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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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⑮赦し――再生

昼の神殿。

静寂の中、メデルはグラウス師と共に、ルクセル・リクセルの魔力調整を行っていた。

その場に、翠鳥が舞い降りる。羽根は青緑に輝き、風のような囁きが空間を満たす。

「城の聖樹が揺れ、木の小人と風の小人が王妃の願いに応えたいと申しており、自然の理を糺す時が来た。」

グラウス師は眉をひそめ、メデルの肩に手を置いた。

「メデル様は、まだ三歳半。聖女とはいえ、幼すぎます。せめて半義の年、あと四年だけ……お待ちいただけませんか」

翠鳥は静かに首を振る。

「王妃の寿命は、すでに尽きており、ハイエルフの魔力を得て生きながらえているが、それは苦しみの延長。10数年もの間、共鳴と赦しを求め続け、小人たちはすでにその痛みに寄り添い、赦しを得ました」

魔力調整の場に、空気が震えるような気配が走った。

聖樹の根元から、木の小人たちが現れる。彼らは苔むした衣をまとい、瞳は深い森の色をしていた。

風の小人たちは、空気の粒子のように揺れながら、メデルの周囲に舞い降りる。彼らの声は、風鈴のように澄んでいた。

木の小人が、深く頭を垂れた。

「メデル様……我らは、王妃の願いを10数年、聖樹の根にて聞き続けてまいりました。

彼女の魂は、赦しを求め、共鳴を願い、再生を夢見ております。ですが、肉体はすでに限界。

どうか……その魂に、安らぎを与えてくだされ」

風の小人が、メデルの頬にそっと触れるように囁いた。

「彼女は、自然の理を乱しました。マル様の魔力を分離し、血結晶として用い、己の命を延ばした。その代償は、肉体の崩壊と魂の苦痛。メデル様……癒しの力を持つあなたにしか、彼女を“還す”ことはできません。奪う癒し――それは、神の意志。どうか、彼女に“終わり”を与えてください」


その瞬間、空間が揺れ、霧のような光が広がる。

幻想が現れ、王妃の寝室が浮かび上がる。

ベッドに横たわる女性――王妃。

その顔は若々しくも、苦悶に満ちていた。

彼女はかすかに囁く。


「私は……知らなかったの。いいえ、言い訳ね。薬品が、マルの魔力を“封じる”のではなく、“分離”させるものだと。分離された魔力は、紋章から血結晶にされ、外れた魔力は私の魔力に逆流し、若返りながら生きながらえている。でも……その魔力は、私の肉体を蝕んでいる。マル……ごめんなさい……あなたの魔力が、私を焼いている……ごめんなさい……」


その声に、ルクセルとリクセルが叫ぶ。


「「お祖母様!!」」


メデルは、静かに目を閉じ、心の庭へと意識を沈める。

そこに、風が吹いた。聖獣たちの気配が集まり、彼の魂が震える。


「“願い”は、誰かを思う心。“共鳴”は、その痛みに寄り添う力。“赦し”は、過去を受け入れる勇気。“再生”は、未来を信じる希望――

癒しの力は、与えるだけではない。奪う力もまた、神の意志」

メデルは、震える手を胸に当てた。

その言葉は、重く、悲しく、しかし確かに“願い”だった。

グラウス師は、静かにメデルの肩に手を置いた。

「……行きましょう。彼女の魂が、あなたを待っている」


グラウス師は翠鳥の力を借りて、移転魔法の詠唱を始めた。

風と土の魔力が融合し、空間が揺れる。

メデルの足元に光の紋章が浮かび、彼と師は、王妃の寝室へと転移した。

そこは、静寂に包まれた部屋だった。

重厚なカーテンが月光を遮り、銀の燭台が淡く揺れている。

ベッドには、王妃が横たわっていた。顔は若々しく、しかしその肌は透けるように青白く、魔力の逆流による苦痛が刻まれていた。

メデルは、そっと近づいた。

彼女の瞳は閉じられていたが、唇が微かに動いた。


「……マル……ごめんなさい……あなたの魔力が、私を焼いている……ごめんなさい……」


メデルは、彼女の手を取った。

その瞬間、彼の胸の奥に、六属性の魔力が共鳴した。

白虎、朱雀、玄武、青竜、白蛇、そして翠鳥――聖獣たちの気配が、彼の魂に集まる。

彼は、静かに言葉を紡いだ。


「“願い”は、誰かを思う心。“共鳴”は、その痛みに寄り添う力。“赦し”は、過去を受け入れる勇気。“再生”は、未来を信じる希望。癒しの力は、与えるだけではない。奪う力もまた、神の意志。……あなたの魂に、安らぎを」


