③神殿の修義――魔力の目覚め
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その日の午後、神殿長からの命令が下った。
「メデル様に、特別修義を施す。年齢に関係なく、魔力の安定と属性の確認を行う必要がある」
兄たちは驚き、マルは手を合わせて祈るように言った。
「坊ちゃま…神殿の修義は厳しいですが、きっと大丈夫です。太陽と土が、坊ちゃまを守ってくださいます」
メデルは少し不安そうに兄たちを見上げた。
「しゅぎ…ってこわいでしゅか?」
ハク兄様が膝をついて、メデルの手を握った。
「怖くないさ。俺たちも一緒にいる。メデルは、もう十分強い。自分の力を信じろ」
「うん!がんばるでしゅ!コロン♪コロン♪して、光ってみせるでしゅ!」
***
修義の場は、神殿の奥にある光の間。
天井は高く、壁には古代の魔法陣が刻まれている。中央には、魔力の流れを視覚化する「魔環」が浮かんでいた。
メデルがその中心に立つと、魔環が淡く輝き始めた。
「白…黒…青…赤…黄…緑…すべての属性が反応している…凄い光だ!」
神殿長が驚きの声を上げる。
「6属性…“調和者”の兆しです。属性の壁を越え、魔力の根源に触れる者だと…」
リュスクマテルテスが静かに言った。
メデルは、魔環の光に包まれながら、ぽかぽかとした感覚に身を委ねていた。
「太陽しゃん…土しゃん…風しゃん…みんな…ありがとでしゅ…」
その瞬間、魔環が強く輝き、光の間全体が温かな光に包まれた。
***
神殿の光の間での特別修義が終わった翌日、神殿の正門に重厚な馬車が到着した。
馬車の扉が開き、王都からの使者が姿を現す。
先頭に立つのは、王都魔術師団副団長カリス・ヴェルドラン。
鋭い目つきと銀の刺繍が施された黒衣が、彼の地位と実力を物語っていた。
その後ろには、記録官のミレイユ、護衛騎士のロシュが控えていた。
神殿長が出迎えると、カリスは一礼し、すぐに本題に入った。
神殿会議室にて
カリス「神殿長殿、我々は王都より急ぎ参りました。
“調和者”の兆しが現れたとの報告を受け、詳細を確認するためです」
神殿長「確かに、特別修義にて、三歳の子供が全属性に反応を示しました。その名はメデル。公爵家の末子です。正式には甥っ子です。」
ミレイユ(記録官)「三歳…?修義前の年齢ではありませんか。魔力の安定も未確認のはず。なぜ修義を?」
リュスクマテルテス「彼は自然との同調によって、魔力の循環と放出を自発的に行っています。
その安定性は、神官の中でも稀有なものです。年齢による制限は意味を持ちません」
カリス「その魔力の性質、王都魔術師団としても見過ごすことはできませんね。もし本当ならその彼の魔力は、国家の魔術体系に影響を与える可能性があります。我々は、彼の保護と育成を王都で行うべきだと考えています」
その言葉に、神殿長とリュスクマテルテスが顔を見合わせた。
神殿長「公爵家の意向も確認せねばなりません。
彼はまだ幼く、家族の庇護のもとにあります」
カリス「公爵家にはすでに連絡済みです。
ただし、我々は“調和者”の力が国家の安定に寄与すると信じています。
そのため、彼の魔力の研究と育成は、王都の施設で行うべきです」
リュスクマテルテス「彼の力は、自然との調和によって育まれています。王都の魔術施設では、その環境は再現できません。彼の魔力は、理論ではなく“感覚”によって育つのです」
カリス「感覚…?それは魔術師団の体系に反する。
我々は秩序と理論によって魔力を制御する。その子が“例外”であるならば、なおさら研究対象とすべきです」
その場に緊張が走る。
沈黙の中、神殿長が静かに言った。
神殿長「まずは、メデル様の意思を尊重しましょう。彼はまだ幼い。だが、彼の心は澄んでいます。
彼が望む場所で、望む人々と共に育つことが、何よりの魔力の安定につながるのです」
セレナが頷いた。
「確かに…彼の魔力は、教義ではなく“感覚”によって育まれている。それは、私たちが忘れていた“魔力の本質”なのかもしれません」
会議後、神殿の中庭にて
