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第3話 『もふもふ王国』オープンです!

「殺せ、殺せぇぇぇ!」

「奪い取れぇぇぇ!」


「負けるな!」

「しっかりしろ!」


 男たちのゲスな大声と獣人たちの仲間を思いやる声が交錯していた。


「いかがなさいますか?」

「決まっているでしょ。私はモフモフの味方なんだよ」


 私の決定にロバートがうなずき、戦場へと向かう。


「かしこまりました。では行ってまいります。サラはお嬢様の護衛を」

「かしこまりました!」

「俺も行ってきていいかニャー?」

「獣人には危害を加えちゃダメだよ」

「わかってるニャー!」


 なぜかキャトラも行くと言い出したので、獣人に危害を加えないことを条件に許可する。モフモフであるキャトラであってもモフモフを傷つけることは許されることではない。


 ほぼ拮抗していた戦場は乱入者によって天秤が大きく傾いた。山賊たちの集団に突撃したキャトラは、その巨体が動くたびに山賊たちを吹き飛ばし、山賊たちの表情を恐怖の色に染めていく。そんな状況では、ボスの叱咤の叫びも虚しく響くだけだった。


「簡単に逃がすとでも?」


 逃げようとする山賊の前にはロバートが立ち塞がる。かつては凄腕の暗殺者だった彼の手に握られた二本のナイフが雑草のように首を次々と斬り落としていく。


「くそっ、こうなれば一騎打ちだ。俺と一騎打ちで勝負しろ!」


 山賊のボスが一矢報いようと一騎打ちを要求してくる。そんな要求を聞き入れる理由などないのだけど、辺境伯家の人間は熱い戦いが大好きなのだ。


「ここはやはり、私が出るべきでしょう」

「いけません、お嬢様。ここは私が」

「いえいえ、女性を決闘に出しては私の名折れでございます」

「俺が戦うニャー!」

「そこのガキ、お前が相手だ!」


 誰が出るか揉めているところにキャトラが加わり、緊張感が高まる。しかし、勝負を決したのはボスの一言だった。


「指名もらちゃあ、断れませんよね!」

「ズルいニャー!」

「卑怯です!」


 見た目だけは華奢で弱っちく見える私が選ばれた。実は一番強かったりするけど、さすがボス。見る目があるね。私が前に出てボスと向かい合う。ひりつくような緊張感が漂う。


「どうせお嬢様の勝ちですよ」

「そうですな。余裕でしょうな」

「俺もそう思うニャー」


 しかし、外野のヤジで雰囲気ぶち壊しであった。真横に構えたロングソードの刃に立てた二本の指を走らせる。腰を低く落として左手を前に右手を後ろにして剣先を相手に向ける。片手一本突きの構えだ。


「かかってきなさい」

「うおぉぉぉぉ!」


 ボスが幅広の剣を振り下ろすよりも先に、身体の向きを変え、腕を伸ばし、ボスの喉に向けて突きを放つ。圧倒的な間合いを詰めながら、光速の突きがボスの喉を貫いた。


「ふっ……」


 先ほどと同様に刃に二本の指を走らせ、鞘に収める。決まった、だが、一騎打ちで勝利を収めた私を称える者は誰もいなかった。サラとロバートとキャトラは、勝って当然だろう、という雰囲気を出しているし、獣人たちに至ってはキャトラの前に集まって跪いている。


「神獣様。お助けいただきありがとうございます!」

「どういたしましてニャー」

「つきましては、我ら一同全力で神獣様のお力とならせていただきます!」


 ボスを倒したのは私なんだが……。獣人たちにおだてられて気を良くしたキャトラは右の前足で私を指差した。


「俺はこいつの手伝いをすることになってるニャー。お前たちも、こいつを手伝うニャー」

「なんと、神獣様がお手伝いを?」

「そうニャー。こいつは俺のための場所を作ってくれる約束ニャー」


 彼らの崇めるキャトラを働かせていると勘違いした獣人たちが私をにらみつける。しかし、その目的がキャトラの居場所を作るためということが分かり一気に態度が軟化した。現金がやつらである。


 経緯はともかくとして、彼らは猫カフェの開店準備を手伝ってくれた。主には看板と内装づくりで、中でも専用の特製巨大座布団はキャトラもお気に入りの一品である。


 その間の私たちはというとモフモフ王国のチラシ作り。


 キャトラの肉球スタンプが押された紙の上の方に、新しくモフモフ王国が誕生しました、というキャッチコピーを書く。


 その下に地図を描いて魔国と王国と帝国に囲まれた地域の中心――ちょうど城のあるあたりに矢印を入れて場所がわかるようにしたシンプルなものだ。


「それでは、このチラシを使って魔国でモフモフ王国の宣伝をしてくれますか?」

「「「お任せください!」」」


 宣伝する先を魔国にするのは、この場所が王国からだと不便な場所にあるというのが一番の理由だ。それに王国は人族至上主義で獣人は差別されやすいのも大きい。それに加えて、元々この辺りは魔国だったため、獣人たちも動きやすいだろうと思ってのことだ。


「あとはお客様が来るのを待つだけですね」


 私は未来の客に思いを馳せながら、城の屋上から魔国の屋上を眺めていた。


 ◇


 ――魔国の首都デモリスにある魔王城、謁見の間にて。


「魔王様、大変でございます!」

「どうした?」


 魔王ゴルゴンゾーラの元に、宰相であるカマンベールが一枚のチラシを手に駆けこんできた。


「我が国の目と鼻の先にある王国の土地に、新しい王国ができております!」


 チラシには、新しくモフモフ王国が作られたことを喧伝する内容が書かれていた。チラシにはモフモフ王国の紋章と思われる巨大な肉球を模した意匠が施されている。その土地が本来シャイニール王国の土地であることを考えると、新しい属国だと考えるのが自然だった。


「とうとう、我が国に本格的に攻め込むつもりでしょう。いかがなさいますか?」

「まずは敵情視察だろう。シャルダンを呼べ!」

「あ、あの男を? それは過大評価しすぎでは……」

「それに値する脅威だということだ!」


 魔国諜報部長官であるシャルダンは潜入、調査、暗殺、謀略などをこなしてきたベテラン諜報員でもある。長官となって一線を退いたものの、その実力は健在だ。魔王の前にやってきて跪く姿も叩き上げとは思えないほど優雅なものである。


「魔王様。本日はどのような用件で?」

「モフモフ王国は知っているな? 俺の勘が非常に危険であると告げている。そこで、お前が潜入して内情を調べてこい」

「私が、でございますか?」


 一線を退いた自分が指名されたことを訝しんで眉がわずかに上がる。


「もちろんだ、モフモフ王国は魔都から近い。そこに戦力が集まっているとすれば、間違いなく攻め込んでくるはずだ」

「かしこまりました。かような危機なれば、私自ら任に当たりましょう」

「頼むぞ」


 シャルダンは一礼して魔王の前から下がり、その足でモフモフ王国へと向かった。旅人に扮して、城の周りの獣人たちに聞いても要領を得ず。食い下がると城を指差して、実際に見て確かめればいいと言われる始末だった。


「モフモフ王国に直接乗り込むか……」


 シャルダンは密かに潜入の準備を始めるのだった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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