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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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㉝旅―冒険者 13

朝の光が、ドラン辺境伯領の門前を柔らかく照らしていた。

石造りの門は重厚で、周囲には警備兵が静かに立ち、旅人たちの列がゆっくりと進んでいた。

メデルはブランデットの手を握りながら、列の中で背伸びをして門を見上げた。

ルククは荷物を整えながら、後ろから声をかける。

「緊張するね。でも、領地に入ったら少し休めるかも」

フーマは列の後方で腕を組み、警備兵の動きを目で追っていた。

「油断するな。門の中にも目はある。だが、お父様の同級生の領地だ。変なことは起きないはずだ」

デジルが頷きながら言った。

「魔力の流れは安定してる。結界も整ってる。領地の管理は行き届いてるようだ」

マルコは門の上に掲げられた紋章を見上げて、ぽつりと呟いた。

「ドランビネス・ケルクマージス……昔は“剣の壁”って呼ばれてたらしいな。今は穏やかな領主だって聞いてるが」

列が少しずつ進み、門番が一人ひとりに声をかけている。

「旅の目的は?」「身分証を」「同行者は?」

フーマが前に出て、堂々と答える。

「ヴァル=フラクシス帝国スワロ公爵家よりの旅路。精霊の森への通行許可を得ている。同行者は六名。記録は提出済みだ」

門番が書類を確認し、目を細めて頷いた。

「確認しました。ドラン辺境伯より通達あり。歓迎の意を伝えるようにとのことです。どうぞ、お通りください」

門がゆっくりと開き、石畳の道が奥へと続いていた。

ルククが小さく息を吐きながら言った。

「よし……ここからが本番だね」

こうして、六人の旅人は、ドラン辺境伯領へと足を踏み入れた。

精霊の森への道のりは、また一歩進んだ。

石畳の道を進みながら、メデルがふと立ち止まって、ブランデットの袖を引いた。

「ねえねえ、お兄様。帝国外れの教会の木の下で決めた“あの設定”って、今どこに行ったの~?」

ブランデットは地図を見ながら歩いていたが、メデルの言葉にピタリと足を止めた。

「あ”っ……!」

その声に、フーマが深いため息をついた。

「……坊主たちが隠す気ねえんだろーが!!」

デジルが肩をすくめながら笑う。

「まあ、隠すより、堂々としてる方が精霊には好かれるって言うしな」

マルコが後ろからブランデットの柔らかな背負い袋見ながらぼそっと呟いた。

「設定って、あれか?“絶対に秘密”って言ってたやつか?」

メデルはにこにこしながら答えた。

「うん!でも、精霊さんたちにはバレてるし、たぶん門番さんにも……」

ブランデットは柔らかな背負い袋を守るように背を伸ばし顔を手で覆いながら言った。

「……僕、もうちょっと慎重にするべきだったかも…」

フーマは焚き火のような目で二人を見つめながら、ぼそっと言った。

「次からは“設定”じゃなくて“作戦”って呼べ。少しは緊張感が出る」

メデルとブランデットは顔を見合わせて、くすくすと笑った。

「うん、作戦だね!」「了解、フーマ隊長!」

フーマは鼻を鳴らしながらも、どこか嬉しそうに前を向いた。

こうして、ちょっとした小話と笑いを挟みながら、六人の旅はドラン辺境伯領の奥へと進んでいった。


石畳の道を進んだ先、ドラン辺境伯領のギルドに立ち寄った六人。

受付で依頼確認をしていると、ギルド職員が眉をひそめて言った。

「最近、孤児院でネズミが増えていてな……討伐依頼は出てるが、誰も受けてくれなくて」

フーマが腕を組みながら答える。

「討伐はしない。だが、方法は伝えられる」

その足で孤児院へ向かうと、神官でもある院長が出迎えてくれた。

事情を聞いたブランデットが、土の精霊から教わった方法を丁寧に説明する。

「まず、大きな樽を用意してください。底に“位置石”を置きます。魔磁が多く含まれていて、石同士が引き寄せ合う性質があります」

「樽に水を張って、表面に籾殻や細かく切った枯藁を浮かべます。昨日刈った庭の草でも大丈夫です」

