㉘旅―冒険者 8
ネズミ大量討伐依頼。
朝日が差し込む頃、ギルドの掲示板に貼られた一枚の紙に、子供たちの視線が集まった。
《依頼:畑のネズミ大量発生、討伐求む》
報酬は銀貨一枚。だが、誰もとらない。
フーマに聞くと鼻を鳴らして言った。
「ちょこまかと動くし数が多く、面倒くさい。誰もやりたがらないぞ。」
ディルが顔をしかめる。
「うわ……これ、絶対くせぇやつだろ。」
ビビも肩をすくめる。
「剣で斬るとか無理だし……」
ブランデットは紙をじっと見つめ、静かに言った。
「畑だから臭くはないだろう……やろう。」……しかし報酬は一匹単位じゃ無いなぁ…… ……安い。。
メデルが目を輝かせる。
「僕達、いい方法知ってるよ!」
昨日、庭を整えてくれた土の小人さんと一緒にいた木の小人が教えてくれた方法を、メデルは思い出していた。
「餌が動かないようにするんだって!」
ブランデットが頷き、準備を始める。
大きな樽を用意し、底に位置石を置く。・・・(石に魔磁が多く含まれており位置石どうしを引き寄せる傾向がありる)
樽に水を張り、表面に籾殻や細かく切った枯藁を浮かべる。(昨日の刈った庭の草…。)
軽木の皮で小さなお椀を作り、中央に位置石を置き、大麦と麦芽糖を練った団子餌を乗せる。
「こうすると、ネズミが乗っても揺れない。……落ちたら、もう出られない。」
ブランデットの説明に、ディルとビビが顔をしかめる。
「……溺死かよ。ちょっと怖ぇな。」
メデルは真剣な顔で言った。
「でも、毒じゃないから……あとで食べられるんだよ。」
「食べるの!?」ディルとビビが同時に叫んだ。
畑の四方と中央に仕掛けを置き、しばらく待つと……
「……すごい、もう十匹!」
メデルが声を上げる。
「まだまだ来る。」
ブランデットが冷静に数を数える。
昼までに、樽の中はネズミでいっぱいになった。
ギルドに討伐依頼品の尻尾を持ち込むと、受付嬢は少し顔を引きつらせながら言った。
「……確かに討伐は確認しました。……評価は普通です。」
「えぇ!?こんなに頑張ったのに!普通!」ディルが叫ぶ。
「毒を使っていないので、危険度は低いと判断されます。」
ブランデットは肩をすくめた。
「まあ、仕方ないな。」…… ……やはり報酬が安い。
メデルは袋の中の小さなネズミを見て、にっこり笑った。
「でも、これ……毛皮にできるよね?」
ブランデットが頷く。
「小さいけど、繋げれば毛布袋になる。冬に役立つ。」…… 。
ディルとビビの顔がぱっと明るくなる。
「やった!あったかい布団だ!」
フーマは腕を組み、ぼそりと呟いた。
「……評価なんてどうでもいい。生きるためにやるんだ。それで十分だ。」
閉門4時間前、孤児の家の家事場に大きな桶と湯気が立ち上る鍋が並び火が灯る。
「今日は毛皮を洗うぞ!」タルカの声に、子供たちが一斉に集まる。
ディルとビビがネズミの毛皮を抱えてきて、メデルが目を輝かせた。
「これで毛布ができるんだよね!」
「そうだ。冬に備えるんだよ・・・だ。」ブランデットが頷く。
桶に湯を張り、毛皮を石鹸草でごしごし洗う。
「うわ、まだちょっと臭うな……」ディルが鼻をつまむと、ビビが笑った。
「お前の服よりマシだろ!」
笑い声が響く中、毛皮は次々と干され、乾いたものから縫い合わせる。
「これで寝るとあったかいよ!」ファイナとエリが針を動かしながら誇らしげに言った。
……風の精霊がクスクス笑いながら毛皮を乾かしているのは内緒だよ!(笑)
その横で、肉の解体も同時進行で行われている。
ギルドに討伐依頼の報酬を貰いに行った時、受付嬢が首をかしげて
「ところで……お肉は?」
ディルとビビが顔を見合わせる。
「……メデルが言っていた様に本当に食えるのか?」
横で聞いていた冒険者が笑った。
「焼けば旨いぞ!串焼きにして塩振るだけでいける!」
