㉛旅―冒険者 11
翌朝の出発 ― 青の泉へ
夜が明けると、帝国外れの森は静かに目覚めた。
霧は薄れ、朝露が葉の先に宝石のように光り、鳥の声が遠くでさえずる。
小人たちは夜のうちに葉の寝床を整え、精霊たちは光の道を描いていた。
その道は、森の奥へと続いている――青の泉へ。
メデルは目をこすりながら起き上がり、ブランジェの背に抱きついた。
「おはよう、ブランジェ。今日、泉に行くんだよ!」
ブランジェは尾を振りながら、少し眠そうに唸った。
『うん…でも、昨日の奥は…ちょっと嫌な感じだった…』
ブランデットが弟の頭を撫でながら言う。
「気をつけて進もう。精霊が導いてくれるはずだ。」
ルククは剣を腰に下げ、深呼吸をした。
「……今日が本番だな。守るぞ、みんなを。」
マルコが肩を回しながら笑う。
「よし、気合入れていこう!俺の剣、久々に暴れさせるか!」
フーマは銀の瞳で森を見渡し、低く唸った。
「油断するな。昨日のブランジェの話、忘れてねぇだろ。闇が潜んでる。」
デジルは静かに剣を背負い、仲間たちを見渡した。
「青の泉は、森の心臓だ。だが、心臓に近づくほど、毒も濃くなる。行くぞ。」
精霊の光が揺れ、道が開かれる。
七人は、森の奥へと足を踏み入れた――。
森の奥へ進むにつれ、空気が変わった。
光が届かず、木々の間に黒い靄が漂い始める。
精霊の光も揺らぎ、時折かすれるように消える。
「……なんか、空気が重い……」メデルが呟く。
ブランジェが耳を伏せ、低く唸った。
『また来てる…昨日の、あの気持ち悪いやつ……』
その時、茂みが揺れた。
黒い毛並みの闇を纏った魔獣が、牙を剥いて飛び出す。
一体、二体――いや、五体、十体。
次々に現れる魔獣たちは、どれも闇を帯び、目が赤く濁っていた。
「数が……多すぎる!」ルククが叫ぶ。
マルコが剣を振りながら叫ぶ。
「きりがねぇ!どこから湧いてくるんだよ!」
フーマが前に出て、銀の剣で闇を纏った魔獣を斬る。
「下がるな!連携しろ!囲まれるぞ!」
ブランデットが風の盾を展開し、メデルを守る。
「メデル、後ろに!」
「でも、僕もやる!」
メデルの魔力が黒く輝き、影が魔獣の足を絡め取る。
「《シャドウバインド》!」
ブランジェが吠え、銀の光を放つ。
『来るな!来るな!来るなぁぁ!』
その声に呼応するように、精霊の光が一瞬だけ強く輝いた。
だが、闇を纏った魔獣は止まらない。
次々に現れ、地面を揺らし、空気を濁らせる。
ルククが息を荒げながら叫ぶ。
「これ……本当に進めるのか!?」
マルコが背中を守りながら答える。
「進むしかねぇ!でも、これ……本気でやばいぞ!」
デジルが前に出て、剣を振るいながら叫ぶ。
「全員、集中しろ!この闇は、泉を閉じ込める“門”だ。突破するしかない!」
フーマが低く唸り、銀の瞳を光らせる。
「群れで動け!一人で突っ込むな!俺が前を切る!」
ブランデットが足を進めながら、空気の流れに指先をかざした。
「……魔力が濁ってる。昨日の戦いの残滓だけじゃない。森全体が疲れてるみたいだ。」
メデルも立ち止まり、両手を胸元に重ねる。
「じゃあ……癒す?浄化?かなぁ?うん。浄化しよう!森が苦しんでるなら、僕たちの魔法で少しでも楽にしてあげたい。」
ブランデットは静かに頷き、青魔法士の魔力である白色魔力を指先に灯す。
メデルは黒魔法士の魔力である黒と銀の魔力を混ぜ、柔らかな光を生み出す。
二人は同時に、詠唱を始めた。
「日々の塵や穢れを洗い流し、心を澄みわたらせる力を持ち、聖なる魂の疲れを浄化せよ。」
その言葉が森に響いた瞬間、空気が震えた。
青白い風が木々の間を駆け抜け、葉を揺らす。
黒と銀の光が地面を這い、靄を吸い上げるように消していく。
精霊たちがふわりと舞い、光の粒が祝福のように降り注いだ。
小人たちは葉笛を鳴らし、静かに頭を垂れる。
フーマが後ろで腕を組みながら呟いた。
「……坊主ども、やるじゃねぇか。」
デジルは目を細め、静かに言った。
「魔法とは、力だけじゃない。心が澄んでいなければ、森は応えない。凄いなぁ2人とも!」
マルコが笑いながら肩をすくめる。
