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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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㉑旅―冒険者 1

冒険者登録。

町の中心にあるギルドは、石造りの堂々とした建物だった。入口には大きな木製の扉と、冒険者の紋章が刻まれた看板が掲げられている。

扉を押し開けると、酒と革の匂い、ざわめきと笑い声、金属の音が混じり合い、活気に満ちた空気が流れ込んできた。

壁には討伐依頼や採取依頼の紙がぎっしり並び、奥には受付カウンター。脇には酒場があり、冒険者たちがジョッキを打ち鳴らしながら談笑している。

剣や槍の光がちらりと反射し、魔法の杖を背負った者も見える。

フーマは銀狼の耳を揺らしながら、二人を促した。

「ここだ。まずは登録だな。」

メデルは目を輝かせ、辺りをきょろきょろと見回す。

「わぁ……人がいっぱい! あれ、剣だ! あっ、魔法の杖も!」

ブランデットは卵を前に抱えたまま、少し緊張した面持ちで歩く。

「……僕たち、本当に登録できるのかな。」

受付には、茶色の髪を後ろで束ねた女性が座っていた。鋭い目つきだが、声は落ち着いている。

「いらっしゃいませ。登録ですか?」

フーマが頷き、許可証を差し出した。

「この二人を見習いとして登録したい。王都のギルドから許可は取ってある。」

女性は証書を確認し、視線を二人に向ける。

「年齢は?」

「メデル、四歳。」

「ブランデット、六歳です。」

女性の眉がわずかに動いたが、証書を見て納得したように頷いた。

「……なるほど。特例ですね。では、見習いとしてFランクからの登録になります。」

メデルは胸を張り、小さな声で言った。

「ぼ、僕、魔力いっぱいあるよ!」

受付の女性はくすりと笑い、書類を差し出した。

「魔力検査は不要です。許可証がありますから。ただし、見習いの規則は守ってください。町のお手伝い、薬草採取、ミニ系魔獣の討伐――危険な依頼は禁止です。」

ブランデットは真剣な顔で頷いた。

「……はい。僕、卵を守りながら頑張ります。」

女性は卵に視線を落とし、少し驚いたように目を細め、声を潜めて囁いた。

「卵の話は、これから内緒にしてください。……貴方たちが襲われます。」

ブランデットは驚き、呟いた。

「……だから、設定なのですね。」

フーマは銀狼の尾を揺らし、低く笑った。

「そういうことだ、坊主。」

女性が証書を確認していると、背後から重い足音が響いた。

「……銀狼フーマじゃねえか。」

低く響く声に、フーマが振り返る。そこには、筋骨隆々の男が立っていた。肩にはギルドの紋章入りのマント、鋭い眼光が周囲を圧する。町のギルドマスターだ。

「久しぶりだな、フーマ。獣人国に帰るって聞いてたが……幼児二人連れとは、どういう風の吹き回しだ?」

フーマは銀狼の尾を揺らし、にやりと笑った。

「依頼だよ、マスター。精霊の森まで護衛する。それだけだ。」

マスターは眉をひそめ、二人を見下ろす。

「……四歳と六歳か。普通なら門前払いだが、王都の許可証があるなら話は別だな。」

フーマは肩をすくめ、軽口を叩く。

「心配するな。坊主たちは俺が鍛える。森まで無事に連れて行くさ。」

マスターは低く唸り、視線をブランデットの前に抱えた荷物に落とした。

「……その荷物、重そうだな。何を運んでる?」

ブランデットは一瞬固まり、フーマがすかさず割って入る。

「ただの石だ。坊主の護符代わりだよ。」

マスターはじっと見つめたが、やがて鼻を鳴らした。

