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第4話 最初のお客さんがやってきました!

 その日は朝から街の様子がおかしかった。辺境も辺境、王国の最果てにあるような場所に、旅人のような装いをした男がやってきたからだ。彼は街の人にモフモフ王国がやっていることなどを街の人に訊ねたりしていた。なぜか魔国へ侵略するつもりなのかと尋ねて、当然のように笑われていたけど。


「これは……お客様の可能性が高いわね」


 モフモフ王国を知っているということは、彼はチラシを見たと考えて間違いない。それを見てやってきたのであれば、客であることは確実。近いうちに来店するだろうと考えた私は初めての客である彼の接客計画を頭の中で立てることにした。


 その日の晩、早くも彼に動きがあった。店に何者が近づいてきている気配を感じた私が外に出ると、彼がモフモフ王国へ慎重な足取りで向かっていた。キャトラも気配に気付いたらしく、いつの間にか隣に座っていた。


「なんだニャー。客でも来たのかニャー?」

「少し動きは不審ですが、お客様ですよ!」


 サラとロバートに動きが無いのを不思議に思いつつも、接客の準備を進める。キャトラには先に中で、私が彼の背後からついていき、挟み撃ちで出迎える。


 彼は周囲の様子をうかがいながら、扉を静かに開けて中に入る。続いて私も中に入り、元気よく声をかけた。


「いらっしゃいませ! ようこそ、モフモフ王国へ!」

「ひぃっ!」


 彼はビクッと肩を跳ねさせ、短く悲鳴を上げる。振り返った彼のフードの中からわずかに顔が見えた。


「あ、魔族の方ですね! ささ、どうぞ奥へ!」


 王国と敵対してはいるけど、客であることに違いはない。丁寧な接客を心掛けながら、彼を奥へと案内する。


「し、し、失礼しましたァァァァァァ!」

「お、お、お客様?!」


 丁寧な接客をしたはずなんだけど、急に悲鳴を上げて逃げ出してしまった。咄嗟のことで反応が遅れたのもあるけど、彼の動きは予想以上に速かった。


「きっちり接客したはずなのに……なぜ?」

「気配消して背後から近づいたら、びっくりするに決まってるニャー」


 翌朝、彼の話を切り出すとサラもロバートも驚いていた。気配に気付かったことから相当な手練れだと思っている。私が声をかけただけで逃げてしまったので。大したことなさそうなんだけど……。


 意外なことに、彼がふたたび来店したのは次の日の夜だった。サラとロバートが見張りに立とうとしたけど、来るかわからなかったので止めておいた。


 昨晩よりも慎重に、特に背後に注意を払いながら歩いてくる。背後を取るつもりなんてないから、無駄だと思うんだけど。


「今日は正面から出迎えます!」

「そういう問題じゃないと思うニャー」


 今日は私もキャトラも中で待機する。挟み撃ちにならないので逃げられる可能性は上がるけど、警戒されるよりはマシというものだ。しばらく待っていると、扉が開いて彼が中に入り少し進もうとしたところで、勢いよく振り向いた。扉に歩み寄って静かに閉める。


 私は彼の方に歩み寄って、まだ振り向いたままではあるけど、元気に挨拶をした。


「いらっしゃいませ! モフモフ王国へようこそ!」

「ひっ! あ、あ、あんたは一体……」


 甲高い悲鳴を上げて、彼は私の方に向き直る。生唾を呑み込み、震える声を必死で抑えながら言葉を紡いでいた。


「私は……、そう店長ですかね?」

「なるほど……。ちなみに、ここで一体何をやっているんだ?」


 何をやっているんだ、と聞かれても困るんだけど……。お客様の疑問に答えるのもスタッフの務め。懇切丁寧に教えることにした。


「こちらは猫と触れ合って癒されたいお客様をお待ちしているのです。そう、あなたのような!」

「猫? 猫って、あの動物の?」

「あ、そうですね、本来は。猫って可愛いじゃないですか。それと愛でて癒されるんです」


 私の言葉に彼は胸を撫で下ろして、大きく息を吐きだす。


「ちなみに、触れ合うとは具体的にどうするんだ?」

「そうですね。甘噛みされたり、顎の下を撫でたり。モフモフの体に顔を埋めたり、とお好きなように、ですね」

「むむ、試してみることはできるのか?」

「お試しはやってないですが、一時間250ゴールドですので、まずは一時間体験してもらうのがいいでしょう」


 彼は顎に手を当てて考え込んでいたけど、すぐに結論が出たようで、お金を差し出してきた。


「それじゃあ、一時間でお願いできるかな?」

「毎度ありがとうございます! それじゃあ、奥へどうぞ!」


 彼を奥にいるキャトラの前に案内しようとして、突然悲鳴を上げだした。


「うわああああ!」

「お客様? どうかなさいましたか?」

「猫って言ったじゃないか!」

「ええ、こちらがうちの自慢の猫スタッフです!」


 説明をして彼を落ち着けようとするけど、まったく落ち着く気配がなく、それどころか全身がガクガクと震えている。


「猫じゃないって言ってるニャー!」

「しかも喋った?!」

「はい、こちらは珍しいホワイトタイガーなんですよ」


 どうやら、猫カフェに慣れていないようなので、まずは私が手本を見せてあげることにする。まず左手を差し出すと、キャトラが大きく口を開けて、私の左手に嚙みついた。


「こうやって猫に甘噛みされるのもいいですよ。ほら、私の手を餌だと思って食べようとしているみたいで可愛いですよね?」

「……」


 キャトラに甘噛みされながら、右手で顎の下を撫でる。キャトラは気持ちよさそうに目を細める。普段だと止めろと言われるんだけど、今日はお手本だからキャトラも大人しい、まさに役得。


「こうやって撫でると、気持ちよさそうに目を細めるじゃないですか。撫でている手もサラサラの毛で気持ちいいんですけど、こうやって気持ち良さそうにしている姿も可愛いですよね?」

「……」


 その後は、頭や背中、尻尾の付け根などを撫でる。最後に右手をキャトラの前に出して動かすと、左右の前足でじゃれつき始める。


「こうやって動かすと、獲物だと思ってじゃれつくんです。これもいいですよね?」

「……」


 一通り遊び方を説明した私は、彼に向き直って笑顔を浮かべる。


「大体、こんな感じになります。それでは、今から一時間ではありますが、ごゆっくりお楽しみください。ちなみにドリンクはコーヒーと紅茶だけになりますが、お申し付けください」


 私は優雅にお辞儀をすると、彼の楽しむ邪魔にならないように入口の方へと下がった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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