「俺には無理だな。剣で斬る方が性に合ってる。」
ルククはその光景を見つめながら、胸の奥で何かがほどけていくのを感じていた。
――魔力って、こんなに優しいものだったのか。
ブランジェは尾を振りながら、メデルの足元に寄り添った。
『……ちょっとだけ、森が軽くなった気がする。』
デジルはフーマに目を向け、静かに言った。
「さあ……落ち着いている今、先に進もう。」
浄化の詠唱が森に響き渡った直後、一瞬だけ空気が澄んだ。
葉が揺れ、靄が消え、精霊の光が祝福のように降り注ぐ。
だが――その静けさは、嵐の前触れだった。
「……おいおいまた……来るぞ。」
フーマの銀の瞳が細く光る。
地面が震えた。
木々の奥から、黒い影がうねるように現れる。
それは闇を纏った魔獣の群れだ
だが、先ほどのものとは違う。
闇が濃く、形が歪み、牙が異様に長く、目は赤黒く濁っていた。
「なっ……なんだこれ……!」ルククが声を震わせる。
マルコが剣を構えながら叫ぶ。
「数が……増えてる!いや、違う……質が変わってる!」
魔獣たちは地面を裂きながら突進してくる。
一体、二体、十体――数えきれない。
その背後には、さらに巨大な影が蠢いていた。
「囲まれる!」ブランデットが風の盾を展開する。
「メデル、後ろに!」
「いや、僕もやるの!」
メデルの魔力が黒く輝き、影が魔獣の足を絡め取る。
「《シャドウバインド》!」
ブランジェが吠え、銀の光を放つ。
『来るな!来るな!来るなぁぁ!』
だが、闇を纏った魔獣たちは光をものともせず、突進してくる。
フーマが前に出て、銀の剣で三体を薙ぎ払う。
「群れで動け!一人で突っ込むな!」
デジルが剣を振るい、闇を纏った魔獣の首を斬る。
「この闇は、やはり俺達を泉へ行かせない様にしている。突破するしかない!」
マルコが背中を守りながら叫ぶ。
「きりがねぇ!どこから湧いてくるんだよ!」
ルククは息を荒げながら、剣を振るう。
「これ……本当に進めるのか!?俺たち、持つのか!?」
その時、森の奥から低く響く声があった。
“試される者たちよ……心を澄ませ……命の泉は、魂の深奥に通ずる……”
精霊の声だった。だが、震えていた。
森そのものが、彼らを試している。
ブランデットが叫ぶ。
「魔力を合わせる!メデル、もう一度詠唱を!」
「うん!」
二人は再び、魔力を重ねる。
青白い風と黒銀の光が交差し、森の空気を震わせる。
「日々の塵や穢れを洗い流し、心を澄みわたらせる力を持ち、聖なる魂の疲れを浄化せよ――今、ここに!」
その瞬間、地面から光が立ち上がった。
闇を纏った魔獣の足元が崩れ、闇が裂ける。
精霊の光が強く輝き、空気が澄み渡る。
闇を纏った魔獣たちは一瞬だけ動きを止めた。
その隙を逃さず、フーマが叫ぶ。
「今だ!突破するぞ!」
七人は、光の道を駆け抜ける。
その先に――青い泉が、静かに待っていた。
光の道を駆け抜けた七人の前に、森が静かに開けた。そこは、まるで別世界だった。
木々は青白く輝き、葉は水晶のように透き通っている。空気は澄み、風は音もなく流れ、地面には淡い光の紋様が刻まれていた。そして、中央に――泉があった。
青い泉。水面は鏡のように静かで、空の色を映している。だが、よく見ると、水の底には精霊たちの姿が揺れていた。
メデルがそっと泉に近づく。
「……ここが、命の泉……皆んなが言ってる青の泉?」
ブランデットが頷き、魔力の流れを感じ取るように目を閉じる。
「魔力が……澄んでる。でも、深い。底に何かが眠ってる。」
その時、泉の水面がふわりと揺れた。青白い光が立ち上がり、精霊の声が響く。
“よく来た、子らよ。闇を越え、心を澄ませ、ここに至った者たちよ。”聖女”この泉は、魂の記憶。魔力の源。だが、今、傷ついている。”
メデルが泉に手を伸ばす。水は冷たく、優しく、彼の指先に触れた瞬間――彼の魔力が静かに共鳴した。
“お前の魔力は、闇を抱き、光を求める。その心が、泉を癒す鍵となる。”
ブランデットも泉に手を添える。白い魔力が水面に広がり、青い光が泉の底から立ち上がる。
“青魔法士よ。風と水の理を知る者。お前の澄んだ心が、泉の記憶を呼び覚ます。”
