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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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㉚旅―冒険者 10

決意

マテルが元気を取り戻し、宿には再び笑顔が戻った。

お婆ちゃんが接客をするようになり、温かな声が食堂に響く。

「いらっしゃいませ、今日は薬草茶がおすすめですよ。」

その姿を見て、ルククは胸の奥で小さな安堵を感じていた。

――けれど、同時に暇になった。

「……僕、何してるんだろう。」

窓の外で風が揺れるのを見つめながら、ルククはぽつりと呟いた。

その答えは、すぐに心に浮かんだ。

「冒険者見習いに戻ろう。」

Eランク――決して高くはないけれど、それなりに動ける。

薬草採取、小さな討伐…町のお手伝いはディルとビビ達がしているからなぁ。

宿を守るために覚えた剣と…最近覚えた魔法を、自分の未来のために使うんだ。

腰に剣を下げ、魔力紋章が刻まれた黒い冒険者カードを握りしめる。

「よし……やってみる。」

その瞳には、昨日までの不安ではなく、確かな決意が宿っていた。

ギルドで定期依頼がある薬草を採りに森の奥へ足を踏み入れた。

薬草の匂いが漂う森の奥、木漏れ日が揺れる中でルククは剣を握りしめていた。

「……ここだな。」

ポポの実を探す視線の先で、ふわりと光が舞う。

その光の中に――人影。

「えっ……人?」

木漏れ日の下、メデルが笑っていた。

その隣でブランデットが静かに立ち、淡い青白い魔力を纏って精霊たちと語り合っている。

さらに奥、銀狼が鋭い視線で二人を守っていた。

フーマが先に気付き、メデルを捕まえて地面に下ろす。

「こら、浮いてんじゃねぇ。」

メデルはくすっと笑い、ルククにぱっと笑顔を向けた。

「こんにちは!」

その声は森に響き、ルククの胸をざわつかせる。――浮いていた? 精霊と話していた?

剣を握る手に力がこもる。

メデルはそんな警戒など気にせず、ぱたぱたと駆け寄ってくる。

「ねえ、ルクク君も薬草採り? 僕も!」

「……あ、ああ。ギルドの定期依頼でポポの実を。」

声がぎこちない。

ブランデットが歩み寄り、柔らかな笑みを浮かべる。

「驚かせてしまってごめん。僕たちも薬草を探しているんだ。」

その青い瞳に、ルククは一瞬言葉を失った。――ただ者じゃない。

メデルは腰の剣を見て目を輝かせる。

「わあ、剣だ! かっこいいね! 戦えるの?」

「え、いや……まあ、それなりに。」

ルククは戸惑いながらも、胸の奥に小さな温かさを感じていた。――久しぶりに、誰かと笑って話している。

森の風が、三人の間をやさしく撫でていく。

メデルは両手を広げ、森に呼びかけた。

「ねえ、ポポの実ってどこにある?」

その瞬間、木々の間に淡い光が揺れた。小さな精霊たちが、ひらひらと舞い降りる。

ルククは目を見開いた。――精霊…本当にいるのか?

光の粒が集まり、一本の古木の根元を指し示す。そこには、赤く熟したポポの実がたわわに実っていた。

「すごい……」思わず声が漏れる。

メデルは得意げに笑った。

「ね、すごいでしょ! 精霊さん!」

その時、メデルの耳にふわりと声が届いた。

“あたたかい……もっと光を……ともに…”