メデルは、兄たちと日向ぼっこをしていた。
その様子を遠くから見つめるカリスの目には、複雑な感情が浮かんでいた。
カリス(心の声)「あの子が…国家の鍵を握るかもしれない?しかも、あの笑顔を見ていると…力を奪うことが正しいのか、わからなくなる…」
ミレイユがそっと言った。
ミレイユ「副団長…あの子は、まだ“子供”です。
魔力よりも、守るべきものがあるのでは?」
カリスは黙ってメデルの記録を見つめていたが、やがて静かに言った。
「この子の力は…帝国の王妃が恐れるかもしれない。だが、私は…この子を守りたいと思うようになった」
リュスクマテルテスは、会議室の扉の外でその言葉を聞き、静かに目を閉じた。
「…あなたは、誰にも隠されるべきではありません。あなたの光は、私たちの過去を超えて、未来を照らす」
***
翌朝、メデルは兄たちと再び畑で日向ぼっこをしていた。
「メデル、昨日はすごかったな。光ってたぞ!」
「うん!でも、コロン♪コロン♪してたら、勝手に光ったでしゅ!」
「それがすごいんだよ(笑)」
「凄い疲れると聞いていたが(苦笑)?」
リュスクマテルテスが、遠くからその様子を見て、静かに微笑んだ。
「…皆が変わってきました…魔力は、心の流れ。優しい心があれば、魔力は自然と整います」
メデルの魔力は神殿に波紋を広げ、兄達の心にも変化をもたらし自然と、心の調和によって生まれる、新しい魔力の時代がはじまる。
***
神殿の光の間での修義を終えた夜。
メデルは、兄達と共に神殿の庭で星を眺めていた。
空には、淡い光の粒が舞い、風が優しく吹いていた。
その時――
メデルの耳に、ふわりとした声が届いた。
《メデル…メデル…聞こえますか…?》
メデルはぱちくりと目を開け、空を見上げた。
「…だれでしゅか…?」
《私は、風の精霊。あなたの魔力に呼ばれて、ここに来ました。》
「ふぇぇ…風しゃん…?」
《あなたの“スー”は、私たち精霊に届いています。あなたの心が澄んでいるから、私たちは安心して近づけるのです。》
ハクリスがメデルの様子に気づき、そっと声をかけた。
「メデル、どうした?空を見て…何か聞こえるのか?」
メデルはにこにこしながら答えた。
「風しゃんが、お話してくれてるでしゅ!」
ミディットレースが驚いて言った。
「精霊との会話…そんなことが…」
《あなたの魔力は、調和の力。私たち精霊は、あなたの“ありがとう”に応えて集まってきます。》
その瞬間、庭の木々がざわめき、葉が光を帯びた。
土の中から、ふわりと小さな光の粒が浮かび上がる。
マルが静かに言った。
「これは…精霊の兆し。坊ちゃまの魔力が、精霊たちを呼び寄せているのです」
リュスクマテルテス様は目を細めて言った。
「精霊との契約は、通常は儀式を通じて行われる。だが…この子は、心で精霊と繋がっているんですね」
《メデル…近いうちに、私たち精霊はあなたに“契約の証”を授けます。それは、あなたが世界と繋がるための鍵です。》
メデルは、そっと手を空に伸ばした。
「風しゃん…土しゃん…光しゃん…みんな…ありがとでしゅ…」
その手のひらに、ふわりと光の羽が舞い降りた。
それは、精霊たちからの“ささやき”――契約の兆しだった。
*** 帝国の動き
その頃、帝国の王城――
重厚な石造りの城の奥、誰も近づけぬ“静寂の間”にて。
王は、鏡の前に立っていた。
その姿は、若々しく、30代にも見える。だが――
「…マルの血結晶が切れかけているな…」
彼は、銀の器に残された赤い粒を見つめ、静かに呟いた。
その粒こそ、マルの魔力を凝縮した“血結晶”。
それを飲むことで、彼は90歳近い年齢にもかかわらず、若さを保っていた。
「城の外に出ると、老化が進む…この体は、もはや秘薬に依存している」
その背後に、王太子妃が静かに現れた。
彼女は美しく、しかしその瞳には冷たい光が宿っていた。
「陛下…今夜も、私に“祝福”をいただけますか?」
王は彼女を見つめ、微笑を浮かべた。
「お前も、老化を恐れているのだな。私と交わることで、魔力の流れを得ている」