「……まあいい。だが、町で問題を起こすな。幼児がギルドに登録するなんざ前代未聞だ。お前の責任だぞ、フーマ。」

フーマは銀狼の耳を揺らし、笑った。

「わかってる。俺の首で払うさ。」

やがて、受付の女性が二人の名前を刻んだ小さな冒険者カードを手渡した。

「これがあなたたちのギルドカードです。なくさないように。」

メデルは両手で受け取り、目を輝かせた。

「わぁ……本物だ! これで僕も強い人だ!」

フーマは笑い、軽口を叩く。

「坊主、カードで魔獣は倒せないぞ。」

メデルは頬を赤くし、「わかってるもん!」とむくれた。

ブランデットもカードを胸にしまい、静かに息を吐いた。

「……これで、僕たちも冒険者……。」

マスターは腕を組み、最後に低く言った。

「初仕事は薬草採取だな。森の入口まで行って、ルマ草を十束。報酬は銀貨一枚。……フーマ、坊主たちを死なせるなよ。」

フーマは銀狼の尾をぱたんと床に打ちつけ、笑った。

「死なせるかよ。俺の護衛は完璧だ。」

銀狼の耳を揺らし言った。

「よし、登録完了だ。飯を食って、寝床を決めるぞ。――坊主たち、ここからが本番だ。」

ギルドのざわめきの中、三人の旅は新たな一歩を踏み出した。


***

食事と寝床。

ギルドのざわめきの中、三人は受付を離れ、奥の酒場へ向かった。木製のテーブルが並び、ジョッキを打ち鳴らす音と笑い声が響く。

香ばしい肉の匂いが漂い、腹の虫が鳴くのをメデルは必死にこらえた。

「わぁ……いい匂い!」メデルは目を輝かせ、鼻をひくひくさせる。

フーマは銀狼の耳を揺らし、笑った。

「坊主、よだれ垂らすなよ。ほら、座れ。」

ブランデットは卵を前に抱えたまま、慎重に椅子に腰を下ろす。卵の重みが胸に伝わり、彼は紐をもう一度きゅっと締めた。

「……卵……荷物……“セキ”って言うことにするね。セキ、落とさないようにしないと。」

フーマは軽口を叩く。

「心配するな。落としたら俺が拾って走る。」

メデルは笑って、「フーマ、速そう!」と無邪気に言った。

フーマは銀狼の尾を揺らし、にやりと笑う。

「速いぞ。坊主よりな。」

やがて、テーブルに料理が並んだ。焼き肉の皿、香草をまぶしたパン、温かなスープ。メデルは目を丸くし、手を合わせた。

「いただきます!」

ブランデットも静かに呟き、スープを口に運ぶ。

「……おいしい。」

フーマは肉を豪快にかじり、銀狼の尾を揺らした。

「これで腹も満ちたな。坊主たち、明日から働くんだぞ。」

メデルはパンをかじりながら、目を輝かせる。

「働くって、魔獣と戦うの?」

フーマは笑って指を振った。

「まずは薬草採りだ。戦うのはその次だな。」

メデルは頬をふくらませ、「えー、戦いたいのに!」とむくれる。

ブランデットは落ち着いた声で言った。

「メデル、焦らないで。セキを守るのが一番大事だよ。」

メデルは少ししょんぼりしながらも、「うん……わかった」と頷いた。

フーマは笑って、二人の頭を軽くぽんと叩く。

「いい子だ。まずは生き残ることを覚えろ。」

食事を終え、三人はギルドを出て、町の宿へ向かった。石畳の道を歩きながら、メデルは空を見上げる。

「星、きれい……あれ、森の方かな?」

フーマは笑い、肩を軽く叩いた。

「まだまだ先だ。坊主、星を数えてるうちに寝ちまうぞ。」

ブランデットは卵を抱え直し、静かに言った。

「……ここからが本当の旅だね。」

フーマは銀狼の耳を揺らし、低く笑った。

「そうだ。覚悟しろよ。森までの道は甘くない。」

宿は木造の二階建てで、暖かな灯りが窓から漏れていた。中に入ると、柔らかな毛布と小さなベッドが並ぶ部屋が用意されていた。メデルはベッドに飛び乗り、ふわふわの感触に顔を埋める。