メデルは小さく頷き、そっと呟く。

「うん、あとでね。今はポポの実を採るんだ。」

ブランデットが静かに言葉を添える。

「精霊たちは、僕たちを助けてくれるんだ。」

ルククはその様子を見て、胸の奥で何かがほどけていくのを感じた。――この子たち、ただ者じゃない。


だが、その安堵は長く続かなかった。

森の奥から、低いうなり声が響いた。

「……魔獣?」

フーマの銀の耳がぴくりと動き、鋭い視線が闇を射抜く。

次の瞬間、茂みを突き破って現れたのは、黒い毛並みの小型魔獣――牙を剥き、こちらに飛びかかってくる。

「下がれ!」

フーマの声が鋭く響く。

ルククは反射的に剣を抜いた。

メデルはブランデットの後ろに下がりながら、小さな魔法陣を描く。

「僕もやる!」

その瞳がきらりと光る。

ブランデットは冷静に詠唱を始めた。

「風よ、刃となりて敵を縛れ――《ウィンドバインド》!」

青白い風の刃が魔獣の足元で舞い、鋭い音を立てて絡みついた。

フーマが一気に距離を詰め、銀の爪で魔獣を押さえ込む。

「今だ、ルクク!」

ルククは全身の力を込めて剣を振り下ろした――鋼の刃が魔獣の牙を弾き、地面に火花が散る。

メデルの魔力が黒い光となり、影を包み込むように封じる。

「闇よ、静寂を――《シャドウシール》!」

魔獣の動きが止まり、森に静寂が戻った。

ルククは荒い息を吐きながら、2人とフーマを見つめていた。

「……すげぇな、お前達。」

メデルはにっこり笑った。

「ルクク君も、強かったよ!」

その横で、フーマが肩をすくめ、低くぼやく。

「……隠す気ねぇなぁ、お前ら。」

ブランデットが苦笑しながら視線を逸らす。

「……まあ、今さら隠しても無理だろうね。」

ルククは眉をひそめる。

「隠すって…何を?」

メデルは首をかしげて、無邪気に答える。

「え? 僕たち、ちょっと…変なんだよ(笑)。」

フーマはため息をつき、鋭い銀の瞳でルククを値踏みするように見た。

「坊主、森は危険だ。ここで会ったのも縁だし、しばらく一緒に動け。……テティソとマルデージに言っとく。だが――巻き込まれる覚悟はしとけよ。」

ルククは剣を握り直しながら、胸の奥でざわめきを感じていた。

――この出会い、ただの偶然じゃない。

帝国外れの森。

朝靄に包まれ湿った草の匂い、遠くで響く鳥の声。木々の間から差し込む光が霧を金色に染め、葉の雫がきらりと輝く。

だが、この静けさの奥には牙を潜める影がある――角兎、ボア、ビッグボア、ボブリン、そしてオーク。

銀狼フーマが鋭い視線で三人を見渡した。

「いいか、今日の目標は“死なない”ことだ。剣も魔法も、遊びじゃねぇ。」

その声は低く、森の空気を震わせる。

メデルは小さな拳を握り、きらきらした瞳で頷いた。

「うん!僕、頑張る!」

ブランデットは冷静に剣を構え、弟を守る位置に立つ。

「了解。フーマ、今日はどこまでやる?」

「角兎から始めて、最後はオークだ。連携を叩き込む。」

ルククは剣を腰に下げ、深呼吸をした。胸の奥で熱いものが燃える。

――守るんだ、みんなを。

「準備できてます。」

その声に、メデルがぱっと笑顔を向ける。

「ルクク君、頼りにしてるよ!」

ブランデットも静かに頷いた。

「一緒に生き残ろう。」

草むらが揺れ、白い影が飛び出した。角兎――小さいが突進力は侮れない。

「来るぞ!」フーマの声が鋭く響く。

「ブランデット、前衛。メデル、後衛で支援。ルクク、俺の声を聞け!」

ブランデットが剣を構え、青白い魔力を纏わせる。

「風よ、刃となりて――《ウィンドエッジ》!」

鋭い風の刃が角兎の足を切り裂き、草が舞う。切り裂かれた空気が耳に痛いほどの音を立てた。

メデルは小さな魔法陣を描き、黒い光を放つ。

「闇よ、縛って――《シャドウバインド》!」

影が角兎の足元に絡みつき、動きを鈍らせる。黒い紋様が地面に広がり、冷たい気配が漂った。

「今だ、ルクク!」

フーマの声に、ルククは全身の力を込めて剣を振り下ろした。

鋼の刃が角兎の肩を裂き、血が草に散る。鉄の匂いが鼻を刺す。

「……やった……!」

だが、角兎はまだ動いていた。牙がルククに迫る――

「危ない!」

