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第14話 キノコ狩りは危険がいっぱい?!

「ここが例の森か」

「なんで将軍までついて来てるんですか?!」


 将軍の件は魔王に言ってもどうしようもないと判明した翌々日、私はイナリの案内でフェンリルに会いに、モフモフ王国の近くにある森へとやってきた。


 キャトラとサラも行きたいと言い出したので、ついでにキノコ狩りをしようということになったのが昨日の話。誰かに話したわけでもないのに、なぜか集合場所に将軍が待っていたので、しかたなく連れていくことになった。


「森に入るのだ、護衛は必要だろう。それに、街の警備は部下に任せてあるから大丈夫だ」

「護衛はわかりますけど、その格好は?」


 帯剣こそしているが、背中にキノコを入れるための巨大な籠を背負っている。本当に護衛するつもりなのか疑わしいと思ってもバチは当たるまい。


「キノコ狩りをするのだろう。まかせろ、俺はキノコの判別も得意だからな!」


 よほど自信があるのだろう。腰に手を当てて豪快に笑う将軍への不信感が半端ない。周りを見渡すと、私だけじゃなくてサラもキャトラもイナリも半眼で見ていた。


「それじゃあ、私がイナリと森の奥に行っている間、サラとキャトラのことは頼むわね」

「――えっ?! イナリ殿はキノコ狩りはしないのか?」


 あとのことを将軍に任せようとしたら、この世の終わりのような顔をされた。元々、私とイナリはフェンリルに会いに行くのが目的。キノコ狩りは、その間のキャトラとサラの暇つぶしのようなものだ。


「ここはみんなで行くというのはどうかニャー!」

「そ、そうですね。私もフェンリルとやらには会ってみたいですし!」

「そ、そ、そうか。キノコ狩りをしながらでも森の奥には行けるだろう。それでいいではないか!」


 あまりに将軍が居た堪れなかったため、キャトラとサラがとっさにフォローに回る。何とか立て直した将軍の強烈なプッシュもあり、みんなでキノコ狩りをしながら森の奥へと向かうことになった。


「キノコなんて、あちこちに生えてるニャー。俺は天才かもしれないニャー」

「キャトラ殿。その籠の中身、ほとんどが毒キノコであるが……?」

「ニャニー?! 全部ハズレってことなのかニャー」


 ドヤ顔になるキャトラだったが、将軍に毒キノコだと指摘されて落ち込んでしまった。持ち上げたところで食べる時に指摘せざるを得ないのだから、先にわかってよかったのかもしれない。


「わらわを、よう見習わはりますえ」

「さすがイナリ殿。ちゃんと食べられるキノコを選んで取っておられる!」

「ふふん」

「そんニャー。ひどいニャー。もうキノコなんて嫌ニャー!」


 キャトラがキノコの入った籠を放り投げる。宙を舞った籠からキノコが、食べられるものも、食べられないものも、一様に辺りにぶちまけられてしまう。


 ――次の瞬間、私たちの周りに稲妻が奔った。


「森の恵みを荒らすのは、貴様らか?」

「あらあら、ええ時分にお越しくださったことどすなぁ」


 稲妻に続いて、地の底から響くような圧を伴う声が響きわたる。突然の出来事に動揺してしまうも、イナリだけは余裕の笑みを崩さず、何かをつぶやいていた。


「お、お嬢様。あれを!」


 サラが指差した先、ちょうど良く置かれた岩の上に、稲妻をまとった巨大な狼が私たちを見下ろしていた。


「もしかして――あのモフモフが?」

「そうどす。あれがフェンリルどすなぁ」


 私の目はフェンリルのモフモフを瞬時に分析する。イナリのように幻術による癒しはできないだろうけど、イナリのフサフサの尻尾とキャトラのフカフカの体を合わせたモフモフ形態だ。