「わぁ……ふかふか!」

ブランデットは卵をそっと枕元に置き、深く息を吐いた。

「……守らなきゃ。」

フーマはドアに背を預け、低く笑った。

「焦るな、今夜はゆっくり休め。明日から、冒険者の仕事だ。」

そう言って自分のベッドに腰を下ろしたが――銀狼の長身には小さすぎた。

「……おい、足が出るじゃねえか。」

毛布を引き寄せても、銀色の足がベッドの端から飛び出している。

メデルは毛布にくるまりながら、くすっと笑った。

「フーマ、ベッドからはみ出してる!」

ブランデットも思わず笑みをこぼす。

「……大きいからだよ。」

フーマは肩をすくめ、尾をぱたんと床に打ちつけた。

「仕方ねえな。俺はこういう宿じゃいつもこうだ。」

そう言いながら、毛布を無理やり足にかけて丸くなった。

「銀狼が丸まって寝る姿、笑うなよ。」

メデルは声を押し殺して笑いながら、「かわいい……」と呟いた。

メデルは目を輝かせて言った。

「ねえ、フーマ、森ってどんなところ?」

フーマは少し考え、遠い目をした。

「……静かで、深い。精霊の声が風に混じる場所だ。だが、油断すれば牙を剥く。」

メデルは小さく「わくわくする……」と呟き、ブランデットは兄らしく「寝るよ、メデル。明日から頑張ろう」と言った。

フーマは最後に、低く笑って言葉を落とす。

「坊主たち、夢で森を歩け。明日は現実だ。」

こうして、三人の旅は本格的に始まった。


***

朝の出発

夜明け前、宿の窓から淡い光が差し込んでいた。鳥の声が遠くで響き、町の石畳がまだ冷たい。

メデルは毛布にくるまったまま、ぱちりと目を開けた。

「……兄様、もう朝?」

ブランデットは卵を抱えたまま、静かに頷く。

「うん。フーマが起きてる。」

銀狼の影が窓辺に立ち、耳をぴくりと動かしていた。

「坊主たち、起きろ。ギルドは朝が勝負だ!……あと、言葉が丁寧すぎる!!」

低い声に、メデルは慌てて毛布を蹴り、ブランデットは卵を背負い袋に収める。

「はい……うん、わかった!」

「うん。フーマ、兄さん。」

フーマは銀狼の尾をぱたんと床に打ちつけ、にやりと笑った。

「よし、その調子だ。坊主、敬語は森に置いてけ。」

メデルは頬を赤くしながら、

「……でも、フーマって偉い人っぽいから……」

「偉くねえよ。毛が多いだけだ。」

メデルは吹き出し、ブランデットも小さく笑った。

「毛が多いだけって……フーマ、ちょっとかわいい。」

「かわいくねえ!」フーマは尾をぱたんと打ちつけ、耳をぴくりと動かした。

「俺は銀狼だぞ。かわいいとか言うな。牙で証明してやろうか?」

メデルは慌てて両手を振り、

「やだやだ! かわいいって言ったの取り消す!」

ブランデットはくすっと笑い、

「でも、フーマがいると安心するよ。」

フーマは鼻を鳴らし、

「当然だ。俺がいる限り、坊主たちに手を出す奴はいねえ。……ただし、俺の毛を引っ張ったら容赦しねえぞ。」

メデルは慌てて手を振り、

「引っ張らないよ!」


支度を終えると、三人は宿を出た。

石畳の道はまだ人影が少なく、朝靄が薄く漂っている。パン屋の窓から香ばしい匂いが漏れ、遠くで鐘の音が響いた。

メデルは鼻をひくひくさせ、目を輝かせる。

「いい匂い……パンかな? フーマ、パン食べたい!」

フーマは銀狼の尾を揺らし、笑った。

「坊主、寄り道はなしだ。ギルドが先だ。」

「えぇぇ……パン……」メデルはしょんぼりしながら歩く。

ブランデットは卵を守るように背負い袋の紐を確認しながら歩を進める。

「……兄様……兄さん、朝のギルドってどんなところ?」

ブランデットは首を傾げて、

「僕にはわからないよ……でも、フーマがいるから大丈夫。」

フーマは低く笑い、肩をすくめた。

