風の吹くまま
夜空に月と金星が並んで輝いている。
秋葉原の街はクリスマスの買い物客で賑わっていた。普段は路上駐車に厳しい取り締まりがある場所だが、買い物客が大きな荷物を自分の車に積むのに結構な台数がハザードランプを点滅させて駐まっていた。大通りに面した電機店からはゲームソフトの電子音が大音量で流され、街を活気づけている。
そんな街にある小さな劇場の舞台の上で若い男二人が漫才をしていた。名前はサトルとトシオ。少し背の高いほうがサトル、片方の髪の長いほうがトシオだ。二人とも二十代でカジュアルでこざっぱりした格好をしていた。
耳の遠い老人を笑い物にする、いささか使い古された話で新鮮味が無く客受けはイマイチだった。それでもなんとか話にオチをつけて舞台から下がって行った。代わりに舞台に上がったのは若い女二人の漫才コンビだ。舞台に上がると同時に大きな拍手と歓声が上がる。かなり人気のあるコンビのようだ。女子高生の生活を話題にしたネタを始めて最初から客席では大いに受けている。
「あのコ達、受けてますね」トシオがサトルに言った。
「そうかい、直に飽きられるんじゃね」サトルが関心なさそうに返した。
「かも知れないけど、テレビでレギュラー取れたらアリですもんね」トシオが呟くように言った。「俺達もやりましょうか、JKネタ?」
「バーカ、気持ち悪ぃよ。オカマじゃねぇんだから」トシオが呆れたように返した。
「そりゃ、そうかも知んないけど、ネタになるかなと思って・・・」
二人が話しているところにショルダーバッグを抱えた30前後のスーツを着た男がやって来た。マネージャーの小橋だ。中背で小肥り、いつも汗をハンカチで拭きながら小走りに歩いている。
「やぁ、終わった、今夜はどんな感じだった?」小橋が二人に聞いた。一人で複数の芸人の担当をしているので、二人の舞台をあまり見ていない。
「いつもと変わんないすよ」サトルがぶっきら棒に応えた。
「イヤ、そんなことないすよ。今日はバカウケでしたよ」トシオが言った。
小橋は二人の顔を見比べながら苦笑し、
「まぁ、いいさ。段々上手くなってくれれば。新しいネタも考えてよ」
「それとさ、これが明日の営業先ね。新規のトコだからさ気合入れて頑張ってよ」小橋がバッグからクリアファイルに入った書類を出しながら言った。