表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/71

㊱旅―冒険者 16

ドラン辺境伯館に行かないで街で冒険

林の中は、秋の陽光が木漏れ日となって降り注ぎ、葉の間をすり抜ける風が子供たちの髪を優しく揺らしていた。

ブランデット、メデル、ルクク、マルコの3人は、ふわりふわりと浮かびながら、精霊たちと一緒に森の幸を収穫していた。

「きらき♪ らわくわく♪ きょろきょろ♪」

メデルが口ずさむと、花の精霊たちがくるくると舞い、木の精霊たちが枝を差し出して甘い果実「るるぶの実」をプレゼントしてくれる。

土の小人たちは、ナナラ草の根元を丁寧に掘り起こし、ルククの籠にぽんぽんと入れていく。

ルククはバランスを取りながら、ゆっくりと浮く練習をしている。

「全体を魔力の膜で覆って……風さんにお願いして……(ノ・ω・)ノオオオォォォ-おお浮いている!!」

メデルはふあふあしながら

「ルクク上手」って手を叩きながら花の精霊たちと浮いている。

マルコは浮くことを挑戦しているが出来なく。。拗ねて普通にるるぶの実をとりながら叫んでいる(笑)。

「この実、ジャムにしたら絶対おいしいよ!」と叫ぶ。

ブランデットは「ナナラ草はガルバトリアの町で採取していた薬草だAランク凄くあるよ!!」と嬉しそうに呟いた。

風の精霊がそっと背中を押してくれるように、メデルはふわりと浮かび、魔力の光が彼の周囲を淡く包んでいた。

その光景を少し離れた場所から見ていたフーマとデジルは、木陰で腰を下ろしながら苦笑い。

「……あいつら、母親との約束忘れてんなぁ……」とフーマがぼそり。

「母親との約束ってなんだ?」とデジルが問う。

フーマは指を折りながら数え始める。

「坊主達の親が出発の際言ってた。浮いちゃダメ、空とか土に話しかけない、光らない(魔力で覆わない)、消えない(瞬間移動しない)、魔力の綺麗な人について行かない、処構わず寝ない……」

