安楽椅子ニート 番外編21 預言書(通常版)
矢田「これ、お前のだろ?」
火野「?」
矢田「惚けるなよ。・・・気持ち悪ぃいんだよ。こんなもん、書きやがってぇぇえ!」
火野「・・・何の事?」
矢田「お前のだろ!お前の名前が書いてあるだろ」
火野「はぁ? だから何の話か、聞いてるんじゃないの?」
矢田「・・・気味悪ぃもん書きやがって! とにかく返したからなぁ! じゃあ私は帰るけど、お前と関わる気はねぇから。」
火野「ねぇちょっと! はぁ? 待って! なんなのよ。これぇ。・・・”預言書”?」
火野「あ、もしもし。藤村君?あ、私、火野だけど。」
藤村「こんばんは。火野さん?」
火野「火野。火野御影。お久しぶり。こんばんは。」
藤村「あれでしょう?矢田さんの件でしょう?」
火野「え? あ! え?」
藤村「あのごめんね。矢田さんが火野さんの事で、えらい剣幕で電話してきたら、その事だと思って。」
火野「あ、ああ、・・・・・うん。そうなんだけど。」
藤村「気持ち悪いノートがあるとかって、聞いたけど。」
火野「・・・・・気持ち悪い?」
藤村「いや、僕も詳しくは聞いてないんだけど、矢田さんが、火野さんが気持ち悪いノートを書いたから持ち主に返したいって言うんで、それで、ご実家の電話番号を教えちゃったんだ。・・・・・迷惑だったかな?」
火野「・・・・・あ、そ、そうだね。いや、あのね。私も突然、矢田さんから連絡がきて、ノートを置いて帰っちゃったから、何がなんだかよく分からなくて。・・・・・藤村君。学級委員だったから、矢田さんの連絡先、知ってるかなと思って、電話したんだけど。」
藤村「ああ。そうか。火野さんも。矢田さんも同じこと言ってたよ。・・・・僕が学級委員だったから火野さん家の連絡先、知らないか?って。」
火野「ああ、そうなんだ。」
藤村「あの。火野さん?・・・矢田さん、様子おかしくなかった?」
火野「おかしいも何も、中学の時、ろくに話もしたことない人が、急に会いたいって言うのもおかしいし、会ってみたら、変なノート、置いて、帰っちゃうし。・・・私も困ってるの。」
藤村「矢田さんから聞いたけど、未来の事が細かく書いてあるノートらしいね。」
火野「いや、私、まだ、中、見てないんだけど。これ、私、・・・記憶にないんだよね。こんなもの書いた覚えもないし。」
藤村「見覚えないんだ、火野さん。」
火野「矢田さんは、私の名前が書いてあるから、って言って、置いていったんだけど、私、本当に、書いた覚えがないの。・・・・・そもそも、なんで、矢田さんがこんなノートを持ってるのかも分からないし。」
藤村「・・・・・ああ。うぅうん。・・・・あまり大きい声じゃ言えないけど、矢田さん。中学の同級生と会って飲んで、酔っ払って、その勢いで、中学校に無断で侵入して、タイムカプセルを掘りほこしたんだって。」
火野「は?」
藤村「まかり間違えば犯罪だよ。深くは聞かなかったけどね。ノートの出所はタイムカプセルだって。・・・・火野さん、タイムカプセルにそのノート、入れた覚えはないの?」
火野「無い。・・・・私、あの時、みんなと一緒で、将来の私へって、葉書を書いて入れたはずだから。ノートなんて入れたら覚えているし、それに、”預言書”? 預言書なんて妄想全開のノート、学校のタイムカプセルになんか入れないわよ。」
藤村「ははははは。でも、当時の火野さんなら書きそうな感じだったけどね。」
火野「え?」
藤村「気分を悪くしたら申し訳ないけど、ほら、前髪、ぜんぶ、目が隠れるくらい伸ばしていて、ちょっと浮いてたし、そんなにクラスに友達も多そうに見えなかったから。・・・もうちょっと、明るく振舞っていても良かったんじゃない?って思ったけど。」
火野「・・・・・」
藤村「気分を悪くしたらごめんね。」
火野「いや、あの、藤村君が謝る事じゃないから。友達いなかったのも事実だし。・・・・・でも。でも、自分で書いたノートなら覚えているわ。こんなノート、買った記憶もないし。そもそもこんな趣味の悪いノート、買わないし。ああ、そんな事、藤村君に言っても仕方がないよね。」
藤村「いや、それはいいんだけど。