ビビがぱっと顔を輝かせる。
「やってみたい!」
ブランデットは苦笑しながらも頷いた。
「……じゃあ、挑戦しよう。」って事になった。
タルカが枝に刺したネズミ肉を並べ、フーマが火加減を見守る。
「焦がすなよ。」
「わかってる!」ディルとビビが必死に枝を回す。
香ばしい匂いが漂い、子供たちの目が輝いた。
「うまそう……!」
一口かじったメデルが笑顔で叫ぶ。
「おいしい!」
その声に、みんなが笑った。
タルカがぽつりと呟く。
「これ、屋台で売れたら……孤児の家の資金になるかもな。」
フーマが焚き火を見つめながら、低く笑った。
「……悪くないアイデアだ。畑ネズミは年中居るからな。」フーマは鼻を鳴らし尾を揺らし呟いた。
ギルドの掲示板に新しい紙が貼られた。
《依頼:角兎大量発生、畑を荒らすため討伐求む》
報酬は1匹銀貨2枚。だが、誰も手を伸ばさない。
フーマが鼻を鳴らす。
「角兎は素早いし、角で突いてくる。面倒だ。誰もやりたがらん。」
ディルが顔をしかめる。
「うわ……突き刺されたら痛そうだな。」
ビビも肩をすくめる。
「剣で斬るとか無理だし……」
ブランデットは紙をじっと見つめ、静かに言った。
「……やろう。畑を守らないと。」……報酬が一匹単位だ…… ……。
メデルが目を瞬かせ。
「ねぇ!僕達魔獣は討伐できないよ?ねぇ?」メデルは首をかしげてブランデットとフーマに聞く。
フーマは鼻を鳴らし尾を振り苦笑いしながら言った。
「坊主が正解だ(笑)」クククって笑ってる
その時、タルカが腰に短剣を下げ掲示板に来た。
「おう!おはよう!!」
皆一斉にタルカの名前を呼んだ。
「タルカ!!」
タルカは驚き固まった。(笑)
タルカに依頼を受けて貰い僕達はネズミを捕ったところとは違う草原側の畑に来た。
畑の端で風がざわめく中、タルカは腰に短剣を下げ、仲間たちを見回した。
「よし、今日は角兎を一気に片付けるぞ。」
メデルが小さな拳を握り、目を輝かせる。
「小人さんの作戦だね!」
苔むした岩のそばで、土の小人が枝で地面に図を描く。
「角兎の巣穴は五つじゃぁ。巣は対角線上にあるはずじゃぁから、巣に入る角兎を見つけるねじゃぁ。巣は三つを石でふさげるのじゃぁ。残り一つに煙を入れて最後の穴で待ち伏せするのじゃぁ!。」
「煙で追い出す……なるほど。」ブランデットが頷く。
「火は強すぎるとだめなのじゃぁ。煙だけでいいのじゃぁ。焦げたら肉がまずくなるのじゃぁ。」と小人は鼻を鳴らした。
タルカは遠い目をして呟く。
「おいおい誰と話してんだ…」
ディルとビビはタルカの方を叩き
「(笑)見なかった事で…(笑)」
ディルとビビが顔を見合わせて笑った。
「またお前たちはどこ視て言ってんだよ~(笑)隠す気ないだろ~(笑)…」
フーマは深く溜息を吐き、ぼそりと呟き頭を抱える。
「今回も見なかった事で…頼む…」
……位置につき煙が巣穴に流れ込むと、穴からキュキュと鳴く声が聞こえはじめた。
「来るぞ!」タルカが短剣を構える。
穴から白い影が飛び出し、鋭い角が光を反射する。
「今だ!」
ディルとビビが棒で頭を叩き気絶させ、ブランデットが素早く顔を布で覆い。
「暴れるな……よし、縛れ!」
蔓で足を固定された角兎は、目隠しをされた途端におとなしくなった。
フーマは驚いて言った。
「本当に蔓で縛ると大人しい…縄縛ると凄く暴れるんだぞ!!」
昼までに、住処の5穴を探し40匹を捕獲。
「すげぇ……本当に1巣に八匹だ!」
ディルが歓声を上げる。
「ギルドで丸ごと売れば、銀貨が増えるな!」
ビビがにやりと笑った。
ギルドに戻ると、受付嬢が驚きの声を上げた。
「こんなにたくさん……しかも生け捕り!?すごいです!」
周囲の冒険者たちがざわつく。
「どうやって捕まえたんだ?」「煙?網?……子供の知恵か?」