「で、今のところ“消えない”だけだな。まだしてないのは(笑)」

「それ、もう時間の問題じゃないか?」とデジルが肩をすくめる。

その時、林の奥からスタッグの群れが現れ、続いてボアが唸りながら姿を見せる。

フーマとデジルは立ち上がり、剣を抜きながら言った。

「さて、俺たちの仕事だな。子供たちは収穫、俺たちは討伐。バランス取れてるだろ?」

「……まあ、(苦笑い)見守るのも悪くないけどな」

スタッグの群れが林を駆け抜け、ボアが唸りながら現れた瞬間、子供たちは一斉に声を上げて木の上へと浮かび上がった。

「わぁっ!」

花の精霊たちは花びらのバリアを張り、木の精霊たちは枝を広げて子供たちを守るように包み込む。

「フーマさーん!ボアが来たよー!」

メデルが叫ぶと、フーマは剣を肩に担ぎながら言ってと笑う。

「見えてるよ、メデル。お前らは浮いてろ」

デジルはボアの動きを見ながら呟き、フーマと息を合わせて討伐に向かう。

「スタッグは逃げたな。ボアは二体、こっちは二人。ちょうどいいな」

その間、ブランデットは木の精霊に話しかけ、木の精霊がコクリと頷く

「ボアの毛皮、丈夫だよね。孤児院の毛布袋に使えるかな?」

続けてブランデットは2人無茶を言う。

「フーマ・デジル毛皮欲しいから一撃で!!」

フーマ

「あぁん?」

デジル

「え?…」

ルククは浮いたままぽつり。

「フーマさん、かっこいい……」

マルコは自力で木に登り叫びながら、るるぶの実を口に放り込んでいた。

「るるぶの実も旨いがジャムよりボアの肉の方が豪華だな!」

そして、メデルはふわふわと浮きながら、風の精霊にそっと話しかける。

「ありがとう、風さん。みんなを守ってくれて」

その言葉に風が優しく吹き、メデルの魔力が淡く輝いた。

木陰で討伐を終えたフーマとデジルが戻ってくると、子供たちは歓声を上げて迎えた。

「おかえりー!」「すごかったー!」「ボアって強いね!」

フーマは苦笑しながら、呟いた。

「ブランデット急に毛皮欲しいとか言うなよぁ……メデル…母親との約束、今日も破ったな。」

デジルは笑いながら、返す。

「“魔力の綺麗な人について行かない”も、そろそろ危ないかもな」

フーマは笑いながら言った。

「それはお前の義理の息子テティソについて行ったからもうアウトだ(笑)」

デジルはマルコの頭を叩きながら言う。

「何?そうなのかぁ(笑)マルコ!お前何木に登っているんだ!」

マルコは頭をかきながら笑う。

「ヘヘヘ(笑)つい(笑)ヘヘヘ。」

子供たちが収穫を終え、精霊たちと別れの挨拶を交わす頃、林の奥から小さな光がふわりと現れた。

メデルはふわふわ浮きながら

「あれ?テティソさんと同じ魔力だ(笑)。」

ルククは驚き

「え!お父さんの?」

ブランデットは少し考えながら言う。

「もしかしてテティソさんの使いかも(笑)。寄り道してないか確認なぁ?(笑)。」

本当にそれは、テティソの使いである“火の精霊の案内鳥”だった。

メデルはその魔力に気づき、ふわりと浮いたまま近づくと、鳥はくるりと回ってメデルの周囲を一周し、優しく羽ばたいた。

「……あ、行っちゃうの?」

とメデルが呟くと、風の精霊がそっと吹いて、鳥の進む方向を示した。

フーマがそれを見て、頭を抱えながらメデルを抱え(確保し)ぼそりと呟く。

「……ほらな、もう“魔力の綺麗な人について行かない”もアウトだ」

デジルは笑いながら、

「次は“処構わず寝ない”が来るな。あいつ、木の上で寝るの好きだしなぁ。」

マルコは叫ぶ。

「ジャム作ったら、みんなで朝ごはんにしようよ!」

ブランデットもと張り切って言う。

「ナナラ草の煎じ薬も作れるよ!一撃で仕留めてくれた毛皮も処理しなくちゃね!」

ルククはふわふわぽつり。

「浮いてると、なんか気持ちいいね……」

そして、メデルはふわりと浮いたまま、案内鳥の光を見つめながら言った。

「テティソさん、また来てくれるかな……♡。」

その言葉に、木の精霊たちが静かに葉を揺らし、風が優しく吹いた。


ドラン辺境伯領の宿にて ― 銀狼の問い

夜の静けさが宿を包み込む頃、フーマは薪の火が揺れる部屋の隅で腕を組み、じっと子供たちを見つめていた。窓の外には、遠くにドラン辺境伯館の灯がちらちらと揺れている。

ブランデット、メデル、ルクク、マルコ、そしてデジルが毛布の上に集まり、旅の疲れを癒すようにそれぞれの姿勢でくつろいでいた。

フーマは、少しだけ声を低くして問いかけた。

「なぁ、お前ら……どうして館に行かないんだ?」

その言葉に、子供たちは一斉に顔を上げた。火の精霊が灯すランプの光が、彼らの瞳に反射して揺れる。

「え……?」とメデルが首を傾げる。

「だって、館って……すごく立派で、ちょっと怖い感じがするし……何だか変な空気が…あるんだ。。。」とブランデットがぽつりと呟いた。

メデルは膝を抱えながら、少しだけ目を伏せて言った。

「僕たち、あんまり“何変な空気”に慣れてないから……なんか、落ち着かないっていうか……」

ブランデットは毛布にくるまりながら、言った。

「火の精霊も・木の精霊も15年前から……何か……“不穏な空気”がドラン辺境伯館にはあると言ってます。」

デジルは壁にもたれながら、静かに言葉を継いだ。

「……30年程前の青騎士時代に行った時は不穏な事は無かったが…あの館は、格式がある。まあぁ、子供たちにとっては“自由”が少し減る場所でもあるが。精霊と遊ぶのも、浮くのも、歌うのも……制限されるかもしれないって、感じてるんだろうな。」

フーマはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。

「なるほどな。俺はてっきり、誰かに怒られたのかと思ってた。」

メデルはふわりと浮きながら、フーマのそばに寄ってきた。

「フーマさん……館に行く。不安だけど…何変な空気が気になります。、僕たちはまだ“旅の途中”だから……。」

その言葉に、フーマは目を細めメデルを抱きとめながら。

「……“変な空気が”か。……精霊達はなんか言っているか?」

ブランデットは少し考えてから、ぽつりと答えた。

「……“不穏な空気”が”ある”って言っているだけです。だから余計に不安です。」

フーマは頷いた。

「不安か。なら、お前らが“まだ行かない”って決めたなら、それでいい。だがな――」

彼は少しだけ声を強めた。

「いつか、自分の足であの館の門をくぐる時が来る。その時は、胸を張って行け。誰かに連れて行かれるんじゃなく、自分の意志でな。」

その言葉に、子供たちは静かに頷いた。

火の精霊がふわりと揺れ、部屋の空気が少しだけ温かくなったように感じられた。

ルククはマルコに引っ付いてデジルは全体を見守るようにフーマと何かを背負った子供達を静かに見守る。

そしてその夜、銀狼フーマは窓の外に揺れる館の灯を見つめながら、子供たちの成長を静かに願っていた。


朝の光が宿の窓辺に差し込む頃、部屋の空気はまだ夜の静けさを残していた。毛布の上で丸くなっていたブランデットとメデルが、同時に目を開ける。

「……メデル、聞こえた?」

「うん……たまごが……話しかけてきた……」

二人は顔を見合わせ、そっと手を取り合った。聖獣の卵が、念話で語りかけてきたのだ。

『昨日言おうと思ったけど……眠たかったから……てへぺろ(笑)』

卵の声は、どこか幼く、しかし確かな力を帯びていた。

『館の誰かが、十五年前に闇を纏った魔獣を討伐した際、歪みを受けたようだ。呪い……かもしれない。精霊たちが感じている“不穏な空気”は、その残滓だと思う。』

ブランデットは眉をひそめた。

「……呪い……誰かが、闇に触れてしまったんだ……」

メデルは静かに頷いた。

「でも、それを正すのは……僕たちの使命だよね?」

その言葉に、卵の念話が優しく響いた。

『そう。君たちが“光の記憶”を持つ者なら、歪みを癒す力がある。館に行くことは、怖いかもしれない。でも、逃げることはできない。』

その時、ルククが目を覚まし、二人の様子に気づいた。

「……どうしたの?」

マルコも毛布から顔を出し、デジルはすでに目を開けていた。

ブランデットは皆に向かって、静かに語り始めた。

「館の“変な空気”の正体が分かった。十五年前、闇の魔獣を討伐した誰かが、呪いの歪みを受けたらしい。精霊たちが感じていたのは、その残り香……」

メデルは続けた。

「でも、それを癒す力は、僕たちにあるって……聖獣の卵が言ってた。」

ルククは目を見開き、マルコは拳を握った。

「じゃあ……行くしかないじゃん!」

デジルは静かに頷いた。

「……使命か。なら、俺たちも支えるだけだな。」

フーマは窓辺に立ち、朝の光を背にして振り返った。

「……決めたか?」

ブランデットは立ち上がり、メデルと並んで言った。