彼の手から、光が溢れた。

それは、霧のように広がり、王妃の体を包み込む。

彼女の瞳が、ゆっくりとメデルを見つめる。

彼女の顔に、微かな微笑が浮かび、静かに息を吐いた。

その瞳には、恐れも、後悔も、そして――感謝が宿っていた。

「ありがとう……小さな聖女よ……あなたの優しさが、私の罪を赦してくれる……」

その瞬間、彼女の魂は、光の中へと還っていった。

部屋の空気が澄み渡り、聖樹の葉が一斉に揺れた。

グラウス師は、静かに頭を垂れた。

「……あなたは、聖女でありながら、誰よりも優しい人間です。メデル様よく……よく受け入れてくれました」

メデルは、涙を流しながら、王妃の手をそっと離した。

「僕は……癒したかった。痛みを、悲しみを、全部……」


その夜、王妃は安らぎの中で還り、メデルは“奪う癒し”を初めて使った。

それは、聖女としての覚醒であり、自然の理を糺す第一歩だった。


***


揺らぎの報せ。

王妃が静かに息を引き取った後、グラウス師と翠鳥の力を借りて、メデルは移転魔法で神殿へ戻された。

神殿の静けさは、彼の心の中の空白と重なっていた。

メデルは膝を抱え、神殿の床に座り込んでいた。

小さな手は震え、胸の奥には、言葉にできないほどの悲しみが広がっていた。

「死って……こんなに静かなんだね……」

彼の“心の庭”は灰色の霧に包まれていた。

風もなく、光もなく、ただ冷たい感情が漂っていた。

その時、カーロの光がふわりと現れ、優しく語りかける。

「メデル……ごめんね、悲しみの中にいるところ。でも、報せがあるの。結界が……揺らいでいるの」

メデルは顔を上げた。

カーロの声は、風のように優しく、しかし確かな緊急性を帯びていた。

「リュスクマテルテス神官が、ひとりで魔力を注いでいるの。彼の体調はもう限界……このままでは、結界が崩れてしまう」

メデルは立ち上がった。

涙の跡が残る頬に、決意の光が宿る。

「結界には……何属性の魔力が必要なの?」

「最低でも四属性。リュスクマテルテス様は四属性を持っているけど、今は体調が悪くて魔力が安定しない……でも、お父様は五属性を持っている。風、土、火、水、そして赤の魔力。彼なら、結界を安定させられる」

メデルは、父コクベックの姿を思い浮かべた。

あの力強く、優しい背中。子供たちを守るために、いつも笑っていた父。

「お父様に……お願いしなきゃ」

その時、神殿の扉が静かに開いた。

王太子ベルセルが現れた。

彼の顔には深い疲労と焦りが滲んでいたが、メデルを見る目は優しかった。

「メデル。君と君の父上に協力をお願いしたい。結界の間へ...」

メデルは頷き、王太子の手を握った。

その手は大きく、温かく、どこか懐かしい感触があった。

「ありがとう、王太子様。僕……きっと、大丈夫。お父様が守ってくれる」

ベルセルは静かに微笑んだ。

「君の言葉には、不思議な力がある。信じる心が、魔力を導く。君の父上も、きっとそれを感じている」

二人は急ぎ、結界の間へと向かう。

その途中、聖樹の葉がざわめき、空間に微かな震えが走った。

空気が重く、魔力の流れが乱れているのが肌で感じられる。

「結界が……限界に近づいている。急がなければ」

ベルセルの声には、焦りと祈りが混じっていた。


結界の間

早朝から、リュスクマテルテス神官は結界の間に籠もり、魔力を注ぎ続けていた。

王家の血と精霊の契約によって守られ、代々の神官が命を削って支えてきた神聖な空間。

聖樹がゆらぎ、精霊がざわめき、兆しはすでに現れていた。王妃が静かに息を引き取った瞬間、城の空気が変わった。それは誰の目にも見えない、しかし確かに感じられる変化だった。聖樹の葉が大きくざわめき、空間に微かな震えが走る。