矢田さんも悪いと思うんだ。手順を踏まないで勝手にタイムカプセル開けちゃって。それで、人のノートを。火野さんに限らず、ね。誰のノートだろうと、見ていいものじゃない。」
火野「それは同感。」
藤村「ただちょっと矢田さんの感じが尋常じゃなかったからさ。凄く怯えているっていうかさ。」
火野「怯えている?」
藤村「そう。・・・・・そのノート。ノートに書かれている事が、ことごとく的中しているんだって。矢田さんも”預言書”なんて書いてあるから、妄想半分で書いたんだろうと、面白がって、見たんだそうだ。
よくある未来予知だよ。誰でも考えそうな、地震がくるとか、津波がくるとか、戦争がおこるとか。
でも、よくよく読んでみると、それが全部、的中しているんだって。何年、何月、何処で起こるとか、そういう事が。子供って言っても、中学生だけど、中学生が書いた妄想にしちゃ良く出来過ぎている。社会情勢から鑑みれば、国家同士のいざこざや、経済市場は予想ができる。ピンポイントで起こるテロ事件まで明確に予想されている。矢田さんなんかきっと新聞とかニュースを読まないか、きっと、そういう未来予想には頓着しないんだと思うんだけど、気味が悪いと言っていたのが、地元の、火事。事故。誰の家が火事になるとか、誰が交通事故に遭うとか、実名で書いてあったそうだよ。
それを見つけて、怖くなって、ノートの名前に火野さんの名前を見つけて、返さなくちゃいけないと思って、僕に電話してきたんだ。これを持っていたら呪われるって。」
火野「呪われる・・・?」
藤村「矢田さんも、ちょっと話が飛躍し過ぎるとは思っていたけど。ただ、凄い剣幕だったから。・・・・・ほんと、ごめんね。火野さんにも迷惑かけちゃって。」
火野「まぁ。・・・・そう。うん。あ。」
藤村「それ、ほんとに火野さんの書いたものじゃないの?」
火野「いや、あの、ほんと、書いた記憶もないし、タイムカプセルに入れた覚えもない。」
藤村「・・・・・誰かのイタズラかな。でも、身に覚えがないんだったら、火野さんも、処分しちゃった方がいいんじゃない?そんなに未来の事が的中しているノートなんて、やっぱり、気色が悪いよ。」
火野「ああ、そうね。・・・・確かに。・・・・私、イタズラされるような友達もいないし。」
藤村「あ」
火野「なにっ?」
藤村「火野さん、彼氏がいなかった? お付き合いしている彼氏がいるとか噂になった事あったけど?」
火野「ああ。・・・・樋場君?」
藤村「樋場君。樋場君。」
火野「樋場君はまぁ、そうだね。彼氏?うぅうん。」
藤村「え?違うの?彼氏じゃなかったの?」
火野「・・・・仲が良かったけど、それだけ。付き合うまではいかなかったんだよね。今思うと笑っちゃうけど。」
藤村「そうなんだ。」
火野「そう。・・・・でも、藤村君。だいたい話は分かった。まぁ、あんまり、気味の悪い物は私も関わり合いたくないんだけどね。はははははははははは。」
藤村「もし何かあったら何時でも相談して。・・・・学級委員のよしみで、相談に乗るから。」
火野「あの、ありがと。それじゃ、夜分、遅くごめんね。それじゃ。」
火野「矢田の奴。本当に厄介な物を押し付けやがって。なんなんのよ、これぇ? それに藤村も藤村。なに勝手に人の実家の電話番号、教えるのよ・・・・・藤村が教えてなければ私がこんなノート、押し付けられなかったはずなのに。なんで?なんで、私の名前が書いてあるわけ?
うわぁ ほんとに書いてある。 地震。あの地震だ。何千人も死んだ、やつ。地震だけじゃなくて津波の被害も大きかったっけ。あ、こっちはアメリカのテロ事件。飛行機の乗客を人質に、ビルに激突して自爆した。これだって何千人と死んだ。おかしな大統領?カードゲームみたいな名前の。あ、ウィルスのパンデミック。・・・・ああ。なにこれ?
あ、清水の家が火事? 平沢が自転車事故? ははは。 はははは。 これ、本当?本当なの?
なんでこんな事が分かるの? 預言? 当たってる。ぜんぶ当たってる。十年前に預言したんだ。その預言が当たってる・・・・。
これからの事も書いてある・・・・。 矢田が交通事故に遭う?
