㉗旅―冒険者 7
朝のギルド ― 活気と新しい依頼
朝日が差し込むギルドの大広間は、活気に満ちていた。
冒険者たちの笑い声、武器の金属音、紙をめくる音が交錯する中、ブランデットとメデルは並んで掲示板を見上げていた。
「……どれにする?」ブランデットが低く呟く。
メデルは目を輝かせて指を差し小さい声で言った。
「これ!薬草採取!森に行けるし、ついでに食べられるものも探せるよ!」
背後から低い声が響く。
「お前たち、決まったか?」
銀狼フーマが腕を組み、護衛の立場で二人を見下ろしていた。
「決まったよ、フーマさん!」メデルが笑顔で答える。
「薬草採取だなぁ。危険は少ないが、油断するな。」フーマは頷き、視線を鋭く光らせた。
受付で依頼を受け、三人が準備を整えていると、背後から明るい声が飛んできた。
「おーい、ブランデット!メデル!」
振り向けば、ディルとビビが手を振っていた。
「一緒に掃除に行こうぜ!」ディルが笑顔で言う。
メデルはぱっと顔を輝かせる。
「今日は!薬草採取受けちゃった~!!ディルとビビも一緒に行こうよぉ!」
だが、ビビが困ったように頭をかいた。
「でも……薬草って、どれがどれだか全然わかんないんだよな。」
ディルも肩をすくめる。
「俺もだ。葉っぱにしか見えねぇ。」
ブランデットは少し考え、柔らかく笑った。
「じゃあ、僕たちが教えるよ。マル婆様――いや、もう若返ってるからマル様(笑)から教わったこと、ちゃんと覚えてる。」
メデルが胸を張る。
「うん!僕たち、先生になる!」
ディルとビビが顔を見合わせ、笑った。
「頼りにしてるぜ、小さな先生!」
「むき~小さくない…小さいか(笑)」メデルはがっくり_| ̄|○する
ギルドの喧騒の中、小さなチームが結成された瞬間だった。
薬草採取。
森は朝の光に包まれ、鳥の声と柔らかな風が子供たちの頬を撫でていた。
「ここならいっぱいあると思ったのに……ないな。」ブランデットが眉をひそめる。
ディルが葉っぱを握りしめてぼやいた。
「どれも同じに見えるんだが?」
ビビも肩をすくめる。
「俺もだ。葉っぱコレクションかよ。」
メデルが地面を覗き込みながら首をかしげる。
「うーん……精霊の気配がする……。」
その瞬間、土の中から小さな影がぴょこんと飛び出した。
「アナラ草なら門塀の脇だよ!」
小さい声でメデルが答えた。
「わぁ!ありがとう……土の小人さん!」
メデルが目を輝かせ、お兄様を見る。
ブランデットは頷き、説明を始めた。
「アナラ草は太い長い葉で、根元に赤い筋がある。ポーションの素材で貴重だから、みんな探してるんだ。ランクA、B、Cがあって、Aはそっと持ってナイフで切る、十束で銀貨二枚。Bは普通に切って銀貨一枚と銅貨一枚。Cは折るだけ、銀貨一枚。」
メデルが胸を張る。
「ママ草もあるよ!アナラ草が踏まれるとママ草になるんだって!火を入れるとトロトロになるんだ!」
ディルが首をかしげる。
「ママ草?あれってただの雑草じゃねぇの?」
ブランデットは笑って肩をすくめる。
「そう思われてるけど、水に漬けると実は食べられるんだ。知らない人が多いんだよ。」
ディルとビビが顔を見合わせて笑った。
「お前達どこ視てんだよ~(笑)隠す気ないだろ~(笑)大丈夫ですかフーマさん…」
フーマは深く溜息を吐き、ぼそりと呟く。
「見なかった事で…頼む…」
ディルとビビは笑いながら。
「了解。。。頼りにしてるぜ、小さな先生!」
「むき~小さくない!僕、いっぱい採るんだから!」メデルは両手をパタパタ振る。
土の小人は最後に小さな声で言った。
「森の奥には行っちゃダメ……だよ危ないから。」
皆で森から草原をぬけ門塀へ近づくその時、門塀の方からも重い足音が近づいてきた。
「おい、何してるんだ?」
現れたのは門番の男。鋭い視線で子供たちを見下ろす。
フーマが一歩前に出て、低い声で応じた。
「ギルドの依頼だ。薬草採取。」
門番は眉をひそめ、しばらく沈黙した後、視線をブランデットとメデルに移した。
