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第22話 ドラゴンはモフモフしていないので……

 その彫像のようなドラゴンは、私たちの馬車に気付くと大空へと羽ばたいた。そして、馬車の目の前へと降り立つ。


 ドラゴンが目の前に降り立てば、当然ながら馬は怯えて動けなくなる。前世の知識のある私には、そのドラゴンが何者か心当たりがあった。


 ブラックドラゴン――原作ゲームにおける裏ボス四天王の一体にして最強のドラゴンである。裏ボスとはもちろん私のこと。そして四天王のうちの三体――コキュートスタイガー、フェンリル、キュウビはモフモフ王国の従業員となっている。


 大人しく待っているならともかく、馬車の前に立ち塞がって止めるなど許されることではない。文句を言うべく、馬車を降りてドラゴンの前に仁王立ちになる。


「ちょっと、何の用? 馬車が動かなくなったんだけど!」

「矮小なる人間よ。ワシを差し置いて楽しそうなことをするなど、許されることではないぞ!」

「知らないわね。馬車が動かないからあっちに行って!」


 まずは目的地にたどり着くために馬車が動くようにするのが先決。追い払おうとすると、ドラゴンの長い首が地面に刺さる勢いで項垂れた。


「ううう、ワシだけ仲間外れにするのか。何という酷い人間だ。ワシはもう立ち直れないかもしれぬ……」

「私たちは、あそこの城に戻るつもりなの! そこで突っ立ってたら戻れないからよ!」

「仲間はずれにはしないか?」

「しないから、さっきみたいに城の上で待ってて!」


 何とかドラゴンを城の前に移動させて、馬車を動かし、モフモフ王国へとたどり着いた。同時に、ロバートが血相を変えて飛び出してくる。


「お嬢様! ドラゴンが、ドラゴンが!」

「わかってます。落ち着いたら降りてくるように言ってください」


 さすがにロバートもドラゴン相手では冷静さを保てないらしい。焦る彼をなだめて落ち着かせると、ドラゴンに言伝を頼んで外に出る。


 まだ言伝は受け取ってないと思うけど、私が外に出てきたのを察して目の前に降りてきた。なぜか犬のように尻尾を振っているんだけど、本当にドラゴンなのだろうか?


「矮小なる人間よ。ワシを差し置いて楽しそうなことをするなど、許されることではないぞ!」


 先ほどのやり取りや、現在進行形で尻尾を振っていることなど、諸々を差し置いて、ドラゴンが威厳のある声で話しかけてくる。


「差し置くつもりはないんですけど……」

「ならば、なぜトラオやキュウビ、フェンリルを仲間に引き入れて、ワシを無視するのだ!」


 怒りに震えるドラゴンが強力な威圧を放ちながら叫ぶ。普通の人間だったら間違いなく気絶するほどの覇気に住民たちも何事かと震えている。


「いやいや、ドラゴンってモフモフできないじゃないですか。堅い鱗に覆われているし……」

「何が悪い! ワシの鱗はとても頑丈なんだぞ!」

「えっと、ここってモフモフ王国なんですよね。だから、モフモフできないのはちょっと……」


 ドラゴンは不思議そうに首を傾げる。どうやらドラゴンの知識でもモフモフという言葉は無いようだ。


「もふ、もふ……?」

「そうです。他の三匹は毛がふさふさじゃないですか。撫でると柔らかくて気持ちいいんですよ。でも、ドラゴンは鱗がゴツゴツして痛いだけじゃないですか」

「ワシの自慢の鱗を、そんなものと比べるな!」


 詳しく理由を説明したけど、ドラゴンの怒りは収まるどころか、激しくなる一方。そのうち気絶する人間が出てもおかしくないだろう。


「まあまあ、落ち着いて」

「ぐぬぬ、ではドラゴン王国にすれば良いではないか!」

「それはダメですよ。モフモフ王国は癒される場所。ドラゴンじゃ癒されないですからね」


 大事なのは名前じゃない。癒されるかどうかだ。ドラゴンは確かにカッコいいけど、癒される感じには見えない。決して小さい城ではないんだけど、それでもブラックドラゴンが大きすぎて店内に入ることすらできないほど。