もしかして、これ見て、これを信じて、怖くなったっていうの? ・・・・・確かに気持ち悪い。自分が交通事故に遭うって預言されたら。」
藤村「もしもし、火野さん?僕。藤村。藤村だけど。」
火野「あ、藤村君。この前はどうも。どうしたの今日は?」
藤村「火野さん。・・・火野さんの方は何か変わった事はない?」
火野「変わった事?どうしたの?」
藤村「いや。それがさ。・・・・・」
火野「・・・どうしたの?」
藤村「言いにくい事なんだけどさ。実は・・・・・矢田さんが事故に遭ったんだ。」
火野「!」
藤村「ほら、この前の事があったからさ。矢田さんが電話してきたり、火野さんも電話してきたり、・・・何年も連絡がない人から急に連絡が立て続けに入ったから、気にはなっていたんだけど。そうしたらその矢先、矢田さんが事故に遭ったなんて話を聞いちゃったもんだから。・・・・ああ、あの、火野さんは大丈夫かな?って思って。心配って程でもないんだけど、気になっちゃって。」
火野「・・・・」
藤村「あの、火野さん?火野さん、聞いてる?」
火野「・・・うん。聞いてる。聞いてる。」
藤村「火野さん、特に、異常はないの? あのノートはもう処分したの?」
火野「え? ああ、・・・・まだ。まだ、持ってるけど。ねぇ、藤村君。矢田さんは、交通事故?」
藤村「・・・・・あ。ああ、そうだよ。横断歩道で轢かれたって。」
火野「無事なの? 矢田さんは無事なの?」
藤村「ああ。ああ、うん。命に別状はないらしいけど、足の骨を折ったって。しばらく動けないみたい。」
火野「あ、ああ、そうなんだ。・・・・そうなんだ。」
藤村「あの、火野さん。火野さんはどうして、矢田さんが交通事故に遭ったって分かったの? もしかして、あのノートに書いてあったの?」
火野「・・・・・」
藤村「書いて・・・あったんだね。あの預言書のノートに。」
火野「・・・・・うん。」
藤村「あれ、やっぱり。火野さんが書いたものなんじゃないの?」
火野「書くわけないでしょ! この前も話したけど、書いたら覚えているわよ! だいたい、なんで、なんで、私に電話してきたのよ?私にどうしろって言うのよ!」
藤村「落ち着いて。落ち着いて、火野さん。ごめん。・・・・いや、ごめん。無神経な事、言っちゃって。この前から、ノートの話を聞いてから、薄気味悪くなっちゃって。矢田さん、怯えてたし。何かあるのかなって思って。まさか自分が事故に遭うなんて思っていなかっただろうし。」
火野「・・・・・自分の名前が書いてあって、事故に遭うなんて、預言されてたら、誰だって、怯えると思うわ。矢田さんじゃなくても。」
藤村「・・・そうだよね。」
火野「藤村君は矢田さんの事故の話、誰から聞いたの?本人?」
藤村「いや、原君から。」
火野「・・・原君?」
藤村「原君は、矢田さんと一緒にタイムカプセルを掘り起こしたんだ。矢田さんがこんな事になっちゃったから僕に電話してきたんだ。原君も怯えてる。・・・早く、そのノートを処分しろって僕に伝えてきた。そのノートは呪われているって。」
火野「・・・・・そうね。確かに、普通じゃない。」
藤村「あの、火野さん。くれぐれも短気を起こさないようにね。」
火野「・・・」
藤村「矢田さんの所にはお見舞いには行かない方がいい。行っても話がこじれるだけだし、矢田さんの精神状態じゃ何をするか分からないから。今は会わない方がいいと思う・・・・」
火野「・・・・わかった」
藤村「忠告はしたからね。でも、思うんだけどさ、矢田さんと原君が、呪われているノートっていうけど、出所が不明で、勝手に火野さんの名前が書いてあるのも気持ち悪いけど、呪い?呪いとは違う気もするんだけど。」
火野「?」
藤村「いや、だってね。そのノート。単純に、未来の事が書いてあるんでしょ?予言なんだから。それがたまたま当たっただけで、矢田さんが交通事故に遭うのも、預言さえれただけの話じゃない。自分に不都合な未来が予想されてただけで呪いとかいうのも、僕は、ちょっと違うかなって思うんだけど。」
火野「・・・藤村君は当事者じゃないから、そんな事が言えるのよ。私なんか、名前をノートに書かれてるのよ。理不尽極まりないわ。それで、ノートを押し付けられて。・・・・どうせ、私、矢田さんに恨まれてるんでしょ?」
藤村「いや、それは・・・・」
火野「書いてもいないノートの所為で、人に恨まれて。私、ほんと・・・・いい迷惑よ! 藤村君、このノートが欲しいならあげるわ!」
藤村「僕も貰っても困るよ。未来の事にそんなに興味もないし。」
火野「私だってないわよ!」
藤村「火野さん、冷静になって。冷静に。」
火野「・・・・もし、原君? まったく覚えていないけど、その原なにがしに会う事があるなら、私はまったくこのノートに関与していないって伝えてよ!もちろん矢田さんにも!」
藤村「ああ。ああ、うん。・・・伝える。伝える。うん。」
火野「もっと早く捨てちゃえば良かった、こんなノート!」
藤村「・・・捨てても、何も解決しないと思うけど?」
火野「え」
藤村「いや、ごめん、なんでもない。じゃ、今日はありがとう。電話、切るね。」
火野「どうなってるの?どうなってるの、これぇはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
# 〇月13日23時 △△△公園で樋場と再会する
火野「はぁ はぁ はぁあ はぁぁ」
男「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ 死体だ!死体だ!」
男「待て、待てって、どこ行くんだよ! 待てよ、逃げるな!」
火野「ねぇ。なにこれ?」
男「あ! 知らねぇよ! 死体だ、死体が、」
男「警察だ!とにかく警察に電話しろ! 死体が、死体が埋まってる!」
火野「もしかして・・・・・樋場君?」
男「おい待て!逃げんな!」
男「俺は何も知らねぇ、関わりたくねぇ、俺は、待てよ、置いていくなよぉぉぉぉぉぉぉおおおお、ああああああああああああああああああああああああああああ」
火野「はぁ はぁ はぁぁ はぁぁぁあ はぁ・・・・樋場君?樋場君?」
阿久津「どうぞ。・・・・少し、気分が落ち着くと思いますので。」
火野「・・・ありがとうございます。」
阿久津「少し休めました? 昨晩は大変でしたね。」
火野「・・・はい。」
阿久津「あ、私、捜査課の阿久津と言います。ええっと、確か、火野さん?火野御影さんでよろしかったですか?」
火野「・・・はい。」
阿久津「あなた。正確には、あなた方、三名が遺体の第一発見者という事になっております。調書によると、あなた方三人に、あなたと二人と言った方がいいでしょうか。あなたと、二人の男性の方とは面識が無いそうですね。偶然、公園で出くわした、と。男性二人によると、あんな時間に女性が一人、公園にいるのがおかしいと思って、近づいたら、土に埋まっている遺体をあなたが見ていた、と証言しています。・・・・これ、間違いないですか?
