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幕間 ある王太子の呟き

 私の名はドキシン・イミペネム・パミドロル。パミドロル王国の王太子だ。そう聞くと、輝かしい将来を約束された幸せな人間だと、誰もが羨ましがることだろう。しかし現実はそう甘くはない。私に対して心からの愛情を持って接してくれる者は家族にも周囲にもいない。両親は元より、侍従や侍女達も信用はできない。唯一、乳母とその息子である乳兄弟のクロルドだけは例外だったが、彼らは私が10才の頃「王子に良い影響を及ぼさない」と言う母の一存で里に帰されてしまった。

 父は残忍な性格で、自分以外の人間は全て、息子であろうと自身の野望を叶える為の道具としか思っていない。父はダルベート大陸統一の野望に取りつかれている。いや、取り憑かれている。大陸全土を平定するのは祖父王の時代からの悲願だ。父王は(祖父王も同様だったらしい)政治的な交渉は殆ど試みぬまま、力で以て他国を蹂躙して、国土を拡大してきた。

 最初は良かったかも知れないが、そんな無理を押し通せば歪みが出てくる。最近は国境付近での小競り合いや反乱も増えてきていて、その対処で手一杯で国土の拡大は思うように進んでいない様だ。

 このようなやり方は間違っている。力で手に入れた物はいずれ、力で奪い返されるだけだ。ダルベート大陸の過去の歴史を見れば一目瞭然だ。過去、何度も大陸統一は試みられている。しかし、成されぬまま潰えたり、大陸が統一されても50年以内に反乱が起きたりして、戦乱の時代に逆戻り、小国に分断されてしまうのだ。私が王となった暁には、このような間違った国策から大きく舵を切るつもりだ。


 母も父と息子を使って、自分の地位を上げることにしか興味がない。私は母にとっても道具でしかないのだ。当然、父と母の間に夫婦の愛情などあるはずもない。私が王になれば、母はこの国の国母だ。私が王になるための道筋を確かなものにするために、他の腹違いの兄弟達は母の謀略によって常に危険に晒されている。

 私には弟が2人、妹が3人いる。母の子は私だけだ。長女と次男が、一番目の側室の子、次女が二番目の側室の子、三男と三女は双子で三番目の側室の子だ。彼らとは殆ど交流がない。王妃や側室達が競いあっていて、お互いに子供らを接触させない様にしているからだ。他にも側室は5人いたが、子ができなかったり、流産したり、生まれた子も1才になる前に儚くなった。

 母や、上位三人の側室たちにも子を幼くして亡くした経験がある。勿論、乳幼児の死亡率は低くはない。流産も珍しくはない。しかし、そのうちの幾つかは王妃や側室たちの間での謀略が関わっているに違いないと睨んでいる。


 弟や妹達を守りたかった。しかし、力のない私にはどうしようもなかった。私が立太子すれば少しはましになるだろうかと、我が儘も言わず、帝王学の習得や剣術、馬術、行儀作法にダンスと、遮二無二頑張った。そのお陰か、成人と共に無事、立太子した。さらに婚姻は最大派閥の公爵家から娶ったし、側室も薦められるまま受け入れた。自分の意見を殆ど言わず、母の操り人形だと揶揄されてもいる。しかし、それでも母は謀略を止めるつもりは無いようだ。私が王になるまで母の暴走は止まらないのだろう。父の無謀な侵略を止めるためにも早々に王位継承をするしかないと思う。


 この状況を変えるには、私一人の力では無理だ。そこで、弟妹たちと手を結べないかと考えた。弟妹たちと迂闊に接触は出来ない。私たちには常に監視が付いていて父王なり、王妃(母)なりに報告が行く。なので、まず魔術を訓練することから始めた。『索敵』と『隠密』それから『記憶改竄』。監視に付いている“影の者達”を上回る技術が必要だ。それから周囲に味方を増やすために『魅了』と『王の覇気』も身につける。

 幸いこれらの必要な魔術はすぐに身につける事ができた。王族の血筋のお陰だろうか?疎ましく思っていた血筋が逆に役立つとは皮肉なものだ。それによって、常に私の監視に付いていた影の者を2人、味方につける事ができた。四六時中私の『魅了』と『王の覇気』に当てられ続ければ、並みの人間なら屈するのは当然だ。これで私の行動が父王と王妃(母)に筒抜けになることは無くなった。2人には当たり障りのない報告をするように指示し、逆に彼らの動きを報告させている。ただし、『魅了』と『王の覇気』で仲間になった者は、私から離れて影響力が薄れれば、いずれ解けてしまう。なので、本当に仲間にすべき相手には魔術は使わずに、真摯に向き合い話し合わなければならない。