「お嬢様、ご無事ですか?」

「今のところはね。それにドラゴンだと大きすぎて店内に入りきらないんだよね」

「うぐぐぐ、言わせておけば……。それに、そこの人間は従業員ではないのか?! モフモフしていないだろう!」

「ロバートは飲み物とかをお客様に出す役割だから、モフモフしていなくてもいいんだよ」


 私の言葉を聞いて、ドラゴンがニヤリと笑う。そんなつもりはないのだろうけど、もの凄く悪いドラゴンに見える。


「ならば、ワシも――こうすれば問題あるまい!」

「人間の姿に……」


 ドラゴンは一瞬で人間の姿に変わった。突然、姿が変わったことに驚いて、言葉を失いそうになる。見た目はロバートにより少し若い三十代中盤くらいの少しワイルドな男性の姿になる。


「何を驚いておるのだ。喋れるくらいの魔獣なら、人の姿に変えるなど造作もないことではないか」

「そうなの?」

「どうだ? これならば何の問題もないだろう」


 たしかに猫スタッフとして雇うのは厳しいかもしれない。だけど、人間の姿に変身できるのであれば、普通に給仕などをお願いするのもありかもしれない。


「わかりました。基本的に人の姿で接客してくれるということであれば、是非ともお願いしたいです!」

「っしゃぁぁぁぁ!」


 彼がモフモフ王国で働くのを了解すると、ガッツポーズをして雄叫びを上げる。


「なんニャー。クロじゃないかニャー」

「あらら、クロはんどすえ」


 雄叫びを聞いたキャトラとイナリが外へ出てくる。どうやら顔見知りらしい。


「トラオ、それとキュウビ?」

「トラオじゃないニャー! 俺の名前はキャトラだニャー!」

「わらわもイナリという名前になりましたえ」

「……主よ。ワシにも名前を付けるのだ!」


 二匹の自己紹介を聞いたドラゴンが私の方に向き直り指を突きつけて要求してきた。


「うーん、クロでも――」「ダメだ!」


 クロでも悪くないと思うけど、言い終わる前にダメ出しされた。注文が多いドラゴンである。


「それじゃあ、クロードなんてどうかな?」

「ふむ、ならばワシはクロードと呼ぶがよい」


 クロとあまり変わらないような気もするけど、気に入ってくれたようなので、それ以上は何も言うまい。クロードは私の前で跪いて、両手を差し出す。


「右手を――ワシは主に忠誠を誓います」


 彼の言葉に従って右手を出すと、両手で持って手の甲に口付けをする。意外と紳士的なドラゴンである。そんなことをして、黙っていないのがキャトラである。


「俺もやるニャー!」

「その姿じゃ無理じゃない?」

「だから――これならどうニャー!」


 キャトラも人の姿に変わる。気づいたらイナリまで人の姿になっていた。キャトラは白い髪をラフに流した十代後半くらいの青年、イナリは濡れ羽色の長髪に、釣り目で目鼻立ちの整った和風美人という外見だった。


 二人とも並んで私の前に跪いて両手を差し出す。順番に右手を出して口付けされた。


「ふふん、俺だって負けてないニャー!」

「わらわを差し置いて、主様に近づくなどあきまへんわ」

「二人とも人間の姿になれるなら、王都でも変身すれば良かったんじゃ……?」


 二人はしばらく顔を見合わせるが、すぐに声を上げて笑い出した。


「ふふふ、それはあきまへん。人間におもねって姿を変えるなど屈辱どすえ」

「そういうものなんだ」


 ドラゴンも無事にモフモフ王国の一員となったことで一件落着――。


「そう言えば、西の方の国から、物々しい人間が大勢東の方に向かっていたが、何だろうか?」

「えっ?」


 どうやら、一件落着とか言っている場合では無いようだ。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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