ああ、これ、任意です。任意の質問ですから、そう固くならないで下さい。あくまで第一発見者っていう事で、意見を伺っているだけですから。
コーヒー、冷めないうちにどうぞ。」
火野「・・・よく、覚えていません。サラリーマン風の人が、騒いでいるな、とは思いましたけど。」
阿久津「ああ、そうですよね。いきなりあんな腐乱した遺体をみたら、誰でも、驚きますよね。」
火野「・・・・・」
阿久津「あの、不躾ながら、どうして、あなたはあの時間、△△△公園にいらしたんですか?犬の散歩とか、そういうのなら分かりますけど。ウォーキングとか、そういう奴ですか?」
火野「・・・ちがいます」
阿久津「ちがう?」
火野「・・・はい。」
阿久津「違うっていうのは、どういう意味ですか?」
火野「あの、”預言書”に書いてあったんです。」
阿久津「なんです?”預言書”って。・・・なにか、あれですか、小説とか映画とか、流行しているんですか?すみません、私、そういうの疎いもので。」
火野「ちがいます。・・・・二十三時、樋場君と会うって。」
阿久津「樋場君?っていうのは、どちら様なんです?」
火野「・・・同級生です。中学校の時の。」
阿久津「それで、その、樋場さんには会えたんですか?」
火野「・・・分かりません。」
阿久津「分からない? 分からないってどういう意味ですか?」
火野「・・・もしかしたら、あの、死体が樋場君じゃないか、って思って。でも、分かりません。分からないんです!樋場君なのか、どうなのか、分からないんです!」
阿久津「ああ、そうですか。その・・・・樋場さんっていう方とは最近、お会いになったんですか?」
火野「いいえ。・・・・・中学校の卒業以来、一度も、会った事はありません。でも、顔が、・・・・顔が、でも、嫌な予感がして。もしかして本当に樋場君だったら、どうしようって思って。・・・・分からないんです。」
阿久津「ああ。あの、今、遺体は司法解剖・・・・いえ、あの、身元調査していますから、すこし時間をいただきますが、すぐ誰か分かると思いますよ。だから、安心して下さい。同級生かも知れないし、同級生じゃないかも知れない。」
火野「・・・ありがとうございます。」
阿久津「事件性があるかないか、それも、身元調査すれば分かりますから。・・・今日は、これで、お引き取りいただいて構いません。ご遺体の事でまた何か分かりましたら、ご連絡差し上げると思います。・・・あの、ショックもあると思いますけど、元気を出して下さい。ああ、あの、一緒に第一発見者になった男性二人組。現場から逃亡しちゃったから、身柄拘束されてますよ。はは。逃げないで、その場で、待っていれば何の問題もなかったのに。逃げると我々もやましい事があるんだと思って、入念に、取り調べしなくちゃならないんですよね。寝ずに取り調べ受けてましたよ。はは。」
火野「・・・そうですか。」
課長「阿久津、取り調べ、どうだった?成果はあったか?」
阿久津「ああ、いえ。任意だったので帰ってもらいました。」
課長「そうか。」
阿久津「ただ。」
課長「ただ?」
阿久津「なにかあの女も怪しいですよ。あの時間、一人で公園をうろついているなんて。理由を聞いてもハッキリしないし、預言とか、なんとか、言っていましたね。」
課長「予言?なんだそりゃ?」
阿久津「カルトか何かの信者なんでしょうか。その、信者同士の揉め事で殺しちゃったとか。」
課長「今時、このご時世であさま山荘みたいな事件が起きるか? カルト教団は公安の管轄だ。もしそうだったらすぐ回してやれ。一つでも仕事が減りゃこっちも大助かりだ。」
阿久津「そうですね。そうします。・・・おかしな事件に関わり合いたくないもんですね。」
火野「なんなの、どうなってんの? 樋場君。樋場君なの。どうして。どうしてぇ。」
火野「・・・・もしもし?」
藤村「火野さん?火野さん。・・・・ああ。良かった。ようやく捕まったよ。ああ、良かった。」
火野「・・・どうしたの?」
藤村「昨日からずっと電話してたんだよ。この前、電話で話した時、様子がおかしかったから、何かするんじゃないかって思って、ずっと電話してたんだよ。」
火野「ああ。・・・ごめん。ちょっと、・・・・電話に出られない所にいて。」
藤村「ああ。ああ、そうなんだ。まぁ、良かった。今、電話に出てくれて。・・・心配したんだよ。」
火野「ごめんなさい、心配かけちゃって。」
藤村「ああ、いいんだ。・・・・原君に電話したら、矢田さんも少し、落ち着いたって。たぶん、事故に遭って、精神的にパニックになっちゃってそれで、妄想みたいな話、したんじゃないのかって。先生がそう説明したって原君が言ってたよ。」
火野「・・・そうなんだ。」
藤村「だから、火野さんが持ってるノートも、きっと、何かの勘違いじゃないのかな。たまたま偶然が重なっただけで。」
火野「・・・・・」
藤村「火野さん?火野さん?聞いてる?」
火野「・・・偶然なんかじゃない。」
藤村「え?」
