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本日も宜しくお願いします
前世の故郷にも行っとこ
そして・・・
春、20歳になったミレイは長期の休暇を貰って、前世の生まれ故郷の村のあった場所に来た。丁度、村を飛び出した時と同じ歳になったので、どうしても来てみたくなったのだ。
村のあった筈の場所は、すっかり自然に還っていたが、蔦の絡まった墓石群を見つけた事で場所が確定できた。辛うじて読める墓石の文字を、ひとつひとつ確認していくと、両親の墓を見つけることができた。2人とも高齢になるまで生きた様だ。そしてなんと、ミレイの墓もあった。仲間の誰かが遺品か遺骨を届けて死亡を知らせてくれた様だ。メルファランかな?
兄弟姉妹達の物は見つけられなかった。ここに無いのか、見つけられなかっただけなのかは分からない。
一昼夜、村跡で過ごした後、森に入って魔獣の討伐を行った。人が居なくなったせいで、強い魔獣も増えている様だ。ソロなのであまり深部には入らず、無理のない範囲内で魔獣を狩った。前世の時と同じく7日間だ。
獲物は、ゴブリン、コボルト、ソルジャーアント、マンティス、ホーンラビット、ナインテールフォックス、フォレストウルフ、ワイルドボア、アウルベアー、ポイズンスパイダー、ポイズンスネークなどだ。
中々の成果だ。解体はせずに『収納』に突っ込んである。
村の広場跡で独り祝杯を上げて、翌朝、村跡を出た。
またひとつ、前世の課題を片付けられたな。
その後も前世に冒険者として活動した地域を順に見て回った。適度に討伐を行って、元村の森で狩った獲物も合わせて少しずつ解体して素材を売って歩いた。
メルファラン達と拠点にしていた街は名前を変えて同じ場所にあった。ギルドの場所も変わっていなかった。懐かしくてついつい長居をしてしまった。塩漬け依頼などを片付けて過ごした。
今回は予想外に楽しい旅になった。
▲▽▲▽▲▽
のんびり旅を終えて、3ヶ月ぶりにアテロールへ戻って来た。クランの拠点に顔を出すと、私に客が来ていると言う。
「ミレイも隅に置けないなぁ。2週間くらい前からずっと待ってるよ。“赤い風見鶏亭”に泊まってるから行ってみなよ」
とニヨニヨしながら教えられた。
(誰だ?)
訝しみながら、町一番の宿屋へ向かった。
宿の中へ入ると、1階の食堂に懐かしい人の姿を見つけた。綺麗な白金色の髪の毛。逞しいその背中。後ろ姿だが、直ぐに彼だと分かった。
ミレイはその場に立ち尽くして動けなくなる。
「・・・なんで・・・なんでここに・・・?」
ミレイの小さな呟きが聞こえた筈もないのに、ピクリと反応した彼が振り返る。楝色の瞳を驚いた様に見開き、次に優しげに細められた。
彼がゆっくりと立ち上がる。
ミレイはまだ動けない。
彼がこちらへ歩み寄って来てくれる。
ミレイはそれでも、動けない。
彼がこんなにも近くに来たのに、姿がボヤけてよく見えない。水が頬を伝わる感触。
自分から手放した恋なのに、
泣く権利なんて無いのに、
彼が愛おしそうに笑うから、
涙が止まらなくなるんだ。
「ミレイ、やっと見つけた。探したよ」
彼はそう言って頬を優しく拭ってくれる。
「ごめんなさい」
彼の手を取って、額に掲げるようにしながら謝罪した。
▲▽▲▽▲▽
落ち着いて話をするために、フィンの泊まっている部屋に移動した。2人並んでベッドに腰かけている。
まず、フィンがこの2年間の出来事を話してくれた。
フィンは本名をフィトナジオン イミペネム パミドロルと言い、パミドロルの元第二王子、今は王弟だ。先王陛下の治世を快く思っていなかった、3人の王子達は、王と王派の貴族主導で行われている侵略体質を変えようと準備をしていた。フィンが立ち上げたクランもその一環だった。