フーマは肩をすくめ、ぼそりと呟いた。
「……秘密だ。」
報酬は生け捕りの為、1匹銀貨三枚に増額。
受付嬢が笑顔で頷きながら、銀貨を数え始めた。
「40匹で……銀貨120枚になります。…お肉や毛皮も買い取り可能ですよ?」
メデルは袋を抱えてにっこり笑う。
「今回は毛皮とお肉はこのまま持ち帰ります!これで毛皮も肉も使えるね!毛皮は鞣して(小さい声でばばの葉で保管したら劣化しないよ)必要な時に売れば良いね。」
ブランデットが頷く。
「毛皮は防寒具に、肉は……保存料理だな。」
ディルとビビが同時に叫ぶ。
「保存!!マジか!?」
タルカは汗をぬぐいながら、仲間たちを見回した。
「銀貨120枚凄いな。……1日で一人銀貨24枚の稼ぎ…俺、始まって以来の稼ぎだ…」
受付嬢が報酬を数え終えた後、ブランデットがふと思い出したように言った。
「そうだ、タルカ。ギルドの預金システム、使ってるか?」
タルカは首をかしげる。
「預金?……いや、そんなのあるのか?」
ディルとビビが笑いながら口を挟む。
「あるんだよ!カード一枚でお金を預けられるんだ!」
「俺たちも作ったんだぜ!」
奥からギルドマスターのガルドンが豪快に笑いながら現れる。
「そうだ!カード一枚で預け入れも引き出しもできる。坊主でも安心だ。ただし管理費が年間銀貨一枚!」
タルカは目を丸くする。
「銀貨一枚……でも、持ち歩くより安全か。」
その瞬間、彼の脳裏に孤児院の子供たちの笑顔が浮かんだ。
――あいつらのために稼いだ金だ。絶対に失くせない。
ガルドンはさらに笑って続ける。
「パーティ登録すれば、管理費は一枚で済むぞ!ただし、引き出す時は3人でだ!」
「喧嘩したらどうすんだよ!」ディルが笑うと、ガルドンは腹を抱えて笑った。
「それがパーティの絆ってやつだ!」
タルカは少し考え、頷いた。
「……よし、俺も作る。俺もお前たちのパーティに入れてくれ…こんな大金、持ち歩けねぇしな。それに使うことは孤児の家ぐらいだ」
受付嬢がにっこり笑って、魔力紋章が刻まれた黒いカードを差し出す。
「では、登録しますね。魔力認証式なので、本人以外は使えません。…ちなみにパーティ名は“ボブの家の子”です(笑)私が勝手に付けました(笑)」
「ボブって誰だよ!」ディルとビビが同時にツッコミを入れる。
タルカは肩をすくめて笑った。
「会ったことはねぇけど、俺たちが住んでる家の、もう亡くなった持ち主の名だよ(笑) 感謝だなぁ」
笑いが広がり、ギルドの空気が一層温かくなった。
…… ある日、
メデルが探検♪探検♪って言ってボブの家を探検して見つけた。十人は入れる大きなお風呂と、子供用の丸い小さなお風呂があった。
ブランデットとメデルは目を張り、声をそろえる。
「え!なんで使ってないの!!魔石も入ってるから、魔力を流せば湯が沸くよ!」
ディルとビビが肩をすくめて笑った。
「いやいや!俺たち魔力ないから!!」
「えええ!」ブランデットが叫び、メデルは「なんでぇぇぇ!」と両手を広げる。
フーマは耳をピクッと動かし、低く唸った。
「俺でもわかるぐらい、こいつら魔力すげぇぞ!しかもギギとフォル以外は皆あるじゃねぇか!」
一斉に視線がトトとメメに集まる。
朗らかに笑うトト、無表情なメメ――だが、メメの体からは空気が震えるほどの魔力が滲み出ていた。
フーマが鼻で笑う。
「メメなんて、風呂に湯を満たすほど魔力あるぞ。トトもそこそこだな」
「ええええ!」ディルとビビが同時に叫び、ギギとフォルは肩を落とす。(俺たちだけゼロかよ……って顔した(笑))
笑いが広がり、家の中に温かい空気が満ちていった。
ボブの家の地下 ―
ブランデットが家事場の横に引き戸があるのを気づいた。メデルも皆んなもドキドキわくわく(笑)タルカは押されながら引き戸を開けた!が、何も無い!