「……門塀を踏み荒らすな。ここで薬草採取は出来ないぞ!雑草だらけだ!!」
メデルが慌てて両手を振る。
「だいじょうぶ!僕、雑草採るから!」ママ草が食べられる事は内緒。
門番は鼻を鳴らし、背を向けて去っていった。
ディルとビビは怯えて言う。
「どうするぅ。。」
「離れたほうが良くないかぁ」
ブランデットとメデルはにこやかに言う。
「大丈夫だよ。彼は職務を纏うしているだけだ」
「確認しているだけだよ?大丈夫。」
ブランデットが続けて言う
「これからディルとビビ達や小さい子も採取するなら門塀の側は安全だ。…よ。」
メデルはうんうんと頷きながら周りの草の中からアナラ草を探しそっと手で持ち…
「アナラ草は太い長い葉で、根元に赤い筋があるのAランクはそっと持ってスパッとナイフで切る。ママ草は同じ様に太い長い葉だけど、根元は緑の筋があるの」
七人は門塀の脇に散らばり、朝露に濡れた草を慎重に探し始めた。
ブランデットは小声で言う
「アナラ草は根元の赤筋を見逃さないで!ナイフを使う時は葉を傷つけないように!」
ディルがしゃがみ込み、目を凝らす。
「……これ、赤い筋か?いや、茶色っぽいな……」
ビビが笑って肩を叩く。
「お前、茶色と赤の区別つかねぇのかよ!」
メデルは小さな手で葉をそっと持ち上げ、真剣な顔で呟いた。
「これ……赤いよ。たぶんアナラ草!」
フーマが後ろから覗き込み、低く頷く。
「正解だ。切れ、メデル。」
メデルはナイフを握り、息を止めてスパッと切った。
「やった……!」
その瞬間、土の小人がひょっこり顔を出し、にっこり笑った。
「いい切り方だね!Aランクだよ(笑)」
束が増えるごとに子供たちの顔が輝き、笑い声が森に広がる。
「あと十束だ!」ブランデットが小さく声をかけると、みんなの目がキラキラした。
「僕、ママ草もいっぱい採るんだから!」メデルが胸を張ると、ディルとビビが笑いながら声を揃える。
「頼りにしてるぜ、小さな先生!」
「むき~小さくない!」メデルは両手をパタパタ振って抗議した。
だが、門塀の奥から再び重い足音が響いた。
「……おい、まだやってるのか?」
門番の声に空気が張り詰める。
フーマが一歩前に出て、冷静に答えた。
「依頼の範囲内だ。問題ない。」
門番はしばらく睨んだ後、鼻を鳴らして去っていった。
ブランデットが小声で言う。
「……あと五束で目標達成だ。急ごう。」
やがて七人の袋は薬草でいっぱいになり、門塀の脇で並んで座り込む。
「五十束達成~!」ビビが両手を広げて叫ぶと、みんなで拍手が起こった。
フーマは深く息を吐き、空を見上げる。
「……まあ、悪くない朝だな…ところで俺の籠に入っている森で採ったばばの葉はどうするんだ?」
ブランデットとメデルは声を揃えて言った。
「保管する時は、一年中採れるばばの葉で包んで保管!!ってマル様が言っていたの。」
「一年中採取出来るばばの葉は半年は持つので半年たつと葉を代えて包むとまた保管出来ます…るんだ。」
その時、ブランデットが門塀の脇を指さした。
「見て、あれ……赤茸だよ。」
ディルが目を丸くする。
「うわ、真っ赤じゃん!毒じゃねぇの?」
フーマが低い声で答えた。
「毒だな。」
メデルが興味津々で近づく。
「お兄様どうやって食べるの?」
ブランデットが説明を始めた。
「毒だけど食べられます。正しく処理すれば美味しいとの事です。まず、水に浸けて汚れを洗う。それから必ず日の光に当て。水滴が乾いたら、笠の下を軽く火で炙る。炙ると赤い笠が茶色になり。冷めてからスライスして、もう一度干すそれは日陰でもいいと聞きました。」
ディルが肩をすくめる。
「手間かかるなぁ……でも美味しいならやってみたい!」
ビビが笑って言う。
「そのまま食ったら死ぬんだろ?絶対やめろよな!」
メデルは真剣な顔で頷いた。
「うん、絶対やめる!」
七人は赤茸をそっと摘み取り、袋に入れた。
土の小人がまた顔を出し、ちょこんと座って言った。
