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第7話 触らぬ悪役令嬢に祟りなし!

「婚約って破棄して――なかったわ」


 色々あって婚約破棄するのを忘れていた。元々、猫カフェをやりたいと伝えていた父からは、王太子の婚約者であることを理由に認められていなかった。その時に「婚約が破棄されたら、猫カフェでも何でも認めてやる。何なら支援もしてやってもいいぞ。わははは」と言っていた。


 そのために虎視眈々と婚約破棄の機会を狙っていた私が目を付けたのが、先日のイベントであった。あの時は舞い上がって、勢いのまま父に詰め寄った。結果として、無事に猫カフェを開くことができたわけだけど……。


「マズい、マズいわ。何としても婚約破棄したことにしなければ……」


 ここで父に、実は婚約破棄をしてませんでした、なんてことがバレたら大変だ。勢いで押し切ったので、今度は返せと言われる可能性もないとは言えない。


「行かないという選択肢はないですね。あとは、どうやって婚約破棄を主張するか……」

「そちらは問題ありません。ロバートがすでに手続きは行っております」

「さすがはサラ。ということは、婚約破棄に対しての話し合いか……。行かないという選択肢は取れないかな?」

「正直おススメできませんね。王家のことですから、間違いなく破棄を取り消すでしょう」

「えっ、私がいないのに?」

「いないから、です。決めておいて、後で了承を取るということにするでしょうね」


 ロバートのおかげで、婚約破棄を忘れていたという懸念は払拭された。しかし結局のところ、王都に行かなければ婚約破棄を取り消される可能性があるとのこと。正直面倒だけど行かざるをえないだろう。


「王都に行くなら、俺が乗せて行ってやるニャー!」

「ダメどすえ。わらわを置いていくなんて、ほんま許しまへんえ!」

「お願い、イナリ。すぐに戻るように言うから!」

「しゃあないなぁ。ほな、これを使いまひょか」


 王都に行きたいキャトラに、イナリが霧を輪にしてキャトラの首にはめる。


「これで逃げられへんようになるだけやのうて、用事が済んだらすぐに戻らんとあかんようになりますえ」

「何するんだニャー! 外すニャー!」


 キャトラが外せと騒ぐけど、それでイナリが納得するなら問題ない。


「それじゃあ、すぐに行くからよろしく!」

「ううう、俺に自由が無いニャー」


 キャトラの背中に私とサラが乗る。留守番になるロバートとイナリにしばしの別れを告げて、私たちは一路王都へと向かう。


「それでは、行ってまいりますわ! 何かあったら、連絡はお願いしますわね!」

「かしこまりました。お嬢様。無事をお祈りしております」


 キャトラは凄まじいスピードで王都へと突っ走る。山道を通って、わずか半日で王都までたどり着いてしまった。王都に現れたホワイトタイガーに住民たちは大パニック。衛兵に追い回されながら、私をタウンハウスに降ろすと、そのまま衛兵を引き連れてモフモフ王国へと帰っていった。


 ◇


 翌日、私とサラは話し合いのために王宮へと向かった。すでに話は通っているらしく、応接間のような部屋に通される。しばらく待っていると国王とルイスが部屋に入ってきた。


「婚約破棄の件だが、どうやら意見の相違があったようだ」


 国王が真っ先に切り出してきた。意見の相違と言われても、まったく身に覚えがない。そもそも勘違いする要素も何もないのだが……。


「意見の相違というのは……。婚約しておきながら、堂々と浮気現場を見せつける行為のことでしょうか?」

「なっ、どういうことだ!」

「お前ッッ!」


 国王がルイスをにらみつけ、ルイスが私をにらみつける。さすがは親子である。もっとも、ルイスににらみつけられても怖いと思ったことなど一度もないけど。


「別にいいんじゃないでしょうか? ユメリア嬢も聖女候補の一人ですよね?」


 シャイニール王国では、王族の年齢に合わせて魔力の高い女性を聖女として認定する習わしがある。私もユメリアも条件を満たしているので聖女候補なんだけど、私の魔力が高すぎるせいで早い段階から婚約者にされた。


「ダメだ! 同じ聖女でも、差が圧倒的すぎる。他の人間を婚約者にするなどありえん!」

「ユメリア嬢は、私と同じくらい魔力が高くなりますよ?」

「でまかせを言うな! 魔力が高くなるなどあるわけなかろう!」


 話を聞くかぎり私でないといけない理由は魔力の高さ。原作を知っている私からすれば、ユメリアも私と同じくらい魔力が高くなる。そのことを伝えたけど、当然ながら信じてもらえない。後天的に魔力が上がることはないと思われているからね。


