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第28話 勇者の旅立ちです!

「ど、どうするんですかぁ。ルイス様ぁ!」

「落ち着け、ユメリア。とりあえず、魔王を討伐する必要がある。このまま魔王の所に行って俺たちの力を見せつけるんだ!」


 追放されたことで、うろたえているユメリアをなだめつつ、魔王をサクッと討伐するプランを提案する。しかし、ユメリア以外の四人からは反応が無く、ユメリアに至ってははっきりを首を振って、ルイスのプランを否定した。


「無理に決まってます。聖剣は覚醒していないですし、精霊の祠も一つしか攻略していないじゃないですか。圧倒的に力不足なんです!」

「攻略しないとダメなのか?」

「相手はあの裏ボ――、魔王だから、まだ弱いのかも?」

「今から残り六つを攻略するのは時間的に厳しい」

「いえ、魔王なら全部で四つ。残り三つ攻略すればいけるはずです! 簡単な祠三つなら、かかる時間は圧倒的に少なくなります!」


 ユメリアの提案に、ルイスが勝ち誇った笑みを浮かべる。ガルド、クラウス、ロナウド、アーレシアの四人は、先日の地獄を思い出したのだろう。顔面蒼白にしてうつむいていた。


「なに、心配するな。俺たちにはこれがあるじゃないか!」


 ルイスが自信満々にソウルストーンを掲げる。先日、手に入れたチートアイテムだ。もちろん四人ともソウルストーンを持っていて、その効果も体感済みだった。


「これがあれば死ぬ心配はいらない。攻略には何も問題は無いだろう」


 気楽そうに言うルイスに四人は顔を見合わせ、ルイスに向き合う。そして、ロナウドがルイスに向かって申し出た。


「悪いけど、これは死なないわけじゃない。死んでも生き返るだけだ。そこまでして頑張っても、僕たちには何のメリットもない。降ろさせてもらうよ」

「なんだと?! 勇者である俺の役に立つというメリットがあるじゃないか! それに、俺が国王に返り咲いた暁には、側近にしてやるぞ!」


 当然のようにメリットだと主張するルイスに、ロナウドは首を振る。


「全然釣り合ってませんよ。あの時みたいな祠を三つでしょう? とても割に合いませんね」

「ぐぬぬぬ……」

「では、一つならいかがですか?」


 押し問答を続けるルイスとロナウドに割り込んだのはユメリアだった。しかし、ユメリアの言葉に全員が怪訝そうな表情を浮かべる。


「一つなら釣り合ってますが……」

「何を言ってるんだよ。一つじゃ足りないだろ?!」

「一つ攻略すれば、私の魔力は大幅に上がります。その先は私が何とかしましょう!」


 ルイスとしては不満があるが、現状落としどころが見つからない以上、問題を先延ばしにするユメリアの意見は非常に魅力的に見えた。


「わかった、一つだけだからな!」

「ユメリア、本当に大丈夫なんだろうな?」

「はい、私にお任せください!」


 不穏な気配を残しつつも、話がまとまったルイスたちは、さっそくウラギール子爵領にある第二の精霊の祠へと向かった。


「思ったよりも順調だな。これならあっさりと攻略できそうだ」

「……」


 余裕のある笑みを浮かべるルイスに対して、ロナウドたち四人の表情は暗かった。それもそのはず、ルイスは四人を使い潰す勢いで囮にしながら戦っているのだから。


 そんな扱いであるなら、逃げてもおかしくない。しかし、彼らには逃げられない理由があった。それが――。


「ルイス様、今回は順調ですわ。これなら今日中に攻略も不可能ではないかもしれません」

「ああ、ユメリアの支援のお陰だ!」


『精霊の愛し子』の強大な支援能力。それが無ければ、触れただけで死ぬような敵がひしめくダンジョンの中である。


 逃げるということは、その支援なしで入口まで戻らなければいけない。徘徊している魔物に遭遇するだけで、何回死ぬ思いをしなければいけないことを考えれば、どれほど辛かったとしても先に進む以外の選択肢はなかった。


「次で最後か。お前たち、気合を入れていくぞ!」


 四人の犠牲を伴いながら、ルイスたちは最深部へとたどり着いた。ひと際大きな扉の先からは、これまでとは比べものにならないほどの死の気配が漂っている。


「……」


 ロナウドたち四人は、ここにきて初めてユメリアの提案に妥協したことを後悔した。最深部まで来てしまったことで、戻ることもできず、かといって、進むことも恐ろしい。


「よし、行くぞ!」


 彼らの心の準備など無視してルイスが扉を開く。もっとも、いくら待っても心の準備などできないのだから、彼の行動が間違っていたとは言い切れない。


 扉の先には嵐をまとった三つ首の竜だった。


 三つの首のうち、一つが彼ら目掛けて炎を吐いてくる。


「よし、いけ!」


 辛うじて回避し、ルイスが指示を飛ばす。その指示に四人が竜へと突撃する。三つの首から吐き出される炎と冷気と雷の三種のブレスを死に物狂いで避けつつ、ガルドが竜へと接近し、クラウスとロナウドが攻撃魔法を放ち、アーレシアが三人へと支援魔法を使う。


「うわあああ」

「魔法が弾かれた!」


 接近すれば暴風により吹き飛ばされ、攻撃魔法は風によって弾かれる。


「何やってるんだ! 早く倒せ!」


 ルイスからの罵声に、苛立ちながらも竜への攻撃を繰り返す。アーレシアは自身に支援魔法を使い、ガルドと共に支え合って血路を開くために突撃する。


「くっ、二人なら何とか……」


 ガルドとアーレシアは二人で支え合いながら、暴風を突破して剣とメイスを振るう。今までまともな攻撃を食らったことがないのだろう。悲鳴のような鳴き声を上げながら三つの首をメチャクチャに振り回す。


「うおおお!」


 暴風が弱まったスキをクラウスとロナウドが暴れ回る頭を狙って魔法を放つ。的確に狙いを定めた魔法が二つの頭を破壊し、暴風を完全に消し去った。しかし、早くも二つの首は再生を始めていて、油断できる状況ではない。


 一刻も早くとどめを刺そうとする彼らより早く、ルイスが動いた。


「よし、トドメだ!」

「ルイス様、支援いたします!」


 竜へと肉薄するルイスに合わせて、ありったけの支援魔法を掛けるユメリア。なまくらな聖剣だが、『精霊の愛し子』の魔力による支援を受けた一撃は、暴風の守りのない竜の体を一刀両断にしてしまった。


「よし、勝ったぞ!」

「ルイス様、凄いです!」


 剣を掲げ、勝鬨を上げるルイスに、ユメリアが擦り寄る。同時にユメリアの体が光り、攻略が完了したことを告げている。


「「「……」」」


 それを冷めた目で見ている四人は、美味しいところを持っていったルイスに苛立ちを覚えたものの、これで終わりだと必死で堪える。


 奥にある転移魔法陣で外に出たルイスとユメリアの前にロナウドが立つ。


「これで約束通り、俺たちの役目は終わった。後はお前たちで勝手に――」


 彼が言い終わるより早く、ユメリアの手から光り輝く鎖が四人を拘束した。


「な、何だ! どういうつもりだ!」


 焦る四人に、ユメリアは何でもないことのように微笑みかける。


「ええ、約束通り『私が何とかする』のですよ。皆様は、私のしもべとして頑張っていただきます」

「騙しやがっ――ぐあああ!」


 抗議をしようとしたロナウドの体が締め上げられる。


「私に対して敵対心を抱くと、こうなりますので気を付けてくださいね」


 ユメリアは四人に対して、改めてニッコリと微笑んだ。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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