ブランデットが瞬時に盾を展開し、風の壁で牙を弾いた。

「ルクク、焦るな!次は俺と合わせろ!」

地面が震え、二体のボアが突進してきた。牙が陽光を反射し、唸り声が森を震わせる。

フーマが低く笑う。

「悪くねぇ。だが、まだ甘いな。次は二体だ。」

メデルが深呼吸し、精霊に呼びかける。

「お願い、力を貸して!」

淡い光が舞い、翠鳥の羽根が一瞬だけきらめいた。

“ともに…”という声が、メデルの心に響く。

黒い魔力が柔らかく広がり、影がボアの足を絡め取る。

ブランデットは剣を振り、青白い風を纏わせる。

「《ウィンドスラッシュ》!」

鋭い刃がボアの胴を切り裂き、血煙が舞う。

ルククは歯を食いしばり、剣を構え直す。

「僕も……守るんだ!」

彼の剣がビッグボアの首筋を捉え、火花が散った。

その瞬間、フーマが銀の爪で最後の一撃を加え、魔獣が崩れ落ちる。

最後に現れたのは、ボブリンの群れと一体のオーク。

フーマの声が鋭く響く。

「ここからが本番だ。全力で行け!」

ブランデットが詠唱を重ね、風の刃と盾を同時展開。

メデルは黒い魔力を広げ、影でボブリンを封じる。

「闇よ、静寂を――《シャドウシール》!」

ルククは剣を振り、オークの腕を狙う。

「うおおおっ!」

オークの咆哮が森を震わせるが、フーマが銀の爪で首を裂き、巨体が地面に沈んだ。

戦闘後 ― 森が息を吹き返す

静寂が戻った瞬間、森の空気が変わった。血と土の匂いが薄れ、代わりに甘い花の香りが漂う。

淡い光が木々の間から舞い降り、小さな精霊たちが仲間たちを囲むようにひらひらと舞った。

“よくやった…ともに…”

その声が、メデルの心に優しく響く。

メデルがそっと手を伸ばすと、光の粒が指先に触れ、温かな感覚が広がった。

「ありがとう……僕、もっと強くなるから。」

精霊は小さく頷くように光を揺らし、メデルの黒い魔力に淡い銀の輝きを重ねた。

その時、足元の草がふわりと動き、小人たちが現れた。

背丈は膝ほど、葉の帽子をかぶり、木の実の袋を背負っている。

「よくやったな、人の子ら。」

一人の小人が、ルククの剣を指差した。

「剣は悪くないが、力任せじゃ森と喧嘩になる。流れを感じろ。」

そう言って、小人は地面に指を走らせ、草の揺れを示した。

「風と同じ速さで、斬れ。」

ルククは息を呑み、剣を握り直す。

「……森と合わせる……?」

「そうだ。お前の剣が森を裂けば、森は牙を返す。だが、森と調和すれば、精霊が守る。」

その言葉に、ルククの胸が熱くなる。

――守るだけじゃない。共に生きるんだ。

ブランデットにも小人が近づき、青白い魔力を指先で撫でる。

「風は速すぎると刃になる。だが、柔らかく包めば盾になる。お前の魔力は優しい、もっと信じろ。」

ブランデットは静かに頷き、剣を下ろした。

「……ありがとう。僕、もっと自然に。」

メデルは笑顔で小人に手を振る。

「僕も教えて!黒い魔力、怖くない?」

小人はくすりと笑い、メデルの額に触れた。

「怖くないさ。闇は夜を守るもの。お前が優しいなら、闇も優しい。」

その瞬間、メデルの魔力が柔らかく揺れ、精霊の光と溶け合った。

フーマが腕を組み、銀の瞳で三人を見渡す。

「……まあ、死なずに済んだな。これなら旅に出ても即死はしねぇ。」

その声は低いが、どこか誇らしげだった。

メデルが笑顔で叫ぶ。

「やったぁ!僕、もっと強くなる!」

ブランデットは剣を収め、ルククに視線を向ける。

「悪くなかったよ。君の剣、頼りになる。」

ルククは汗を拭いながら、静かに頷いた。

「……僕、絶対に守る。みんなと一緒に。」

その言葉に、フーマの銀の瞳がわずかに柔らかく光った。

「群れってのは、悪くねぇな。」

その時、森の奥で翠鳥の声が響いた。

“時は近い…道は光と影…”

淡い翠の羽根がひらりと舞い、4人の肩に触れる。


戦闘を終えた森は静寂に包まれていた。血の匂いが薄れ、代わりに甘い花の香りが漂う。

その時、夕暮れの森は、金色の光に包まれていた。戦闘の余韻が消え、静けさと甘い花の香りが漂う。

淡い光が木々の間から舞い降り、小さな精霊たちが仲間たちを囲むようにひらひらと舞った。

“よくやった…だが、まだ足りぬ…”

