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本日も宜しくお願いします
ミレイの告白
優しく背中を撫でるフィンの手の温もりに勇気付けられて、ミレイは訥々と語り始めた。
ミレイはパミドロルに来る前の本名が、リリカ ロラタンと言い、エタノル王の庶子であったこと。
エタノルがパミドロルの属国になる際、王太子の三十一番目の側室となるべく輿入れしたこと。
輿入れは、エタノル王の第三側室の子と偽っていたので、リリカ ミトタン フェルバマート エタノルと名乗っていたこと。
6年間、後宮で過ごしたが、お金も、途中からは食事も満足に支給されず、成人と共に後宮を出たこと。
後宮で過ごしている間は王城に行って下働きの真似事をしながら生活したこと。
時々城下まで抜け出していたこと。
王城の倉庫や後宮の廃棄所から生活物資や街で売って金を得るための物品を度々持ち出したこと。
後宮を出る時に、身代わりの遺体を残すと言う工作をしたこと。
「後宮を出てからは、ご存知の通り、冒険者として生活していました。先王陛下が崩御されたとき、殿下達が執務室で話しているのをうっかり聞いてしまって、あなた様が夫の弟君だと気づいて、それで逃げる様にクロピドを去りました」
「・・・・・」
「嘘をついていてごめんなさい。パミドロルの国家を欺く様な工作までして後宮を逃げ出した事、申し訳ございません。全ては私の身勝手な行動です。そして・・・夫の弟であるあなた様と不貞を働いてしまいました。罰・・・罰は・・・どうか私に。エタノルには、今回のことは関係ないこと。私が独断でやったことなんです」
「・・・・・」
フィンは視線をやや下げて無言で何かを考えている。考えながらもリリカの背中を撫でる手はそのままだ。
リリカは自分にどんな判決が言い渡されるのか、フィンの熟思が終わるのを静かに待った。やがて、フィンが口を開いた。
「兄から後宮の事は簡単に聞いている。先王陛下と前王妃が兄の側室を無計画に増やしていたそうだ。兄は王位に就いて様々な改革を行ったんだけど、そのうちのひとつに後宮の縮小整理があった。後宮には側室と称する女性が30人以上居たようだが、正式に成婚の儀を執り行ったのは17人だけだったそうだ。つまり、それ以外の女性達は「側室ではなく客だった」と言うことになった筈だ。ミレイは、いや、「リリカ姫は王家の客人」であり、王家は客人であるあなたを歓待することなく放置したと言う事になる。だから、あなたが罪に問われることはないと思う。逆に、パミドロル王家はあなたに賠償をしなければいけないだろう。実際に三十一番目の側室の存在がその後どういう扱いになったのか、死んだものと判断されたのか、兄に聞いてみないと分からないが、悪いようにはならないと思う」
「っ!・・・私、側室ではなかった?」
「そうだね」
「不貞行為じゃない?」
「俺だけのミレイだ」
「あなたを傷つけてしまうと思うと怖かった・・・」
「俺のために、独りで悩んでくれたんだね」
「フィンのこと、好きでいていいの?」
「もちろんだよ!俺はリリカを愛している。ずっと側にいて欲しい」
そこでフィンは居住まいを正して、リリカの正面の床に片膝を突き、リリカの右手を下から掬い上げるように取った。
「私、フィトナジオン イミペネム パミドロルはエタノルのリリカ姫に結婚を申し込みます。
リリカ、私の想いを受け入れていただけますか? 生涯ただ1人の妻として」
フィンは真摯に結婚を乞い、手の甲に軽く口づけた。そして、その手を握ったまま目の高さまで持ち上げて、リリカの目を真っ直ぐに見つめてくる。
「お返事を頂けますか?」
