟いた。

「……じいちゃん、僕、ちょっとだけ寂しかった」

ケルメデスアールは、ケルビスの背を優しく撫でながら答えた。

「寂しさは、誰かを思う心の証だ。君のその気持ちが、私をここへ導いてくれたのかもしれないな」

ブランデットはケルビスの手をそっと握り、メデルは微笑みながら言った。

「ケルビス君も、精霊に愛されてるんだね。だから、ケルメデスアール様の魔力が、ちゃんと届いたんだと思う」

ケルクマージスはその様子を見守りながら、静かに言った。

「……父が誰かを抱きしめる姿を見るのは、何年ぶりだろうな。三人も同時に抱っこするなんて、記録更新かもしれない」

フーマは肩を震わせながら、ぼそりと呟いた。

「……あの腕、よく三人も抱えられるな。さすが元辺境伯……いや、じいちゃん力か」

館の奥には、精霊たちの笑い声のような風が吹き抜け、長く閉ざされていた空気が、少しずつほどけていく。

そして、ケルメデスアールは三人をそっと降ろし、膝をついて目線を合わせた。

「君たちの祈りが、私を癒してくれた。だから、これからは私も、君たちの旅を見守る者として、祈りを送ろう」

二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。

「ありがとう、ケルメデスアール様!」

その声に、館の奥がふわりと光に包まれた。

――癒しの儀は終わり、再生の風が、確かに吹き始めていた。

ケルメデスアールの腕の中で、三人の子供たちは静かに寄り添っていた。精霊たちはその周囲を優しく舞い、聖獣の卵は淡い光を放ち続けている。


ブランデットはケルメデスアール様の胸元もたれながら、ぽつりと呟いた。

「……“おじい様”じゃなくて、“じいちゃん”って、なんかいいね」

メデルが目を丸くしてケルビスを見た。

「うん! 僕もそう思う。“じいちゃん”って、あったかくて、近くて……好き」

そして、少し照れくさそうに続けた。

「僕、お父様のお父様は亡くなっているけどお祖父様のお兄様がいるって、ブランデットお兄様に教えてもらったの。でも、まだ会ったことないんだ……」

ブランデットはそっとメデルの背を撫でながら、優しく微笑んだ。

「きっと、会えたら“じいちゃん”って呼びたくなるよ。メデルの魔力が、そう言ってる気がする」

その言葉に、ケルメデスアールは目を細めて、三人を見つめた。

「“じいちゃん”か……。そう呼ばれるのは、久しぶりだな。だが、悪くない。むしろ、誇らしい」


その瞬間――

フーマが顔をしかめた。

「おいおい、敬語になってるぞ!儀式の余韻良いけど……外に出たら気をつけろよ!」

デジルがフーマを突きながら言う。

「お前 空気読め!持てないぞ!」

フーマは肩を跳ねさせて振り返り、顔をしかめた。

「うるせぇ!」

その場にいた皆が笑い、精霊たちも風の音でくすくすと笑ったように揺れた。

ケルクマージスが笑いながら声を上げた。

ケルメデスアールは三人をそっと降ろし、膝をついて目線を合わせた。

「君たちが“じいちゃん”と呼んでくれるなら、私はその名に恥じぬよう、これからも祈りを送り続けよう」

三人は顔を見合わせ、同時に頷いた。

「うん! じいちゃん!」

その声に、館の奥がふわりと光に包まれた。

――“じいちゃん”という言葉が、癒しと絆の証となった瞬間だった。

ケルメデスアール復活

館の朝は、精霊たちの囁きと共に始まった。風は軽やかに吹き抜け、花の香りが廊下を満たす。そんな中、広場に響くのは――

「元気! もりもりだー!(笑)!」

辺境騎士団の訓練場に、ひときわ大きな声が響いた。

その中心に立つのは、かつて“闇の残滓”に沈んでいた男ドラン・ドランビネス・ケルメデスアール。眼は澄み、腕は力強く、背筋はまっすぐに伸びていた。

騎士団員たちは目を丸くしていた。

「まさか……ケルメデスアール様が……!」

「眼も腕も……完全に戻ってる……!」

「いや、むしろ前より若返ってないか!?」

ケルメデスアールは笑みを浮かべながら、木剣を軽々と振るった。その一撃は空気を裂き、精霊たちが驚いて舞い上がるほどだった。

「さあ、若者たちよ! 今日も鍛錬だ! 老いも若きも、精霊も筋肉も、すべては“再生”のためにある!」

その言葉に、騎士団員たちは思わず背筋を伸ばした。

ケルクマージスは遠くからその様子を見守りながら、静かに呟いた。

「……父上、完全に“じいちゃんモード”から“騎士団長モード”に切り替わってるな」

フーマは腕を組みながら、苦笑した。

「……あの人、ほんとに“元気もりもりハッスル”って言ったぞ……」

メデルとブランデットは訓練場の端で見守りながら、目を輝かせていた。

「……じいちゃん、かっこいい……!」

「うん……でも、ちょっと怖い……」

ケルビスは誇らしげに胸を張って言った。

「僕のじいちゃんだからね! すごいんだよ!」

その声に、ケルメデスアールが振り返り、満面の笑みで叫んだ。

「フーマ! デジル! マルコ! お前達も来い! 今日から“精霊式鍛錬”だ!」

その声は、館の広場に響き渡り、風の精霊が驚いて舞い上がるほどだった。

フーマは目を見開き、思わず一歩後ずさった。

「……え、俺も!?」

デジルは口をぽかんと開け、マルコは肩をすくめて笑った。

「精霊式って、何するんだ……?」

ケルメデスアールは木剣を肩に担ぎ、堂々と歩み寄る。

「精霊の流れを読む! 風を感じ、土に根を張り、水に身を委ね、火に心を燃やす! そして、筋肉に語りかける!」

「最後、急に物理的になったな!?」とフーマが突っ込むが、ケルメデスアールは気にせず続ける。

「まずは基本だ! 精霊の気配を感じながら、剣を振るえ! 力ではなく、流れを掴むのだ!」

騎士団員たちは半信半疑ながらも、ケルメデスアールの気迫に押されて木剣を構えた。

ケルメデスアールは、風の精霊が通り抜ける瞬間に合わせて一閃。空気が震え、剣先が風を裂いた。

「これが“精霊式”だ! 力を借りるのではない。共に在るのだ!」

その言葉に、精霊たちがふわりと舞い、訓練場の空気が一変した。

ケルビスは目を輝かせながら叫んだ。

「じいちゃん、すごい! 風が剣に乗ってる!」

メデルはそっと呟いた。

「……魔力じゃない。心だ……」

ブランデットは頷きながら、静かに言った。

「精霊たちが、ケルメデスアール様を“仲間”として見てる……」

ケルクマージスは腕を組みながら、満足げに笑った。

「父上、完全復活だな。いや、もはや進化してる……」

その日、辺境騎士団の訓練場には、精霊と人の力が交差する新たな風が吹いた。

“元気もりもりハッスル”の掛け声と共に、再生の剣が振るわれる。

そして、ケルメデスアールの復活は、ただの癒しではなく――

帝国の未来に繋がる“始まり”となった。

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