「はい。僕たち、館に行きます。怖いけど……正すのは僕たちの使命です。」

フーマはしばらく彼らを見つめていたが、やがて静かに笑った。

「……よし。なら、俺も一緒に行く。お前らが“自分の意志”で選んだなら、俺はその背中を守る。」

朝の光が部屋を満たし、火の精霊がふわりと揺れた。

その日、子供たちは自らの使命を胸に、ドラン辺境伯館へと向かう決意を固めた。


フェンリルのブランジェ

ドラン辺境伯領の門前で仲間たちと別れたブランジェは、ひとり森へと足を踏み入れた。

その背には、風に揺れる銀の毛並み。瞳は月光を映し、どこか楽しげに輝いていた。

森は静かだった。けれど、静けさの奥には命のざわめきが満ちている。

木々の間をすり抜ける風は、ブランジェの耳元で囁くように歌い、葉の影からは小さな精霊たちが顔を覗かせた。

「ブランジェ、また来たのね!」

水の精霊が小さな泡を弾けさせながら、枝の上から飛び降りる。

土の精霊は、ふわふわの苔のベッドを用意して、ブランジェの足元に広げた。

「ここは居心地がいいなぁ……」

ブランジェは長い尻尾を揺らしながら、苔の上にごろんと寝転がる。

空を見上げると、木漏れ日がきらきらと降り注ぎ、まるで光の精霊が踊っているようだった。

すると、森の奥からふわりと香る甘い匂い。

「なにかないかなー」と鼻をくんくんさせながら歩いていくと、花の精霊たちが輪になって踊っていた。

「ブランジェ、今日は“月の花祭り”なの。一緒に踊ろうよ!」

花びらのドレスを纏った精霊たちが、ブランジェの周りをくるくると回る。

ブランジェはくすぐったそうに笑いながら、前足でリズムをとり、後ろ足で軽やかにステップを踏んだ。

その踊りに誘われて、風の精霊が笛を吹き、火の精霊が小さな灯を灯す。

森は一夜限りの祝祭に包まれ、ブランジェはその中心で、精霊たちと心を通わせていた。

「ここにいると、世界が優しくなる気がする」

ブランジェはそっと呟いた。

精霊たちは頷き、彼の周りに集まって、静かに寄り添った。

夜が深まり、星が瞬く頃。

ブランジェは苔のベッドに丸くなり、精霊たちに囲まれて眠りについた。

その寝息は穏やかで、森の鼓動と重なっていた。

そして、誰も知らないところで、フェンリルの血を引く者が、精霊たちと共に過ごす優しい時間が流れていた。


朝の森は、露のきらめきと鳥たちのさえずりに包まれていた。

ブランジェは、苔のベッドからひょいと起き上がると、ふわふわの尻尾を揺らしながら森の奥へと歩き出した。

「今日は、なにか面白いことがある気がするんだ」

精霊たちは、ブランジェの予感に耳を傾け、そっと道を開けた。

風の精霊が葉を揺らし、土の精霊が足元を柔らかく整える。

その先に現れたのは――古の泉。

泉の水は、空の色を映して青く輝き、中央には不思議な石碑が立っていた。

石碑には、精霊文字でこう刻まれていた。

「心のままに進む者よ。試練を越えれば、森の秘密に触れるだろう」

ブランジェは首をかしげた。

「試練って、どんなのだろう?」

すると、泉の水面が揺れ、小さな水の精霊の子が現れた。

「ブランジェ、君の“心”を見せて。森は、君がどんな子か知りたいの」

水の精霊の子は、三つの道を示した。


風の道:速さと判断力を試す、迷いの森。

火の道:勇気と優しさを試す、炎の洞窟。