「ともかくだ! 婚約破棄を決める前に、一度二人で腹を割って話をするべきだ! いいなッッ!」

「それは、国王命令ですか?」

「当然だ! 国の未来に関わるのだからな!」


 王命と言われれば、貴族令嬢である私に選択肢はない。ため息をついて、侍女に案内されるまま別室へと移動した。侍女は紅茶を淹れると、すぐに退室した。


「そう言えば、前に王家との婚約を破棄をしようとした令嬢が、婚約者に襲われたという噂があるって言ってたわね」


 少し前にサラが注意するようにと前置きをしながら、そんな噂を教えてくれた。結局、その令嬢は婚約破棄を撤回する羽目になったらしい。その話を聞いていた私は、紅茶に手を付けず、ルイスがやってくるのを待っていた。


 かなり遅れてルイスが部屋に入ってくる。彼は椅子に座るより先に不躾な要求をしてきた。


「さすがに婚約破棄はマズいだろ? 大人しく撤回しておいた方が身のためだぜ」

「はあ……。別にマズくはないでしょ。むしろ清々するくらいだわ」


 入ってくるなり上から目線のルイスに苛立ちを覚え、突き放すようにため息をついた。私の答えが気に入らなかったのか、顔を醜く歪ませたルイスが私に掴みかかってくる。


「うるせえ、そんなに愛して欲しいなら、愛してやるよ。今からな!」


 サラの注意していた噂通りのことをすると思っていなかった私は、反応が遅れてしまう。しかし、身体強化で十分取り戻せる範囲――。


「あ、あれっ? くっ……」

「くくく、この部屋には魔力阻害薬が充満している。長い時間、部屋にいたお前は魔法を使うことなどできまい」


 身体強化のために動かした魔力が私の制御を離れて暴走し始める。内側から体を破って飛び出しそうな魔力の奔流に、思わず顔をしかめてしまう。


 苦しさのあまり膝をついた私をルイスが勝ち誇った顔で見下ろしていた。


「くっ、卑怯な男め!」

「くくく、立ち上がることもできねえか。それじゃあ行くぜ!」


 私の体を捉えようと伸ばされたルイスの手が弾かれる。あまりに勢いよく弾かれたことにより、彼の腕はあらぬ方向へと曲がり、肩から外れてしまった。


「ぐああああ! 痛い、痛い! な、何をした……?!」


 狼狽しながら問い詰めてくるルイスに、私は何も答えなかった。いや、魔力が暴れ回っていて、答えることすら難しい。


「黙ってないで答えやがれ! うわああああ! ぐはぁっ!」


 痺れを切らしたルイスが私に向かって飛びかかってくる。しかし、暴走して身体から漏れてくる膨大な魔力によって、弾かれ、壁に叩きつけられてしまった。


 その間も、魔力の暴走は酷くなる一方。ついには壁や天井にヒビが入り始める。


「な、何事ですか!」

「サ……サラ!」

「おい、お前ッ! 何とかしろッッ!」


 血塗れのサラが衛兵の襟首を掴みながら、血相を変えて部屋に飛び込んできた。普段なら冷静に対処する彼女も、異常事態を察したのか手心を加える余裕がなくなっているように見える。


「死にたくなかったら、そこのボンクラを連れて、早く外へ逃げろ!」


 衛兵たちは、よろめきながら立ち上がり、ルイスを支えながら、ふらつく足取りで入口へと歩いていった。


「お嬢様、魔力を抑えることはできますか?」

「厳しいかも。この部屋に魔力阻害薬が充満しているみたいだし……」

「クソがっ。しかたありません。私とロバートで王都への被害を食い止めてみせます!」

「頼みますわ!」

「お嬢様もご無事で……」


 サラでも私を取り巻いている膨大な魔力で近づくことすらままならない。かといって、私は魔力暴走のおかげで立ち上がることすらできなかった。しかたなく、サラは王都への被害を抑えるべく、悲痛な表情をしながら部屋から出ていった。

 ルイスは捨て台詞を吐きながら部屋から出ていった。私もそろそろ限界が近い。


「うわああああ!」


 その言葉と同時に私の体から膨大な魔力が嵐のように吹き荒れた。王宮の壁も天井も、その魔力の奔流に耐えきれず、瓦礫となって空へと吹き飛んでいく。


 そして、魔力を使い果たした私の意識は、昏い闇の底へと落ちていった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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