泉の光が強まり、七人の足元に紋様が広がる。精霊たちが姿を現し、輪を描くように舞い始める。
“今こそ、浄化の儀を。命の流れを繋ぎ、森を癒す時。”
メデルとブランデットは互いに目を合わせ、頷いた。 「やろう、お兄様。」 「うん、メデル。」
二人は手を重ね、魔力を泉へと流し始める。
黒と銀の光、白と青の風が泉の水面に溶け込み、静かに広がっていく。泉の底から、古代の記憶が泡のように浮かび上がり、精霊たちの歌が森に響き渡る。
青の泉にて
“黒の祈りと白の祈り”
天と地の祈りよ、なにものにも染まらぬ強き魔力よ。
青の泉を癒やし
魂の記憶、輪廻の環を超えて、黄泉の淵より響く声。 神気を宿し賜う貴方、我は願う。
天地を貫き、森羅万象に働くこの「黒の祈り」を。
”お前達の祈りの言葉は、非常に強力で広範囲に及ぶ、不可侵の結界を意味するかぁ。命は巡る。闇もまた、光の一部。だが、澄んだ心があれば、再び輝ける。”
その言葉とともに、泉の水が一度だけ高く舞い上がり、七人の頭上に降り注いだ瞬間、空気が震えた。
その光は祝福であり、同時に――呼び声だった。
水面が静かに渦を巻き、中心から青白い柱のような光が立ち上がる。
その中から、ゆっくりと姿を現したのは、水精霊王――アダマン。
彼の姿は人の形をしていたが、輪郭は水の流れのように揺らぎ、瞳は深海のように澄んでいた。
その声は、泉そのものが語るような響きだった。
「よく来たな、子らよ。お前たちの祈りは、我を目覚めさせた。…だが、癒しは始まりに過ぎぬ。世界は、今――崩れかけている。」
一同が静かに耳を傾ける中、アダマンは語り始めた。
「長年の帝国の歪み……いや、帝国だけではない。この世界全体が、調和を失いかけていた。我ら精霊王は、それぞれの領域で均衡を保とうとしていた。風は風の理を、水は水の理を、火は火の理を……だが、闇が加速した。」
フーマが低く唸る。
「その闇…… 闇を纏った魔獣たちのことか?」
アダマンは頷く。
「そう。だが、彼らは“結果”に過ぎぬ。原因は――神域の幼子が隠されたことにある。」
ブランデットが眉をひそめる。
「神域の幼子……?」
アダマンの声が少しだけ揺れた。
「神々の領域に生まれた、純粋なる命。その存在は、世界の均衡を保つ“鍵”だった。だが、ある者がその幼子を封じ、神々は困惑し、理が乱れた。」
メデルが小さく呟く。
「……その子って……?お兄様が背負っているたまごですか?」
「ああそうだ、今は眠っている。だが、目覚めを待っている。お前たちの祈りが届けば、神域の扉は再び開かれる。幼子は君達の魔力で確実に育って居る様だなぁ…。」
泉の水が静かに揺れ、精霊たちが輪を描いて舞う。
その舞は、まるで神々への祈りのようだった。
「命の泉――青の泉は、神域への“門”のひとつ。ここを癒したことで、世界の理は少しだけ戻った。だが、次なる地――“火の祈りの地”が、今、崩れかけている。」
デジルが剣を握り直す。
「ならば、我らが向かおう。次の地へ。」
アダマンは静かに頷いた。
「その時が来たら、火精霊王が試練を与えるだろう。だが、今は――この泉で、心を澄ませよ。お前たちの魂に、神々の記憶が触れようとしている。」
泉の水が再び光を放ち、七人の胸に、静かな熱が灯った。
泉の水が再び光を放ち、七人の胸に、静かな熱が灯った。
その熱は、ただの魔力ではなかった。
それは、記憶――神々の記憶に触れる前触れだった。
水精霊王アダマンは、泉の中心に立ち、静かに語り続ける。
「ブランデット、メデル。お前たちの魔力は、幼子の命を育てている。
その卵に宿る存在は、神域の幼子――神々の理を繋ぐ“光の核”だ。」
メデルが目を見開く。
「……じゃあ、あの卵の中にいるのは……神様の子?」
アダマンは頷く。
「まだ神ではない。だが、神々が守ろうとした命。
その存在が封じられたことで、神々は混乱し、世界の理が揺らいだ。」
ブランデットが静かに言う。
「だから、闇を纏った魔獣が生まれた。理が崩れ、闇が形を持った。」
「その通りだ。だが、今――お前たちの祈りが、泉を癒した。