「何も無いじゃん!」とディルとビビ
ブランデットは目を細め壁に手をあてた…… ……。
「メデル少し魔力流して私では足りないみたいだ……。」
メデルはキラキラ目を輝かせて
「わかった(笑)わくわくだね!凄くキラキラかがやいてるね!お兄様!(笑)」
ブランデットは苦笑いしながら説明した。
「この壁に魔法陣が書かれていて開けるには魔力を流せって書いてある。」
ボブの家の子は皆は一斉にフーマを見た。
…… ……フーマは溜息を吐く。
「坊主達は勝手になにやってるんだ!お前ら!ほんと隠す気ないだろー!!」
ブランデットとメデルはえーって顔して
「……扉が現れました。。。」
「ごめんなさい。」…… ……。
現れた扉を皆んなが開ける様に促す。
メデルが
「悪い気も変な空気もないから大丈夫だよー。」ってさっきの(ごめんなさい)はどっかに行ってしまた様に元気に言った。
フーマの許可を得てブランデットが扉を押すと、ギギギ……と古びた蝶番が軋み、冷たい空気が頬を撫でた。
階段の先は暗く、石壁に刻まれた魔力紋が淡い青緑の光を脈打つように放っている。
足音が反響し、埃の匂いが鼻をつく。メデルは目を輝かせ、声を弾ませた。
「探検だ!行こう!」
フーマは腕を組み、耳をピクリと動かしながら低く唸る。
「待て……魔力の残滓が濃い。ただの倉庫じゃねぇな」
階段を降りると、そこには古い木箱と埃をかぶった家具が並び、空気は重く沈んでいた。
壁には一枚の肖像画――若い男女が笑っている。
その下に置かれた古びた手紙。震える筆跡でこう記されていた。
『我が子を守ってください。老いぬその命を、どうか未来へ繋げて――ボブとマリ』
紙には涙の跡が残り、乾いたインクがかすれている。
メデルが小さな声で読み上げた瞬間、フーマの耳がピクリと動いた。
「老いぬ命……先祖返りか」
さらに奥には、魔力紋の刻まれた扉がもう一つ。
その前に、古い執事服が丁寧に畳まれ、横には肖像画で笑っていた若い男の名を示す札があった。
ブランデットは息を呑み、低く呟く。
「ボブズ…… ……。マーズ……」
メデルが首をかしげる。
「ボブズマーズ?なんか強そう!」
ブランデットは苦笑しながら言った。
「ボブズは……スワロ公爵家の執事の血筋だ。ここは、その始まりの場所だ。多分だけど、スワロ公爵家には先祖返りがある……だから預けたんだ」
(メデルに言わないように視線を逸らす)
メデルは無邪気に続ける。
「リムリムマーズのこと?リバルセルマーズのこと?」
ブランデットは静かに首を振った。
「いいや。ボブズは……今はリバルセルマーズの弟としてスワロ公爵家領地にいる……ボブズマーズだと思う」
――ボブの家の地下に眠る秘密。それは、裕福でも平民だった夫婦と、老いぬ命を持つ子供の物語だった。
その時、ブランデットが背負っている聖獣の卵が、突然ぬくもりを帯びた。
冷たい地下の空気の中で、その卵だけが柔らかな光を放ち、脈打つように暖かさを広げていく。
メデルが驚いて声を上げる。
「たまご……光ってる!」
卵の光は、まるで呼応するかのように、奥の扉から漏れる淡い光と重なり合った。
その光は最初、かすかな揺らめきだったが、次第に強く、心臓の鼓動のようにトン……トン……と脈打ち始める。
石壁に刻まれた魔力紋が黄金色に変わり、空気が震えた。
フーマが低く唸る。
「……扉の向こうにあるものが、卵を呼んでる」
ブランデットの背中に伝わる熱は、まるで命の鼓動。
彼は息を呑み、視線を奥へ向ける。
メデルは目を輝かせ、両手を広げて叫んだ。
「行こう!絶対、すごいものがあるよ!」
その瞬間、手紙の最後の一文が淡く光り、浮かび上がった。
『この扉を開ける者へ――その命を託します』
扉の魔力紋が、卵の光に呼応してカチリ……と音を立て、封印が一つ外れた。
冷気と共に、奥から溢れる光がさらに強まり、地下全体が淡い金色に染まっていく――。
封印が外れると、重厚な扉が低い音を響かせながら開いていく。
冷気が一気に流れ込み、地下の空気が震えた。
その奥に広がるのは、円形の広間。
天井は高く、黒曜石のような石で覆われ、壁一面に古代の魔力紋が刻まれている。
紋様は淡い金色に脈打ち、まるで生きているかのように光を巡らせていた。