「軽木の皮で小さなお椀を作り、中央に位置石を置いて、大麦と麦芽糖を練った団子餌を乗せます」

委員長が目を丸くする。

「それで……ネズミが?」

メデルが頷く。

「こうすると、ネズミが乗っても揺れない。……落ちたら、もう出られない」

ルククがぽつりと呟く。

「……溺死……」

ブランデットがすかさず補足する。

「でも、毒じゃないから……あとで食べられます。」

四方と中央に仕掛けを置き、しばらく待つと……昼までに、樽の中はネズミでいっぱいになる。

「毛皮にできる」デジルが言う。

「小さいけど、繋げれば毛布袋になる。冬に役立つなぁ」マルコが補足する。

孤児たちの顔がぱっと明るくなる。

「やった!あったかい布団だ!」

ルククは微笑みながら言った。

「これで、寒い夜も少し楽になるね」

委員長は深く頭を下げた。

「旅の方々……本当に、ありがとうございます」

こうして、旅の途中での知恵と優しさが、ひとつの町に温もりを残した。


ギルドに戻った六人は、緊急依頼の報告を受けた。

「商会の若奥様がご懐妊中で、子が危ういとのこと。必要なのは、Aランクの“キキミツナリ草”だ」

通常の報酬は金貨一枚だが、今回は緊急のため、大金貨一枚が提示された。

フーマは即座に頷いた。

「受ける。命がかかってるなら、迷う理由はない」

デジルが地図を広げ、魔力の流れを確認する。

「キキミツナリ草は湿地帯に生える。水の精霊が導いてくれるはずだ」

一行は森の奥へと進み、やがて水辺にたどり着いた。

水の精霊がふわりと現れ、指先で水面をなぞる。

「この辺り……水が澄んでいて、魔磁の流れも穏やか。キキミツナリ草は、月光を浴びた水辺に咲きます」

メデルが目を凝らすと、青白く光る草が水辺に揺れていた。

「これだ……!」

ブランデットが慎重に近づき、土の精霊に声をかける。

「根を傷つけずに採るには、どうすれば?」

土の精霊が地面をぽんぽんと叩きながら答えた。

「水を少し引いて、根の周りの土を柔らかくする。魔磁の流れに逆らわないように、斜めに掘るといいよ」

ルククが小さな木製のスコップを使い、精霊の指示通りに掘り進める。

メデルが水の精霊と共に水流を調整し、草の根元がゆっくりと姿を現した。

「これで……抜けるよ」ブランデットがそっと草を引き抜く。

キキミツナリ草は、根から葉先まで青白く輝き、魔力の波動が穏やかに広がっていた。

「Aランクだ。間違いない」デジルが確認する。

マルコが包みを広げ、草を丁寧に包みながら言った。

「急いで届けよう。命の灯が、消えないうちに」

水の精霊が静かに頷いた。

「この草は、命を繋ぐ力を持っています。どうか、無事に届きますように」

こうして、六人は薬草を携え、急ぎ足でギルドへと戻っていった。

その手には、命を救う希望が握られていた。


神官カーナ。

神官カーナは、若くして水と光の魔法に秀でた者として神殿に迎えられた。

その清めの力は、病や穢れを祓う儀式において重宝され、神殿内でも高い評価を受けていた。

だが、彼の心には常に問いがあった。

「清めるだけでは、苦しみは消えない。命を救うには、もっと……何かが必要だ」

ある日、神殿の古い書庫で一冊の記録書に出会う。

そこには、かつて神官たちが用いていた薬草の記述があった。

その中に、“麻酔草”という名があった。

「痛みを和らげ、命の境を越えさせる草。魔力では届かぬ場所に、草の力が届く」

それ以来、カーナは時間が許す限り、森へ足を運ぶようになった。

白い法衣を泥で汚しながら、静かに草を探す日々。

雨の日も、風の日も、彼は森の奥へと歩いた。

精霊の気配を感じながら、地面に膝をつき、葉の形、根の香りを確かめる。

「魔法だけでは足りない。人の命に寄り添うには、自然の力も必要だ」

神殿では、彼の行動を奇異に思う者もいた。

だが、カーナは気にしなかった。

ある日、重い病に苦しむ子供が運ばれてきた。

魔法では痛みを抑えきれず、泣き叫ぶ声が神殿に響いた。

カーナは、森で見つけた麻酔草の一片を煎じ、慎重に用いた。

子供の呼吸が落ち着き、眠るように静かになった。

その夜、神殿長が彼に言った。

「お前の祈りは、魔法だけでなく、草にも宿るのだな」

それ以来、カーナは神殿の治療師として、魔法と薬草の両方を用いるようになった。