その声が、メデルとブランデットの心に響く。

メデルが首をかしげる。

「足りないって……何が?」

精霊の光が強まり、森の奥へと流れるように揺れた。

“森の中心に…魔力を流せ…命の道を繋げ…”

ブランデットは息を呑み、弟に視線を向ける。

「……魔力の流れを整えるんだ。森が弱ってきている。」

メデルは小さな拳を握り、きらきらした瞳で頷いた。

「僕、やる!森を元気にしたい!」

ブランデットも静かに頷く。

「僕も。精霊と小人が頼んでいるなら、応えたい。」

その時、足元の草がふわりと動き、小人たちが現れた。

葉笛の音がひとつ、森に響く。

「人の子ら、よく戦ったな。」

一人の小人が、葉の帽子を揺らしながら言う。

「森の中心は遠い。だが、そこに命の泉がある。魔力を流せば、森は甦る。」

メデルは目を輝かせる。

「泉……きれいなの?」

小人はくすりと笑い、頷いた。

「きれいだとも。だが、そこは牙を持つ影も潜む。」

フーマの銀の耳がぴくりと動き、鋭い視線が森の奥を射抜いた。

銀狼の本能が告げる――あの奥は牙を潜めている。

「……森の中心部だと? あそこは安全圏じゃねぇ。」

低い唸り声が喉から漏れる。

「坊主どもを連れて行くなんざ、正気じゃねぇな。」

ブランデットが静かに言う。

「でも、森が求めてるんだ。僕たちにできることなら――」

「できることと、死ぬことは別だ!」

フーマの声が鋭く響き、空気が張り詰める。

「護衛を増やす。俺一人じゃ足りねぇ。」

通信石が淡く光り、マルデージの声が低く返る。

『今すぐは無理だ。宿を離れられん。代わりを送る。父デジルとマルコに頼む。』

フーマの耳がぴくりと動き、目が見開かれた。

「……デジルが帰ってきてるのか?」

『ああ。先週戻ってきているぞ!お前に会いたがっていたぞ。』

フーマは低く息を吐き、銀の瞳に複雑な光が宿る。

「……そうか。なら、朝、頼む。」

その時、奥の茂みから銀色の影がひょっこり現れた。

「ブランジェ!」メデルがぱっと顔を上げる。

フェンリルの幼体は、毛並みに淡い水滴をまとい、少し不機嫌そうに尾を振った。

「どこ行ってたの?」ブランデットが眉をひそめると、ブランジェは鼻を鳴らし、低く唸った。

『水の精霊に呼ばれたんだ…奥に行った。でもな…変なものが体にまとわりついて…気持ち悪かった。』

メデルが目を丸くする。

「えっ、変なものって?」

ブランジェは前足で毛並みをかきながら、苦笑するように声を響かせた。

『黒い糸みたいな魔力…冷たくて、ざわざわしてた。一応浄化したけど…幼体だから無理だ、少しだけだ(笑)。』

フーマの銀の耳がぴくりと動き、鋭い視線が森の奥を射抜いた。

「……やっぱりな。森の奥に何か潜んでやがる。」

水の精霊の声が、遠くでかすかに響いた。

“ありがとう…幼き力よ……”

夕暮れ、森の入口に影が現れた。

長身の男――デジル。鋭い眼差しと、深い皺に刻まれた歴戦の気配。だが、その瞳には温かな光が宿っていた。

「フーマ。」

その声は低く、だが懐かしさを含んでいた。

フーマは一瞬言葉を失い、尾がわずかに揺れた。

「……デジル……明日出発だったんだが…来てくれたのか…しかし本当に帰っていたのか。。」

デジルは頷き、銀狼の肩に手を置く。

「お前が守ろうとしているもの、俺も守るぞ。森の中心だろう?何しろ俺の孫もいるしな!」

フーマは低く唸り、視線を逸らした。

「……あそこは危険だ。だが、坊主どもはやる気だ。」

デジルは静かに笑い、剣の柄に手を添えた。

「危険ならなおさら、俺の出番だな。」

その背後で、マルコが軽く手を振り、明るい声を響かせる。

「任せてよ、フーマ! 俺もいるんだし!」

フーマは深く息を吐き、銀の瞳で仲間たちを見渡した。

「……群れってのは、悪くねぇな。」

デジルが森を見渡し、低く言った。

「今から中心部に入るのは無謀だ。夜は魔獣が動く。明朝、日の光と共に進む。」

フーマは頷き、尾を一度振った。

「ああ……そうだな。今夜は準備だ。」

精霊たちが淡い光を放ち、小人たちが囁く。

“夜は休め…命の泉は待つ…”