 そうして、やっと弟たち2人に接触することができた。勿論、『魅了』と『王の覇気』など無しで、真正面から話した。2人とも真面(まとも)な性格をしていて良かった。次男はフィトナジオンと言う名で、武術にその才能を発揮している。フィトナジオンの母である一番目の側室は、王家に忠誠を捧げている家の出であり、策謀などを巡らすような事をしない実直な方だ。彼女は常々、子らに「王と兄を支える臣下」としての心構えを教育して下さっていた。フィトナジオンも王のなさり様や、王妃の策謀に心を痛めていた。なので、私を大いに歓迎してくれ、忠誠を誓ってくれ、私の計画に賛同してくれた。

 しかしいまはまだ行動に出るべき時ではない。まず優先すべきは彼らの身の安全だ。フィトナジオンは成人したら直ぐに王位継承権を放棄して王宮を出て、冒険者になるように指示した。彼には将来の将軍を担って貰いたいが、王宮にいたままだと、どうしてもそれぞれの後ろ楯に付いている派閥の旗頭に掲げられてしまって対立を余儀なくされてしまう。フィトナジオンには市井で有望な人材を仲間に集めていってほしい。乳兄弟のクロルドにも連絡を取って貰おう。フィトナジオンの妹である長女のフェナミンには早々に臣下へ嫁いで貰うようにしようと思う。父王にではなく、王家に対して古くからの揺るぎない忠誠を捧げている家に入ってもらい、我々と繋ぎを取って貰いたい。

 次にフィトナジオンと2人で、三男に会いに行った。彼の名は、アルギニンと言う。三番目の側室は王妃とは対立する派閥の家の出身だ。王妃の失脚を常に狙っている。しかし、息子はまだそこに染まっておらず、純心なまま育った様だ。三番目の側室は子供達に愛情を注いでおり、世の中の汚い物を見せないようにしていた様だ。ただ、話してみて直ぐに気がついたのは、アルギニンは純心なだけではなく、頭が良い。まだ9才だと言うのに私の話を直ぐに理解し、賛同し、逆に提案までしてきた。彼は自分の能力を周りに知られない様にしていた。自分が優秀過ぎると要らぬ火種を生むことになると分かっていた様だ。アルギニンには将来、宰相の地位に就いて貰いたい。彼には今まで通り能力を隠して、寧ろ阿呆の振りをしていて貰うことにする。アルギニンの妹である三女のハイドララにはアルギニンから話をしてくれるそうだ。これからも定期的に兄弟で会って親睦を深めていこうと誓いあった。

 因みに次女プルシドは二番目の側室の子であるが、既に「我が儘放題のお姫様で浪費癖がある」と専らの噂だ。王家の行事で遠目に見た事があるが、母娘共にケバケバしい衣装と化粧だった。近づかない方が良いだろう。


 貴族は現在、王派、護国派、中立派に分かれている。王派は、父王と共に国土拡大に邁進してきた勢力だ。護国派は古くから王家へ忠誠を示している勢力。中立派は常に日和見をしており、より有利な方に付こうとしている。ここ10年以内に併合された国の貴族たちは、辺境貴族と呼ばれているが、彼らも一枚岩ではなく、反意を持つ者と、恭順を示す者、日和見をする者に分かれている様だ。

 私には主に王派の貴族が後ろ楯となって付いている。彼らにとって私は「扱いやすい傀儡の王」になりそうに映っていることだろう。そのまま彼らには安心していてもらおう。そして裏でフィトナジオンの後ろ楯に付いている護国派に連絡を取る。フィトナジオンが王宮を出た後は、護国派には三男に付くよう依頼をしよう。軍部は上層は王派が主流だ。軍部の下層と近衛騎士は護国派が主流である。王派を後ろ楯に付けつつ、自分の武術の鍛練の時間はできるだけ下層の兵士の輪の中に入って、苦楽を共にして知己を得ていくつもりだ。

 中立派は今のところ放置だ。毒にも薬にもならない。自ら行動を起こす気概もない者ばかりだ。

 辺境貴族には、冒険者になったフィトナジオンに渡りをつけて貰う予定だ。フィトナジオンには軍部の下層から信頼できる部下を数人選んで連れていく様に指示した。


 私の策略はまだ小さく細やかだが、着実に実を結ぶよう進めていくつもりだ。


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[気になる点] 名詞が薬っぽくて気になりすぎてストーリーか頭に入ってきません
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