火野「偶然なんかじゃない。これは本物の預言書よ。本物の預言が書いてあるノートなのよ。」
藤村「え? あの、火野さん? なに言ってんの?そんな事、この世の中である訳ないじゃないか? 預言? 科学の粋を集めた天気予報だって、地震予測だって外れるのに、中学生が書いた妄想話が本当に起こる事なんて信じられないよ。矢田さんじゃないけど、それこそ、精神疾患の方がまだ信じられるよ。」
火野「・・・ノートに、樋場君に会うって書いてあった。」
藤村「樋場君?」
火野「・・・たぶん彼。死んでた。」
藤村「死んでた? 死んでたって何?どういう事だよ?火野さん!」
火野「半分、腐った死体になって、公園に埋められてた。」
藤村「は?」
火野「ノートに樋場君と会うって書いてあった!でも、生きているとか死んでいるとか書いてなかった。だから、死んでた。樋場君と会った!会えたけど、死んでたのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」
藤村「ど? ど、ど、どういう? どういう事だよ、火野さん?樋場君が死んでたって?公園に埋められていたって?なんだよ、どういう事なんだよ?」
火野「分からない、分からない、私、もう、分からない! 昨日、警察で事情聴取された! 今、死体解剖してる! 私、疑われてる! だって、第一発見者なんだもの! 用もないのに公園に行って、死体を発見して、それを他の人間に見られた!」
藤村「・・・火野さんが樋場君を殺したの?」
火野「殺すわけないじゃない! だって樋場君が何をしているのかも何処に住んでいるのかも知らないのよ? 殺せるわけがないじゃない? でも絶対、警察は私を疑ってる!私が樋場君を殺したって思ってる! ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶあのノートのシナリオ通りよ。あのノートに書かれている事が現実に起こるのよ! 呪われてるのよ、このノートは呪われてるのよ! 預言じゃない、呪いのノートなのよぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
藤村「火野さん!火野さん!待って、待って、待って、落ち着いて!落ち着いて!・・・・・落ち着くんだ、火野さん。本当に、本当にその死体、樋場君だったの?」
火野「分からない、分からないけど、樋場君よ! だってノートにそう書いてあったんだもの!」
藤村「分かった。分かったから、とにかく落ち着くんだ、火野さん。・・・・まだ、確証はないんだね?」
火野「・・・・・」
藤村「確証が・・・ないなら、まだ、樋場君じゃない可能性だってある。警察が断定するまで待つんだ。それに、火野さんは殺してないんだろ?」
火野「・・・殺してない。」
藤村「殺してないなら、捕まる事はない。無実だ。警察だって馬鹿じゃない。誰が殺したかなんて遺体を調べればすぐに分かるさ。だから、火野さん。安心して。」
火野「・・・・・」
藤村「そう、少し、落ち着くんだ。そう。
火野さんにとって、樋場君は特別な存在だったんだ。だから、余計に、混乱してしまったんだ。そうじゃなきゃ、そんなに取り乱したりしないよ。」
火野「・・・・・そうね。樋場君は私にとって大切な人だった。本当に大切な人だった。死んでほしくないの。・・・生きててほしいの。」
藤村「そうだよね。火野さんにとって樋場君はかけがえのない人だったんだ。僕だって、好きな人が死んだなんて言われたら、どうなるか分からないよ。うん。・・・火野さん。少し、落ち着いた?」
火野「・・・・・。うん。」
藤村「でも、良かった。昨日はホントに心配したんだよ。電話に出てくれないから。何か事件に巻き込まれたかと思って。」
火野「藤村君。・・・・ごめんなさい。心配かけちゃって。」
藤村「いいよ。・・・僕は火野さんの力になりたい。それだけなんだ。」
火野「・・・ありがとう。」
藤村「樋場君の事も、死体の事も、安心して。火野さんは何もしていないし、何も悪くないんだから、だから、安心していいんだよ。」
火野「・・・」
藤村「火野さん。・・・・・また、電話するね。」
火野「・・・うん。」
火野「藤村君。・・・今日はついて来てくれてありがとう。」
藤村「いや、いいんだ。僕は火野さん一人じゃ心配だったし。」
火野「・・・」
藤村「樋場・・・君だったね。どうしてこんな事になっちゃんだろう。」
火野「・・・・・。私、どうしたらいいか、分からない。どうして、どうして、樋場君が殺されなくちゃならないの?樋場君が何かしたの? それに、」
藤村「・・・」
火野「樋場君は人に恨まれるような人間じゃない! どうして、殺されなくちゃいけないの?」
藤村「刺殺って警察は言ってたね。心臓を一突き。殺しただけじゃ飽き足らず、証拠隠滅の為に、公園に埋めた。・・・人間のする事じゃない。許されるはずがない。」
火野「・・・」
