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第16話 ペット魔獣がブームのようです!

 魔獣が街中を跋扈している光景に唖然としていると、小さい獣人の少女が角ウサギを連れて近くにやってきた。


「あ、お帰りなさいませ」

「こ、この魔獣たちは?」

「あ、みんなペットですよ。調教してあるみたいなので安全です」


 見るからに襲われている様子はないから、ペットであるのは間違いないだろう。


「でも、何で急に?」

「ご存知なかったかもしれませんが、モフモフ王国のおかげで魔獣をペットにする人が増えているんです。これまでは一部の人たちが買っていただけなんですけどね」


 キャトラたちのお陰で魔獣に対する警戒心が低下し、愛でる対象として認識したのが大きいのだろう。徐々にペット魔獣が増えてきていたが、ここにきて急に購入する人が増えたらしい。


「でも、何で急に……?」

「えっと、しばらくモフモフ王国がお休みしてたじゃないですか。それで、生活の援助も十分してもらって余裕ができてきたのもあって、私たちもモフモフを買うことにしたんです。どうですか?」

「うん、可愛いね!」

「ありがとうございます!」


 角ウサギを抱き上げて、私に見せてくる少女に微笑みかけると、嬉しそうに去っていった。


 よく見ると、あちこちで魔獣使いが露店を開いているのが見える。露店だからか、見るからに怪しげな店もあって、正直、大丈夫かなと思う店も少なくない。


「出店時の身元確認はしておりますが、少々監査したほうが良さそうですね」

「そうだね。ロバートに頼んで人を動かしてもらえるかな?」

「かしこまりました」


 ペット魔獣と言っても、大半は危険性の少ない角ウサギとかハンタードッグ程度である。一部の裕福そうな人はグラスウルフやシャドウパンサーのような中型の魔物を従えていたりする。モフモフ王国にはキャトラやイナリがいるし、魔都もルナやサンダーウルフが出向予定だから、調教済みの魔獣たちが暴れることもないだろう。


 半ば放し飼いのように見える魔獣たちを見ながら、モフモフ王国へと帰り着いた。


「明日からまた営業再開よろしくね」

「お任せください。お嬢様もどうぞご無事で」


 帰ってきて早々だけど、明日からは魔王城へ行く予定だ。ルナを支店に案内するのもあるけど、先日の偵察に来た冒険者について、将軍経由で魔王に調査をお願いしている。その経過を教えてもらうためでもあった。


 翌朝、サラと共にルナの背中に乗って魔王城へと向かう。馬車と違って、スピードが出せるため、半日程度で魔王城までやってきた。


「これが新人のルナ。あと、こっちのサンダーウルフも一緒に働いてくれるから。よろしく頼みますね」

「お任せください。非常時の戦力として当てにしてもよろしいのですよね?」

「ええ、そこは副将軍にお任せいたします。ですが、酷使はしないように」


 支店の店長である副将軍パルメジャーノにルナを紹介する。モフモフ王国魔国支店という位置づけ。だけど、魔王軍魔物使い部隊を兼ねていて、非常時はルナたちも戦力として戦う契約になっている。


 もちろん建前は支店のある魔都の防衛である。店があっても街が壊滅していたら意味がないし、当然の対応だろう。


「もちろんです。平時の戦力は我々の魔獣だけで十分賄えますから。それに平時では過剰な魔獣を逆にモフモフ王国で働かせられますからね」


 副将軍は魔獣使い部隊上がりということもあって、特に魔獣の扱いには造詣が深い。支店は彼に任せておいても大丈夫だろう。


 ルナを置いた私たちは魔王城へと向かう。帰ってきてすぐに帝国の件について連絡をしたので、少しは進展があるだろう――。


「何もない?!」

「ああ。さすがに例の男達が帝国に帰ったとしても一日か二日だろうからな」

「依頼自体がブラフだった可能性は?」

「それはないな。モフモフ王国への調査依頼があったことは、シャルダンを通して帝国の冒険者ギルドに確認済みだ」


 シャルダン、彼はモフモフ王国の記念すべき最初のお客様である。パッタリと来なくなってしまったが、元気にやってるんだろうか?


「彼にも、また店に来てくださいと伝えておいてください。ポーション代はサービスしますので、と」

「ポーション代なんて何に使うんだ?」

「えっと、彼は痛めつけられるのが好きなようなので、ポーションが必須なんですよね」

「そうなのか、初耳だな」


 私の言葉を聞いて、魔王が悪そうな笑みを浮かべる。どうやら見た目通りの性格をしているらしい。


「とにかく、帝国の動きは俺の方でも追っておく。何かわかったら教えてやるから安心しろ」


 こちらでも調査を進めたいところだけど、あいにく帝国は広すぎる上に土地勘が全くない。魔王に任せた方が良さそうだと判断して、ひとまず調査結果を待つことにした。


「そういえば、ペット魔獣が流行っているようなのだが、何か心当たりはあるか?」

「……ありますね。前回、こちらに来た時、慰安旅行としてキャトラとイナリも連れてきましたので、それで魔獣に対する忌避感が下がったのではないかと」


 魔王は驚いて目を丸くした後、豪快に笑い出した。


「はっはっは。そう言うことか。別にお前たちに文句を言うつもりはないがな。むしろ、魔獣使いが突然の臨時収入に狂喜乱舞しているくらいだ」


 なるほど、魔族は元々魔獣を使役する文化があるため、魔獣使いに適性を持つ者が多い。それゆえに魔獣使い専門の部隊があるくらいだ。


「モフモフ王国の街にいる魔獣は、どうやって調達したんだろう。帰ったらロバートに聞いてみるか……」


 魔王との謁見を終えて、ルナにモフモフ王国まで送ってもらった私は、さっそくロバートに聞いてみた。


「どうやら、辺境伯領全体で魔獣の需要が上がっているという情報が広まったらしく、王国中から魔獣使いが集まったようですな」


 魔獣の調教といっても、魔獣を探すところから始める必要があるため、大量供給するのが難しい。一方で、調教した魔獣には餌代などがかかることもあり、早めに手放したいという事情もある。


 辺境伯領に来れば売れるとわかっているのなら、魔獣使いが商機をモノにしようと集まってくるのも当然だった。


「さすがに、価格も上がり始めてきているようですが」

「まあ、当然でしょうね」


 需要に対して供給が減ってくれば、少し高くても買う人は買うという状況になるため、当然の流れだった。もっとも、ペット魔獣のブームは辺境伯領と魔国だけの話なので、そのうち価格も落ち着くだろう。


「大変です。王国がペット魔獣の購入を支援するお触れを出しました!」


 ロバートと暢気に話をしていたら、サラが一枚の紙を手に血相を変えて飛び込んできた。その紙には、ペット魔獣の購入に対して、購入金額の半分を補助する旨の内容が書かれていた。


「これは……ヤバくないかな?」


 私の言葉にロバートは静かに目を伏せるだけだった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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