彼の名は、静かに、しかし確かに人々の間に広がっていった。

そして今――

キキミツナリ草のAランクを採取した冒険者が現れたと聞き、カーナは再び希望を胸にギルドを訪れた。

「命を救うために、私はまだ学び続ける。精霊の導きと、人の知恵を信じて」


報酬を受け取り、六人がギルドの出口へ向かおうとしたその時だった。

受付の女性が慌てて声をかけてきた。

「すみません、少々お待ちいただけますか。神殿から来られた方が、あなた方にお話があるようで」

フーマが振り返り、眉をひそめる。

「神殿?……誰だ?」

受付が一歩下がると、奥から白い法衣をまとった青年が現れた。

水と光の魔法の気配を纏いながらも、どこか疲れた表情をしている。

「初めまして。私は神官カーナ。神殿で治療を担当しています」

ブランデットが一歩前に出て、頭を下げた。

「こんにちは、カーナさん。私たちに何か?」

カーナは少し躊躇いながらも、真剣な眼差しで言った。

「あなた方が、キキミツナリ草のAランクを採取されたと聞きました。確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

ブランデットが包みを取り出し、丁寧に広げる。

「これです。水辺で、精霊の協力を得て採取しました」

カーナは目を細め、草の根元に指を添える。

魔力の流れを感じ取るように、静かに息を吸い込んだ。

「……間違いありません。これは、神殿の書物に記されていた“命を繋ぐ草”です」

ルククが首をかしげる。

「神殿でも使うんですか?」

カーナは頷いた。

「はい。水と光の魔法で清めることはできますが、苦しみを和らげるには限界があります。私は、麻酔草という薬草を探して森を歩いていますが……この草も、命を救う力を持っています」

水と光の魔法では届かない痛みを癒すため、彼は“麻酔草”の手がかりを求めていた。

その時、古木の幹からふわりと現れた木の精霊が、低く深い声で語り始めた。

「麻酔草……それは薬草ではない。猛毒の毒草だ」

メデルはは息を呑んだ。

「毒……?」

木の精霊は静かに頷いた。

「ああ…沢山の者が死んだ。闇の薬だ。取扱には最も注意しなくてはならない」

一拍置いて、精霊は問いかける。

「これだけ注意しても……それでも、聞きたいのか?」

ブランデットとメデルがカーナ神官に聞いた。

「注意しても……それでも、聞きたいのか?」

フーマは鼻を鳴らしながら、ブランデットとメデルを連れて出口へ向かって歩き出す。

「場所を変えるぞ。行くぞ。」

デジルとマルコそして少し怯えているルククを促す。

少し外れにある広場に向かった。

中央の長椅子に腰かけるとカーナは目を伏せ、深く頷いた。

「命を救えるなら、知るべきです。知りたいです。」

木の精霊は深いため息をつき、語り始めブランデットが通訳した。

「麻酔効果を持つのは、六種の毒物――

キチュルの実、タヤナの実、レンキの根、ユリナの根、赤茸、ダラナ茸。

これらは薬草ではない。毒だ」

カーナは言葉を失った。

「それらは、時を選んで採取せねばならぬ。キチュルとタヤナの実は“新月の日”に。レンキとユリナの根は“満月の日”に。赤茸とダラナ茸は“上弦の日”に。そして、調合は“下弦の日”に行う」

精霊はさらに続ける。

「頭には光よけを。手には水膜藻を巻き、顔には布を覆え。苦しいかもしれぬが、猛毒だから……我慢が必要だ」

カーナは真剣に聞き入る。

「光の熱と水の冷調え――それが命を分ける」

精霊は最後に、調合の方法を語った。

「同じだけ“匙草”で掬える量を、“ココナの大きな実”の中にいる緑のスライムに与える。

スライムが黒に変われば、ココナの身と混ぜる。

緑に戻ったら、ゆっくり焦らず混ぜ合わせる。

すると、サラサラの緑の粉になる。それが“麻酔草”だ」

精霊は目を細めて言った。

「間違えれば……死ぬ」ブランデットは少し疲れてフーマにもたれ掛かった。

カーナは静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。命を救うために、私はこの知識を正しく使います……ありがとうございます。あなた方のような方々がいてくださることが、私たちの希望です」