フィンの言葉に、気持ちを押し止めていた心の枷が外れ、歓喜の気持ちが湧き上がってくる。込み上げる気持ちが、目元に雫を溢れさせていく。喜びに満ちた涙は不思議と温かい。
「わ、わだじも、あ、あいじてまずぅ・・・うぅぅぐずっ」
涙と一緒に鼻からも水を垂らしたせいで、全く美しくない返事になってしまった。
フィンはリリカの頬を流れる涙を優しく拭った。
「受け入れてくれて嬉しいよ。ありがとう。君に酷い仕打ちをしたパミドロルの王族である俺でも良いのかい?」
「うぅ、フィンがいいでずぅ、ぐずっ。フィンじゃなきゃ嫌でずぅ、ぐずっ、うぅ」
「泣いている顔も可愛いのだけど、俺はリリカの笑っている顔が見たいな」
そういって嬉しそうに微笑む。たまらないといった雰囲気のフィンの笑顔の甘さに、顔が熱くなった。
フィンは立ち上がり、顔をそっと寄せてきた。次に何が起こるのか分かったリリカは慌てて目を閉じた。2人の唇が重なる。
唇を合わせているだけなのに、指先までも震えるほど想いが体中を駆けるのを感じる。今まであった自責の念が雲散し、2人を隔てる憂いが晴れたいま、口づけるだけで胸が熱を持ち疼く。
大好きな相手とキスできることが、嬉しくて、幸せで、苦しいほどだ。
(もっと、もっとキスしたい)
リリカはフィンの首に腕を絡ませた。それを合図と感じてか、フィンがリリカを押し倒す。ぽふんっとベッドがリリカの背中を受け止めた。
(はぁ、フィンの匂いだ)
懐かしい、愛おしい匂いに包まれて、大きく息を吸って吐いた。
焦れったく思いながらお互いの服に手を掛ける。
お互いの肌と肌を合わせる。
フィンの唇が優しくリリカの耳朶を食んだ。
2年ぶりに、2人だけの幸せな夜を過ごした。
繰り返し愛し合い、漸く眠りについたのは明け方だった。
▲▽▲▽▲▽
目が覚めた瞬間、隣に感じる温もりに安心する。窓から聞こえる鳥の鳴き声と、隣から聞こえる静かな寝息が心地よい空気を作っていた。
フィンを起こさないように、静かに寝返って彼を見る。楝色の瞳は閉じられていて、今は見えない。凛々しい眉、すっと通った鼻梁、いつもは固く結ばれている口元が、今は少しだけ緩んでいる。
(昨日のフィンの話では、私が咎められる事はないだろうとの事だったが、本当に大丈夫だろうか?母やエタノルの国民や、何よりもフィンに影響が及ばないか心配だ。でも、フィンを信じると決めたのだ。彼がその場限りの出任せを言うような人じゃない事は確かだし、フィンが大丈夫だと言うのなら、私はそれを信じるだけだ)
そっとその頭に手を伸ばして、白金色の髪に指を絡ませる。柔らかそうな髪は男性だからか、意外と腰がありしっかりしている。フィンが寝ているのを良い事に髪を思う存分、撫でて梳いて楽しんだ。
気がつくと、フィンがうっすらと目を開けて、こちらを眺めていた。
「おはよう、フィン」
「ミレィ・・・いやリリカ、おはよう」
色っぽい掠れ声で返事したフィンはミレイの前髪を指先で払って、額に口付けを落とす。
「・・・身体はだいじょうぶか?済まない、昨夜は堪え性がなくて無理をさせてしまった」
「うん、多分、大丈夫だよ」
「リリカ、これからはずっと一緒だからな。俺が嫌になっても逃がさないぞ。覚悟はできてるか?」
「ふふっそれはフィン次第かなぁ。いつまでも私を惚れさせていてね」
「それなら、任せろっ。得意分野だ!」
「あ、あは、あははははっ、と、得意分野って、何それぇ」
「リリカ限定で惚れさせる分野が大得意なんだ」
「あはははは、頼もしいね」
そしてまた、2人は体を重ねた。
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明日は、王都へ帰還