長年、王妃の体内に封じられていたマルの魔力――その“支え”が失われたことで、城を守る結界が力を失い、崩れ始めたのだ。

城の結界は、聖堂の奥深く、地下の“結界の間”にて直接魔力を注がれることで維持されていた。

リュスクマテルテス神官は訳も分からぬまま、いきなり流れて行く魔力の奔流に晒されていた。

額には汗が滲み、肩は小刻みに震え、呼吸は浅く、魔力の流れは乱れていた。

彼の体調はすでに限界に近く、結界の維持はもはや一人では不可能だった。

その時、静かに歩み寄る足音が響いた。

リュスクマテルテス神官が膝をついて振り返ると、そこには――

「もう……無理しないで、リュスクマテルテス神官。僕とお父様とカーロで注ぐから」

メデルの声は、光のように優しく、しかし確かな力を持っていた。

リュスクマテルテスは、苦しげな呼吸の中で微笑み、静かに頷いた。

「ありがとう……メデル様。あなたの光が、私を支えてくれます……」

その時、結界の扉が開いた。

そこに立っていたのは、コクベック――五属性の魔力を持つ、赤魔法騎士団の元団長。

彼の瞳は鋭く、しかしその奥には、家族を守る強い意志が宿っていた。

「カーロ。呼んでくれてありがとう。結界は……俺が守るよ。」

その言葉に、メデルの胸の奥に、再び光が灯った。

それは、悲しみの中で見つけた希望――家族の絆だった。

ベルセルは、コクベックに向かって深く頭を下げた。

「コクベック殿。王妃の死により、結界が揺らいでいます。あなたの力が必要です。どうか、王都を……皆を守ってください」

コクベックは静かに頷いた。

「俺は、家族を守るために剣を振るってきた。今度は、魔力で守る。王妃の死を破壊にはしない」

そして、彼は結界の中心へと歩み出る。

その背中を見つめながら、メデルはそっとカーロの光に触れた。

「僕たちも……注ごう。お父様と一緒に」

カーロは微笑み、光を広げた。

結界の間に、再び希望の光が満ちていく――。



血の刻印

王妃が静かに息を引き取ったその瞬間、城の空気が変わった。

誰の目にも見えない、しかし確かに感じられる変化――それは、王家の血と精霊の契約の“支え”が失われたことによるものだった。

聖樹がざわめき、聖獣たちの気配が遠ざかる。

それまで王妃の体内に封じられていたマルの魔力が解放され、聖樹と聖獣の魔力の流れが止まり始めていた。

その影響は、王の間にも静かに、しかし確実に忍び寄っていた。

王は、玉座の背に身を預けながら、震える手を見つめていた。

その手は、かつては若々しく、力強かった。

だが今、皮膚は薄くなり、血管が浮き、指先は冷たく痺れていた。

「……なぜだ。なぜ、戻らぬ……」

王妃の体内に蓄積されていた魔力――ハイエルフの血と聖なる魔力を融合させた禁断の血結晶。

それは、若返りと魔力強化を可能にする、王家の秘術の中でも最も危険なものだった。

王はそれを失った。

そして、次なる標的を定めていた。

異母弟――リュスクマテルテス。

彼は、王家の血を継ぎながらも、神官として聖職に生きる者。

その腕の裏には、誰にも気づかれないように、すでにマルと同じ刻印が刻まれていた。

それは、凍結魔法と移動魔法によって魔力を血に集め、紋章から抽出するための採取紋章。

普段は衣に隠れ、本人すらその存在に気づいていない。

