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第15話 何を調査しに来たんですか?!

 声のする方に行ってみると、洞窟のような所の前に四名の厳つい男が何やら集まって話をしていた。


「あれが例の怪しいヤツら?」

「そうどすえ」

「こんなところで何をしているんだろう。野盗にしては人数が少ないし……」


 通りすがりを襲うにしても、四人は少なすぎるだろう。


「どうせ碌なことを考えていないのだから、殺してしまえばよかろう?」

「いえ、あの動きは、それなりに心得のある者。一人は捕まえて情報を吐かせた方が良いかと」


 いきなり物騒なことを言いだした将軍をサラが押し止める。たしかに素人にしては動きにそつがない。周囲の警戒も四人であることを前提に動いているように見える。


「とりあえず、私が先に出て相手を油断させます。そのまま奥の男を捕らえるので、キャトラは右、イナリは左、サラは手前の男を――」

「なんだ、捕まえればいいのじゃろ?」


 私が作戦指示を出していると、突然ルナが割り込んできて、遠吠えを上げる。


「な、何だ。こいつらは!」

「狼? しかも、どれだけいるんだよ!」

「なっ、囲まれているだと! おい、お前ら、警戒はどうした!」

「いや、さっきまでは全く……」


 ルナに気を取られていた私は、背後からの叫び声に慌てて振り返る。そこには十匹以上のサンダーウルフに囲まれた男たちの姿があった。サンダーウルフは唸り声を上げながら、徐々に包囲網を縮めていく。


「大人しくすれば危害は加えないわ!」


 今にも男たちがサンダーウルフの餌になりそうな光景に慌てて飛び出して叫んだ。男たちも、命が助かるならばと大人しく拘束された。


「さて、どうしたものかな……」

「俺たちは冒険者だ。ここには討伐依頼で来ただけだよ!」


 彼らの弁明に一見して不審な点はない。だけど、何かが引っかかる――。


「彼らは何かを隠しているようですね。わずかに視線がブレています」


 サラの言葉を聞いて違和感の正体に気が付いた。彼らが話をするとき、わずかではあるが目が泳いでいた。


「ならばキノコを使えば良いのじゃ」

「なんでキノコ――あっ!」


 ルナの言葉を聞いて、『ドリーム・リアル・ファンタジー』にあった自白剤というアイテムと材料に思い至る。


 ゲームにありがちな錬金術によってポーションなどを作ることができるのだけど、そのうちの一つに自白剤というアイテムがある。ワライタケ、シビレタケ、ネムリタケの三つを適切な分量で調合することで作成可能なものだ。


「ネタアイテムだと思っていたんだけど……」


 ゲーム内ではNPCの隠しセリフを吐かせるために使えるのだけど、攻略に役に立つものではない。攻略対象を誘惑しようとした女に飲ませて、お金をだまし取ろうとしたことを吐かせたりするような場面はあるが。


「でも、調合道具も材料もないからなぁ」

「調合道具は持ってきてあるのじゃ。材料はボンクラの拾ってきた毒キノコを漁ればあるじゃろ?」

「たしかに」


 ルナの指示に従って自白剤を調合する。といっても、適量を混ぜるだけなので失敗はしないだろう。


「ま、待ってくれ! 話すから、全部、正直に話すから!」


 自白剤を手に男に近づくと、顔面蒼白にしながら叫び出す。その取り乱す姿は、余計に使われるとまずい秘密を抱えていると言っているようなものだった。


「そんなこと言ったら、余計に使わないといけなくなっちゃうじゃないか」


 そう言いながら、男の口に自白剤を突っ込んだ。


 ――結果として、男は全てを喋った。しかし、その八割は何の関係もない男のプライベートに関するもの。隠していた性癖まで暴露された男は、無駄に絶望のどん底に落とされている。ゲームの中とはいえ、こんな危険物を街の人に容赦なく飲ませるなんて……。ユメリアの鬼畜ぶりに呆れてしまう。


「さて、何しに来たのか、正直に答えてもらいましょうか。答えるつもりがないなら、無駄かもしれないけど自白剤を飲ませるからね」

「お、俺たちはモフモフ王国のことを調べに来たんだ!」

「帝都のギルドにメチャクチャ割のいい依頼があったから受けちまったんだけど、こんなことになるなら辞めときゃよかった!」

「お、俺のカバンの中に調査用のレポートが入っている。それを見ればどんな内容を調べようとしているか分かるはずだ!」


 残る三人は、自白剤を恐れるあまりにあっさりと口を割ってしまった。飲まされた男は「裏切り者め!」と罵っていたが、三人はどこ吹く風である。


 さっそく彼らのカバンを漁ると調査用のレポートと思しき用紙を見つけた。


「なんですか、これ……?」


 用紙に書かれていた内容に、思わず尋ねてしまう。何しろ、『お名前』にエリザベス・アーネスト、『性別』に女性と書かれていたからである。


 さらに目をみはるのは、『職業』『年齢』『住所』『年収』『趣味』『特技』、この辺りまでは理解できる。その先、『宗教』『結婚歴』『お相手の希望年収』『好きな異性のタイプ』『性癖』『結婚希望する時期』『希望する子供の数』という謎の項目が列挙されていたのである。


「これは、まるで――」


 結婚相談所のエントリーシートである。


「っていうか、これモフモフ王国じゃなくて私の調査シートじゃない!」

「えっ? それじゃあ、姐さんが」

「ちょうどいい、よろしくお願いします!」

「この報酬があれば、家族に美味しいものを食べさせてあげられるんで!」

「うっ……」


 調査シートの内容があまりに酷かったせいでツッコミを入れてしまった。そのお陰で身バレしてしまい、男たちに詰め寄られる。実際には縛り上げられているので這い寄られる感じなんだけど。


「わかりました、書きますから!」

「自白剤はいるかえ?」

「いりません! 書ける範囲だけですからね!」


 何とか書ける範囲の内容を書いて男たちに渡すと泣いて感謝された。その後、自白剤を飲まされた一人が、残り三人に自白剤を飲ませて聞きたくもない性癖暴露大会になってしまったが、それで溜飲が下がったのか仲直りしたようである。


 その後、キノコ鍋を作ってみんなで食べることになったのだが……。


「姐さん! 俺たちにまで食べさせてくれるなんて!」

「一生付いていきます!」

「この御恩は忘れません!」


 なぜか男たちもキノコ鍋を食べる流れになって思いっきり感謝されてしまった。その後、彼らは帝国に帰ってレポートを提出するらしい。


 彼らを見送った後、私たちもモフモフ王国へと帰ってきたのだけど――。


「なんで、街の中に魔獣がこんなにいるのよ?」


 街の中には大小さまざまな魔獣が歩いていた。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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