中央には、透明な魔力膜に包まれた台座があり、その上で眠っているものがあった。
――それは、小さな銀灰色の獣。
柔らかな毛並みが光を受けて輝き、閉じた瞳の奥から微かな魔力が漏れている。
その姿は、伝承でしか語られない幻獣――フェンリルの幼体だった。
体長は人間の赤子ほどだが、四肢はしなやかで、尾は長く、毛先が淡い蒼光を帯びている。
呼吸に合わせて、膜の内側で光が脈打ち、トン……トン……心臓の鼓動のような音が広間に響いた。
ブランデットの背中で、聖獣の卵がさらに強く光り、暖かさを放つ。
その光が膜に触れた瞬間、膜が淡く揺らぎ、フェンリルの耳がピクリと動いた。
メデルは息を呑み、声を震わせる。
「……かわいい……でも、すごい魔力……」
フーマは低く唸り、目を細める。
「坊主……これはただの獣じゃねぇ。フェンリルだ。帝国の記録にもねぇ幻獣だぞ」
ディルとビビは言葉を失い、トトとメメは無言で光を見つめていた。
メメの体から滲み出る魔力が、フェンリルの膜に呼応するように震え、広間全体が共鳴する。
その時、壁の魔力紋が一斉に輝き、古代語が浮かび上がった。
『守護の血を継ぐ者よ――この命を未来へ繋げよ』
ブランデットは背中の卵を見つめ、低く呟く。
「……卵とフェンリル……繋がってる……?」
メデルは小さな声で言った。
「この子……僕たちを待ってたんだね」
膜が音もなく消え、銀灰色の毛並みがふわりと広間の光を受けて輝いた。
小さなフェンリルは、まだ眠たげに鼻先をぴくぴく動かし、くしゅんと小さなくしゃみをした。
その仕草に、メデルが思わず声を漏らす。
「……かわいい……!」
フェンリルはゆっくりと体を丸め、しばらく尻尾をぱたぱたと動かしてから、
ぱちりと瞳を開いた。
――黄金の瞳。
けれど、その輝きは鋭さではなく、朝の陽だまりのような柔らかさを帯びていた。
「きゅ……?」
小さな声が広間に響き、フェンリルは首をかしげる。
その瞬間、ブランデットの背中の卵が暖かく光り、メデルの胸元の魔力がふわりと揺れた。
フェンリルはその光に惹かれるように、ちょこちょこと短い足で歩き出す。
毛並みがふわふわ揺れ、尻尾が楽しげに左右に振れる。
ブランデットが息を呑む間もなく、フェンリルは彼の膝にぽすんと飛び乗った。
そして、鼻先を卵にすり寄せ、次にメデルの手のひらにぺたりと顔を押し付ける。
黄金の瞳が二人を見上げ、まるで言葉を持つかのように輝いた。
フェンリルはブランデットの膝にぽすんと乗ったまま、黄金の瞳でじっと二人を見つめていた。
その瞬間、メデルの胸にふわりと柔らかな響きが広がる。
声ではない――けれど、確かに言葉だった。
『……あったかい……ここ、好き……』
メデルが驚いて目を見開く。
「えっ……声? 今、僕に話した?」
ブランデットも息を呑む。
彼の心にも、低く優しい響きが届いていた。
『まもる……きみたち、まもる……』
その言葉は、幼い子供が必死に伝えようとするような、ぎこちないけれど真っ直ぐな想いだった。
フェンリルは鼻先を卵にすり寄せ、次にメデルの胸元にぺたりと顔を押し付ける。
尻尾がぱたぱたと揺れ、心の奥にもう一度声が響く。
『ひとり……さみしかった……でも、もう……だいじょうぶ』
メデルの目に涙がにじむ。
「……かわいい……でも、すごく……優しい」
ブランデットは静かに頷き、背中の卵をそっと撫でる。
その瞬間、卵とフェンリルの魔力が絡み合い、広間の魔力紋が一斉に輝いた。
古代語が低く響く。
『契約を果たせ――命を繋げよ』
フーマが低く唸りながらも、わずかに笑みを浮かべる。
「……坊主ども、こいつ……お前らに心を開いたな。念話で話すなんざ、ただの獣じゃねぇ」
フェンリルは二人の胸に顔を押し付けたまま、黄金の瞳でじっと見上げていた。
その視線には、言葉を持たないはずなのに、確かな意思が宿っている。
メデルの心に、ふわりと響く声が広がった。
『……ともだち……いっしょ……』
メデルは小さく笑って、ブランデットを見上げる。
「名前、つけようよ。僕たちの仲間だもん」
ブランデットは静かに頷き、背中の卵を撫でながら言った。
「そうだな……この毛並み、銀じゃなくて……光に染まった白だ」
メデルは目を輝かせて、両手を胸に当てる。白いパンキラキラ!(笑)!
