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レディ・アーニャの事件簿~下町生まれの令嬢は、お口の悪さを隠せない~  作者: 入月英一@書籍化
生徒会予算横領事件

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8/8

1-4 顔合わせ

「皆に紹介しよう、新たに生徒会の一員となるアーニャ嬢だ」


 生徒会室にエラン殿下の声が響く。


「アーニャ・トリッドリットです。よろしくお願いします」


 私が簡単に挨拶すると、エラン殿下は一つ頷く。


「アーニャ嬢に生徒会のメンバーを紹介しよう。まず……」


 エラン殿下に紹介されるまでもなく、私は事前に生徒会役員たちの素性を調べて来ているけどね。


「彼が、副会長のライナス・グランヴィルだ」


 副会長のライナス・グランヴィル。侯爵家の長男。彼の家は、代々将軍を輩出している武門の名家だ。


「ライナス・グランヴィルだ」


 エラン殿下に紹介されても、ニコリともしない。むしろ、その切れ長の目で睨むように私のことを見て来る。……どうやら、好ましく思われていないようだ。

 元庶子なんていう卑しい出を嫌っているのかしらね。


「彼は、監査のレオ・アスター」


 続いてエラン殿下が紹介した少年は、ライナスと異なり人好きのする笑みを浮かべる。


「レオ・アスターだ。よろしく、アーニャ嬢。何か分からないことがあれば、気軽に尋ねてくれ」


 監査のレオ・アスターは、子爵家の次男。父親は、警察局の副総監。……本当に私に好意的かどうかは、おいおい分かって来るかしら。


「彼女が、庶務のエイミー・ブラウン嬢」


 眼鏡をかけた少女が、軽く会釈する。知的そうな娘だ。


「エイミーです。よろしくお願いします」


 エイミー・ブラウンは、男爵家の令嬢。彼女の祖父が、平民ながら著しい功績を上げ、地方にささやかな荘園と、男爵の爵位を与えられたことに端を発する貴族家の娘だ。

 裕福な平民に毛が生えた程度の家柄だけど、今この場だと唯一の同性だ。仲良くしておきたいところ。


「あとは、会計のリタ嬢だが……彼女はしばらくの間謹慎する」


 以上、私を含めて六名が生徒会のメンバーだ。ちなみに私の肩書は、書記ということになるらしい。


「……しばらくの間、ですか」

 

 副会長のライナスが含みのある言い方をした。

 エラン殿下は、僅かに眉を顰める。


「ライナス、何か言いたい事でも?」


 ライナスは、挑みかかるようにエラン殿下の目を直視する。


「いえ、まるで復帰するような物言いをされるものだから。……どうせ、放校されるのです。会計の代わりも同時に見繕えばよろしかったのでは?」

「……横領事件は未だ調査中だ。彼女が犯人だと断定されたわけじゃない」

「本人も自白したではないですか。――だから私は、奨学生を会計にすべきではないと進言したのに……」

「ライナス、いい加減に……」


 エラン殿下の声音に苛立ちが混じる。しかし、先に爆発したのはライナスの方だった。


「いい加減にするのは、貴方の方だ、エラン殿下! 我々貴族はともかく、平民の娘にとっては、生徒会の予算は目が眩むような大金だ! 仮に善良な人間であっても、魔が差すほどに!」


 ライナスの剣幕に、エラン殿下は押し黙る。


「何故、貴族と平民という身分の違いがあるとお考えか! それぞれの役割があるからでしょう! 今回、平民が平民の領分を踏み越えた結果、どうなったか!」


 ライナスは顔を真っ赤に染め、体を震わせる。


「私とて、リタが元から悪人であったとは思いません! しかし、だからこそ許せない! 貴方が彼女を会計にさえ任じなければ……エラン殿下、貴方がリタに罪を勧めたのだ!」


 そう吐き捨て、ライナスは足音荒く生徒会室から出て行った。


 しん、と生徒会室は静まり返る。……おいおい、気まず過ぎるぞ。誰か、どうにかしてくれ。


 エラン殿下は、自身の前髪をくしゃっと握る。


「……すまない。今日は解散にしよう」


 その言葉に、まずエイミーが動き部屋の外に向かう。この空気で殿下と二人取り残されるなぞ、御免被る。

 取り残されないように、私も後に続く。


 生徒会室を出て、廊下を歩く。


「アーニャ嬢」


 背後から声を掛けられた。振り向く。視線の先にいるのは、監査のレオだ。


「悪いことをしたね、生徒会初日があのようになって」


 全くだ。と思ったが、私は首を横に振る。


「レオさまが謝られることでもないでしょう」

「まあ、そうなのかもしれないけどね」


 レオは頬をかく。


「ライナスのことを悪くとらないで欲しい。彼は、厳格で口うるさい人間ではあるが、悪い男ではない」


 レオはそこまで言って、声を潜める。


「リタのこともね。ライナスは、確かに会計任命に反対はしていたが。実際に、会計に任命された彼女の働きぶりや、人柄に触れて、徐々にリタのことを認め始めていたんだ。その矢先に、あのような事が起きて……」


 ああ、そういう……。ライナス、彼の激昂のわけも何となく分かって来た。


 レオは首を振る。


「ともあれ、今日から同じ生徒会の仲間だ。改めてよろしく、アーニャ嬢」

「はい。よろしくお願いします、レオさま」


 レオはふっと笑う。


「単なる社交辞令ではなく、本当によろしく頼むよ。何せ、長い付き合いになりそうだ。生徒会もそうだけど、卒業した後も」

「え?」

「俺の父が、警察局の副総監であることは知ってるかな? 兄もまた卒業後に、警察局に入局した。俺もその後に続くだろう。トリッドリットを継ぐ君とは、色々と縁があるだろうから」


 警察局の主な任務は、犯罪者の取り締まりだ。ふむ。確かに犯罪者を捕まえる警察局と、それを裁く裁判官となる私とでは、その職責が近しい。

 何かと、関わることも多くなるだろう。


 私は微笑む。


「成る程、その通りです。お互いにとって良い関係が築けたら良いですね」

「ああ」


 私はレオと握手する。


「ではまた」


 レオは廊下を歩いていく。私はちらっと、生徒会室の扉を見た。エラン殿下が出てくる様子はない。


 貴族と平民、その違いとそれぞれの領分、か……。

 この両者の間を蝙蝠のように飛び回る私にも、無関係な話ではない。


 蝙蝠は嫌われるのが世の常だ。どちらからもね。

 となれば、蝙蝠と思われないように。どちらからも味方だと思われるよう、上手く飛ばないとね。


 差し当っては、この横領事件だ。

 この事件を上手く裁ければ、生徒会での信用を得られることだろう。


 厄介なことだけど。それが必要だというのなら。仕方ない、上手に蝙蝠をしてみましょうか。


 私は生徒会室から視線を切ると、廊下を再度歩き始めた。

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