神域の扉は、わずかに開き始めている。」
泉の水面が揺れ、青白い光が空へと昇る。
その光は、遠くの空に届き、雲を裂くように広がっていく。
「次に向かうべきは、“火の祈りの地”。そこでは、火精霊王が待っている。だが、彼は試練を与えるだろう。炎は、心の奥に潜む“真実”を暴く。」
フーマが低く唸る。
「試練か……また戦いになるのか?」
アダマンは静かに首を振る。
「戦いだけではない。火の地では、“選ばれる”ことが必要になる。誰が、幼子を守るにふさわしいか。誰が、神域へ至る資格を持つか。」
ルククが息を呑む。
「選ばれる……って、僕たちの中から?」
「そうだ。だが、選ぶのは火の理。お前たちの行動、心、そして――過去が問われる。」
泉の水が静かに沈み、精霊たちが再び輪を描いて舞う。
その舞は、祝福であり、別れの儀でもあった。
「だから今は、泉の力を受け、心を澄ませよ。次なる地へ向かう前に、命の記憶を胸に刻むのだ。」
メデルとブランデットは泉の前に立ち、静かに目を閉じた。
その背で、卵が淡く脈打ち、まるで応えるように光を放った。
皆が泉の側で瞑想している時突然、アダマンは静かに泉の中心に立ち、声を発した。
「衣を脱いで浸かって癒すと気持ちいいぞ。」
その瞬間、場が凍りついた。
「えっ……!?」
ブランデットが目を見開き、思わずメデルの手を握る。
「え、ええと……精霊王様、それは……その……」
メデルが戸惑いながらも礼儀正しく言葉を探す。
フーマは眉をぴくりと動かし、口元を引き締めたが、肩が震えている。笑いをこらえているのだ。
「……まさか、裸で入れってことか?」
ブランデットが小声で呟き。マルコが肘で突いて焦ってブランデットに言う。
「ちょっと!声に出していわない!」
マルコは顔を真っ赤にして、木の陰の後ろに行ってしまった。
ルククは固まったまま、泉とアダマンを交互に見て言った。
「え……えっと……僕、服のままじゃダメですか……?」
アダマンは微笑みながら、泉の水をすくって見せた。
「この泉は“癒しの源”。衣を脱ぎ、素のままの心と体で浸かることで、魔力の流れが整い、傷も癒える。恥じることはない。精霊たちは、君たちの“心”を見る。」
その言葉に、空気が少し和らいだ。
マルコが木陰から顔を出し、ぼそっと言った。
「……精霊王って、意外とストレートだな。」
デジルが腕を組み、静かに頷く。
「だが、言ってることは本質だ。心を解き放てということだろう。」
フーマが咳払いをして、皆に向き直る。
「よし、じゃあ順番に入ろう。水浴びは獣人には普通の事でも(笑)お貴族様には少し難しいかもなぁ(笑)服は……まあ、工夫しよう。メデル達、先に入ってみるか?」
アダマンは笑いながら言った。
「ククク……この泉の周辺には、ブランデットとメデルが張った強力な結界がある。悪意あるものは近づけぬ。不安なら我が見ていよう。恥じることはない。共に浸かれ。」
その言葉に、皆は一瞬戸惑ったが……
「うん……皆で入ろう!」
メデルが笑顔で言うと、ブランデットも頷き、ルククが勇気を出して一歩踏み出した。
泉の水面がきらめき、精霊たちの囁きが風に乗って響いた。空気が柔らかくなり、心がほどけていくような感覚が広がっていった。
泉の水は、肌に触れた瞬間、ひんやりとした感触の中に柔らかな温もりを含んでいた。まるで、精霊たちがそっと抱きしめてくれるような感覚だった。
メデルがそっと肩まで浸かり、目を閉じる。
「……なんだろう。水なのに、光が体の中に入ってくるみたい。」
ブランデットが隣で頷く。
「うん……カーロが喜んでる。泉の魔力が、優しくて、懐かしいって。」
ルククは少し緊張しながらも、肩まで浸かって深呼吸した。
「……僕、こんなに静かな気持ちになったの、初めてかも。怖いこと、いっぱいあったのに……今は、なんか……大丈夫って思える。」
フーマが泉の縁に腰を下ろし、腕を組んで皆を見守っていたが、ふと笑みを浮かべて言った。
「癒しってのは、体だけじゃない。心がほどけると、魔力も流れやすくなる。……お前たち、いい顔してるな。」