「じゃあ……ブランジェ! どう?」
フェンリルは尻尾をぱたぱたと振り、こくんと頷いたように見えた。
その瞬間、広間の魔力紋が一斉に輝き、足元に淡い光の円が広がる。
卵の光、メデルの胸元の魔力、ブランデットの腕の紋章――すべてが絡み合い、
三つの命が一つの絆として結ばれていく。
メデルは笑顔でブランジェの頭をそっと撫でる。
「ブランジェ、これからは僕たちと一緒だよ」
ブランデットも微笑み、低く呟く。
「ブランジェ……俺たちの仲間だ」
その言葉に応えるように、ブランジェは二人の胸に顔を押し付け、心に響く声を重ねる。
『……うれしい……ともだち……ずっと……』
広間に満ちる光は、温かく、柔らかく、孤児院の地下を包み込んだ。
それは、未来を繋ぐ命の絆と、仲間の誓いだった。
スワロ公爵家領地。
報告を受けたスワロ公爵家の執事リバルセルマーズは、すぐに領地へ向かった。
古びた扉の先に眠っていた手紙と肖像画――それは、彼の家系に繋がる証だった。
「……ボブズマーズ様」
リバルセルマーズは深く頭を垂れる。
その名を呼ばれ、静かに現れたのは、老いを知らぬ青年の姿。
彼は微笑み答えた。
「兄さんこっちに来ていたんだね。」
リバルセルマーズは苦笑いし語った。
「……ボブズマーズ様……ボブ話があるんだ…。」
長い時を経てもなお、澄んだ瞳を持つ彼は、生家での子供たちの話に耳を傾けていた。
「あの家……両親が孤児を預かっていたのか」
彼の声は震えていた。
「……嬉しい。あの二人らしいな」
ボブズマーズは静かに目を閉じ、遠い記憶を辿った。
――青年になった頃、父と母が笑顔で語りかけてくれた日のこと。
「ボビー、あなたは特別な命を持っている。老いないその力は、決して誇るものじゃない。守るために使うんだよ」
母の声は優しく、父の手は温かかった。
彼が「老いぬ命」を持つ理由は、スワロ公爵家に連なる血の中に眠る先祖返りの力だった。
その力は、精霊との古い契約に由来し、代々ごく稀に生まれる存在に宿る。
ボブはその一人だった。
だが、その力は祝福であると同時に、孤独をもたらした。
友が成長し、老いていく中で、自分だけが変わらない――その現実に、心は何度も傷ついた。
そんな彼を支えたのは、両親の言葉だった。
「ボビー、あなたは特別な命を持っている。老いないその力は、決して誇るものじゃない。守るために使うんだよ」
その言葉が、彼の生きる意味となった。
しかし、両親の寿命が尽きる時。
スワロ公爵家に送り出された。
ボビーは老いない命を持ちながら、愛する者達を見送るしかなかった。
その時、彼は誓った。
(俺はスワロ公爵家で、父さんと母さんの願いを守り続ける。子供達を見守り、未来へ繋げるよ…。)
リバルセルマーズは静かに告げる。
「公爵様のご意向で、この土地は正式に孤児の家として守られます。あなたの名も記録に残しましょう」
ボブズマーズは微笑み、空を仰いだ。
「ありがとう……父さん、母さん。…しかし何でフェンリル何だ(笑)」
リバルセルマーズは優しく言う。
「ボブが帰って来た時…寂しくないようにじゃない?」
「………そっか~(笑)………大丈夫なのにねぇ兄さん!(笑)」
――こうして、孤児の家は公爵家の庇護のもと、未来へと繋がる場所となった。
孤児の家の地下 ― 魔方陣とブランジェ
メデルは石床にしゃがみ込み、指先で魔力を走らせた。
「よし、移転魔方陣だ!これで孤児の家と公爵家を繋げる!」――内緒だよ(笑)。