「この門塀の茸は全部食べれるよ。ママ茸は毒あるけど……、触っても大丈夫。ただ、そのまま食べちゃダメ……だよ。」
メデルが目を輝かせる。
「門塀の茸は全部食べれるの?毒があっても同じ処理したら食べられるの?」
「うん……赤茸と同じようにね。」
「凄い!!教えてくれてありがとう。」
小人はそう言って、ひらひらと土に潜っていった。
ディルとビビは目線が合わないメデルを見ながら言った。
「俺達は毒か解らないからココで採れる茸は赤茸と同じ処理をしよう!!」と頷きあった。
フーマが袋を肩に担ぎ、空を見上げる。
「さて、帰るぞ。今日はもう十分だ。」
子供たちは笑顔で頷き、門塀の脇を抜けて草原へ。
風がやさしく吹き抜け、赤茸の赤い笠が朝日にきらめいていた。
ギルドで報酬受け取り。
ギルドの扉を押し開けると、昼の光が差し込み、木のカウンターの奥で受付嬢が笑顔を向けた。
「おかえりなさい。採取はどうでした?」
フーマが無言で袋をカウンターに置くと、受付嬢は中身を確認し、目を丸くした。
「……これはすごい!アナラ草の質がとても良いですね。半分以上がAランクです!」
周囲のギルド員たちがざわめく。
「子供が採ったのか?」「Aランクだらけじゃないか!」
メデルは胸を張って、ちょこんと前に出る。
「僕、いっぱい頑張ったんだ!」
受付嬢が笑顔で頷きながら、銀貨を数え始めた。
「五十束で……銀貨十二枚と銅貨三枚になります。」
カウンターに並べられた銀貨が、陽光を受けてきらりと輝いた。
「わぁ……!」メデルの目がまん丸になる。
ディルとビビも顔を寄せて、声を揃えた。
「銀貨だ!本物だ!」
ブランデットは静かに微笑みながら、弟の肩を軽く叩いた。
「よくやったな、メデル。」
その横で、フーマが深く溜息を吐き、ぼそりと呟く。
「……お前ら、次はもっと静かにやれ。」
ディルが笑いながら肩をすくめる。
「無理だろ、こんな楽しいのに!」
ビビもにやりと笑って、銀貨を指でつついた。
「でも、メデルこれでご飯買えるな!」
メデルは両手をパタパタ振って、むきーっと抗議する。
「僕のご飯じゃないよ!みんなで分けるんだよ!」
受付嬢はくすりと笑いながら、報酬袋を差し出した。
「またのご依頼、お待ちしていますね。」
その時、ブランデットがふと思い出し、ディルとビビに声をかけた。
「二人はギルドの預金システムを利用しているか?」
ディルとビビが顔を見合わせて首をかしげる。
「こ、こうざ?」
奥からギルドマスターのガルドンが豪快な笑い声を響かせながら現れた。
「そうだ!カード一枚で預け入れも引き出しもできる。――坊主達でも安心だ。ただし管理費が年間銀貨一枚いる!」
ディルは心の中で思う。(安全にお金を預けられる……銀貨一枚……高い……けど安全。)
ビビは眉をひそめながら考える。(管理費が年間銅貨一枚……安くないけど高くもない……。)
ガルドンはさらに笑いながら続けた。
「パーティ登録したら銀貨一枚で済むぞ!ただし!お金を引き出す時は二人でだ!喧嘩してもなぁ、がははは!」
ディルとビビは顔を見合わせ、同時に冒険者カードを差し出した。
「冒険者カードに口座を追加してください!」
ガルドンは受付嬢に頷き、登録を指示する。
受付嬢が報酬袋を差し出すと、ブランデットが銀貨を取り出し、テーブルに並べた。
「さて、先に管理費の銀貨一枚を引いて残りは銀貨十一枚と銅貨三枚を……七人で分ける。」
ディルが首をかしげる。
「いいのか?…七人で?どうやって割るんだ?」
メデルが指を折りながら必死に考える。
「えっと……一人銀貨一枚と銅貨六枚!」
ビビが目を丸くする。
「お前、計算早ぇな!」
ブランデットが頷き、説明する。
「銀貨十一枚と銅貨三枚は銅貨換算で百十三枚。七で割ると十六枚ずつ、余り一枚だ。」
ディルが感心して笑った。
「なるほどな!じゃあ一人銀貨一枚と銅貨六枚か!」
受付嬢がにこやかに言う。
「余りの銅貨一枚はどうします?」
メデルがきょとんとする。
「……パンにしよう!」
ビビが吹き出した。
「お前、即決かよ!」
