6
本日も宜しくお願いします
王都へ向かいます
翌日、リリカはクラン“疾風の丘”に顔を出して、退団を申し出た。
しかし、リリカを当てにして受けた討伐依頼がいくつかあると言う。
仕方がないので、フィンも臨時で参加してサクッとやっつけた。手際の良さにびっくりされて、フィンも“疾風の丘”に勧誘されたが、キッパリ、ハッキリ断った。
そして1週間後には、王都へ向けて旅立った。
フィンの乗ってきた馬に2人で乗って移動した。
馬に負担をかけないようにゆっくり進んだ。
依頼などは受けずに、旅を楽しんだ。
離れていた時を埋めるように、たくさん話し、たくさん愛し合った。
偽名のミレイの由来を聞かれた時は、少し躊躇したが、正直に前世の話をした。フィンは少し吃驚したが、それよりも16歳の頃から既に中堅冒険者の様な貫禄を持っていた訳に納得していた。
タリビートが前世の出身国だと教えると「済まない」と謝られた。
「滅んだのは前世の私が死んだ後の事なので、謝っていただかなくてもいいですよ」
「パミドロルは祖父の時代から本当に多くの国を蹂躙して人を殺してきた。その殆どが言いがかりに近い理由でだ」
「戦乱の歴史は有史以前からずっとです。何もパミドロルだけが特別だった訳ではありませんよ」
「我々はその戦乱の時代に終止符を打ち、平和で安定したダルベート大陸を目指すつもりだ」
「それが実現できたなら素晴らしいですね」
「ただの夢物語にするつもりはない。我々は本気だ」
▲▽▲▽▲▽
2週間後、2人は王都に到着した。
取り敢えずフィンだけが登城して、後宮のその後の経緯について陛下に詳しく訊いてくる事になった。
リリカは宿を取ってそこで待機した。とても出かける気分になれず、宿の部屋でジリジリとしながら待った。
夕方から登城したフィンは翌日の昼過ぎに宿に戻ってきた。フィンの表情が悪いものではなかったことに、一先ずホッとしたリリカだった。
フィンが聞いてきた話はこうだった。
フィンの兄のドキシンが王位を継承して1年半が経過し、ドキシン陛下と護国派を中心とした政治体制がやっと落ち着いた。元々王派と呼ばれていた貴族たちは、中央から追い出され、分断され、その力をかなり弱らせていた。
そこで陛下は後宮の整理縮小に着手した。前陛下と前王妃が元王派の貴族や辺境貴族に乞われるまま金を貢がれるまま際限なく増やしまくった結果、側室の数は最終的に36人にまで膨れ上がっていた。
しかし正式に成婚の儀を行ったのは17人だけだった。それ以外の女性達は「側室ではなく客だった」と言うことになった。
“客人”は手土産を持たせて丁重に実家へ送り返された。殆どが元王派の貴族の娘達だったので、勢いを失った彼らはたいして抵抗する事なく受け入れた。陛下と護国派に恭順を示す者には縁談を紹介した。
正式な側室達も閨を共にした12人だけを残して5人は臣下に払い下げした。
そしてエタノルから招いたリリカ姫がベッドの上で亡くなっているのが発見された。既にミイラ化しており、死因は定かではないが、非常に痩せていて、年齢の割に背も低く、成長不良気味であることが見てとれた。身に着けている服は非常に質素でクローゼットに入っている衣装も継ぎ接ぎの粗末なものが数着あるのみだった。小さな屋敷の中も必要最低限の調度品しかなかった。
陛下は成長期の側室に十分な食事や衣食住を整えるための給金が与えられていなかった事と、彼女がこの様な姿になるまで誰にも気付かれなかった事実に驚き、後宮に監査が入ることになった。
結果、十一位の側室と侍女頭のオルビーン エンロックス、リリカ姫担当の侍女マルボの3人が結託してリリカ姫の為の予算を着服していたことが判明した。
着服した金の殆どは、十一位の側室への殿下のお渡りが来るようにと王妃へ心づける献金の足しにされていた。十位前後の側室達は常に献金合戦に晒されていて、金策に苦労していたのだろう。
マルボはリリカ姫の世話を放棄して、彼女を死に至らしめたことが判明した。
侍女頭のオルビーン エンロックスがこの着服に荷担した理由は、彼女は十一位の側室の実家と繋がりの深い傍系の家の出で、主家の指示に逆らえなかったからだった。本当かどうかは分からないが、リリカ姫が亡くなっている事は知らなかったそうだ。
侍女のマルボは単純に金のためだったらしい。リリカ姫の待遇を黙認し、リリカ姫からの要求を突っぱねるだけでそこそこの報酬を得ていたそうだ。また、姫の世話を放棄したのは、「こんな辺境の国の下位の姫の世話などやってられるか」と言う個人的な感情かららしい。
十一位の側室は修道院送りになり、実家は伯爵から子爵に降格の上、領地の一部を没収された。
侍女頭は財産没収のうえ後宮を追放。
マルボは死刑となり、彼女の実家は貴族位を剥奪された。
今はエタノルにリリカ姫の死をどのように報告するか、賠償をどの様にするべきか、対応を協議中であった。
交渉材料にするために、エタノルの王族とリリカ姫について詳しく調査した。その結果リリカ姫がエタノルの先王の庶子であり、王族籍に入っていない子だったことが判明した。エタノルはリリカ姫を第二王女だと詐称して嫁がせてきていたのだ。
この事実を交渉材料に、と相談している時に、フィトナジオンが帰還したのだった。
一先ず、エタノルには特に連絡しないという事になった。
一通りの説明を終えた最後にフィンは陛下の言葉を添えた。
「陛下がリリカに申し訳なかったと仰っている。是非、直接会って謝罪されたいそうだ。際限なく増えていく側室の数に辟易していたとは言え、もう少し注意を払うべきであったと。リリカ姫の受けた仕打ちを6年もの間、いや、リリカ姫の存在に気づくまで10年近くもの間、放置してきた責任は陛下にもあると、こう仰っている」
フィンは一旦言葉を切ってから、優しい微笑みを浮かべて再び口を開いた。
「陛下は私達ふたりの事を祝福してくれたよ」
リリカとフィンは抱き締め合った。
▲▽▲▽▲▽
そのままベッドにもつれ込む・・・と言う事はせずに部屋を出て、フィンに連れられて宿の食堂に来てみると、クラン“蒼天の鷹”いや、フィトナジオン王弟殿下の親衛隊の皆が詰めかけていた。
懐かしい顔が並んでいる。ハゲで黒髭のクラバモス、槍使いのフマル、長剣のバナザ、戦斧のアラバ、古参のトルジム、弓のエステル、魔術師のダルテパとレノグラス、他にも数人。
「ミレイィ。生きていやがったかぁ!何も言わずに消えやがってぇ、水くせぇぞぉ!」
「ミレイ!探したんだぞ!心配させやがって!」
「元気そうで良かったよ」
「ミレイ、どこ行ってたんだよ。探しても探しても見つからねぇしよ」
「皆がミレイを心配してたんだぞ。俺たちの絆を嘗めるなよ!」
皆が口々に声をかけてきて、もみくちゃにされた。
手荒い歓迎を受けながらも、申し訳なさに胸が詰まるリリカ。
「皆、ごめんね。心配してくれてありがとう。また会えて嬉しいよ」
「ミレイィ、分かってるよなぁ?今日はとことん付き合って貰うぞぉ!」
既に酒臭い息をさせているクラバモスが麦酒のジョッキをドンっと机に置いた。
毎日更新中
明日は、最終話です!