藤村「でも、火野さんの誤解が解けて良かったじゃないか。アリバイっていうの?それが認められて。」
火野「私のアリバイが分かったところで、樋場君が帰ってくるわけじゃない。」
藤村「火野さんは・・・・・樋場君と、お付き合いは長かったの? あ、いや、交際って意味じゃなくて、そのぉ、人としてっていうか、付き合い? 僕は、そんなに樋場君と付き合いが無かったから、彼の事、そんなに知らないんだ。だから、・・・教えてよ、樋場君のこと。」
火野「・・・・・。」
藤村「無理して、無理して話さなくてもいいよ。ほら、話せば、少しは火野さんの胸のつかえが取れるかな、って思っただけだから。」
火野「樋場君は、・・・樋場君は、同じ放送委員だったの。放送室ってていのいい遊び場でね、放送機材が置いてあるでしょ? 好きな映画とか音楽とか、好き勝手にかけて。おまけに、あそこ、防音でしょ? 先生達に内緒でずっと映画の話とかしてて、先生が日本じゃ発売してないとかっていうLP盤、持ってきて、自慢したりしてさ。面白かったの。本当に面白かったの。好きな物が一緒って、それだけで楽しくて、毎日が充実してた。樋場君が、タイムテーブル無視して、勝手に、大嫌いな先輩のメタルを流して、先生に怒られたりして。あの時間が一生、続けばいいって思ってた。」
藤村「・・・」
火野「・・・好きだったのよ。樋場君のこと。だけど、お互い、最後まで言えなくて。・・・あんな簡単な言葉、あの時は、どうして、言えなかったんだろう。
今なら、幾らでも言えるのに。・・・たぶん、今と中学校の時は、同じ好きでも、好きの重さが違っていたのかもね。本当に好きだったの。たぶん、もう、二度と、この好きと同じ好きって味わう事ができないくらい、一生分の好き、だったんだと思う。
・・・怖くて言えなかった。でも、言っておけば良かったって、こうなっちゃって、後悔してる。好きって言っておけば、未来が変わったのかも知れないって。
死んで会えなくなるなんて、・・・思ってもいないじゃない? どうして樋場君、死んじゃったの? どうして、樋場君・・・・・」
藤村「火野さん・・・・・。」
火野「だから私、心の中がぐちゃぐちゃ・・・・。樋場君がいなくなっちゃったのが辛い。それだけでも辛い。でももっと、中学校の時、ちゃんと好きだって伝えておけば良かったって後悔。どうして、殺されなくちゃいけなかったのが樋場君だったのか、って事も。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、もう訳がわかんない!悲しくて辛くて、苦しくて、怒りもあって、憎しみもあって、後悔している自分もいて。・・・・自分が何をしたいのかも、どう、思っているのかも分からない!分からないの!」
藤村「樋場君は悪くないよ。・・・・・悪いのは樋場君の命を奪った犯人だ。火野さんも悪くない。・・・・もう、大丈夫だから。僕がついているから。」
火野「・・・・ありが・と・う。」
瀬能「は?」
火野「だから、もらったの、彼から。」
瀬能「は?」
火野「だから、もらったの、彼から。」
瀬能「は?」
皇「お前等、何回、繰り返せばいいんだよ?お前も聞いてただろ?耳、悪いのか?」
瀬能「だってぇ、御影がぁ、御影がぁ、彼氏とか言うし、おまけに、指輪もらったとか、言うしぃ、どういう事ですかぁ? 性格が悪い御影に彼氏が出来る訳がないじゃないですか!」
皇「お前、本人、前にして、大概、失礼だな」
火野「いいのよ。・・・・ははは。」
瀬能「なんですか!なんですか! 彼氏持ちの余裕ですか! むかつくぅ!むかつくぅ!こいつ本気でむかつくぅ!」
火野「ごめんね?」
瀬能「・・・ごめん?何に対して、謝っているんですか?」
火野「杏子にはホント、悪いと思ってるのよ。カードゲームでデュエルできなくて。・・・・なかなか、ほら、時間が取れなくて。彼が、子供っぽいの、どうなの?って言うから。・・・ほら、私は杏子も瑠思亜も友達だから、一緒に遊びたいんだけどね。」
皇「まぁ、いい歳した大人が、子供・・・・小学生にまじって、カードゲームしている時点で、どうかと思うけどな。」
瀬能「いいじゃないですかぁ! 大人の力で、ガキをボッコボコにして、何が悪いんですかぁ!」
火野「ほんと杏子は杏子だね。ははは。」
瀬能「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、死ぬぅ、死ぬぅ、しあわせオーラで死ぬぅぅぅぅぅぅ、その、眩しい笑顔で、こっち見ないで下さい!石になるぅ!石にされるぅぅぅぅぅぅぅ!」
皇「・・・メディーサか。それで、お前、彼氏ってどんな奴なんだよ? 私の知ってる奴か?」
火野「ああ。・・・・中学校の同級生。学級委員やっててね。」
皇「学級委員。・・・・・丸尾君みたいな感じか?」
瀬能「ズバリ! 火野さんの事が好きでしょう!」
火野「あ、写真、見る?」
瀬能「うわぁ」
皇「うぇぇぇぇぇえぇ、絵に描いた、好青年じゃん。お前、どうやって、騙したんだよ?」