ディルも笑って肩をすくめる。
「まあ、悪くないな。」
ブランデットは銀貨一枚を取り出し、ディルとビビに差し出した。
「日々の費用は銀貨一枚。残りは口座に入れる。」
ディルとビビは冒険者カードを差し出しながら、少し緊張した声で言った。
「……これで俺たちも一人前だな。」
受付嬢が笑顔でカードを受け取り、手際よく登録を進める。
「はい、完了しました。これで安全に管理できますよ。」
ビビが目を輝かせて頷いた。
「すごい!カードでお金が守れるんだ!」
ディルがにやりと笑う。
「でも、喧嘩したら引き出せないってのが笑えるな!」
ガルドンが腹を抱えて笑った。
「それがパーティの絆ってやつだ!がははは!」
フーマは報酬袋を肩に担ぎ、ぼそりと呟く。
「……さあ、帰るぞ。騒ぐなよ。」
子供たちは銀貨の輝きに目を輝かせながら、笑い声とともにギルドを後にした。
孤児の家へ
ギルドを出ると、メデルがフーマの袖をちょんと引いた。
「フーマさん、ディルとビビ達の家に行ってもいい?」
フーマは眉をひそめ、しばらく考えてからぼそりと答える。
「……寄るだけだぞ。長居はするな。」
「やった!」
メデルは両手をパタパタ振って喜んだ。
ディルが笑って言う。
「パン買っていこうぜ!おみやげだ!」
ビビも頷く。
「銅貨一枚で買えるだろ?」
パン屋に立ち寄ると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
メデルは目を輝かせて、棚に並ぶ小さ目の丸パンを指差す。
「これにする!20個下さい」
銅貨一枚と袋を差し出すと、パン屋の女主人がにっこり笑って袋に入れてくれた。
「いい子だね。気をつけて帰るんだよ。」
街道町を歩きながら、メデルがわくわくした声を上げる。
「赤茸、早く炙りたいなぁ!」
ディルが肩をすくめる。
「毒キノコって響きが怖ぇけどな。」
ビビは怯えて言う。
「でも…火使うんだろ…怖くないかぁ。。」
ブランデットが穏やかに説明する。
「水に浸けて、日の光に当てて、炙って……手間はかかるけど安全だ。火の事は考えている…」
メデルは胸を張った。
「僕、ちゃんとやる!」
フーマは後ろでぼそりと釘を刺す。
「……その場で食うなよ。絶対だ。」
ディルとビビが顔を見合わせて笑った。
「了解、ブランデットとメデル!あと少しで家だぜ!!」
家は平民にしては大きめで、上に三部屋、下に三部屋と食堂兼居間がある。
扉を開けると、子供たちの笑顔がぱっと広がった。
「ディル!ビビ!」
「誰だ!」
小さな足音が駆け寄り、笑い声が部屋いっぱいに響く。
ディルが笑いながら紹介する。
「いつも一緒にいるトト4歳、メメ4歳、ファーミ3歳。
今日は解体の手伝いをしていたオルビ8歳、エリ6歳、マルジス6歳、ページ4歳、キース4歳だ。
あと、女の子の獣人ギギ5歳、耳が聞こえない。男の子の獣人フォル3歳、話せない。
女の子の赤ちゃん、もうすぐ1歳!」
赤ちゃんが布団の上で手足をばたばたさせ、ギギは笑顔で手を振り、フォルはトトの袖をそっと掴んだ。
「今日はいる最年長のタルカ14歳。あとの4人は冒険者の荷物持ちに付いて行ってる。モルト10歳、ネクス10歳、ファイナ10歳、ユーテ10歳だな。」
タルカが落ち着いた声で言う。
「よく来たな。どうしたんだ?」
ブランデットが微笑んで答える。
「はじめまして。ブランデットと弟のメデルと言います…だ。様子を見に来まし…たんだ。。」
タルカは苦笑いしながら
「普通に話していいぞ(笑)」
ブランデットはフーマを見る。
フーマは顔をしかめて言った。
「駄目だ、敬語はなしだ!全然冒険者に見えないぞ!!」
ブランデットは落ち込み、
「はい…うん」自分に対して溜息をはいた。
メデルは庭に出て、子供たちと草を刈り始めた。
「ここ、いっぱい伸びてる!」
トトとメメが笑いながら草を束ねる。
草を刈り終えると、隅に小さな畑があるのを見つけた。
「わぁ、じゃがいもだ!」
土の小人がひょっこり顔を出して言う。
