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第20話 精霊の祠を攻略してください!

 魔王に散々文句を言われたけど、何とか目的の魔道具を手に入れてもらった私は、王宮とは名ばかりの掘っ立て小屋へとやってきた。


「王国の終焉を見た気がするわ」


 相当に困窮しているのだろう。掘っ立て小屋すら手入れが行き届かず、壁があちこち崩れかけている。


「よくぞ参った」

「お金は払いませんからね」

「わかっておる。今回は別件だ。王国の資金が不足しているのは知っておるだろう。それを解消するために税率を上げたところ、国民の不満が爆発しそうなのだ」


 何を当然のことを言っているのだろう。


「税率を下げればいいのでは?」

「そんなことしたら破綻するわ。そこで、ワシは考えた。ルイスと聖女を結婚させればよいと。聖女の威光で国民を黙らせるのだ」

「はあ……。それでユメリアを聖女にする手伝いをしろと」

「その通りだ。それでワシも手を打ってやろうと言うのだ。ありがたく思うがよい」


 本当に国王かと思うような思考に呆れてしまう。しかし、そんな内心を表に出さず、笑みを浮かべると虹色の宝石を取り出した。


「これは、まさか……」

「そのまさかです。この宝石はソウルストーン。魂の欠片を封じ込めることによって、対象を蘇らせる魔道具です。これが六個ありますので、これに殿下とユメリア嬢に加えて、四人ほど魂の欠片を封じ込めていただきます」

「バカな、これは非常に高価な魔道具……」


 国王の目が魔道具の価格に眩みそうになっていた。それもそのはず、これは元の乙女ゲームでもあったチートアイテム。どうしてもクリアできないプレイヤーのための救済策である高価な魔道具だ。


 ――どのくらい高価かというと日本円が必要なほど、いわゆる課金アイテムである。


 さすがに現実では単なる高価な魔道具だけど、その価格は一個でも城が建つほど。国王の反応も当然と言えよう。


「ちなみに、売ってお金に替えようなどと考えませんように。これの提供も条件の一部。売却などすれば、その時点で条件を満たしたと判断させていただきます。もっとも、売れればの話ですけどね」


 帝国においても、裏でわずかに取引されるだけの代物。まともな商人であれば手を出そうともしないはずである。


「わかった。それで、他の四人はどうすれば良いのだ?」

「ユメリア嬢が分かると思いますが、騎士団長令息のガルド、宰相令息のクラウス、魔法学教師のロナウド、大司教令息のアーレシア。その辺りを使うのがよろしいかと思いますわ」

「わかった――。おい、ルイスとユメリアを呼べ。それから騎士団長に宰相、学園長、大司教に、その話を伝えるのだ。渋るようなら強引に連れてこい」


 国王の命令に衛兵たちが動く。これでソウルストーンの登録は問題ないだろう。


「それで、どのダンジョンを攻略するというのだ?」

「王国にある七つの精霊の祠。そのうちの一つ、王都にあるものを攻略していただきますわ」

「バカな、熟練の冒険者ですら足を踏み入れぬ死地だぞ!」

「だからこそ、ソウルストーンが必要なのですわ」


 学園卒業していないから、どうせレベル1だろう。それで攻略するつもりなら、ソウルストーンは必須になる。


「要するに彼らにソウルストーンを持たせて、精霊の祠に閉じ込めればいい、ということだな?」

「話が早くて助かります。無事に攻略すれば、ユメリア嬢の魔力は劇的に高くなります」

「ふん、眉唾だが……。大したリスクもないからな。いいだろう、だがお前も立ち会うのだぞ」

「中には入りませんよ。ソウルストーンは六個確保するのが限界。私の分はありませんからね」


 国王はわかっているとばかりに鼻息を荒くしてうなずいた。


 翌日、ルイスとユメリア、そして罪人のように連れてこられた四人が精霊の祠の前に集結した。いや、集結させられたと言った方がいいのかもしれない。


 ユメリアだけは、集められたメンバーを見て目的を理解したらしく、私に向かって怒鳴り散らしてきた。


「ちょっと! 何で、このメンバーなのよ。もしかして……。精霊の祠を攻略しろとか言わないでしょうね?!」

「さすがユメリアさん。わかってるじゃないですか。でも、それを言ったのは国王ですよ」

「どうせ、アンタが入れ知恵したんでしょ?」

「私は聞かれたから答えただけですよ。ユメリアさんを聖女にしたいと国王に相談されたから、精霊の祠を攻略すればいいと」


 ユメリアが私を睨みつけてくるけど、私は平然と微笑みを返す。


「無理に決まってるじゃない! 私たちはまだ学生なのよ!」

「大丈夫です。そのために、ソウルストーンまで用意したんですから。ユメリアさんならわかるでしょ? このアイテムがあれば、どれほど楽に攻略できるか」

「……クソ悪役令嬢め!」


 さらに彼女の視線が鋭くなる。まるで親の仇とでも言いたいのかと思うほどだ。やはり、ユメリアも前世――乙女ゲームの知識を持っていると見て間違いない。


「まったく……バランスよく攻略してくれないと困りますわ。おかげで余計に手間がかかりましたよ」

「無茶言わないで! あと卒業まで何か月あると思ってるのよ!」


 ユメリアとしては最初の出会いイベントすら始まっていないのに、と言いたいのだろう。だけど私には、ユメリアのためにモフモフを我慢するという選択肢は無い。


「大丈夫。王都にある精霊の祠は、ソウルストーンさえあればクリアできるから」

「そういう問題じゃない!」


 なおも私に食って掛かるユメリアだが、国王の声により出鼻を挫かれた格好になる。


「皆の者、よく集まってくれた」


 国王の呼びかけに、その場にいる全員が彼の方を見る。連れてこられた四人は

 むしろ睨んでいると言った方がいいかもしれない。


「これから君たちには、この精霊の祠の攻略をしてもらう」

「しかし、ここは高難易度ダンジョン。俺たちには……」

「お前たちに与えた石。それは攻略の成功を約束するお守りだ。それがある限り失敗はありえぬ」


 死んでも生き返るからね。そう言う意味では失敗はない。だけど、お守りだと本当に思っている彼らの表情が少しだけ明るいものとなる。


「お前たちが中に入ったら、この入口は封鎖する。装備や食料は補給するし、攻略が成功すれば最奥から外に出られる。だから、心配する必要はない」


 先ほど少しだけ明るさを取り戻した彼らの表情が急転直下。まるで地獄に送られるのではないかと思うような暗いものとなった。それも当然、攻略するまで帰れないと言っているようなものだからだ。


「では、健闘を祈る!」


 国王が言葉を締めると兵士たちが彼らを補給物資と共に精霊の祠に放り込み、扉を封鎖した。


 最初のうちは、中から怒鳴り声や叫び声、泣き声が聞こえてきたが、無駄だと悟ったのか、しばらくすると声が聞こえなくなった。どうやら、覚悟を決めて先に進むことにしたようだ。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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