火野「あ、ああ、うん。色々あって落ち込んでる時に、・・・・・色々ね。」
瀬能「それ、一番ダメな奴じゃないですか!人が弱ってる時に、手を差し伸べるって、恋愛詐欺の常套手段じゃないですか!」
火野「恋愛詐欺?」
皇「ああ。吊り橋効果とか、よく聞くやつの一種だな。なんだかんだ言って、一緒にいて馬が合うから、付き合うわけだしな。」
瀬能「じゃあ、結婚ですか!結婚ですか! いつ結婚するんですか!」
火野「あのねぇ、小学生じゃないんだから! まあ、近いうちに、家族で話し合うんだけどね。」
皇「なんだ、もう、両家公認なのか?」
火野「そう。・・・・あとはほら、お互いの仕事の具合とか、家族の都合とか。もう、結婚しているようなもんだけどね。」
瀬能「・・・瑠思亜、ここに、人妻がいますよ!この人妻ぁぁぁぁ!エロ大臣!」
火野「なんでエロ大臣なのよ?」
瀬能「もう御影も人のものですよ、人のもの。人のものと書いて人妻ですよ。あぁぁぁぁああ。彼氏といちゃいちゃしたいなぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!」
皇「お前はいちゃいちゃしたいだけだろ?」
瀬能「そうです!無責任にセックスして、快楽を貪り尽くしたいだけですぅぅぅううう!」
火野「お前! 子供がいる所でセックスとか喚くな!」
瀬能「セックス大臣のくせに、なにを偉そうに! 昨日だってどうせ、やりまくってたんでしょう!」
火野「・・・」
皇「・・・お前も、顔を赤らめんな!」
牧師「新郎、藤村正也 あなたはここにいる 火野御影を生涯にわたり 病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか。」
藤村「はい。」
牧師「新婦、火野御影 あなたはここにいる 藤村正也を”預言書”に書かれている通り 夫とする事を誓いますか。」
火野「・・・はい。」
牧師「さあ、契約の指輪を交換するのです。」
火野「この世の中で、預言とか予知とかできる訳がないじゃない。馬鹿馬鹿しい。そんな事が出来たら、賭け事とか投資で、ボロ儲けする人ばっかりじゃない。・・・それに、大きな事故や災害で死ぬ人だっていなくなるわ。戦争だってそう。あらかじめ戦争が起きるのが分かっていたら、止められるもの。預言なんて妄想よ。」
藤村「果たして、そう言い切れるかな。」
火野「あら不思議。藤村君は預言なんてオカルト、信じていないと思っていたわ。」
藤村「予言なんて言うと前世代的だけど、”ゾーン”って言い方をすれば、未来予測って言い換える事も出来る。未来予測は歴とした科学だからね。」
火野「それは言い方の問題でしょう?」
藤村「御影は天気予報は信じる?」
火野「うぅうん。・・・信じる。だいたい当たるし。天気で外れる事なんてそんなにないし。」
藤村「天気予報なんて未来予測の最たるものだよ。ひとついい事を教えておこう。」
火野「・・・なに?」
藤村「中国、韓国、それにイギリスもかな。天気予報が当たらない事で有名なんだ。」
火野「え?」
藤村「ははははは。その顔。さっきも言った通り、天気予報は科学だ。だから天気なんかに力を入れていなければ、予測の確率なんて上りはしないよ。まあ共産国家で意図的に民間に、天気の情報を流さないって国もあるけどね。」
火野「・・・そうなの?」
藤村「気象衛星をバンバン上げて観測精度を上げている日本を当然と思っちゃダメだよ。気象は科学だから、過去のデータと、今の気象データ。雲、風、気圧、温度、湿度。それが分かれば予測はつくものだよ。」
火野「そりゃあ、前提のデータが揃えばあとは算数だから、分かって当然だと思うわよ。」
藤村「御影は百六十キロのボールが打てる?」
火野「・・・・・、当たる訳ないじゃない!」
藤村「何億ってお金を貰っている野球選手だって毎回、毎回、打てるとは限らないからね。でも、ホームランを量産するメジャーリーガーもいるだろ?御影には打てなくても、打てる野球選手はいるんだ。」
火野「私をいちいち引き合いに出さなくてもいいわよ。」
藤村「あんな細い棒で、時速百六十キロのボールを打つんだよ。当てる事だけだって難しいのに。打って、しかも、ホームランにしちゃうんだ。・・・僕に言わせれば化け物だね。」
火野「それと預言と何の関係があるのよ?」
藤村「ああ。天気予報みたいな科学的な根拠は、スポーツには当てはまらないけど、優秀なスポーツ選手は、脳の一部が、変異しているという研究がある。変異っていうと語弊があるけど、一般の人と比べて、脳の神経が太いと言われているんだ。」
火野「・・・脳の神経が?太い?」
藤村「ああ。その変異を病気として捉えるのか、神から与えられた才能、いわゆるギフトとして捉えるか、それはその人次第だけど、単純な話、脳の神経が太いという事は、それだけ、脳の情報の伝達量が多いって事だ。特に未来予測に関わる小脳との伝達量が多ければ、過去の経験から更に精度の高い予測を行える。当然、それを考えて行っていたら、バットにボールを当てる時間に間に合うはずもないから、無意識でそれをやってのけている。・・・まぁ脳が反応しても、それを行動に移せる体躯も必要だけどね。」