「大根もあるよ!」
「甜菜もあるよ!」
メデルの声に歓声が上がり、みんなの顔がぱっと明るくなる。
「これでご飯作れる!」
刈った草を見て、ブランデットがタルカに声をかけた。
「厩で飼葉を入れる麻袋、四枚組が銅貨一枚で売っている。二組買ってきてくれ。」
と銅貨2枚を渡す。タルカは不思議がりながら頷き、すぐに走り出す。
戻ってきた袋を広げると、400cm×200cmの大きさ。
ブランデットは裁縫が出来るというファイナとエリに指示する。
「二枚を合わせて袋状に戻してくれ。四枚の袋にババの葉を詰めて口を縛るんだ。」
メデルが目を輝かせる。
「ベッドになるの?」
ブランデットは笑って答える。
「ベッドは無理でも、板間で寝るよりずっといい。」
ファイナとエリがお互いの顔を見合わせ、細い麻縄で急いで縫い合わせた。
タルカはビビ・トト・ページ・キースの男全員で籠を背負い、ババの葉を採ってくることにした。
ブランデットは驚いて止める。
「もうすぐ夕刻だよ。危ないよ!」
タルカは笑いながら言った。
「まだ門が閉まるのは後4時間後だ。1時間もあればババの葉は集まる。」
ブランデットは掛けて行く彼らを驚きながら見送った。
メデルは兄の袖をそっと引き、にこにこ言った。
「兄さま兄さま…今のうちに家の強化と裏口の家事場を耐火煉瓦にしましょう。」
ブランデットは一瞬驚いたが、すぐに頷く。
「そうだな……火を使うなら安全にしないと。」
フーマが腕を組み、低い声でぼそりと呟く。
「……やるなら手早くしろ。日が暮れる前にな。」
ブランデットは深呼吸し、両手を広げて家全体に魔力を流し込む。
「――《強化結界・全域》」
淡い光が家を包み、壁や梁に魔力の紋様が一瞬浮かんでは消えた。
「これで、しばらくは雨風や衝撃にも耐えられる。」
メデルは目を輝かせて拍手した。
「すごい!お兄さま、家がぴかって光った!」
フーマが腕を組み、低い声でぼそりと呟く。
「……俺には全然わからんがなぁ!」
裏口の家事場に移動し、フーマが腕をまくる。
「土はあるな。……おい、メデル、魔力で水を出せ。」
「うん!」
メデルが小さな手をかざし、水を呼び出す。
フーマは土をこねながら、低く呟いた。
「……昔、野営でよくやったな。」
ブランデットも加わり、土と水を混ぜて魔力で形を整える。
「煉瓦の形を整えて……メデル、魔力を頼む。」
「はいっ!」
メデルが小さな炎を生み、魔力で煉瓦をじっくり焼き固める。
赤く輝く煉瓦が並び、裏口の壁と床に積み上げられていく。
フーマはブランデットとメデルをみながら、低く呟いた。
「……昔、野営でよく……全然違う(笑)ぞ!」
フーマが家事場を整え
「これで火を使っても安心だな。」フーマが満足げに頷いた。
その時、庭の土がもぞもぞと動き、小さな影がぴょこんと飛び出した。
「お手伝いするよ!」
土の小人たちが一斉に現れ、庭を平らに整え始める。
「わぁ、すごい!」メデルが目を輝かせる。
小人たちは畑の畝をきれいに作り直し、じゃがいもや大根の周りをふかふかに耕した。
「甜菜の根も太くなるよ!」と小人が笑う。
メデルは嬉しそうに手を振った。
「ありがとう!これでいっぱい育つね!」
フーマは腕を組み、整備された庭を見渡してぼそりと呟く。
「……悪くないな。これなら冬も越せる。」
ブランデットは深く息を吐き、弟を見て微笑んだ。
「よし、あとは夕食の準備だ。」
メデルは胸を張って言う。
「赤茸、炙るんだよね!」
タルカたちがババの葉を抱えて戻ってきた頃、家の中は夕暮れの光でほんのり赤く染まっていた。
「ただいまー!いっぱい採ってきたぞ!」
籠いっぱいのババの葉を見て、メデルがぱぁっと笑顔になる。
「すごい!ありがとう!」
ブランデットは頷きながら、葉を仕分ける子供たちに声をかけた。
「男達はばばの葉を袋に詰めて寝床にする。……女の子達…料理したい者は、夕食の準備だな。」
メデルは赤茸の袋を抱えて、わくわくした声を上げる。
「炙るの楽しみ!」
