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第29話 勇者対策は万全にいたします!

「そうですか……。第四の精霊の祠も攻略いたしましたか」


 赤眼の魔王討伐へと旅立ったルイスたちの動向は逐一、エリザベスにもクラウゼル公爵から伝えられていた。


「サラ。モフモフ王国デモリス支店はルナの眷属に任せて、ルナにはこっちに来るように伝えてください」

「かしこまりました、お嬢様」


 力を付けてきているルイスたちに対抗するには、ルナを除いた三匹では不安が残る。彼らを受け止めるにはルナの力も必要になるだろう。まだ四つ目を攻略したばかりだから、時間的には猶予があるはず。


「実際、四つ目までは楽なんだよね。エンディング見るのに攻略しないといけないから」


 表のボスである魔王を倒すのに必要な四つ目までと違って、五つ目以降、特に七つ目の精霊の祠の難易度は非常に高い。隠しエンディングを見た人ですら、裏ボス倒すより難しいと言われることもあるくらいだった。


「難しいとはいえ、攻略不可能というわけじゃないし。精霊の祠の攻略は時間の問題。あとは聖剣、か……」


 精霊の祠による強化に比べれば、聖剣による強化はごくわずかだが――。


「聖剣を覚醒するということは、ヘレンやヘルミーナ様に危害が及ぶということ。聖剣自体は何ということもありませんが……」


 顎に手を当てて思案する。公爵家の軍隊も弱いわけではないが、一騎当千のルイスたちを相手にするには力不足。そして二人が公爵領にいる可能性が高いのは、ルイスたちも把握しているだろう。


「しかたありません。ヘレンとヘルミーナ様には、魔都デモリスに移動してもらいましょう」

「大丈夫なのですか? 魔国とは敵対しておりますし、御二方は……」


 私の意見に、それまで静かに聞いていた公爵の使いが尋ねてくる。ヘレンもヘルミーナも魔国と敵対する原因となった勇者の血を引く者。それを敵の懐へ送るのは心配して当然だろう。


「大丈夫よ。二人を送るのは、モフモフ王国のデモリス支店。いくら相手が勇者の子孫だからと言って、私との約束を破ってまでして、私の友人やその母に危害を加えることはないでしょう」

「……わかりました。閣下には、そのように伝えておきましょう」


 私の言葉に、公爵の使いはしばし考え込む。その間に、あらゆるリスクとリターンを考え尽くしたのだろう。全面的に受け入れたくないが、受け入れる方が安全というギリギリの判断でうなずいたように見えた。



「久しぶりなのじゃ!」


 公爵の使いが帰ってからしばらくして、サラがルナを連れて戻ってきた。ゴスロリ衣装の黒髪幼女が、まさか最強の魔獣の一角であるフェンリルだとは誰も思うまい。


「ルナ、久しぶり。クロードとサラもお疲れ様でした」

「勿体ないお言葉でございます」

「クロードだとメチャクチャ早いですね。往復で二時間かかりませんでした」


 キャトラたちでも馬車よりは圧倒的に早い。しかし、空を飛べるクロードに比べたら倍以上かかる。四匹が揃ったところで、さっそくルイスの件について打ち合わせを行うことにした。


「聞いているかもしれませんが、ルイスが勇者として新生シャイニール王国を旅立ちました。向かう先は、ここモフモフ王国です」

「それは、浮気した元婚約者ではなかったのじゃ?」

「ええ、そうですね。王宮を破壊した件を持ち出し、私を魔王に仕立て上げて討伐するそうです」


 私の言葉を聞いた全員が怒りに表情を歪める。それもそのはず、彼らのやっていることはいわゆるマッチポンプ。自分で放火した火を消して、それを成果とするような非道な行いだからだろう。


 ――討伐できれば、の話だが。


「俺たちは、そいつらをボコボコにしてしまえばいいのかニャー?」

「いえ、モフモフ王国と名乗って、なし崩し的にクラウゼル王国の庇護下の国にされてしまいましたが、あくまでモフモフ王国は猫カフェです。猫カフェの役割とは何か――それは癒しに他なりません。たとえ相手が討伐しに来たとしても、私たちは彼らを癒し、満足して帰っていただかないといけないのです!」

「具体的にどうするのかニャー?」


 私の言葉にキャトラは疑問を投げかける。私はキャトラに微笑みかけると、話を続けた。


「いつもと一緒です。前に魔王軍がやってきた時と同じことをすればいいのです」


 その一言で、その場にいた全員が納得の表情を浮かべる。私たちにとって、今回のことは初めてではない。すでに一度は経験したこと。何も恐れることは無いはずである。


「しかし、彼らは魔王軍と違って強敵です。殺さないようにと、魔王軍の時には手加減してもらいましたが、今回は手加減無用です。全力でやっても死ぬことはありませんので!」


 キャトラたちから歓声が上がる。手加減する心配をせずに自由にできるということなど、モフモフ王国に来て初めてのことだったからだ。


「ですが、危険なのはこちらもです。もしかしたら、こちらが逆に返り討ちに遭うかもしれません。その時は無理せずに撤退をしてください」

「わかったニャー!」

「わかったのじゃ」

「わかりましたえ」

「了解した」


 七つの精霊の祠を攻略したユメリアの魔力と、それによる支援効果を考えると、決して油断できる相手ではない。だけど、このまま猫カフェとしての役割を放棄してしまえば、ヘレンの目論見通りとなってしまう。


「ヘレン殿下には申し訳ありませんが、モフモフ王国は猫カフェですのよ。何でも思い通りにさせる訳にはまいりませんわ」


 見上げた虚空に浮かび上がるヘレンを見ながら、私は拳を固く握りしめた。

この作品を読んでいただきありがとうございます。

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