王妃の死後、結界の揺らぎと共に、リュスクマテルテスの体調は急激に悪化していた。

それは、彼から血と魔力が密かに抜き取られていたためだった。

王は刻印の流れを再開させた。

「奴の魔力が尽きる前に、結晶を……。聖樹の拒絶が始まっている。これ以上の採取は、精霊との契約を破ることになるが……構わぬ。

契約など、力の前では意味をなさぬ。私は……老いてはならぬのだ」

王の声は震えていた。

それは、恐れからではない。

自らの肉体が崩れ始めていることへの、絶望だった。

彼は玉座の脇に置かれた黒い壺を手に取る。

その中には、血結晶が三粒――王妃の命から抽出されたもの。

「……ああ、壺の中に三粒……!」

焦燥に駆られ、王は震える手で二粒を口に含む。

瞬間、手の張りが戻り、血管が収まり、皮膚が若返った。

「……戻った……戻ったぞ……!」

安堵の息を吐きながら、王は再び壺を覗き込む。

「1粒……2粒……3粒……4粒……5粒…… …… ……増えぬ!!何故だ!!」

その叫びが、王の間に響いた。

その時――聖樹の根が微かに震え、王の間の空気が一瞬、冷たく沈んだ。

それは、精霊たちの怒りの兆しだった。

聖樹の葉が黒く染まり、聖獣の気配が遠ざかる。

契約の破綻が、静かに、しかし確実に始まっていた。


聖なる契約

王妃が静かに息を引き取ったその夜、神殿の奥にある聖樹の根が震えた。

それは、王家の血と精霊との契約が揺らぎ始めた証だった。

聖樹は、王家の魔力と精霊の理を結ぶ“聖なる契約”の象徴。

その契約の中心にいた王妃の死は、精霊たちにとっても大きな喪失だった。

聖樹の葉がざわめき、枝が軋むように揺れる。

その音は、風ではなく――精霊たちの“嘆き”だった。

聖樹の幹に宿る精霊たちは、静かに目覚め始める。

彼らは言葉を持たないが、魔力の波動で感情を伝える。

その波動は神殿の空間に広がり、聖獣たちの気配を呼び起こす。

白虎が遠くで吠え、朱雀が炎の羽を震わせ、玄武が地を揺らし、青竜が空を裂く。

そして、翠鳥が再び舞い降り、聖樹の根元に静かに止まった。


「彼女は罪を犯した。しかし赦しを求め、共鳴を願い、再生を夢みた。彼女は魂に、安らぎを得た……」


翠鳥の声は、神殿の侍者たちの心にも届き、空気が張り詰めた。


「契約が……揺らいでいます。王家の血が、精霊の理を乱しています」


その言葉は、神殿の奥から王宮へと響いていった。



***

王太子妃は、王妃の死の報せを聞いた後から、言葉を発していなかった。

窓辺に座り、聖樹のざわめきをただじっと聞いていた。

彼女の瞳は虚ろで、焦点を結ばず、手は膝の上で固く握られていた。

「……王妃様が……いなくなった……」

その声は、誰にも聞こえないほど小さく、震えていた。

王太子妃は、王妃の魔力の影響を受けて育った。

その魔力が消えたことで、彼女の心の支えもまた、崩れたのだった。

聖樹の精霊たちのざわめきは、彼女の心に直接響いていた。

それは、契約の破綻を告げる“警告”であり、同時に“哀悼”でもあった。

彼女は胸を押さえ、静かに涙を流した。

「王妃様の魔力が……私の中から……消えていく……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ。。。」