その声が、森の風に溶けていった。

遠くで鐘が鳴り、旅立ちの時が近づいていた――。

ルククの決意と家族への報告

朝の光が青い小屋亭の窓辺を照らす頃、ルククは制服のように整えた冒険者の装いを身にまとい、深呼吸をした。

その手には、父テティソが磨いてくれた小さな剣。腰には、母マルデージが縫ってくれた丈夫なポーチ。

そして胸には、今日の戦いで感じた仲間との絆が、静かに灯っていた。

食堂では、マルデージが明日の朝食の準備をしていた。豪快な笑い声と、香ばしいパンの匂いが漂う。

テティソは窓辺で帳簿を見ながら、静かに魔力の流れを整えていた。

その隣には、元気になったマテル君が、膝掛けをかけて座っている。

ルククは一歩踏み出し、真っ直ぐに言った。

「僕、旅に出るよ。ブランデット様とメデル様、フーマ様と一緒に。明日の青の泉を越えて、次の地にも。」

マルデージが手を止め、振り返る。

「……本気かい?」

ルククは頷いた。

「うん。僕、守りたい。あの魔獣の中で、怖かったけど……でも、みんなと一緒なら、僕も戦えるって思った。」

テティソは静かに立ち上がり、ルククの肩に手を置いた。

「お前の魔力は優しい。接客で培った“人を感じる力”は、旅でもきっと役に立つ。……だが、無理はするな。」

マルデージは腕を組み、少しだけ目を細めた。

「ルクク。あんたはまだ八歳だ。だけど、あんたの剣、ちゃんと届いいる。……行っておいで。あんたの“旅”は、きっと誰かの力になる。」

マテル君が小さな声で言った。

「ルクク兄ちゃん……僕、元気になったから……大丈夫だよ。行ってきて……。」

ルククは膝をつき、弟の手を握った。

「ありがとう、マテル。僕、帰ってきたら、もっと強くなってるから。」

マルデージが笑いながら、ルククの背に手を添える。

「じゃあ、母ちゃんからの支度を用意しよう保存食だなぁ。あの子らは貴族様だ(笑)。旅の生活は不慣れだルククお前は役に立つぞ~(笑)。あと、精霊に好かれる香草も入れてやるからな。」

テティソは魔力の紋を一つ、ルククの剣に刻んだ。

「これは“帰還の印”。何かあったら、必ず戻ってこい。」

ルククは深く頷き、扉の前に立った。

「うん。ありがとう認めてくれて…僕、みんなを守るよ。」

その背に、家族の声が重なる。

「行っておいで、ルクク。」

「気をつけてね。」

「……絶対、帰ってきて…。」

青い小屋亭の廊下の奥、厨房の裏手にある小さな窓から、二人の男が静かに食堂の様子を覗いていた。

「……言ったな、あいつ。旅に出るって。」

低く、しかしどこか誇らしげな声を漏らしたのは、祖父デジル。

その瞳は鋭く、だが孫を見つめる眼差しは深い慈しみに満ちていた。

隣でマルコが肩をすくめる。

「まさか、ルククが自分から言うとはな。あの子、昔は泣き虫だったのに。」

「泣き虫でも、芯は強かった。……あの剣を磨いた時、わかってたさ。あいつは、もう“守る側”になったんだ。」

マルコが小声で笑う。

「で、どうする?俺たちも行くか?」

デジルは静かに頷いた。

「当然だ。青の泉を越えた先は、未知の地。剣だけじゃ通れんかもしれん。だが、剣がなければ通れぬ場所もある。」

マルコが拳を握る。

「ルククの背中、守るのは俺たちの役目だ。あの子が“仲間”になったなら、俺たちは“群れ”になる。(笑)」

デジルは窓から目を離し、静かに言った。

「明日、フーマに言おう。」

マルコが笑いながら頷く。

「了解、父さん。じゃあ、今夜は準備だな。あいつらに負けないくらい、かっこよく登場してやろうぜ。」

二人は静かにその場を離れ、誰にも気づかれぬように、旅支度を始めた。

その背には、家族を守る者の誇りと、未来を繋ぐ者の覚悟が宿っていた。

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