「騒がしい場所だ。剣と酒の匂いがする。あと、腕っぷしで話す奴が多い。」

メデルは目を丸くし、

「腕っぷしで話すって……殴るの?」

「殴る前に笑う。笑った後に殴る奴もいる。」

「えぇぇ……怖い!」メデルは兄の袖をぎゅっと握った。

ブランデットは落ち着いた声で言う。

「大丈夫だよ、メデル。僕が守るし、フーマもいる。」

フーマは銀狼の耳をぴくりと動かし、にやりと笑った。

「そうだ。俺がいる限り、坊主たちに手を出す奴はいねえ。……ただし、泣いたらギルドの笑い者だぞ。」

メデルは頬をふくらませ、

「泣かないもん!」

「よし、その意気だ。」フーマは尾をぱたんと打ちつけた。

道の両脇には露店の準備をする人々がいて、野菜や果物が並び始めている。

メデルは小声で呟いた。

「……森とは全然違うね。」

ブランデットは頷き、卵にそっと触れた。

「でも、ここから始まるんだ……僕たちの旅。」

フーマは銀狼の尾をゆらりと揺らし、低く言った。

「そうだ。坊主たち、覚悟しろよ。朝のギルドは森より騒がしい。」

やがて、町の中心に近づくと、石造りの堂々とした建物が見えてきた。

入口には大きな木製の扉と、冒険者の紋章が刻まれた看板。

フーマは銀狼の耳を揺らし、尾を軽く打ちつけた。

「着いたぞ。――朝のギルドだ。」

メデルは息を呑み、ブランデットは卵を抱え直した。

「……ここから、本当に始まるんだね。」

フーマはにやりと笑い、

「そうだ。坊主たち、ここからが本番だ。」


***

朝初めての依頼。

ギルドの扉を押し開けると、朝の光が石造りの広間に差し込み、ざわめきが響いた。

剣の金属音、笑い声、酒場から漂う香ばしい匂い――冒険者たちの世界が広がっている。

壁一面に貼られた依頼書ボードには、紙がぎっしり並び、報酬額が大きく書かれていた。

メデルは目を輝かせ、ボードに駆け寄る。

「わぁ……いっぱいある! “魔獣討伐”って書いてある! 兄様…兄さん、これやろう!」

その声に、近くの冒険者たちがちらりと視線を向け、くすりと笑った。

「魔獣討伐だってよ、あのチビ坊主が!」

「剣より大きいんじゃねえか?」

笑い声が広がり、メデルは頬を赤くした。

ブランデットは籠を抱えたまま、眉をひそめる。

「メデル、危ない依頼はダメだよ……」

フーマが銀狼の尾をぱたんと打ち、低く笑った。

「坊主、魔獣討伐はまだ早ぇ。まずは“捕獲”だ。」

メデルは首をかしげる。

「捕獲って……何を?」

フーマは依頼書を一枚引き抜き、メデルの目の前に突き出した。

「“ペット用のミニラビットの捕獲”。報酬は銅貨五枚だ。」

メデルは目を丸くし、

「うさぎ!? 戦わないの?」

「戦わねえ。追いかけるだけだ。」フーマは鼻を鳴らす。

「まずは足を使え。剣より速さだ。」

メデルは頬をふくらませ、

「えぇぇ……走るだけ? 僕、剣も振りたい!」

フーマは尾をぱたんと打ち、にやりと笑った。

「剣はまだ坊主の背丈より長ぇだろ。まずは足で勝負だ。」

近くの冒険者が笑いながら声をかける。

「おい銀狼、子守りか? ラビット捕まえるのに護衛付きとは豪勢だな!」

フーマは肩をすくめ、

「坊主たちの初仕事だ。笑うなら今のうちだぞ。――そのうちお前らの尻を蹴る。」

その言葉に、周囲から「ひゅー!」と口笛が鳴り、笑いが起きた。

ブランデットは依頼書を覗き込み、静かに頷いた。

「……これなら、セキを守りながらできる。」

フーマは二人の肩を軽く叩いた。

「そうだ。坊主たち、初仕事は“走ること”。泣くなよ、転ぶなよ、毛を引っ張るなよ。」

メデルはむっとして、

「毛なんて引っ張らないよ!」

「昨日も引っ張りそうだったろ。」フーマは尾をぱたんと打ち、笑った。