王太子妃は、静かに頷いた。
「私は…若さを保たねばなりません。あの子――聖女が現れた今、私の立場は危うい」
現王は、目を細めて言った。
「・・・聖女などマルが居れば殺せたのに・・・マルを死なせたこと…王妃…私は許しはしない。」
・・・
「…マルの魔力は、神の加護だった。奴(王妃)は、それを穢した!」
王太子妃は、わずかに震えながら言った。
「陛下…私は、帝国のためなら…」
「帝国のため?それならば、聖女を迎え入れよ。あの子こそ、真の“加護”だ」
その言葉に、王太子妃は言葉を失った。
*** 帝国王太子と双子の秘密 ***
その頃、帝国の王太子――
テラ・スボルト・フラクシス・ドン・ルト・ルビール・ベルセルは、王城の書庫で静かに本を閉じた。
彼は陽気な馬鹿を装っているが、実際には頭脳明晰。政略結婚によって王太子妃を迎えているが、閨はなく、双子の子は自分の子ではないことを知っていた。
「ルクセル、リクセル…お前たちは、俺の子じゃない。だが、俺の大切な家族だ」
彼は、密かに想いを寄せる人物――スワロ・ベネフィット・ルゥ・ベル・セーリンタスク・コルベックを思い浮かべる。
幼馴染である公爵家当主で黄魔法士。知的で穏やかな彼の存在は、ベルセルにとって唯一の安らぎだった。
「コル…あなたと過ごした時間だけが、俺の本当の癒しだ」
*** 双子の決意 ***
王太子の双子――
**ルクセル(男)とリクセル(女)**は、13歳。
ヴェルメールと同級だ、魔力は母によって封じられている。
「兄さま、神殿に入りたいの?」
リクセルが静かに問う。
「うん。もし僕が神殿に入れたら、体調が安定するかもしれない。でも…僕が神殿に入ったら、リクセルが王になる事に…」
「それなら、私は王になる。兄さまが自由になれるなら、私が帝国を守る」
二人は、母と祖父――現王の関係に疑問を抱いていた。
「母は…祖父と… …。おかしいよね、兄さま」
「うん。僕たちは…帝国の秘密を知りすぎてる。だからこそ、変えなきゃいけない・・・殺される前に」
*** 帝国王妃の秘密と体調不良の・・・
帝国王城の奥、誰も足を踏み入れぬ“月影の間”。
そこに、帝国の現王妃は幽閉されていた。
かつては「帝国の薔薇」と称された美貌と気品を持つ女性。
だが今・・・
王妃は、マルを“死に至らしめた”張本人とされていた。現王の怒りを買い、王城の奥深くに閉じ込められたのだ。
だが――
その真相は、誰も知らない。
王妃は、マルの魔力を恐れていた。
ハイエルフの血を持つマルは、王家にとって“神の加護”そのもの。
王妃は、自らの地位を守るため、前王の命を受けてマルに“祝福の薬”を与えた。
それは、魔力を歪め、容姿を崩す呪薬だった。
しかし、王妃は知らなかった。
その薬は、マルの魔力を“封じる”のではなく、“分離”させるものだった。
マルの魔力は、血結晶に吸収され、王妃自身の魔力もまた、徐々に蝕まれていった。
王妃の体調不良は、魔力の逆流によるものだった。
マルの魔力が、王妃の体内で拒絶反応を起こし、肉体を蝕んでいたのだ。
彼女は今、月影の間で、日々衰弱している。
声も出せず、姿も見せず、ただ静かに、過去の罪と向き合っていた。
***
ある夜、王妃の部屋に、王が訪れた。
その姿は、若々しく、冷たい光を宿していた。
「お前は、マルを殺した。だが、マルの魔力は死ななかった。
それは、血結晶にある。そして、あの子――聖女にも宿っている」
王妃は、震える手で王を見つめた。
「陛下…私は…帝国のために…」
「帝国のため?お前は、自分のためにマルを消した。
だが、マルは消えていない。聖女の魔力は、世界を照らしている・・・何処にいるかは解ってないがな・・・」
王妃は、涙を流しながら呟いた。
「私は…間違っていた…」
王は、静かに背を向けた。
「お前の罪は、帝国が背負う。だが、聖女の光は、帝国を(我を)救うはずだ」
その言葉を残し、王は月影の間を去った。
王妃は、闇の中で一人、マルの名を呼び続けた。
「マル…ごめんなさい…あなたの光が、私を焼いている…」




