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第1話 婚約者が酷いので猫カフェプロジェクト開始します!

 ヘレン王女殿下のお茶会に誘われた私は、彼女から衝撃的な話を聞くことになった。


「魔国から宣戦布告がありましたの」

「これはまた急ですね」


 王国と魔国は仲が悪く、たびたび争っている。しかし、代替わりしてから大人しくしていると聞いていたけど、どういうことだろう。


「あ、ごめんなさい。シャイニール王国に宣戦布告したわけではないのです。モフモフ王国への宣戦布告が王宮に送られてきたのです」

「は?」


 彼女の口から飛び出した話は、私の想像をはるかに超えたものだった。目の前に王族がいるにもかかわらず、素っ頓狂な声で聞き返してしまい、慌てて口を塞いでしまう。そんな私の様子を彼女は微笑みながら見つめ、話を続ける。


「送られてきたのは一昨日なのですが……。昨日、王宮が魔王に襲われましたでしょう。城の人間はずっと『どうなってるんだ!』って喚いているだけですわ」

「んん、でも何でモフモフ王国に?」

「魔国の話ではモフモフ王国はシャイニール王国の属国みたいです。しかも、あっという間に撃退してしまったみたいですわ」

「いやいや、モフモフ王国は猫カフェの名前ですよ!」


 怪訝そうな表情で話をしていたヘレンが、仰天して目を丸くしながら両手を挙げる。


「ええっ? 一体どういうことなのかしら……?」


 それは私の方が知りたい。猫カフェがどうやって魔王軍を撃退したというのか。


 この衝撃的な出来事は、婚約者の一言から始まった――。


 ◇


「エリザベス・アーネスト辺境伯令嬢! お前を愛することはない!」


 婚約者である私の前で、ルイス・シャイニール王太子殿下は、浮気相手であるユメリア・ファンタジア男爵令嬢の肩を抱きながら高らかに宣言した。雲一つない青空は、沈みゆく太陽によって橙色に染まっている。春先とはいえ、少し肌寒さを感じる風が熱を持った頬に心地よい。


「お前の銀の髪と赤い眼。まるで悪魔のようではないか!」


 始まったわね、『ドリーム・リアル・ファンタジー』のルイスルート、最初のイベントが。原作ではユメリアに嫉妬するんだけど、そんなものに従うつもりはない。ここで悲劇のヒロインを演じて、父への説得材料にするつもりだ。


「そんな、私、傷つきました! 実家に帰らせていただきます!」

「なっ、おい! 待てよ!」

「ここで逃げるなんて聞いてないわ!」


 さっそく持ち前の演技力を駆使して、婚約者の暴言に傷ついたことをアピールする。その療養を口実に戦略的撤退を敢行した。私の膨大な魔力を使った身体強化には誰も追いつくことができない。


 去り際に二人が何やら叫んでいたような気がするけど、どうせ大したことじゃないだろう。


 その勢いのまま、私は王都にあるタウンハウス、そこにある父の書斎へと突撃した。勢いよく扉を開け、仕事中である父の机に勢いよく両手をついて高らかに宣言する。


「お父様! 約束通り、猫カフェを作らせていただきます!」

「な、何だね、いきなり。少し落ち着きたまえ」


 不意打ちのような提案に、父は驚きながらも私をなだめにかかる。だけど、交渉は時に勢いが肝心。一気に畳みかけるべく捲し立てていく。


「先ほど、ルイスに『愛することはない』と言われました! これはとても酷い。さすがの私も深く傷ついてしまいました! そういうわけで、領地に引きこもって療養します! ついでに前に約束していた猫カフェも作ろうと思うんですけど、いいですよね!」

「傷ついているようには見えないが……。ああ、わかったわかった。元は婚約破棄したらという条件だったが、しばらく療養が必要なら自由な時間もあるだろう。かなりの僻地になるが、それで良ければ領地を譲るから好きにするがいい」


 私の演技力と勢いに圧倒された父は、あっさりと白旗を上げた。しぶしぶではあるが、領地の譲渡と猫カフェを作ることを認めてくれた。


「ありがとうございます。お父様!」


 父の英断に、にっこりと微笑みかけると感謝の言葉を述べる。しかし、父は何故か怪訝そうな顔をしながら、言いにくそうに尋ねてくる。


「それはそうと、サラはどうした? 迎えの馬車で学園に向かったはずだが……」

「あっ、忘れてました。すぐに迎えに行ってきますね!」


 勢いが肝心だと思って慌てて帰ってきたせいか、迎えの馬車を置き去りにしていた。そのことに気付いて、慌てて迎えの馬車を迎えに行く。


「……本当に療養が必要なのか?!」


 父の書斎から出る時に、何か言っていたような気がしたけど、猫カフェのことしか頭にない私の耳に入ることはなかった。


 ◇


 翌朝、譲渡された領地に向かうために、私とサラ、そして執事のロバートは馬車に乗って辺境伯領へと向かうことにした。


「お嬢様、準備が整いました」

「ありがとう、サラ」


 学園のある王都から辺境伯領へは馬車で三日ほどかかる。しかし、それは間に山があって、街道が大きく蛇行しているからだ。だけど、私たちには関係ない。


「しかし、本当に山道を通っていくんですか?」


 山道とは言うけど、馬車で通るのは問題ない。ただ、魔獣に遭遇する確率が高いため、使われることが少ないだけだ。今回、山道を使うのは魔獣が目当てである。


「ええ、領地に行くついでにモフモフをスカウトするの」

「お嬢様、正気ですか? まあ、お嬢様はモフモフのことになると残念な感じになりますからね……」


 相変わらず失礼な言動の侍女だった。その通りだから、否定のしようがないのが悲しいけれども。


「珍しく魔物に遭遇しませんね」


 サラは張りつめていた緊張を緩ませながらつぶやく。山道を走ること二時間ほどで、旅程は半分にも至っていない。だけど二時間も走っていて魔物の一匹すら見かけないのは異常だった。


「魔物どころか、動物の一匹もいないじゃない……」

「これはもしかすると、大物がいるかもしれませんね」

「大物……」

「ええ、強力な魔物によって、他の魔物が生息範囲を変えることはよくあることなんです。ですが、ここまで極端だと相当に強い魔物の可能性がありますね」


 サラの助言に私たちは警戒心を強める。だが、それは意外なほど早く私たちの目の前に現れることとなった。


「お嬢様、前方にホワイトタイガーがおります」


 御者台から顔を出したロバートの言葉を聞いて、慌てて馬車から降り立つ。少し先を見通すと、ちょうど山道を塞ぐように巨大な白い猫が気持ちよさそうに眠っていた。


「巨大な猫が目の前に……」

「虎でございます。お嬢様」

「わかってるって!」


 サラのツッコミに答えながら、私はホワイトタイガーに向き直る。


「お嬢様、お待ちください! ホワイトタイガーは冷気を吐く魔獣。危険でございます!」

「私は行かなければなりません。それは……そこにモフモフがあるからです」


 制止を振り切って、ホワイトタイガーに向かって一歩を踏み出す。それは、いずれ世界を席巻する猫カフェに向けた第一歩だった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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