第27話 王国が魔王討伐をするようです?!
「赤眼の魔王の噂ですよね。あのクソ王子が大々的に公表したみたいですよ」
サラに事実関係を確認すると、吐き捨てるように言ってきた。王宮が消滅する事件の顛末を、全て自分の目で見てきた彼女だからこそ、現実のものとして重く見ているのだろう。
「元々、赤眼の魔王って、私が王宮を破壊したのを隠すために、王家がでっち上げた架空の魔王じゃないの?」
「そうなんですけど、お嬢様の瞳が紅いのもあって、すんなり受け入れられたようなんですよね。ご主人様は約束が違うと抗議をしたみたいですが、王国を裏切ったということと、前の国王との約束など無効だと主張しているみたいです」
為政者が変わったら約束が無効になると言い出したら、世界中から孤立すると思うのだけど、わかっていないのだろうな……。
「それで、新生シャイニール王国はクソ王子が勇者として聖女たちと共に魔王討伐をマニフェストとして掲げたみたいです」
「それって……。赤眼の魔王だよね? 私のことじゃない!」
酷いこじつけを見せられては、私の顔がしかめっ面になるのも当然だろう。サラは肩を竦めて大きくため息をついた。
「先日、キャトラたちに打ちのめされたのに、懲りない人たちですよね」
「いいえ、油断はできないわ……」
サラに、ユメリアと精霊の祠にまつわる秘密を伝えると、表情に深刻さが出てくる。
「なるほど、精霊の祠を攻略すると、ユメリア嬢が強くなると。しかし、攻略は簡単ではないのですよね?」
「ええ、祠ごとに難易度が違うけど、どの祠も攻略は難しい。だけど、ユメリアは攻略法を知っている可能性があるのよ」
「なるほど、最悪の場合はユメリア嬢が、お嬢様に匹敵するくらい強くなると」
「ええ、だから決して油断できる状況ではないわ」
サラは顎に手を当てて、しばしの間、思案に暮れていた。
「わかりました。勇者の方の監視は、私の手の者を使いましょう」
「助かるわ、サラ」
◇
赤眼の魔王の正体の公表して討伐を宣言したルイスは、苛立ちのあまり机に両手を叩きつけた。
突然響きわたった大きな音に、周囲の大臣も驚いてルイスの方に振り向く。
「何で誰も来ないんだよ! 援助も全く入ってこないじゃないか!」
討伐を宣言するにあたって、二つのことを広く募った。
一つは、ルイスと共に魔王討伐に参加し、共に栄誉に与かるもの。
もう一つは、ルイスの魔王討伐を支援するための寄付。
魔王に対してただならぬ感情を持つ王国民であれば、挙って名乗りを上げると考えていたルイスだが、蓋を開けてみれば、名乗りを上げる者は皆無だった。
討伐の参加者として、騎士団長令息のガルド、宰相令息のクラウス、魔法学教師のロナウド、大司教令息のアーレシアの四人を強制的に組み込み、率先して名乗りを上げた者として宣伝した。
寄付として、東側の諸侯とウラギール子爵の名前を、率先して寄付した者として宣伝した。こちらは名前だけで、実際の寄付は行っていない。逆に寄付が得られた暁には、名前を貸してくれたお礼として寄付の一部を提供することになっている。
討伐は敷居が高いだろうと期待はしていなかったが、寄付すらも誰一人する気配が無いことは彼にとっても予想外の出来事だった。
それもそのはず、王家の損失補填で重税を課せられた挙句、戦火に晒された国民に寄付などする余裕があるはずがない。
「くそっ、腑抜けた国民どもめ! 俺たちが守ってあげているのに感謝の一つも無いとはどういうことだ!」
国民も感謝しろと言われれば、「ありがとう」とは言うだろう。でも、お金を出す余裕はない。逆にルイスの言う感謝は言葉ではなくお金なのだから、話がかみ合うはずも無かった。
「やはり、愚民どもの善意を信じた俺が間違っていたようだな」
ルイスは天を仰ぎ、大臣たちを見回す。
「やはり寄付ではなく、税金として絞り取る!」
「しかし、それでは前の国王と同じ――」
「勇者である俺の決定に文句でもあるのか?」
「いえ……」
ルイスの打ちだした魔王討伐特別税に大臣の一人が異を唱えようとする。しかし、ルイスがにらみつけ、叱責すると、たちまち声が小さくなり、何も言えなくなってしまった。
全会一致で決まった魔王討伐特別税は一人あたり毎週千ゴールドに加えて、売り上げの五十パーセントを徴収するというもの。当然ながら通常の租税として二十五パーセントは別に徴収されるため、実質の税率が百パーセントを超えることも少なくなかった。
「なんで税収が減っているんだよ! これじゃあ魔王討伐なんかできねえじゃねえか!」
「それは住民が国外に逃亡してしまいまして……」
「追手を差し向けて連れ戻せ!」
「それが……。暗部の実行部隊のメンバーも逃亡しました。残っているのは指揮官以上だけになります……」
下でコツコツ働く人たちに重税を課した結果、新生シャイニール王国はあっという間に上でふんぞり返る人間しかいなくなってしまった。今や、指示だけが上層部の間でループしているだけで、何一つ成果が上がらない。
「ちなみに、来週の税収見込みは今週の半分ほどとの予想でございます」
「なんでだよ! もう逃亡しているヤツはいないんだろ?」
「ですが、実際に畑を耕す農民も、製品を作る職人も逃亡してしまい。誰も実務ができなくなってまして、そもそもの売上が上がらなくなっております」
「クソがぁぁぁぁ! 指示しかできない無能どもは処刑するか奴隷落ちにしろ!」
ルイスの言葉を聞いた大臣たちがヒソヒソと囁き合う。お互い頷くと、衛兵に目配せをした。
「な、なんだ?! どういうことだ!」
衛兵に囲まれたルイスは黒幕である大臣たちをにらみつける。しかし、彼らは怯むことなく、逆に路傍の石でも見るかのようにルイスを見下ろしていた。
「陛下の指示通りにしただけでございますよ。指示しかできない無能。それは陛下も同じでございます」
「お、俺は違うぞ!」
「では、何かされましたか?」
「俺は暴君である先王を倒して、新生シャイニール王国を築いた英雄だ!」
ルイスの主張に大臣たちはため息をついて首を振る。
「はああ。それはそれで。ですが、今の陛下は先王よりも暴君でございます。すでに多くの者が、先王の方がマシだったと申しております」
「だ、だが、俺は勇者だ! 魔王を倒せるのは俺だけなんだぞ!」
「では、倒してみせてください。そうすれば皆も、率先して従いましょう」
「それは無理だ。お金がないからな!」
大臣たちのルイスに対する視線が路傍の石から生ゴミへとグレードアップした。
「結局、口だけではないですか? 認めて欲しければ、実績を上げてください」
大臣たちの表情に笑みはない。それは、このまま魔王を討伐しなければ、ルイスを処刑するか、奴隷にするつもりであることは明白。追い詰められたルイスは、勢いに任せて高らかに宣言した。
「いいだろう、俺の力を見せてやる! 魔王なんてすぐに討伐してやるよ!」
「では、さっそく出発していただきます」
大臣たちはルイスを、討伐メンバーとしてユメリア、ガルド、クラウス、ロナウド、アーレシアを捕らえて、まとめて城から追放したのだった。
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