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第12話 魔都は王都とは違いました!

「当然だ! 我々は決死の覚悟で突撃を――」

「でも結局、将軍はモフモフを堪能してだけですよね……?」

「……それは言わないでくれないか?」


 プライドを刺激された将軍が憤慨しながら言い放つが、私の素朴な疑問により一瞬で撃沈した。常勝無敗の威厳はどこかに行ってしまったようだ。


「さて、これで話も終わりかな?」

「ああ、俺たちの方は問題ない」

「まったく疲れましたわ。お金持ってくれば、こんな面倒なことはせずに済んだのに……」

「はっはっは、面倒を掛けたことは申し訳ない。だが、そちらは支店を出せるし、こちらは魔王軍を駐留させられる。悪い話ではあるまい」


 私が愚痴っぽく言うと、場の雰囲気が少しだけ緊張する。それも一瞬のこと、いつの間にか復活していた将軍の気安い言葉によって、あっという間に和らいだ。


「お嬢様!」


 ひと段落ついて身体から力が抜ける。ふらついて倒れそうになったところをサラが素早く支えてくれた。


「大丈夫、少し疲れてしまっただけだから」

「少し早いが今日のところは休むと良い。魔王城にも来賓用の部屋があるから、そちらへ案内しろ」


 魔王の指示を受けて、宰相が魔族の使用人を呼び部屋へと案内させる。使用人に付いて行き、たどり着いた部屋は想像以上に大きかった。


「少し狭いですが、従魔の方もご一緒に慣れる部屋をご用意いたしました」


 廊下が広く扉も大きいのは、魔獣使いが一般的な魔族ゆえの配慮だろう。それでも、キャトラやイナリの体に比べるとやや小さく、少し窮屈そうに見えた。


「いい部屋ニャー。来てよかったニャー」

「少し狭そうに見えるけどね」

「そんなこともないニャー」


 部屋を見回してキャトラが満足した顔で感想を述べる。本人は意識していないのだろうけど、いつもの雰囲気を取り戻して少しだけ緊張が和らいだ。


「お嬢様、今日は早めにお休みしましょう。王都から休みなしでしたから」

「そうね。早めに休ませてもらうわ」


 私が一足先にベッドに潜り込むと、キャトラがベッドの脇にやってきて丸くなった。


「俺も疲れたから寝るニャー。モフモフしたいなら勝手にするニャー」


 気を使ってくれているのだろう。素っ気ない態度のことが多いけど、それは気まぐれなだけ。こうして相手のことを思って自分ができる限りを尽くすことのできるキャトラは、やっぱり猫カフェにとって最も相応しい魔獣と言える。


「ふふふ、ありがと」

「気にしなくていいニャー。俺も寝てるだけだから、好きにするニャー」


 お言葉に甘えて、キャトラの頭を撫でる。モフモフなら何でも好きではあるけど、単に撫でるだけならキャトラの手触りは別格だった。手のひらから伝わってくるサラサラの感触を堪能していると、あっという間に夢の世界へと誘われてしまった。



「おはようございます。お嬢様」

「ああ、サラ。おはよう」


 疲れていたせいか、早く寝たにもかかわらず、目覚めたのはいつもと大して変わらない時間だった。少しうとうとしながらベッドから出ると足元に違和感があった。


「ニャァァァー!」

「あっ」


 隣にキャトラが寝ているということに気付いたのは、背中に思いっきり乗った後だった。


「ひどいニャー」

「ごめんごめん、忘れてたよ」


 愚痴るキャトラに謝罪をしながら、サラの入れてくれた紅茶を飲む。サラにも向かいに座って寛ぐように言うと、自分用の紅茶を淹れて向かい側に座る。ゆったりと流れる時間を堪能していると、ロバートとイナリも起きてきた。


