第18話 やっぱり最後は謝罪と賠償ですか?!
イヤな予感というのはよく当たるもの。ルイスからの手紙を開いた私が抱いた感想は、その通りだった。
「なになに、『お前たちがペット魔獣を買ったせいで、値段が跳ね上がった。何とかしろ』?」
ペット魔獣の値段が跳ね上がった原因は、王家の出した補助金のお触れ。こちらではどうしようもない。サラッと無視して、次を読み進める。
「えーと、『ユメリアがペット魔獣を買いたいと言ったから買ってあげたけど、高すぎて、すぐにお金が無くなった。どうしてくれるんだ!』?」
ユメリアに貢いでお金が無くなったということだけど、私には関係ないはず。どうせペット魔獣が高くなっていなければ今よりも買えたはずだ、と言いたいのだと思うけど、私の知ったことではない。
「それで、『すべてはお前たちが、ペット魔獣なんてものを流行らせたのが原因だ! 謝罪と賠償を要求する!』?」
結局、謝罪と賠償ですか……。それがルイスの手紙を読んだ私の結論だった。
「結局、お金を寄越せって言ってるだけじゃないか」
「王国も王家も、もうお金がありませんからね」
「そんなに酷いの?」
「ええ、王宮の立て直しに、ペット魔獣の補助金、ユメリア嬢へのペット購入が重なりましたからね。しかも、王家がペット魔獣を買い占めた形になって、貴族だけでなく、国民からも不満が上がってますから」
予想以上にシャイニール王国の状況が酷いことになっていた。結局、手紙はそのまま捨ててしまったのだけど、翌日以降もルイスからの手紙は毎日届いた。もちろん速攻でゴミ箱行きだ。どうせ書いてある内容は同じだろうし。
一週間ほど、無視し続けてきた辺りで、痺れを切らしたルイスが国王に泣きついて王宮(仮)に来るようにとの勅命が下った。
「あああ、めんどくさいなぁ」
「勅命が下りた以上、無視するわけにもいきませんよ」
サラの言う通り、王国貴族の一員であるからには、勅命を無視するわけにはいかない。正論で言うなら、こんなことに勅命出すなよと言いたいところではあるけど。
「それで、いつ行きますか?」
「ん?」
私が頭を抱えて悩んでいるところで、サラが日程を訊ねてきた。
「ああ、そうか。いつ行くかは言われてなかったわね」
「ええ、こちらの都合に合わせるくらいの良識はあるのでしょう」
「それじゃあ、ひとまず三か月後でお願いします」
私としては行っても面倒な事になることが分かっているため、なるべく引き延ばしたいところ。だけど、あまり先にしてしまえば、強硬手段に出かねないため、そのギリギリの線を狙って打診することにした。
その後、勅命を伝えに来た使者が疲れた様子で帰るのを見送った。
「どうやら、三か月も待てる雰囲気ではなさそうですね」
「お金が底をついていますからね。一刻も早くお嬢様からお金を分捕りたいのでしょう」
行き当たりばったりの行動に、私も呆れるしかない。しかし、いくら勅命とはいえ、三か月待ちくらいは普通にある。
馬車での移動が基本なので、日数がかかるし、天候の影響も受ける。一つの予定で一週間潰れるなどザラ。どんなに最短でも予定は一ヶ月以上先が普通なのである。
やることがひと段落ついたので、モフモフ王国の様子を見て回ることにした。将軍が超お得意様になっているせいで目立っていないけど、モフモフ王国は駐留している魔王軍の兵士の中にも定期的に通ってくれる客が何人かできている。
「お客様がみんな将軍みたいな感じだったらどうしようかと思っていたけど、他の人は普通に楽しんでくれているみたいね」
将軍の痴態を見た私が懸念していたこと、それは魔族がそう言う性癖を持っている可能性だった。しかし、蓋を開ければ変態だったのは将軍だけで、他のお客様は普通に猫カフェとして楽しんでくれている。
「お嬢様、例の調査に進展があったと、魔王から連絡がありました」
例の調査とは、先日の帝国から来た冒険者のことである。前回は、日も経っていないため状況に進展が見られなかったが、ようやく帝国側に動きがあったということだろう。
「わかりました。さっそく向かいますので、準備をお願いしますね」
「かしこまりました」
そろそろ日が傾き始める頃合い。近いとはいえ、今からではさすがに日をまたぐことになってしまうだろう。
「何か嫌な予感がするし……。今日は途中の街で泊まって、明日の昼前に報告を聞く感じでいいかな?」
「マスター、今回はアタシが御者を務めさせていただきますにゃ!」
猫獣人のカレンが挨拶にやってきた。今回、御者をお願いしようとサラに頼んでいたけど、挨拶に来たということは了解したということでいいのかな?
「よろしくお願いしますね」
猫獣人とは言っても手足は普通に人間と変わらない。違いはせいぜい耳と尻尾があるくらいだ。たったこれだけの違いで差別する王国の人間はどうかしているとしか思えない。むしろモフモフが加算されて尊くなっているではないか。
「お嬢様、出発の準備が整いました」
「ありがとう、さっそく出発しましょう」
馬車に乗り込み、魔都へと向かって進む。途中の街で一泊することになったけど、カレンは遠出をしたことがないらしく、ずっと目を輝かせていた。
「マスター、凄いですよ! この宿、メチャクチャ立派です!」
特に宿泊する宿は宿場町と言うこともあって、モフモフ王国の近くにある宿よりも大きくて真新しい。まるでテーマパークに来たようにはしゃいでいた。
翌日、朝早くから出発した私たちは、昼前に魔王城へとたどり着いた。すでに話は通っているようで、すぐに謁見の間、ではなく、応接室の方へ通された。
「よくぞ参った。まずは座るがよい」
鷹揚に豪華なソファに座りながら、魔王が席を勧める。私を真ん中に、サラとカレンが左右を固めるように長いソファに座った。
「進展があったと伺いましたが……」
恐る恐る尋ねると、魔王は一冊の小冊子をテーブルの上に置いて、「これだ」と短く告げる。
「これは……『帝都スポーツ』?」
「そうだ、いわゆるゴシップ紙だな。略して『帝スポ』というらしい。その中に、お前の記事が書かれていた」
私は生唾を呑み込んで、目の前の胡散臭い小冊子を手に取った。
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