ディルが顔をしかめる。
「毒キノコって響きが怖ぇんだよな……」
ビビはさらに怯えた声で言う。
「火使うんだろ?……燃えないよな?」
フーマが低くぼそりと呟く。
「燃やすな。……ちゃんとやれ。」
ブランデットが落ち着いた声で指示を出す。
「まず、水に浸けて汚れを落とす。次に日の光に当てて乾かす……今日は私とメデルでしたので、火で軽く炙って赤い笠を茶色に変える。」
メデルは真剣な顔で頷き、赤茸を一つ手に取った。
「僕、やる!」
小さな炎がメデルの手のひらに灯り、茸の笠をじっくり炙ると、赤から茶色へと変わっていく。
「わぁ……色が変わった!」
子供たちが歓声を上げる。
鍋では野菜スープがぐつぐつと煮えていた。
じゃがいも、大根を刻んで入れたスープから、優しい香りが漂う。
「パンもあるし、スープもあるし……」
ブランデットが笑って言うと、メデルが胸を張った。
「赤茸もあるよ!」
フーマは黙って火加減を見ながら、炙った茸を網に並べていた。
香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がり、子供たちの目がきらきらと輝く。
「いい匂い……!」
「お腹すいたぁ!」
食堂兼居間には、笑い声と温かな空気が満ちていた。
パンをちぎる音、スープをよそう音、そして赤茸の香ばしい香り。
ギギは笑顔で手を振り、フォルは静かにパンをかじる。
赤ちゃんが小さな声で笑い、メデルはその様子を見てにっこりした。
ブランデットは心の中で思う。
(……この家、もっと良くしてやりたいな。)
フーマは黙ってスープをすすりながら、ぼそりと呟いた。
「……悪くない夜だ。」
フーマとタルカの会話
夕食を終え、子供たちの笑い声が家の中に響く中、フーマは外に出て夜風を吸い込んだ。
月明かりに照らされた庭で、タルカが薪を積んでいる。
「……手伝うか?」
フーマが低く声をかけると、タルカは振り返り、少し驚いた顔をした。
「いや、大丈夫だ。……でも、ありがとう。」
二人はしばらく無言で薪を並べ、火を起こした。パチパチと音を立てる炎を見つめながら、フーマが口を開く。
「……あの二人、ギギとフォル。獣人だな。」
タルカは頷く。
「ああ。二年前に俺が見つけ連れて来た時から、ずっとここにいる。」
二年前、まだ雪が残る寒い季節。タルカは村外れの森で、ぼろ布をまとった二人の子供を見つけた。
一人は耳に深い傷跡を持つ少女――ギギ。
もう一人は喉元に焼け跡を残した少年――フォル。
二人は声も出さず、ただ怯えた目でタルカを見上げていた。
その目は、銀色の光を宿していた。
「……お前たち、どこから来た?」
問いかけても答えはない。ただ、ギギが震える手でフォルの袖を握りしめるだけ。
フーマの鋭い目が炎の向こうで光る。
「耳が聞こえない子と、話せない子……そうだったな。」
「そうだ。ギギは耳が聞こえない。フォルは声を出せない。でも、二人ともよく笑うし、よく働く。」
フーマはしばらく黙り、低く呟いた。
「……あの毛並み、目の色。俺と同じ“銀狼”の血を引いているかもしれん。」
タルカが驚いた顔をする。
「銀狼……?そんな稀少種が、こんなところに?」
「確証はない。ただ……耳や声を失ったのは、生まれつきじゃない可能性もある。」
(奴隷商人の荷車から逃げてきた…感じだな……耳を奪われ、声を奪われたのは、獣人の“力”を封じる為か…)
タルカは拳を握りしめ、炎を見つめた。
「……じゃあ、誰かに……」
フーマは短く頷く。
「無理に聞き出すな。だが、あの子らを守れ。子供の銀狼は高値で取引される……。」
タルカは深く息を吐き、真剣な目でフーマを見た。
「わかった。……俺、あの子たちを絶対に守る。」
フーマは焚き火に手をかざし、ぼそりと呟いた。
「……いい目をしてるな。お前、いい兄貴だ。」
タルカは少し照れくさそうに笑った。
「兄貴って柄じゃないけどな……でも、ありがとう。」
夜風が二人の間を抜け、焚き火の火花が星空に舞った