その瞬間、吸収する彼女の体から微かな魔力の光が抜け、窓の外へと流れていった。

それは、王妃の魔力の残滓――精霊との契約の断片だった。

王太子ベルセルが部屋に駆け込んで来た時、彼女はすでに意識を失いかけていた。

「妃殿下! しっかりしてください!」

彼は彼女を抱きしめ、聖樹の方へと目を向けた。

彼女は、かすかに唇を動かした。


「……名を呼んでくれないのですね……いえ。私も呼んだことはなかった……さようなら」…ベルセル様…


その言葉は、彼女の心の奥にあった孤独と、王家の中での立場の痛みを滲ませていた。

そこには、精霊たちの怒りと悲しみが渦巻いていた。


「王家の血が、理を乱すならば――精霊は、契約を断つ」


その言葉が、聖樹の根から響いたように感じられた。

ベルセルは、妃を抱えながら静かに誓った。

「俺が……守る。母の罪も、父の欲も、彼女の非も、精霊の怒りも……すべて、俺が受け止めます」

聖樹の葉が、わずかに静まり返った。

それは、精霊たちが彼の言葉に耳を傾けた証だった。


だが――王太子は...契約の儀を行っていない。

聖樹の根が震えた夜、精霊たちは静かに目を覚ました。

彼らは、王家との契約の守護者であり、理の番人。

その契約は、王・王妃・王太子の三者がそれぞれ“誓い”を立て、精霊の理に従うことで成り立っていた。

だが――王太子はまだ、契約の儀を行っていない。

聖樹の幹に宿る精霊たちは、魔力の波動を通じて感情を伝え合う。

彼らは言葉を持たぬが、理を見抜く目を持っていた。


「王は、若さと力を求めた。王妃は、魔力と永遠を欲した。王太子妃は、愛と承認を渇望した」


三者三様の欲望が、契約の儀を歪ませた。

王は、ハイエルフの魔力を血結晶として抽出し、若返りと魔力強化を得ることに執着した。

その行為は、精霊との契約を“力の取引”へと変質させた。

王妃は、王の愛を繋ぎ止めるために、マルを死へ導いた――いや、死には至らなかったが、魔力を分離させ、彼女自身がその苦しみを背負った。

彼女は、永遠の魔力を得る代償として、精霊との契約の根幹を揺るがせた。

王太子妃は、王妃の魔力の影響を受けて育ち、王太子の愛を得られぬまま、嫉妬と孤独に沈んでいた。

彼女は契約の儀を拒み続けた――「自分は王妃の代わりではない」と。

そして王太子――ベルセルは、契約の儀を知らなかった。

学ばされることもなく、教えられることもなく、ただ王家の“代役”として生きてきた。

彼は、母の罪と父の欲、妃の苦しみを前に、精霊の理に背くことを望んではいなかった。

しかし、王家の中で“誰かの代わり”として生きることに、心が疲れていた。

聖樹の精霊たちは、静かに語る。


「契約とは、誓いであり、犠牲であり、共鳴である。欲望のままに交わされた契約は、理を乱す」


その言葉が、聖樹の根から神殿へ、王宮へと響いていった。

ベルセルは、聖樹の前に立つ決意を固める。


「俺は、誰かの代わりではない。俺自身の誓いを立てる。精霊よ、どうか……俺の声を聞いてくれ」


その声は、静かに、しかし確かに聖樹の葉を揺らした。

精霊たちは、彼の“本心”に耳を傾け始めた。

その瞬間、聖樹の根元に翠鳥が舞い降り、ベルセルの前に静かに立った。


「誓いを立てる者よ。理を乱す者の血を継ぎ、理を正す者となる覚悟はあるか?」


ベルセルは、深く頷いた。


「俺は、王家の罪を背負う。だが、俺自身の名で、理に誓う。精霊よ、どうか……俺を見てくれ」


聖樹の葉が、静かに光を放った。

それは、契約の儀が――ようやく、始まろうとしている兆しだった。

神殿の奥、聖樹の根元に設けられた「契約の間」。

そこは、精霊たちの理が最も濃く流れる場所であり、王家の血が誓いを立てる神聖な空間。

夜の静寂の中、聖樹の葉がざわめき、精霊たちが集い始める。

白虎が地を踏みしめ、朱雀が炎の羽を広げ、玄武が根を這い、青竜が空を裂き、翠鳥が枝に止まる。

ベルセルは、王家の衣を脱ぎ、素の姿で聖樹の前に立つ。

その姿は、王子ではなく、一人の人間としての誓いを示すため。

彼の前に、聖樹の根がゆっくりと開き、精霊の光が舞い上がる。

その中心に、翠鳥が静かに語りかける。


「誓いを立てる者よ。理を乱す血を継ぎ、理を正す者となる覚悟はあるか?」


ベルセルは、深く頭を垂れ、静かに答える。


誓いの言葉(王太子ベルセル)


「我が名は、テラ・スボルト・フラクシス・ドン・ルト・ルビール・ベルセル。

王家の血を継ぎし者として、精霊の理に誓う。

我が父の欲を知り、我が母の罪を見、我が妃の痛みを抱き、

それでもなお、我が心は、理に背かぬと誓う。

欲望に染まらず、力に溺れず、名に囚われず、

我が魂をもって、精霊と共鳴し、赦しを求め、再生を願う。

我が誓いは、誰かの代わりではなく、我が意志によるもの。

聖樹よ、精霊よ、どうか我が声を聞き、我が誓いを受け入れてください」


その言葉が響いた瞬間、聖樹の葉が静かに光を放ち、精霊たちの波動が空間を満たす。

翠鳥がベルセルの肩に舞い降り、静かに囁く。

「誓いは受け入れられた。理は、再び繋がれた」

その瞬間、聖樹の根元から光が広がり、王家の契約が再び結ばれた。

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