七夕プランの変身写真
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
お隣の日本やヨーロッパ等だと太陽暦の二月十四日を「恋人達が愛を語らう日」と認識しているみたいだけど、我が台湾島の中華民国だと太陰暦における七月七日にあたる七夕情人節こそが伝統的なカップルのイベントデーなの。
この七夕情人節の前後である七月から八月にかけては、何処のお店や観光地でもカップル向けのサービスやキャンペーンが盛んに行われるんだ。
そんな具合にカップルだったらとっても楽しい七夕情人節だけど、私こそ植玉燕は未だ大学で彼氏に恵まれなくてね。
学内で学生カップルを見かけると羨ましく感じたものだよ。
とは言え、悠長に羨望の眼差しを注いでいる場合でもないんだよね。
何しろ私の実家である植写真館は変身写真をアクティビティで取り扱っている訳だから、カップル需要の見込める七夕情人節という商機を見逃す訳にはいかないんだ。
「もうすぐ初夏ね、お父さん。」
「そろそろ家も、七夕情人節に向けたキャンペーンの告知をしなくてはな。何か面白いアイデアは無いものか…」
倉庫で衣装や小道具と睨めっ子している両親を見ていると、跡取り娘としては放っておけないよ。
とは言え七夕情人節はそもそもが七夕伝説に因んだ習わしだから、織姫や牛郎というモチーフと不可分なんだよね。
だからどうしても似たりよったりになるのは仕方ない訳で…
あっ、待てよ。
「ねえ!お父さん、お母さん!ちょっと私に面白いアイデアがあるんだけど、聞いてくれない?何も牛郎の相手役が織姫じゃなくても良い訳だし…」
私の発案に、両親は身を乗り出して聞き入ってくれたの。
話の分かる両親って存在は、本当に有り難い限りだよ。
「成る程、なかなかユニークな発想を持っているようだね。そういえば、玉燕が紹介してくれた子のお陰で家の写真館の知名度が上がった事があったなぁ…」
「やってみなさい、玉燕。但し、相手の子にはキチンと筋を通すのよ。」
こうして両親に太鼓判を押して貰った私は、意気揚々と計画を新たな段階に引き上げたんだ。
次に私が着手したのは、高校時代からの幼馴染を呼び出す事だったの。
「玉燕からのメールには『直接会って相談したい事がある』ってあったけど、やっぱり急ぎの用なの?」
高校時代の幼馴染である王白姫さんは、大学生になった今は化粧もオシャレも一気に洗練されたように感じられる。
やっぱり、基礎ゼミで知り合ったというボーイフレンドの存在が大きいんだろうな。
「まあね、白姫さん。もう初夏で暑くなっちゃったから、詳しい話は冷房の効いた家の中でゆっくりとね。」
そうして白姫さんを写真館のオフィスに連れ込んだ私は、単刀直入に話を切り出したんだ。
「話というのは他でも無いんだけど、白姫さんにまたモデルのアルバイトをして貰いたいんだよね。いつぞやに小竜君と一緒にモニターをして貰ったカップルプランの写真、なかなか好評だったのよ。」
そう、あの時に両親が言っていた「相手の子」っていうのが王白姫さんなんだよね。
彼氏さんである田小竜君にはタキシードでビシッと決めて貰い、美人でグラマラスな白姫さんにはセクシーなバニーガールになって貰う。
そんな遊び心満載の変身写真を広告や公式サイト等に使った所、ネットを中心に高評価を得られたんだ。
そこで我が植写真館としては、白姫さんにモデルのアルバイトをお願いしているの。
これは白姫さんにとっても自尊心を高める事に繋がったようで、楽しく働いて貰っているよ。
「へえ、どんな写真?やっぱり今からの時期だと、七夕情人節とか…」
彼氏持ちという身の上だと、やっぱり考える事はそうなるだろうね。
飲みかけのジュースの氷をストローでグルグルかき回しているけど、頭の中は織姫と牛郎に扮したロマンチックな写真の事で一杯なんだろうな。
まあ、その方が私としては好都合だけど。
「おっ!鋭いね、白姫さん!お察しの通り、七夕情人節に因んだカップルプランの告知記事やパンフレット等に使う素材写真のモデルをお願いしたいんだ。ツーショット写真を撮る時は小竜君にも応援をお願いしたいけど、まずは白姫さんのソロを撮りたくてね。」