「これは……! 毛がキャトラと比べると剛毛な感じがあるけど、モフモフの潜在能力が高い!」

「お嬢様……」


 やや欠点もあるが、理想的なモフモフを体現した姿に目を奪われていると、隣でサラが残念なものを見るような目で私を見てくる。


「貴様ら、我らの森を荒らすのなら容赦はせんのじゃ!」


 怒りの声と共に雷鳴が轟く。気づいたら周囲にはフェンリルを小さくしたような魔獣が私たちを取り囲んでいた。


 いつでも私たちを襲うことができるぞ、という意思表示だろう。だけど、モフモフを前にした私に、その程度は何の抑止力にもならない。ためらいもなく一歩進み出ると、サラが悲痛な表情で声をかけてきた。


「お嬢様! 実力行使は最終手段でございます!」


 サラは私のことを何だと思っているのだろうか。モフモフ相手ならば見境なくモフモフするような人間だと?


「私たちに、あなたと敵対する意図はありません!」

「ならば、なぜ森の恵みを投げ捨てたのじゃ?」

「それは……。こちらのキャトラが毒キノコばかり拾ってしまったのです。もちろん、食べられるキノコはちゃんと拾って食べます!」


 私が正直にキャトラのやったことだと告げると、フェンリルが怪訝そうな表情でキャトラを見つめる。


「ぬ……。もしや、貴様、トラオか?!」

「トラオじゃないニャー。キャトラって名前を付けてもらったニャー」

「どうでもいいのじゃ。毎回毎回、貴様というヤツは、碌な事をしないのじゃぁぁぁ!」

「ギニャー!」


 フェンリルの怒りの雷撃がキャトラに直撃した。死ぬようなダメージではないけど、痺れて立ち上がれないようだ。


「いつもいつも、ひどいヤツニャー」

「ひどいのは、お前なのじゃ。いつもいつも森の恵みを見境なく荒らしおって!」

「この二人は、いつもこんな調子どすなぁ」


 どうやら、キャトラが森を荒らしてフェンリルの怒りを買うのは、恒例のことのようだ。


「私たちは森を荒らすようなつもりはありません。今回も急遽決まった話ではありますが、この森を狩場にしている獣人たちには話を通してあります!」

「ふむ、あやつらとは旧い約束がある、ならば、我も無下には扱えんのじゃ」

「わらわもお手伝いしますえ」


 獣人たちに話を通してあると伝えると、フェンリルの態度がわずかに軟化した。そこにダメ押しとばかりに自らの毛を何本か抜き取り、フッと息を吹きかける。毛の一本一本が小さい狐の姿になった。


「む、この術は……。お前キュウビか? トラオだけでなく、キュウビまで従えるとは何者なのじゃ?」

「この式神に森の中を守らせれば安心ですやろ?」

「だが、いかにお前であっても、維持するのは難しかろう?」

「心配ありまへん。主様の力も借りれば余裕ですえ」


 力を借りるって初耳なんだけど、どういうことだろう。思わず首をひねる。


「力あるものに名付けられるのは従魔の契約の一つどすえ。従魔となれば主の力を自由に借りれるんどす」

「初めて聞くし、そもそも力を借りられた感覚はないけどなぁ」

「それはお前の魔力が膨大すぎるからだニャー」


 私たちの話を横で聞いていたフェンリルが目をひそめる。


「大変興味深いのじゃ。わかった、ならば我も協力するのじゃ」

「あとは名前かぁ……。それじゃあルナとかどうかな? 狼って月に向かって吠えるイメージだし。ルナっていうのは月のことだから……」

「ふむ、悪くないのじゃ。ついでにキノコ狩りも手伝ってやろう。そこのボンクラでは頼りにならんじゃろうからな!」


 キャトラとイナリの話を聞いて、興味を持ったのだろう。もちろん、獣人との友好関係やイナリの式神で森を守るというのも理由ではあるが、意外なほどあっさりと協力してくれることになった。


「どうやら、怪しげな者どもがこの森の奥に潜んでいるようどすなぁ……」


 キノコ狩りを再開しようとしたところで、イナリが眉をひそめながら不穏なことをつぶやいた。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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