マルコが泉の端で足だけ浸けながら、照れくさそうに言った。
「……なんか、昔のこと思い出すな。父さんと一緒に、山の湧き水で修行した時……冷たくて、でも不思議と力が湧いてきた。」
デジルが静かに泉に手を浸し、目を閉じる。
「この泉は、記憶を呼ぶ。心の奥にある“守りたいもの”を、そっと引き出してくれる。……ルクク、お前は何を守りたい?」
ルククは少し考えてから、泉の水面を見つめて答えた。
「……僕は、仲間を守りたい。メデルも、ブランデット様も、フーマ様も……みんな、僕に“できること”を教えてくれた。だから、僕も……力になりたい。」
メデルが微笑みながら言った。
「ルククは、もう“仲間”だよ。僕たち、群れになったんだもん。」
ブランデットが静かに手を泉にかざし、魔力の波紋が広がる。
「この泉の魔力、ルククに馴染んでる。……優しい魔力は、優しい心に集まるんだね。」
アダマンが泉の中心で笑いながら言った。
「ククク……よいぞ。心が開かれた時、癒しは真に届く。お前たちの“絆”が、この泉をさらに輝かせている。」
風がそっと吹き、泉の水面がきらめいた。精霊たちの囁きが、まるで歌のように響き渡る。
その瞬間、皆の心に同じ思いが浮かんだ。
――この旅は、ただの使命じゃない。
――これは、絆を深める“再生の旅”なのだ。
旅の決意と確認
泉の水音が静かに響く中、デジルとマルコがフーマのもとへ歩み寄った。空気は澄み、精霊たちの気配が風に混じって漂っている。
デジルが腕を組み、真っ直ぐに言った。
「フーマ。俺たちも、旅に同行する。」
マルコが少し笑みを浮かべながら言葉を添える。
「ルククの背中は、俺たちが守る。あいつはもう“群れ”の一員だ。なら、俺たちも“群れ”として動く。」
フーマは二人を見つめ、しばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「……その覚悟、ありがたい。だが、先に伝えておく。今回の旅は、ただの冒険じゃない。」
彼は腰の護符に手を添えながら、言葉を続ける。
「俺は、神殿、スワロ公爵、そして王家から正式に護衛依頼を受けている。目的は――精霊の森への到達。そして、“神域の幼子”の返還だ。」
マルコが眉をひそめる。
「神域の幼子……?」
フーマはブランデットの方を見て、ゆっくりと頷いた。
「ブランデットの中には、半精霊のカーロがいる。彼女はあと二年で精霊の森に還らなければならない。そうしなければ、ブランデット自身が……共に狂う。」
デジルが息を呑み、低く呟く。
「……そんな重いものを、あの子が背負っていたのか。」
フーマは泉の中心を指差す。
「さっき、精霊王アダマンが言っていた“神域の幼子”――。ブランデットが背負っているたまごがそれだ。そして、メデルもまた……何かを背負っている。」
メデルが静かに泉から顔を上げ、言葉を添える。
「僕の中にも、光がある。まだ全部はわからないけど……でも、カーロお姉様と、卵と、僕の魔力は繋がってる。だから、僕も行かなきゃいけない。」
マルコが目を見開き、メデルを見つめる。
「……5歳で、そんなことを……」
デジルが静かに頷く。
「この子たちは、ただの子供じゃない。“使命”を背負っている。なら、俺たちも……その旅を支える責任がある。」
フーマは二人を見つめ、改めて問いかけた。
「……それでも、来るのか?この旅は、精霊の森の“神域”へ向かう。途中で何が起こるか、誰にもわからない。」
マルコが拳を握り、笑みを浮かべる。
「ルククだけじゃない。ブランデットも、メデルも、フーマも……みんな、俺たちの“群れ”だ。行くぞ、父さん。」
デジルは静かに頷いた。
「当然だ。剣だけじゃ通れぬ場所もある。だが、剣がなければ通れぬ場所もある。俺たちが行く意味は、そこにある。」
フーマはしばらく黙っていたが、やがて口元に笑みを浮かべた。
「……なら、頼りにする。精霊の森は遠い。だが、“群れ”なら、きっと辿り着ける。」
泉の水面が再びきらめき、精霊たちの囁きが風に乗って響いた。空気が柔らかくなり、心がほどけていくような感覚が広がっていった。