マルコが肩をすくめながら笑う。

「まあ、精霊に好かれてる坊主たちがいるからな。俺たちも、ちょっとは役に立てるってことだ」

カーナ驚き深く深く頭をたれた。

木の精霊は、風に溶けるように姿を消した。

広場は再び静寂に包まれたが、カーナの心には、重くも確かな使命が刻まれていた。

薬草は命を救うために、再び旅の意味を深めていく。


神殿の治療室。

窓から差し込む光は静かで、空気は張り詰めていた。

ベッドの上には、重い外傷を負った青年が横たわっている。

意識は朦朧とし、痛みによる痙攣が止まらない。

「魔法では……届かない」

カーナは静かに呟いた。

彼は、森で精霊から授かった知識を思い出しながら、慎重に調合を始めた。

新月の日に採取したキチュルとタヤナの実。

満月の日に掘り出したレンキとユリナの根。

上弦の日に摘んだ赤茸とダラナ茸。

それぞれを“匙草”で同量ずつ掬い、ココナの大きな実の中にいる緑のスライムに与える。

スライムが黒に変わるのを確認し、ココナの果肉と混ぜる。

ゆっくり、焦らず、祈るように混ぜ合わせる。

緑に戻ったスライムの色が、やがてサラサラの粉へと変化した。

「……できた」

カーナは光よけを頭に、手には水膜藻を巻き、顔には布を覆っていた。

猛毒の気配が、空気を震わせる。

彼は粉を煎じ、慎重に分量を調整し、患者の口元へと運ぶ。

「どうか、届いてください……この命に」

数分後、青年の痙攣が止まり、呼吸が安定し始めた。

顔の苦悶が消え、静かな眠りへと落ちていく。

カーナは深く息を吐き、床に膝をついた。

「……ありがとう、精霊たち。ありがとう、森の力」

その夜、神殿長が静かにカーナの肩に手を置いた。

「お前の祈りは、毒をも癒しに変える。命を繋ぐ者として、誇りに思う」

カーナは静かに頷いた。

「私は、まだ学び続けます。命のために」

こうして、神官カーナの挑戦は、ひとつの命を救い、神殿に新たな希望を灯した。

麻酔草は、猛毒でありながらも、正しく使えば命を繋ぐ光となる。


夜の神殿。

水の流れる音が静かに響き、光の魔法が灯す淡い輝きが回廊を照らしていた。

神官カーナは、麻酔草の調合を終えた後、神殿長に呼ばれていた。

二人きりの対話。

神殿長は、長い沈黙の後、静かに問いかけた。

「カーナ……お前は、あの二人をどう見ている?」

カーナは少し驚いたように顔を上げる。

「……ブランデット様とメデル様のことですか?」

神殿長は頷いた。

「水と光の魔法に、精霊との深い交信。

あの年齢で、あれほどの魔力の調和を見せる者は、記録にもない。

お前は、彼らが“聖女”ではないかと……そう思ったことは?」

カーナは目を伏せ、静かに答えた。

「……はい。何度も、そう思いました。

ですが、彼らは“聖女”という言葉に縛られていない。

彼らは、ただ“命に寄り添う者”です。

それが、魔力の形になっているだけだと……私は、そう感じています」

神殿長は目を細め、静かに歩み寄る。

「お前がそう言うなら、私は信じよう。

だが、記録には残す。

彼らの存在は、神殿の未来に関わるかもしれない」

カーナは深く頭を下げた。

「彼らは、私に“魔法では届かない場所”を教えてくれました。

私は、彼らの導きに感謝しています」

神殿長は静かに頷き、回廊の奥へと歩いていった。

その背を見送りながら、カーナは心の中でそっと祈った。

「どうか、彼らの旅が守られますように。

そして、彼らの光が、誰かの命を照らしますように」


聖女という名への拒絶

神殿の奥、静かな間にて。

神殿長と神官カーナ、そしてブランデットとメデルが向かい合っていた。

神殿長は、慎重に言葉を選びながら問いかけた。

「貴方達の魔力の在り方、精霊との交信、そして癒しの力……神殿の記録に照らせば、聖女の兆しと一致する。その名を背負う覚悟はありますか?」

ブランデットは一瞬、目を伏せた。

メデルは、兄の袖をぎゅっと握る。

沈黙の後、ブランデットが静かに口を開いた。

「僕たちは……聖女じゃありません。誰かを救いたいとは思っています。でも、“聖女”という言葉は、誰かの期待を背負うものです」

メデルが続ける。

「僕は、ただ……お兄様と一緒に旅をして、精霊さんたちと仲良くして、困ってる人を助けたいだけ。“聖女”って呼ばれると、なんだか遠くに行っちゃう気がする“聖女にはなりません。”」

