第21話 地獄からの生還?!
「大丈夫なのかね?」
彼らを精霊の祠に閉じ込めた諸悪の根源たる国王が不安そうに尋ねてくる。
「大丈夫でしょう。死ぬことはありませんし」
「いや、ルイスとユメリアはともかく、他の四人は巻き添えのような形ではないか。上手くやっていけるのかと」
冤罪をでっち上げて捕らえた男が、いまさら何を言うのか……。もっとも、ユメリアは逆ハーレム可能だし、彼ら四人もユメリアの攻略対象だ。帰ってくる頃には、それなりに仲良くなっているだろう。
「吊り橋効果というものがありますからね」
「……?」
「彼らにとっては死を間近に感じるほどの恐怖、その中で目覚める愛もあるということです」
死を間近に、というけど、実際には何度も死ぬことになるだろう。それでもソウルストーンがあれば大丈夫だ。さすがは課金アイテムだけはある。
「そんな調子で、そもそも攻略できるのか?」
「もちろんです。少しでもダメージを与えられれば、いつかは敵も倒せます。後は彼らの『真実の愛』の力を信じましょう!」
一昼夜が経過した。国王は彼らを見送った後、王宮に連れていかれた。仕事をサボるなということらしい。残った兵士たちは三交代制で入口の監視と補給物資の追加となる。
補給物資は武器と食料と水のみ。防具やポーションは、どうせ生き返るのならいらんだろう、とは国王の言葉である。鬼畜かな?
私とサラは流石に夜には帰ったけど、朝から彼らが出てくるのを待っている。もっとも、簡易テントを張っていて、その中で優雅に紅茶を飲みながらではあるが。
「そろそろかな?」
私がつぶやいた瞬間、まるで見計らったかのように入口に光る魔法陣が浮かび上がる。それを見た兵士たちが王宮と教会に伝令を送る。
「どうやら成功したみたいね」
しばらくして、光る魔法陣の上に、ユメリアたちが転送されてきた。どうやら無事に奥にいるボスを討伐することに成功したらしい。もっとも、彼らの装備はボロボロで、多くの死線をくぐり抜けてきたであろうことがうかがえる。
「はあはあ、やったぞ!」
「やっと、外に……」
「やっほぉぉぉ、外だぜぇぇぇ!」
「光が、光がぁぁぁ」
高難易度ダンジョンと言われる精霊の祠であるけど、レベル相応での話。王都の精霊の祠は難易度が一番低いので、今の彼らでも時間さえかければ攻略可能だろう。もちろん、死にまくるとは思うがけど精神が擦り切れるまでは行かないはずだ。
「おおお、無事に攻略したか!」
「では、さっそく魔力の測定をいたしましょう」
彼らが落ち着いた頃合いで、国王と司祭が到着した。司祭がさっそくユメリアの魔力を計測すると、見事に測定用の水晶玉が砕け散った。
「おお、これはエリザベス様と同じ現象でございます。これならばユメリア様が聖女になられても問題ございません!」
ユメリアの魔力が劇的に向上したという事実に司祭は感動していた。本来ならありえない魔力の強化。国王だけでなく、彼らと共に精霊の祠を攻略したメンバーも驚いていた。
もっとも、『精霊の愛し子』であるユメリアが私と同じだけの魔力を得るには、聖女の祠を七つ全て攻略する必要がある。水晶球が砕け散っただけでは全然足りないのだけど、そんなこと彼らが知るわけもない。
「おめでとうございます。これでユメリア嬢が聖女ですね。もちろん婚約破棄を認めてくれますよね?」
「ああ、もちろんだ」
ユメリアに微笑みかけるも、そっぽを向かれてしまった。しかたないので国王に向き直り、約束を守るつもりがあるか確認する。国王も、期待した結果に満足したのか、あっさりと婚約破棄を認めてくれた。
「精霊の祠は全部で七つあるんですけどね……」
「「「……」」」
私のつぶやきを聞いて、連行された四人が私を睨みつける。その表情は、暗に「まだ俺たちを巻き込むつもりか?」と非難しているように見えた。どうやら、ユメリアは彼らの好感度を大して上げられなかったようだ。
「よし、今日は新しい聖女の誕生を祝ってパーティーを開くぞ!」
国王が目を輝かせながら宴会を提案するが、周囲の視線は冷たい。
「そんなお金、どこにあるって言うんだよ! 俺は絶対に反対だからな!」
「ルイス様! 私が聖女になったことを祝ってくれないのですか?」
「いや……。よし、国を挙げて盛大なパーティーにするぞ!」
資金難であることを把握しているルイスは、浮かれた国王に猛烈に反対する。しかし、ユメリアの泣き落としに、あっさりと前言撤回した。当然、期待に満ちた周囲の視線は、一瞬で氷点下である。
「もちろん、これは教会にとっての祝い事。教会が費用を負担すべきである!」
「むむむ、さすがは我が息子。そうだ、教会が出すべきだ!」
そんな周囲の視線など、どこ吹く風。ルイスは費用を教会に全て押し付け、国王がそれに乗っかる。教会としても、新しい聖女の誕生はめでたい事。ルイスの言い分にも一理あるがゆえに、表立って反対することもできない。
結局、その晩は教会を貸し切りにして大宴会が催された。国王を始めとする王家の人たちは、ここぞとばかりに料理に群がっている。
それはルイスも例外ではなく、主役のユメリアに目もくれずに料理を貪るように食べていた。
「これが『真実の愛』かぁ。唐揚げに負けてるけど……」
聖女誕生の祝宴は、夜遅くまで続く予定だけど、私は早々に撤退することにした。残って言いがかり付けられるのも面倒だからというのが大きい。
「それでは、ユメリア様。本日はおめでとうございます!」
「あんたのせいで予定がメチャクチャになったじゃない! どうしてくれるのよ!」
帰る前に挨拶したら、思いっきり悪態をつかれてしまった。少し早まったくらいだし、問題ないと思うのだが……。
その晩はタウンハウスで一泊し、馬車で辺境伯領を経由してモフモフ王国へと戻った私は目を疑った。
「なんなの?あのドラゴンは……」
「置物? ではなさそうですね……」
遠くに見えるモフモフ王国の建物に、巨大な黒竜がまるで彫像のように鎮座していた。
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