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第6話 しっぽがモフモフの狐が加わりました!

 最初の客であるシャルダンを多少のトラブルがあったものの、無事におもてなしできた。モフモフ王国が次のステップへと進む手ごたえを感じる。


「とはいうものの、お客様が全然来ないですよ」

「当たり前ニャー。あの日は大惨事だったニャー」

「その大惨事を引き起こしたのはキャトラでしょ。反省して!」


 その多少のトラブルにお客様の腕がポッキリと折れる事態が発生した。キャトラが全て悪いわけではないのだけれど。


「その言い方は酷いニャー」

「まあまあ、お客様の趣味だったわけですよね?」

「世の中には奇特な方もいらっしゃいますので」


 私がキャトラを責めるのを、サラとロバートがたしなめる。そう、彼は大怪我をすると知っていて、あえて腕を折られにいった。明らかに痛めつけられるのを望んでいたわけである。


「そうなんですよね。趣味では厳しいですね。お客様の希望に応えないわけにもいきませんし……」


 腕を組んで思考を巡らす。そういった客に対応するのが悪いわけではない。しかし、その度にポーションを使うのも利益を圧迫するため、今後は費用にポーション代も実費で貰うようにすべきだろう。


 そんなことを考えていると、突然キャトラが跳ねるように立ち上がった。


「こ、この気配は、まさか、ヤツが来たのかニャー?」


 普段から大きいキャトラの目が、さらに大きく見開かれる。全身の毛が逆立っていて、好ましくない相手なのだろうということが伝わってくる。


 気になった私は、外の気配を探るとキャトラに匹敵するほどの強者の気配が感じ取れた。


「これは一体……」

「お嬢様、これは!」

「かなりの強者ですな」


 サラとロバートも気配を感じ取ったらしく、警戒心を露にする。その気配はまっすぐにモフモフ王国に近づいてきて――。


「トラオ! わらわが来てやりましたえ!」


 勢いよく扉を開けて、たくさんの尻尾を生やした狐が中に入ってきた。


「何者?!」

「やっぱりキュウビだったニャー!」

「トラオ、うちと一緒に参りましょか」


 狐はキャトラの尻尾を咥えて連れていこうと引っ張る。キャトラは柱にしがみついてピクリとも動かない。


「放すニャー! 俺の居場所はここだけなんだニャー! 名前もトラオじゃなくてキャトラなんだニャー」

「ほんま、いけずやわぁ! こんなにも愛してるのに、ほんまに切ないわ……」

「まあまあ、落ち着いてください。キャトラはここの従業員ですので」


 単純な力比べならキャトラの方が上だろう。しかし、尻尾を引っ張られていては、篭絡されるのも時間の問題。見かねた私が仲裁に入ると、狐がにらんできた。


「なんやの、この女。もしかして浮気しはったんどすか?」

「違います!」「違うニャー」

「なんや、ちょっと怪しい感じやなぁ。とりあえず死んでもらいますえ」


 否定したものの疑惑を晴らすまでには至っていないようで、不穏な言葉と共に狐の体から霧のようなものが出て、辺りに立ち込める。


「なんか変な霧が出てきたんだけど……」

「えっ? なんで効いてへんのどすえ?」

「効くも何も……。あれ?」


 ただの霧だと思っていたけど、よく見たら、サラとロバートの目が虚ろになっていた。


「わらわの幻覚に囚われておりますえ」

「一体どういうつもりですか? 勝手に浮気を疑って、無関係な人に手を出すなんて……」

「何を仰いますやろ。これこそが、わらわの愛の深さ…心の底から湧き出る想いどすえ」


 狐が愛を自信に満ちた表情で語るのを、私は鼻で笑い飛ばした。


「ふん、この程度で愛なんて、笑わせてくれるわね」

「何を仰ってはるのやろか? わらわの愛に勝てるお方など、この世におりまへんえ」

「全然違います。 愛は大きさじゃなくて、深さなんですよ。それが分からないから、あなたの愛は浅い、というのです」


 私は狐に向かって、腰を低く落とし、身構えた。そして、不敵な笑みを浮かべ、狐の目をしっかりと見据える。


「愛というのは与えるもの、そして慈しむもの。私が手本を見せてあげますよ!」


 素早く狐の背後に回り、九本ある狐の尻尾に自身の体を埋める。そして、両の掌で尻尾を撫でて、その感触を楽しんだ。


「な、何を――ああっ!」


 悠然としていたのも最初だけ、すぐに狐は大きく目を見開いて体を震わせる。


「そんな……。わらわの身の内を、熱き何かが駆け巡っておる……。まるで、情の奔流のよう……」


 苦しそうに身もだえしながら、狐は必死に何かに耐えているように見えた。私のモフモフ愛によって、狐はあっさりと陥落してしまう。


「あああっ、やめておくれやす!」


 こんなフサフサの尻尾、どう考えてもモフモフしてくれと言っているようなもの。さっきまでは険悪な雰囲気で難しかったけど、今の私は狐の幻覚に囚われてしまっているからしかたない。


「幻覚に囚われちゃってますから、しかたないんです!」

「ほんまにやめておくれやす! わらわの負けどす! 堪忍しとくれやす!」


 霧が消えてサラとロバートが正気を取り戻した。


「お嬢様……」


 そんな彼らの目に真っ先に飛び込んできたのが、私が狐の尻尾をモフモフしている姿なのだから、呆れるのもやむなしだろう。


「相変わらず、モフモフが絡むと残念になりますね……」


 半眼になって見つめるサラの視線に居た堪れなくなった私は、慌てて立ち上がる


「コホン。うん、合格です!」

「何のことどすか?」

「残念なヤツだニャー」


 私の言葉にキョトンとする狐。キャトラは呆れたように首を横に振っていた。しかし、キャトラの余裕はここまでだった。


「是非とも、モフモフ王国で働いていただきたい」

「ここで働け、というんかえ? このわらわに!」

「働くと言っても、何かする必要はないですよ。自由にしてもらって、それを愛でるのが猫カフェですから!」

「キュウビもここで働かせるつもりかニャー?! ダメニャー!」


 狐をスカウトしてみる。働くと聞いて剣呑な雰囲気を漂わせるも、詳しく説明すると何かに納得したようにうなずいた。一方のキャトラは狐が従業員になりそうな雰囲気を感じ取って、あからさまに嫌そうな顔になった。


「なるほどやなぁ、せやからキャトラも『働いてる』言うてはるんどすな。『働いたら負け』言うてた人が働いてはるさかい、おかしい思うてましたえ」

「そんなことないニャー! 俺は毎日頑張って働いてるニャー!」


 客が来ないから、毎日食う寝る遊ぶですけど。でも狐も好意的に捉えてくれてはいるようだ。


「かしこまりましたえ。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたしますえ!」

「こちらこそ、よろしく!」

「あああ、俺の楽園が終わるニャー」


 狐もモフモフ王国に加わってくれることになってほくほく顔の私に対して、キャトラはこの世の終わりのような顔になってベターっと地面に潰れてしまった。


「それじゃあ、契約のために名前を付けますけど、いいですか?」

「大丈夫どすえ。はよう、しておくれやす」

「それじゃあ。名前はイナリでどうだ?」

「ふふふ、それは良うおすなぁ。こちらこそ、これからわらわのことはイナリと呼んでおくれやす」


 イナリが私の前に右手を差し出す。それを取って握手を交わした。


「お嬢様、婚約の件について、王宮に来るようにと連絡が来たそうです!」


 良い感じにイナリが入ってくれたところで、嫌な報せが飛び込んできた。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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