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第8話 魔王が襲来していたようです!

 私が目を覚ますと、自室のベッドの上だった。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「あれ、タウンハウス……? 王宮は?」

「王宮は大丈夫ですよ」


 最後に見た光景では、明らかに王宮はダメな感じだったのだけど。夢だったのだろうか……。


「よかったぁ。王宮が瓦礫になったのかと思いました」

「王宮は瓦礫どころか更地ですけどね。でも大丈夫です」

「……?」


 王宮が更地になったのに、大丈夫とは、どういうことだろうか?


 疑問に思いながら、笑顔を取り繕って首を傾げる私の目の前に、サラが今朝の新聞を差し出した。


『赤眼の魔王、王国に侵攻! 王宮を破壊!』


 その一面には王宮が更地になった事件についての記事が書かれていた。内容を読んでみると、赤い瞳の魔王が王宮を襲撃して、極大魔法を放ったと書かれていた。幸いにも周囲に被害はないとのこと。


「この赤い瞳の魔王って、まるでわた――」「違います! お嬢様は大丈夫です!」


 赤い瞳という身体的特徴が私みたいだと言おうとしたら、サラが食い気味に否定してきた。これじゃあ、この記事の魔王が私だと言っているようなものじゃないか。


「まったく、あのクソが『赤い瞳の悪魔がやった』などと言い出すから……」


 サラが険しい表情でブツブツとつぶやく。その内容から察するに、昨日の件は穏便に済ませると王家と辺境伯家で密約を交わしたらしい。


 しかし、ルイスが私を告発しようと失言したせいで、関係者は騒然となった。怒った父は、ルイスのやったことを仕返しに告発しようとしたが、幸いにも私を名指ししていなかったことから、全ての責任を魔王に押し付けて事態を収拾したということらしい。


「ちょうど魔国から宣戦布告されていたようで、それを根拠に、マスコミを総動員して事実をもみ消したようですね」

「怖いねぇ。でも、赤眼の魔王じゃ、私だと気付く人もいそうだけど……」

「大丈夫ですよ。魔王の容姿なんて、誰も覚えていませんからね。魔王と付けば勝手に連想してくれます」


 そうなんだろうけど、ひどい話である。王家がひどいのは今に始まった話ではないらしいけど……。


 その後、せっかく王都に戻ったので学園に顔を出すことにした。猫カフェ――じゃなくて療養で長期間休んでいたので、学園にやってきたのは久しぶりだ。


「みんな浮足立っているなぁ」

「昨日の事件がありますし、宣戦布告のこともありますから」

「それになんか、やたらと私の方を見てくるんだけど……」

「それは無視してください。どうせ証拠なんてありませんから」


 サラの言葉通り、チラチラと見てくる人はいるけど、昨日の件について尋ねてくる人は誰もいなかった。授業をいつも通りに受けて帰ろうとしたところ、ヘレン・シャイニール王女殿下からお茶会のお誘いがあった。