そんな時、突然、先王陛下が身罷った。フィンは王宮に急ぎ戻り、王子3人と護国派の貴族達で王宮を掌握するために奔走した。王都での仕事に数ヵ月を費やしてクロピドに戻ったフィンを待っていたのは「ミレイは突然辞めて出ていった」と言う報告だった。辞めた理由は誰にも分からない。フマルとアラバが探しに出たが、1ヶ月かけても見つけられなかった、との事だった。
フィンも直ぐにでも探しに行きたかったが、まだまだやるべきことがあって身動きが取れなかった。クラン“蒼天の鷹”の冒険者たちに全てを公表して、親衛隊に勧誘した。親衛隊を辞退した者たちの行く末の采配をした後、親衛隊を引き連れて王都へ移動した。“王弟殿下の親衛隊”を内外に周知し、討伐任務をひとつ、ふたつやってその実力を示して地位を安定させた。ようやく自由な時間が取れるまでに1年以上かかった。
そこから伝も使って捜索し、やっとアテロールで活動している冒険者にミレイと言う名の女性がいると掴んだ。アテロールに来てみれば、長期で不在だと言う。いつ戻るのか分からないと言われたが、何時までも待つ積もりでいた。
「覚悟したよりも早く帰ってきてくれて良かった」
「・・・」
「見つけるのにこんなにも時間がかかってしまってごめんね」
恨み言のひとつも吐かずに、笑顔で謝られてしまった。
「ごめんなさい」
でも、ミレイに言える事はこれだけだ。
フィンはずっと俯いているミレイの頭を優しく撫でて、肩を抱き締めてくれる。
「俺の事を信じて、話してくれないかな? 何があったの? 俺では力になれない?」
「・・・・・」
どこまでも優しいフィンに打ち明けるべきか迷う。
「自慢じゃないけど、王弟の権力があれば大抵の事は片付くと思うよ♪」
気まずい空気を変えようとしてか、明るい調子で冗談っぽく言ってくれる。
「私がフィンに愛想を尽かして出ていったとは思わないんですね?」
ちょっと呆れてミレイが指摘すると、
「君の心に俺が残っていない様なら、元気なことだけ確認して帰るつもりだったよ。でも君は全身から好きが溢れていた。涙を流してくれた」
なんてフィンが言うから、思わず顔を上げてしまった。ミレイの顔は真っ赤だ。
「っ、よくそんな歯の浮く様な事が言えますね!それに自信過剰!」
「ミレイ以外には言わないよ。ミレイに対して隠し事はもう無い。俺の全てを話せるよ。何か訊きたい事はある?」
ミレイは、顔は真っ赤なままで、また俯いた。
「・・・わ、私は・・・私は、フィンに、か、隠し事があります。そ、それを打ち明けると、お、恐らく王弟殿下はわ、私を罰する事になるでしょう。きょ、極刑もありうると、思います」
「どこかの国の・・・間諜かい?」
「いえ、違います!違いますが、フィンは国を、王弟の立場を捨てて、ただのフィンになる事はできますか?できないのであれば、いまこの場で何も言わずに私を叩き切って下さい。私の秘密を話せば、その影響は何十万人の無辜の命をも危険に晒す事になるのです」
フィンの顔が困惑に染まる。
「どちらの選択肢も受け入れられないな。ただのフィンになる事は、俺自身は厭わないのだが、それこそ何十万人、何百万人に影響が出る可能性がある」
「では、このまま私の事は忘れて下さい。私は決してパミドロルの害になる様な存在ではない、と言う事は誓います」
「何も分からないままでは納得できない」
「勘弁してください」
押し問答だ。
暫くの時間、沈黙が流れた。
改めて、フィンが落ち着いた話し声で語りかける。
「ミレイ、決して悪いようにはしない。俺は真面目一辺倒ではないつもりだ。国に仇を為す内容でない限り、受け入れると誓う。2人で考えよう。何か方法がある筈だよ」
下げていた視線をチラリと上げると、目が合ったフィンが笑った。それはとても優しい笑顔だった。
(信じて良いのだろうか? 甘えて良いのだろうか? 背負わせて良いのだろうか?)
フィンは、まだ迷うミレイを励ます様に背中を擦ってくれる。
その手の温もりに勇気付けられて、ミレイは訥々と語り始めた。
毎日更新中
ミレイの告白をフィンはどう受け止めるのか?
 