神殿長は目を細め、静かに頷いた。

「……その言葉を確と聞き受けた。名に縛られぬ者こそ、真に“光”を持つのかもしれんな」

カーナは微笑みながら言った。

「彼らは、名ではなく、心で動いています。それが、魔力の形になっているだけです」

ブランデットは少し照れくさそうに笑い、メデルは「お兄様、かっこいい」と小声で囁いた。

神殿長は立ち上がり、静かに言った。

「記録には残す。だが、名は与えぬ。

彼らが望むなら、いつでも神殿は迎える。

それまでは、旅の光となるがよい」

こうして、“聖女”という名は与えられず、二人は自らの道を歩むことを選んだ。

その選択は、名よりも重く、確かな光を放っていた。

宿の留守番

ドラン辺境伯領の町外れ、小さな宿の一室。

旅の仲間たちが神殿へ向かったその日、宿には静かな時間が流れていた。

デジルは窓辺で本を読みながら、時折外を眺める。

マルコは椅子に深く腰掛け、靴を磨きながら鼻歌を歌っている。

そして、ルククは部屋の隅で、祖父から譲り受けた古い魔力石を手にしていた。

「ねえ、じいちゃん……最近、魔力の流れがはっきりとわかるんだ」

ルククは、祖父の幻影に語りかけるように、静かに呟いた。

祖父の声は、魔力石の中からふわりと響いた。

「ほう……それは、目が開いた証じゃ。精霊の姿は見えていたが、声も聞こえるようになったか?」

ルククは頷いた。

「うん。前は、風の精霊が笑ってるような気がするだけだったけど、今はちゃんと聞こえる。“ルクク、こっちだよ”って」

マルコが笑いながら振り返る。

「お前、精霊にモテてるな。俺なんか、火の精霊に“暑苦しい”って言われたぞ」

デジルは本を閉じて、ルククの隣に座る。

「それは、魔力の感応が深まってる証拠だ。お前の心が、精霊たちに届いてるんだよ」

ルククは魔力石を胸に当て、そっと目を閉じた。

すると、部屋の空気がふわりと揺れ、小さな光の粒が舞い始めた。

「……今、精霊たちが笑ってる。僕、もっと話せるようになりたいな」

祖父の声が、優しく響いた。

「それは、旅の中で育つものじゃ。お前の魔力は、まだ芽吹いたばかり。だが、精霊たちはその芽を守ってくれる」

ルククは目を開け、仲間たちを見渡した。

「僕、みんなが帰ってきたら話すよ。精霊の声が、どんなに優しいかって」

マルコは肩をすくめて笑い、デジルは静かに頷いた。

宿の部屋には、魔力の気配と、精霊たちのささやきが満ちていた。

そして、ルククの心には――

新たな力と、旅の意味が、少しずつ芽吹き始めていた。

宿の部屋に、精霊たちのささやきが満ちる中――

祖父デジルは、静かに目を細めていた。

「……やはり、ルククにも王家の血が濃いかもしれんなぁ」

その言葉は、誰にも聞こえないほど小さく、しかし確かな重みを持っていた。

魔力石の中に宿る祖父の意識は、ルククの成長を見守り続けていた。

「精霊の声を聞く力……それは、ただの魔力感応ではない。血に刻まれた“記憶”が、目覚め始めているのかもしれん」

ルククはまだ知らない。

自分の祖父が、かつて国王で魔術師であり、精霊との契約を結んだ者だったことを。

デジルは、窓の外に広がる空を見上げながら、そっと呟いた。

「この子が、旅の中で何を見て、何を選ぶか……それが、未来を決めるのだろうな」

マルコは鼻歌を続けながら、靴を磨く手を止める。

「なあ、親父。さっきから難しい顔してるぞ。何か思い出したー?」

デジルは笑って首を振る。

「いや、ちょっと昔のことをな。……ルククの成長が、嬉しいだけさ」

ルククは、魔力石を胸に抱きながら、精霊たちの声に耳を澄ませていた。

その瞳には、まだ知らぬ過去と、これから出会う未来が、静かに映っていた。

そして――

祖父の思いは、風に乗って、遠く神殿へ向かう仲間たちの背をそっと包んでいた。

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