精霊たちがひらひらと舞い、楽しげに魔力を添える。
『もっと綺麗にしようよ!』
『ここに花の紋も入れちゃえ!』
魔方陣は瞬く間に、花や鳥の模様で飾られた華やかな円となり、淡い光が地下を満たした。
その横で、ブランジェがちょこんと座り、尻尾をぱたぱた。
「きゅ!」と鳴いて、前足で床をちょんちょんと叩くと、魔力の粒がふわりと舞い上がった。
メデルが笑う。
「ブランジェも手伝ってくれるの?ありがとう!」
ホワイトは得意げに尻尾を振り、魔方陣の端に小さな肉球模様をぽんと刻んだ。
精霊たちが歓声を上げる。
『かわいい!これ残そう!』
同じ頃、公爵家領地の執事室の地下――。
魔力の流れを感じ地下に降りて来てリバルセルマーズとボブズマーズは目を見開いた。
「……これは……精霊様が勝手に魔方陣を?」
壁際に描かれた魔方陣は、まるで子供の落書きのようにお茶目な装飾が施されていた。
花、鳥、そして――小さな肉球の紋。
リバルセルマーズは思わず笑みをこぼす。
「公爵様に報告せねば……しかし、なんと愛らしいことか」
やがて、二つの魔方陣が光を放ち、孤児の家と公爵家領地の執事室の地下が繋がった。
そこに現れたのは――メデルとブランジェ。
「メデル様!」
リバルセルマーズは驚き、慌てて言う。
「駄目です、駄目です!ブランデット様の側にお戻りください!」
メデルは首をかしげ、にっこり笑った。
「うん。でも、ボブズも一緒!ブランジェも一緒!」
そう言って、ボブズマーズと小さなフェンリルの手(前足)を取り、もう一度光の中へ消えた。
孤児の家に現れたのは、見知らぬ青年――ボブズマーズと、ふわふわのブランジェ。
孤児たちが一斉に振り向き、目を丸くする。
「だ、誰!?」「イケメンだ!」「わぁ、ブランジェ!」
ブランジェは「きゅ!」と鳴いて、メデルの足にぴたりとくっついた。
尻尾をぱたぱた振りながら、子供たちをじっと見つめる。
ボブズは驚きながら優しく微笑んだ。
「俺はボブズマーズ。この家を守る者だ。……魔力を持つ子は、正しく使う術を学ばなければならない。俺が教えよう」
――こうして、孤児の家は新たな絆を結び、未来への扉を開いた。
ブランデットは孤児の家の地下で輝く魔方陣を見て、顔色を変えた。
「……メデル、これ……お前がやったのか?」
メデルはきょとんとした顔で、指先を見せる。
「うん!だって、繋げたら便利でしょ?精霊さんも手伝ってくれたよ!ブランジェも!」
ブランデットの眉がピクリと動く。
「便利とかそういう問題じゃない!勝手に移転魔方陣なんて危険すぎるんだぞ!」
声が少し震えていた――怒りだけじゃない、心配が滲んでいた。
メデルはしゅんと肩を落とす。
「……ごめん。でも、ボブズが生家に行けたら嬉しいかなって……魔力も沢山必要だから僕達とボブズしか使えないよ。。」
ブランジェが「きゅぅ……」と鳴き、メデルの足にすり寄る。
ブランデットは深く息を吐き、メデルの肩に手を置いた。
「……気持ちはわかる。でも、こういうことは必ず俺に相談しろ。お前はまだ小さいんだ。何かあったらどうするんだよ」
メデルはこくりと頷き、涙をこらえながら笑った。
「うん……次は一緒にやろうね」
ブランデットは苦笑し、頭を軽く撫でた。
「まったく……お前って本当に、精霊より自由だな」
そして、そっとメデルを抱きしめた――その小さな体が、彼にとって何より大切な存在なのだと改めて感じながら。
ブランジェは二人の足元で丸くなり、尻尾をぱたぱたと振っていた。