「だって、ふわふわしてたんだもん!」メデルは小声で言い、ブランデットがくすっと笑う。

受付の女性が近づき、依頼書を確認する。

「初仕事にぴったりですね。ミニラビットは町外れの草原にいます。……気をつけて。」

メデルは胸を張り、

「うん! 僕、捕まえる!」

ブランデットは卵を抱え直し、

「僕はメデルを守る。」

フーマは銀狼の耳を揺らし、低く言った。

「よし、行くぞ。坊主たち、走る準備はできてるか?」

「できてる!」メデルは拳を握り、ブランデットは静かに頷いた。

フーマはにやりと笑い、

「いいか、坊主。ラビットに負けたら、俺が笑うぞ。」

メデルは頬を赤くして、

「負けないもん!」

「じゃあ、走れ。――ギルドの笑い者になるなよ。」

背後で冒険者たちが笑いながら声をかける。

「坊主、ラビットに負けんなよ!」

「銀狼、子守り代は高ぇんだろ?」

フーマは尾をぱたんと打ち、

「笑ってろ。――そのうち俺の牙で笑えなくなるぞ。」

笑い声が広がる中、三人はギルドを後にした。

宿の精算。

夜明け前、まだ薄暗い宿の一階。

木の床に朝靄が差し込み、カウンターの上には帳簿と小さなランプが灯っていた。

宿の亭主は丸い腹を揺らしながら、帳簿をめくっている。

そこへ、銀狼の影が静かに降りてきた。

「おはようさんだな、フーマ殿。」

亭主は笑みを浮かべ、声を潜める。

「坊主たちはまだ夢の中か?」

フーマは銀狼の耳をぴくりと動かし、低く笑った。

「起きる前に精算だ。――昨日の湯代、宿代、全部まとめてくれ。」

尾がゆらりと揺れ、銀色の毛が朝の光を受けてきらめく。

亭主は帳簿を指で叩きながら、

「三人分で銀貨八枚だな。……しかし、あんた、子供連れとは珍しいじゃねえか。」

フーマは鼻を鳴らし、にやりと笑った。

「護衛の依頼だ。坊主たちを俺の故郷まで連れて行く。それだけだ。」

亭主は目を細め、声を潜める。

「故郷……獣人国か? あんた、命知らずだな。」

フーマは肩をすくめ、

「命知らずじゃねえ。腕があるだけだ。」

銀狼の尾がぱたんと床を打ち、低い音が響く。

「……それに、坊主たちはただの子供じゃねえ。」

フーマの声がわずかに低くなる。

「王都の許可証付きだ。――だが、余計な詮索はするな。」

亭主は両手を上げ、

「へいへい、口は固ぇよ。……だが、あんた、気をつけな。町の連中は噂好きだ。」

フーマは銀貨をカウンターに置き、

「噂で毛が抜けるなら、俺はもう禿げてるな。」

冗談めかした声に、亭主は腹を揺らして笑った。

「ははっ、銀狼の毛は高ぇからな。抜けたら売ってくれよ。」

フーマは鼻を鳴らし、

「一本で銀貨十枚だ。買うか?」

「やめとく!」亭主は笑いながら手を振った。

ここで亭主がさらに茶化す。

「毛布にしたら城が買えるな!」

フーマは尾をぱたんと打ちつけ、にやりと笑った。

「毛布にしたら俺が裸で森を歩くことになるな。精霊に笑われるぞ。」

亭主は腹を抱えて笑いながら、

「精霊も笑うか……そりゃ見てみたい!」

フーマは銀狼の耳をぴくりと動かし、低く言った。

「見たら最後、あんたも森で迷うぞ。」

亭主は肩をすくめ、

「じゃあ、やめとくわ。俺、森で迷うのはごめんだ。」

フーマは銀貨を数え終え、カウンターを軽く叩いた。

「世話になった。――坊主たちが起きたら、すぐ出る。」

「気をつけな、フーマ殿。……あの子ら、いい顔してた。」

フーマは一瞬だけ目を細め、低く答えた。

「……ああ。守るさ。」

銀狼の影が階段を上がり、静かな朝に尾の音が消えていった。

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