「王族の誘いだからなぁ。断りにくいんだよね」


 そうは言うものの、彼女は、ルイスに冷たくあしらわれている私を憐れに思っている。それで色々と便宜を図ってくれているので、元より断るつもりはない。


「この度は、まことにありがとうございました」


 お茶会にやってきた私を、ヘレンは深々とお辞儀をして出迎えてくれた。


「そんな、頭を上げてください」

「あ、すみませんわね」


 頭を上げた彼女は、立てた人差し指を唇に当ててウインクする。事情は全て把握しているようだ。


「昨日、赤眼の魔王のお陰で王宮が破壊されましたでしょう? そのお陰で王宮の警備に隙ができまして、無事に母を救出できたのですわ!」

「えっと、どういうことでしょうか? そもそもヘレン様の母は既に……」


 ヘレンの母である前王妃は既に亡くなっているはずだった。しかし救出したということは、まだ存命なのだろう。


「あ、そうですわね。私の母である前王妃は、まだ生きておいでですわ。あの卑劣な男に幽閉されておりましたの」

「幽閉?! そんなバカな……」

「知っている者は父の側近に近い一部の者のみ。エリザベス様が知らなかったとしてもしかたありませんわ」


 いくら国王でも理由なく幽閉するなど許されることではない。昨日のルイスの愚行と重なって、義憤に駆られる。


「父は、母と婚約しておりました。しかし、現王妃のマリーと浮気していたのです。しかも、『お前を愛することはない』などと言って、母がどれほど傷ついたか……」

「んん、それってルイスの話じゃなくて?」

「もちろんですわ。もしかしてルイスも同じことを?」


 彼女の問いかけに静かにうなずく。それを見たヘレンは目をつり上げて烈火のように怒り出した。


「な、何ということ! あのクズと同じことをするなんて……。やはり、あのクズの血が流れているのか!」

「殿下、落ち着いてくださいませ」


 慌ててヘレンをなだめると、少しだけ落ち着いたようで、椅子に座り居住まいを正す。


「失礼いたしましたわ。それで傷ついた母は婚約破棄を申し出ましたの。しかし、あのクズは母を凌辱し、婚約破棄を取り下げさせたのですわ! 私は、その時に生まれましたのよ。母には感謝しておりますが、忌々しい限りです」

「それって、例の噂……」

「そうですわ、王家が事実をもみ消したんですの。一部の上位貴族は知っておりますわ。母の名誉のために口を噤んでおりますけれども……」


 サラから聞いた噂だけど、もっと前の話だと思ったら、今の国王のことだった。親子二代で同じやらかしをするなんて、王国自体がヤバいのではないだろうか?


「その後、ルイスを身籠っていたことに気付いた父は、母を幽閉して亡くなったことにしたのです。そして、あのビッチを正妃として迎え入れたのですわ」


 国王がゲスすぎる。しかし、昨日の出来事を体験した今となっては、ルイスも大概だろう。


「母は無事に救出して実家に戻りました。後は家同士の話になるでしょう」


 晴々とした笑顔で紅茶を口に含むと、ヘレンは次の話題を切り出した。


「それと、魔国から宣戦布告がありましたの」

「そうですね。それで魔王が王宮を襲って来た理由になってますね」

「その宣戦布告、シャイニール王国ではないのです。モフモフ王国へのものなんですのよ」

「は?」


 彼女の口から飛び出した話は、私の想像をはるかに超えたものだった。目の前に王族がいるにもかかわらず、素っ頓狂な声で聞き返してしまい、慌てて口を塞いでしまう。そんな私の様子を彼女は微笑みながら見つめ、話を続ける。


「送られてきたのは一昨日なのですが……。昨日、事件がありましたでしょう? 偉い人たちは状況の収拾に右往左往しておりますわ」

「んん、でも何でモフモフ王国に?」

「魔国の話ではモフモフ王国はシャイニール王国の属国ということらしいですわ。ですが、あっさり撃退してしまったみたいですわ」

「いやいや、モフモフ王国は猫カフェの名前ですよ!」


 怪訝そうな表情で話をしていたヘレンが、仰天して目を丸くしながら両手を挙げる。


「ええっ? 一体どういうことなのかしら……?」


 それは私の方が知りたい。猫カフェがどうやって魔王軍を撃退したというのか。


「これは一度、行って確認するしかないわね……」


 王都に来たばかりだけど、戻る必要がありそうだ。 ふと彼女を方を見ると、目の光が消えていた。それはヘレンばかりでなく、私とサラを除く、周囲の侍女や護衛も目が虚ろになっている。


「お迎えに参りました」

「えっ、イナリ?」

「先日、お客様がようけお越しやしたんやけど、ちょっとした問題が起こりましてん」


 イナリのいうお客様は、恐らく魔王軍のことだろう。撃退したと聞いていたけど、問題があったらしい。猫カフェが軍隊を撃退したという事実からして問題ではあるのだけど……。


「わかったわ。すぐに行きましょう!」

「お嬢様、私も付いていきます!」

「ほな、うちの背中に乗っておくれやす」


 私とサラがイナリの背中に乗ると、モフモフ王国に向けて駆け出した。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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