火野「へぇ。預言や予知も、あながち馬鹿に出来ないものなのね。」
藤村「そう。人間は未来を手に入れる事が出来るんだ。予言はもう妄想の話じゃないんだよ。現実の話なんだ。」
火野「・・・なんだか騙されているみたい。」
藤村「御影が不安になる事なんて何一つないんだよ。僕がずっと、一緒にいるから。」
火野「・・・・・うん。」
藤村「あの預言が書かれたノートは本物さ。未来を示してくれる只一つの光なんだよ。」
藤村「簡単は話だよ。女に貢いで金がないってよく漏らしていた、実際、サラ金。今は消費者金融っていうのかな。それの返済で四苦八苦していた原君に、中学生の時、埋めた、タイムカプセルの中に、今はお宝になっているカードゲームが入っているって教えてあげたんだ。出す所に出すと、希少価値がついて実際、高値でやり取りされているって聞くからね。カードゲームに興味はなくても、金策には興味があるから、ただでお金が手に入るなら、彼ならきっと確実に、タイムカプセルを掘ると思ったんだ。
彼が掘り出す前に、その希少なカードゲームと一冊のノートを入れて埋め戻した。”預言書”って書いたノートを。
預言? 僕が預言なんて出来るはずがないじゃないか。超能力者じゃあるまいし。
直前までの、歴史的なニュースを書いただけ。ま、リアリティを出すために、同級生に起きた、身近な事件も書き添えておいたけどね。同級生の家が火事になれば、嫌でも、耳に入ってくるし、離婚や結婚なんて話もざらだ。人の噂ってどうして良いニュースより悪いニュースばかり伝わってくるんだろう。それは前から不思議に思ってた。学校で一番頭が良い彼が有名私立大学に落ちた、とかね。反対にそれが”預言書”のリアリティを増したのは言う間でもない。
馬鹿な人間ほど、疑うことをしない。だから信じる。
真新しいノートが紛れているんだから、これが、十年も前に埋められたノートのはずがないじゃないか。見れば分かるよ。
原君と矢田さんは、まんまと踊らされて、預言が書かれたノートを信じ込んでしまった。作戦はほぼほぼ完了。案の定、ノートに書かれている持ち主に、それを渡してくれた。”火野御影”に。」
藤村「御影は気づいてなかったと思うけど、僕は、ずっと御影を見てたんだよ。」
火野「・・・? いつの話?」
藤村「はじめて会った時からだよ。中学生だった。・・・人を寄せ付けないオーラを出してたよね?」
火野「あぁ。まぁ、自覚はあったよ。・・・・今となっては、消したい過去だけど。」
藤村「僕は自分で言うのもなんだけど、真面目しか取り柄がなかったから女子生徒と話すことなんてまずなかった。体育祭の練習の時、男子女子でペアになって、一緒に行う競技があって、御影と一緒になったんだ。」
火野「・・・・覚えてない」
藤村「全身で頑なに他人を拒んでいる御影だったけど、男子女子関係なく、それこそ、先輩後輩も関係なく、誰にでも平等に分け隔てなく行動が出来る御影に、僕は、心の底から尊敬したんだ。僕は臆病だったから、話す事も目を合わす事も出来なかったし、手を握る事も出来なかった。只の体育祭の行事なのにね。でも御影は違った。僕の手を強く握ってくれて、全力で、戦った。・・・・はははは。練習なのに、この人はいつでも本気なんだって思ったよ。」
火野「そうだっけ?」
藤村「僕にとって、御影の手は、光そのものだった。未来に僕を連れて行ってくれる光だったんだ。」
火野「・・・・言い過ぎよ。」
藤村「僕が一番邪魔だったのは樋場だ。御影は否定していたが、樋場と御影が交際しているのは公然の事実だった。高校進学と同時に別れたって聞いて、僕は、天に舞う気持ちだったよ。
清々した。御影にたかるウジ虫が消えたかと思うと、心の底から清々したもんだったよ。御影にあの男は相応しくない。
だから、殺したんだ。
あの男は、僕の光を曇らせたんだ。死に値する。
それに、矢田さんにも最後、”預言書”を完全なものにする為に、協力してもらったよ。別に、もう用は済んだから死んでもらっても良かったんだけど、まぁ、あれくらいの追突じゃ怪我が妥当かな。それ以上に、精神的におかしくなっちゃったけどね。それは仕方がない。矢田さんは僕達の引き立て役なんだから。
あのノートは。あの”預言書”は、僕と御影の未来への預言書だ。
僕は”預言書”の通り、御影を手に入れた。御影は僕と一緒にいる事が相応しい。御影は僕の横にいるべきなんだ。
中学校の体育祭のように、僕の手を握り、僕を未来へ導いてくれる存在、僕の光そのもの、それが御影。
僕の未来こそは、御影なんだ。御影こそ未来なんだ。
僕を未来へ導いてくれ。
僕には君が必要なんだ。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。