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第13話 将軍の狙いはこれだったんですね?!

 翌日、魔王軍の駐留部隊と共にモフモフ王国へと帰ることになったのだが――。


「なんで将軍がいるんですか?!」

「モフモフ王国に駐留するのは初めてだからな。責任者がいた方が何かと都合がいいだろう」


 紛れ込んでいた、というより、自ら先頭に立って駐留軍を率いていた将軍に思わずツッコミをいれてしまった。しかし、将軍は気を悪くする様子もなく、淡々と理由を説明する。将軍の言うことにも一理あるのだけど……。


「いやいや、本国の防衛はどうするんですか!」

「そちらはパルミジャーノ副将軍が指揮を執るから大丈夫だ。それにモフモフ王国の防衛は我々にとっても重要だからな!」


 穴がありそうなところを突いて、将軍を帰らせようとする。しかし将軍は、まるであらかじめ答えを考えていたのかと思いたくなるほど、よどみなく的確な説明を返してきた。


「ぐっ、そこまでしっかりした理由であれば、しかたありませんね」

「当然だ、徹夜して考えたのだからな……」


 ツッコミどころが無くなったため、しかたなく将軍の動向を認めることにした。直後に将軍が信じられないことをつぶやいていたが――私は何も聞いていない。


 彼らが同行することで、将軍用の馬車が一台追加されただけでなく、歩兵が私たちの馬車を取り囲むように歩いている。


「意外と人数が多いんだけど。こんなに必要なの?」

「ああ、もちろんだ。希望者を募ったら予想以上に多くてな。これでも絞った方だ。もちろん、人員は定期的に交代することになっているから、気にする必要はない」

「そんなに駐留部隊って人気あるんですか?」

「そんなことはないぞ。モフモフ王国のような状況がむしろ珍しい」


 魔都から近いことも関係しているのだろう。駐留部隊の希望が殺到したことに驚いたけど、それ以上に驚いたのは、将軍も駐留部隊の座を自ら勝ち取ったらしい。


 負けたらどうするんだ、と聞いたら。俺が負けるわけないだろう、と返された。しかも気障ったらしく。


 不安を抱えつつも、この物々しい集団を襲う者などいるはずもなく、平穏なままモフモフ王国へと帰ってきた。リフレッシュしたところで明日からの仕事を頑張ろうと思った矢先、信じられない出来事が起きた。


 それは次の日の夕方のこと――。


「今日は営業しているのか?」

「えっ? そうですね」

「わかった、それじゃあ二時間で頼む。イナリ殿を指名しても構わないかな?」

「えっと、それは構いませんけど……。って二時間ですか?!」


 今まで延長する人が誰もいなかったため、いきなり二時間と指定してきた将軍を思わず二度見してしまった。


「何か問題でも?」

「いや、ありません。では、中へどうぞ!」


 ぎこちないながらも将軍を奥へと案内し、きっかり二時間楽しんで帰った。駐留初日ということもあって、ご祝儀のつもりなのだろう。その時は、そう思っていたのだが……。


 毎日のように夕方から二時間、イナリを指定して将軍が入り浸っていた。気になって思わず将軍の様子を覗き見してしまう。知らない方がいいこともある、という言葉を、自分の身で初めて実感することになった。


「もふもふ……もふもふ……」


 目の前にはイナリと、尻尾に覆われて「もふもふ」とうわごとのように繰り返している将軍の姿だった。いつものような毅然とした、それでいて理知的であった振る舞いは、今の彼にはまったく見いだせない。


「これ、本物?」

「左様でございます。お嬢様」


 思わず意味不明な問いかけを発した私に、ロバートが淡々とした声で答える。聞くまでもなく、本物の将軍であることはわかっている。だからと言って、簡単に受け入れられるとは限らない。


「どうやら、彼はイナリのモフモフにハマってしまったようですね」

「もしかして……」


 ここで初めて真実に思い至る。


 将軍が駐留部隊の提案をしたのは、合法的にモフモフ王国に滞在するため。


 イナリの動向を訪ねてきたのも、駐留部隊に入るかどうかを判断するため。


 要するに、彼はイナリのモフモフ目当てで駐留部隊の提案をしたということだ。


「これはマズいんじゃないか?」


 彼は問題ないと言っていた。しかし、将軍は魔王側近の一人のはず。易々と国外に常駐をして良い立場の人間ではない。


「ううん……。これは流石に魔王に報告しないとダメかもしれないわね。キャトラ、悪いんだけど魔王城まで送ってくれない?」

「もちろん、問題ないニャー!」


 キャトラに乗り、魔王城へと急いで向かう。特に先触れは出していなかったけど、旅行の時とは違い、止められることもなく、あっさりと魔王城に辿り着いた。


 そのまま、謁見の間へ向かうと、既に魔王と宰相が出迎える。


「エリザベス嬢、何か問題があったか?」

「いや、モフモフ王国の駐留軍に将軍がいるんですけど、これって大丈夫なんでしょうか?」


 さすがに怒るだろうと思いながら経緯を話す。あからさまに顔をしかめる宰相と違い、魔王は椅子に座ったまま泰然としていた。


「ふむ、将軍が……。それで何か問題があるというのか? こちらの魔王軍は副将軍のパルメジャーノに任せているようだが」

「将軍って、魔王軍の事実上トップですよね? 国外に常駐するような立場ではないと思いますけど」

「実務に関しては全て任せると言ったからな。それに、モフモフ王国が裏切った時、対抗できるのは俺くらいだ、と力説しておったぞ」


 将軍の力の入れ方に頭が痛くなってくる。仮にモフモフ王国が裏切ったら、将軍程度じゃお話にならない。それ以前に、将軍は既に骨抜きにされているし。対抗できるのは俺くらいと言っているけど、今の状況からして、将軍に対抗する気があると思えなかった。


「わかりました……。魔王様も理解されているのであれば、事を荒立てるつもりはありません」

「ヤツは頭が固くて融通の利かないヤツではあるが、よろしく頼むぞ」

「そ、そうなんですか……。私から見たら、だいぶ柔らかい方に見えますけど」


 もはやタコのような軟体動物にしかみえないのだけど、さすがにそれを直接言うわけにはいかないだろう。


「それなら好都合だ。以前からヤツには肩の力を抜けと言っていたが、なかなか聞き入れられなくて苦労したものだからな!」


 肩をすくめる魔王に、苦笑して言葉を濁すことしかできなかった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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