「皆様、お食事の用意ができました」


 全員が起きたタイミングを見計らったかのように、魔王城の使用人が部屋にやってきた。彼の案内で食堂へと案内される。


「気分はどうだ?」

「だいぶ良くなりました」

「それはいい。今日は魔都の中を見て回ると良いだろう。ちょうど将軍が案内を買って出たからな」


 昨日といい、将軍の私たちに対する態度が寛容すぎることを不審に思いつつも、折角なのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。魔王との朝食を終えて、支度を整えていると将軍が部屋までやってきた。


「準備ができたら声をかけてくれたまえ」

「ああ、もう大丈夫です。何で将軍は、そこまで親切にしてくれるのでしょう?」

「それは敗者としての矜持だと思ってもらえればいい。今は廃れつつあるが、魔族は元々強さが尊重される。だから負けた俺はお前たちに対して便宜を図っているということだ」


 それを聞いて、将軍の行動が不自然ではないと理解して胸を撫で下ろした。


「それに、俺は魔王様にも不利になるようなことはしていないだろう?」


 そう言いつつ、将軍は不敵な笑みを浮かべる。その姿に背筋が凍るような気がした。


「意外と曲者じゃない」

「誉め言葉と受け取っておこう。それじゃあ、行こうか」


 将軍を先頭に魔都の中を散策する。人間の姿こそ見ないけれども、魔族だけでなく獣人、オークやトロール、ゴブリンなどの邪悪と言われる種族も普通に街で暮らしていた。


「珍しいだろう? お前たち人族にとっては、どれも邪悪な種族ってことになっているのだろうけど、魔国の正規の住民であればむやみに襲ってきたりしない」

「襲ってくる連中は別と言うこと?」

「お前たちにだって山賊とか野盗とかいるだろう? そんなヤツらを基準に種族を語っているに過ぎない」


 前世の記憶も王国目線だったし、王国で生まれ育った私にとって、将軍の話は俄かには信じがたい。しかし、魔都の街並みに溶け込んで生活する彼らを見ると、あながち間違いではないように感じられた。


 その後は、魔都に出ている屋台で軽く食事をしたり、お土産を見て回ったりした。


 将軍が同行していたお陰で警戒こそされてはいないけど、キャトラやイナリくらいの大きさの魔獣になると、魔獣使いの多い魔国の人間にとっても脅威になるらしく、最初のうちは遠巻きにして見ているだけだった。


「あのっ、ちょっと触ってもいいですか?」

「うん? 別にいいけど」

「あ、じゃあ私も!」

「ズルい、僕も!」


 しかし、色々と店を回っているうちに、好奇心旺盛な子供たちがキャトラやイナリに触りたいか聞いてきた。許可すると、次から次へと子供たちが自分もと押し寄せてきてきた。


「いい加減にしないか。困っているだろう?」


 子供たちに囲まれて困惑した私たちに代わって、将軍が間に入って、子供たちに注意をする。さすがに将軍に逆らって触ろうという子供はいない。名残惜しそうにしながらも、私たちから離れていった。


「今度、猫カフェを作るから、遊びに来てね。もっとたくさん触れるよ」

「え、本当?! 行きたい!」


 離れ際に猫カフェの宣伝をすると、嬉しそうに笑顔を浮かべて去っていった。


「まったく、軟弱な……」


 去っていく子供に、将軍は吐き捨てるように言う。しかし、モフモフの虜になっていた将軍にいう資格は無いと思うんだけど……。


「それで、支店の猫はどうするんだ? キャトラ殿かイナリ殿を連れて来るのか?」

「いえ、新しい魔獣を雇う予定ですね」


 一通り見て回って帰ろうとしたところで、将軍が支店について尋ねて来た。新しく雇う予定だと告げると、なぜか安心したように肩の力を抜いて笑みを浮かべる。


「それなら、イイ人がおりまっせ。フェンリルっちゅうんですが。ちょうどモフモフ王国の隣にある森にいはるんどすえ」

「それならちょうどいいですね。帰ったらさっそく案内をお願い」

「おまかせくだされ」


 私とサラがキャトラの背中に、ロバートがイナリの背中に乗って、モフモフ王国へと駆け出した。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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