「やるやる!是非ともやらせて、そのモデルのお仕事!」
二つ返事で快諾してくれるんだもの、私としても喜ばしい限りだよ。
さて、後はイマジネーションに従ってベストショットを写すだけだね。
そうして迎えた撮影当日、私は自分の美的センスを遺憾無く反映させた最高の構図に夢中でシャッターを切っていたの。
「うん、良い感じ!白姫さん、次は目線を右に向けてみようかな?」
レンズ越しに覗いた被写体も美しいけど、肉眼で見る素材も素晴らしいね。
照明を絞った薄暗い空間だからこそ、白い柔肌の美しさが一層に際立つという寸法だよ。
白姫という名前は、やはり伊達じゃないね。
「あ、あのさ…玉燕?私、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
するとデータ移行も兼ねた小休止のタイミングで、白姫さんが意を決したように切り出したんだ。
「これ、七夕フェアの宣材写真だよね?どうして私こんな風になってるの?この構図、ちょっと七夕とは違うような…」
首を下に傾けて目線で指し示す白姫さんの可憐な美貌には、羞恥と困惑が入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。
まあ、それも無理はないかな。
何しろ今の白姫さんは、牛柄ビキニ一枚で鎖に繋がれているんだから。
しかし、これこそが私の目の付け所なんだよ。
「何を言ってるの、白姫さん。七夕には牛郎が付き物でしょ?そして牛郎は牛を世話しているよね。」
「えっ、私の衣装って牛郎が飼っている牛って体裁なの?そこは流石に織姫にして欲しかったかな…」
そういう疑問が出てくるのも、ちゃんと織り込み済みだよ。
「大丈夫だよ、白姫さん。ちゃんと織姫の衣装もあるから!牛郎の飼っている牛をイメージしたキュートな牛柄の水着と、美しく豪華な織姫の着物。二種類も衣装があるなんて、素晴らしいでしょ?」
カップルだと割引価格が適用されるだけではなく、女性客には織姫の衣装と牛柄水着の両方の衣装代が込みになっている。
これこそが我が植写真館が売り出す、七夕情人節におけるカップルプランだよ。
しかも当プランは、効率性も売りなんだよ。
まず女性客には牛柄水着を着用して貰って、織姫の衣装はその上から着付けるの。
そして織姫衣装での撮影が終わったなら、後は衣装を脱ぐだけで即座に牛柄水着での撮影に移行出来るじゃない。
これで着付けや準備の手間と時間を大幅に短縮して、効率的に多くのバリエーションの写真を撮る事が出来るって寸法だよ。
「それなら良いけど…ところでどうして鎖で繋いじゃうかな?まさか私が拘束されている姿がバズったからって理由だけじゃないよね。」
「牛郎だって牛が逃げたら困るでしょ。キッチリ繋いでおかなくちゃ。」
実は白姫さんが指摘した事も、あながち間違ってないんだよね。
例のバニーガールの写真を撮る時に白姫さんを手錠で拘束してみたんだけど、これがかなり好評だったの。
だけど白姫さんに今後も気分良く撮影に協力して貰えるよう、セクシャルな要素よりも芸術的な肉体美を推していきたい所だよ。
「それに今回の七夕プランの宣材写真だと、牛郎の衣装を着るのは小竜君なんだよ。白姫さんも小竜君の牛郎なら、牛として引かれるのも悪くないんじゃない。」
そしてこの一言は、ある意味では白姫さんに最も効果的な殺し文句になったみたい。
「そ…それは確かにそうだけど…」
「おっ、赤くなっちゃって!良いよ、その表情!」
全く、恋する乙女ってのは羨ましい限りだね。
だけど私がこうして自分の美的センスに基づいた写真を撮影出来るのも白姫さんの恋心があってこそなのだから、二人の仲を応援したいって気持ちは本物なんだよ。
今回の撮影が終わったら、バイト代と合わせてあの牛柄ビキニも白姫さんに進呈してあげよう。
それで素敵な夏の思い出を二人で作って貰えたなら、それに越した事はないよ。