光の道:記憶と絆を試す、夢の回廊。


ブランジェは少し考えて、光の道を選んだ。

「僕は、みんなとの思い出が好きだから。忘れたくないんだ」

夢の回廊に足を踏み入れると、空気がふわりと変わった。

そこには、過去に出会った精霊たちとの思い出が、光の粒となって浮かんでいた。

「これは……僕が遊んだ時のことだ」

「これは、苔のベッドを作ってくれた時……」

ブランジェは一つひとつの光に触れながら、心を込めて言葉を紡いだ。

「ありがとう。僕は、みんながいてくれたから、ここにいるんだ」

すると、回廊の奥に大きな光の精霊が現れた。

その姿は、まるで月のように優しく、静かに語りかけた。

「ブランジェよ。君の心は、森に受け入れられた。これを持っていきなさい――“月のしずく”」

それは、小さな銀色の宝石のような雫。

森の命が宿る、癒しの力を持つものだった。

ブランジェはそれを大切に首元に結び、精霊たちに笑顔で言った。

「ありがとう! 僕、もっと冒険するよ!」

森は風に揺れ、精霊たちは祝福の歌を歌った。

フェンリルのブランジェの冒険は、まだ始まったばかり。

その足取りは軽やかで、心は誰よりも優しく、強かった。


試練を終えたばかりの彼の瞳には、少しだけ誇らしさと、ほんの少しの寂しさが宿っていた。

森の奥は、秋の陽光が木漏れ日となって降り注ぎ、風が葉を揺らしながら優しく通り抜けていく。精霊たちの気配が濃く、ブランジェはその流れに身を委ねるように歩いていた。

そして、ふと立ち止まる。

「……人間?」

そこは誰もいないはずの場所だった。なのに、苔むした岩の上に座る一人の年老いた人物がいた。大きな体に眼帯を付けた顔鋭い輪郭、どこか怖そうな印象を受けるが、ブランジェはすぐに気づいた。

――この人、魔力が……優しくて、綺麗だ。

その人物は、木の枝で何かを編んでいた。ブランジェが近づくと、ふと顔を上げて微笑んだ。

「遊ぶか?」

その一言に、ブランジェは思わず笑って頷いた。

「うん!」

二人は森の中で、葉っぱの笛を吹いたり、木の実を投げ合ったり、精霊たちと一緒に遊んだ。花の精霊がくるくると舞い、風の精霊がくすぐるように吹き抜ける。木の精霊は枝を差し出してブランジェの足場を作り、土の小人たちは小さなトンネルを掘ってかくれんぼの舞台を整えてくれた。

「見つけたー!」

「わぁっ、ずるいー!」

笑い声が森に響き、時間がゆっくりと流れていった。

年老いた人物は、ブランジェの頭に花冠を乗せてくれた。花の精霊たちがそれを見て、嬉しそうに舞い踊る。

「君、精霊に好かれてるな」

「うん、みんな優しいから好き!」

その後も遊びは続いた。木の実を使った魔力の的当て、風の精霊と一緒に空中浮遊の競争、土の小人たちとの“かくれんぼ迷路”――ブランジェは笑いっぱなしだった。

やがて、苔のベッドに並んで横になり、昼寝をすることになった。ふわふわの苔は、まるで雲のように柔らかく、精霊たちがそっと風を送ってくれる。

「ふわふわ……気持ちいい……」

ブランジェは目を閉じながら、心の中でふたりの兄弟に念話を送った。

『ブランデット、メデル……森の奥なのに人間がいたよ! 顔はちょっと怖いけど、魔力がすごく優しくて綺麗な人! 一緒に遊んで、今苔のベッドでお昼寝してる。楽しいよ!』

その念話の最後に、ふと気づいた。

『……あ、ちょっとだけ……目と肩に、闇がくっ付いてるかも。でも、悪い感じじゃない。なんか、悲しみみたいな……』

その人物は、ブランジェの言葉に気づいたように、静かに目を開けて言った。

「……君は、よく見えるんだな。これは、昔の痛みの名残だ。怖がらなくていい」

ブランジェはそっと手を伸ばし、彼の肩に触れた。

「痛いの、少しでも消えるといいね……今の僕では治せないよぉ……ごめんね。」

その言葉に、風が優しく吹き、木々がざわめいた。精霊たちが静かに寄り添い、森が一瞬、祈るように静まり返った。

そして、ブランジェはそのまま、静かに目を閉じた。風の精霊が彼の髪を揺らし、花の精霊がそっと花びらを降らせる。

森の奥での出会いは、静かで、優しくて、少しだけ切なかった。

ドラン辺境伯館へ向かう前衛デジルが出発した昼下がり。

秋の陽光が街の石畳を柔らかく照らし、風が穏やかに吹いていた。ドラン辺境伯領の宿の前で、ブランデットとメデルは荷を整えながら、静かに空を見上げていた。

今朝、聖獣の卵からの念話を受けたことで、彼らは館へ向かう決意を固めた。十五年前の闇の魔獣討伐の残滓――呪いの歪み。

それを癒す使命は、誰かに課されたものではなく、彼ら自身が選んだ道だった。

「……準備、できたね」

メデルがそっと呟いたその時、ふわりと風が吹き、彼の髪が揺れた。

「……あ、ブランジェからだ」

ふいに、二人の意識に、柔らかな声が届いた。

『……ブランデット、メデル……聞こえる? 僕、ブランジェだよ』

二人は同時に立ち止まり、目を見開いた。ブランジェの声は、森の奥から風に乗って届いたように、優しく響いていた。

『森の奥でね、人間に会ったの。びっくりしたけど、怖くなかった。顔はちょっと怖そうだけど、魔力がすごく優しくて綺麗な人だったよ』

メデルはそっと目を閉じ、念話に集中する。ブランジェの声は、楽しげで、どこかくすぐったい。

『一緒に遊んだんだ。葉っぱの笛吹いたり、木の実投げたり、精霊たちもいっぱい来てくれてね。かくれんぼもしたよ。土の小人たちがトンネル掘ってくれて、すごく楽しかった!』

ブランデットは微笑みながら、ブランジェの声に耳を傾ける。

『今は苔のベッドでお昼寝してる。ふわふわで、雲みたい。風の精霊が髪をなでてくれて、花の精霊が花びらを降らせてくれて……』

そして、少しだけ声が沈んだ。

『……その人ね、目と肩にちょっとだけ闇がくっ付いてる。でも、悪い感じだけど悪いんじゃないの。悲しみみたいな……昔の痛みの名残だって言ってた』

メデルはそっと呟いた。

「……ブランジェ、優しいね。痛みを感じて、寄り添えるって……すごいことだよ」

ブランデットは頷いた。

「うん。あの子は、精霊たちと遊ぶだけじゃなくて、人の心にも触れられる。フェンリルの力って、そういうものなのかもしれないね。もしかしたら、館の呪いと繋がってるのかもしれない。ブランジェが感じ取ったなら、何かある」

その時、聖獣の卵がふわりと光り、二人の胸元で微かに震えた。

『その人間が、過去に闇に触れた者かもしれない。けれど、今は癒しを求めている。君たちが向かう館の“歪み”と、彼の“痛み”は、同じ根から生まれていてもしかしたら同じ人物な可能性もある』

メデルはそっと卵に触れた。

「……じゃあ、僕たちが館へ行くことで、ブランジェが出会った人も救えるかもしれない」

ブランデットは静かに頷いた。

「うん。ブランジェの出会いは、きっと意味がある。ブランジェが感じた“優しさ”と“悲しみ”――それを、僕たちが受け止める」

念話の最後に、ブランジェの声がふわりと響いた。

『僕、今は治せないけど……いつか、ちゃんと癒せるようになりたいな…。』

昼の光が二人を包み、風が優しく吹いた。

その瞬間、遠く森の方から、ふわりと花びらが舞い上がった。精霊たちが、ブランジェの笑い声とともに、風に乗せて届けてくれたのだ。

その言葉に、ブランデットとメデルは胸に手を当てて微笑んだ。

「……うん。僕たちも、館に行って、歪みを癒すよ。ブランジェも、森で優しさを育ててね」

「……ブランジェ、ありがとう。僕たち、行ってくるね」

昼の風が静かに吹き抜け、木々がざわめいた。精霊たちがその言葉に応えるように、葉を揺らし、光をきらめかせた。

そして、兄たちは再び歩き出す。弟の声を胸に、使命を抱いて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