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本日も宜しくお願いします
団長が甘あまに!?
急接近するふたり
団長に心配されながら依頼に出かけたり、また団長のパーティーに入ったり、何だかんだと数ヶ月が経った。団長の過保護っぷりは相変わらずだ。クランの皆には生暖かい目で見守られている。フマルは何故だか団長に対抗意識を燃やしているが、団長には全く歯牙にも掛けられてない。
正直、居た堪れない。クラバモスよ、孫娘を見守るじじぃの様な目で私を見るなよ。
夏の暑さが少しずつ和らいできたある晩夏の宴会の席。程よく酔って気分よくいたミレイは団長に呼ばれて隣の席に座った。
団長も酔っているのか、顔が少し赤い。そしてミレイを見つめる視線がいつも以上に甘い。
「ミレイ、先日のフォレストウルフの討伐では怪我しなかったか?」
そう言って、団長はミレイの頭をよしよしと優しく撫でた。
「はい!お陰さまで大丈夫でしたよっ。団長は、バジリスク討伐はいかがでしたか?」
(団長、いつもと雰囲気が違うなぁ)と不思議に思いながら、でもちょっと嬉しくなってミレイは答えた。
「うん、俺の方も何とか無事だったよ。バジリスクは毒の攻撃が厄介でね。でも、事前に罠を仕掛けておいたのが上手く嵌まってね。運も味方したかな」
「実力があって初めて運が味方するんだと思いますよっ! 流石、団長です」
「はは・・買いかぶりだよ。まあ、仲間との総合力と言う点では誇ってもいいかな」
ミレイが一生懸命に褒めると、団長は嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに笑った。未だに団長の手はミレイの頭を撫でている。
「ほんと“蒼天の鷹”は実力者揃いで良いクランですよねぇ。私、このクランに入れて良かったです」
「俺もミレイと出会えて良かったよ」
「団長っ・・・」
いつもと雰囲気の違う団長の様子が不思議で、ミレイは団長の綺麗な楝色の瞳を見つめる。ミレイを見返す団長の瞳はひたすら甘くて、ドキッとした。
「はい、はい、はい、お前ぇら、その先は別室でどうぞぉ」
クラバモスが謎の台詞を吐いて、団長とミレイを追い出しにかかった。
「はぁ?何なんだよ。おいおいおい、押すな、押すなよ!」
ミレイの抗議は無視されて、クラバモスに背中を押されて、無理やりクランの2階に上がっていかされた。団長には特に不満はないらしく、進んで2階に上がって行った。そうして団長は、ある部屋の前まできてミレイを振り返る。
「ミレイ、少し話があるんだ、入って」
団長はそう言って、外部者の宿泊用の部屋の扉を開けて、ミレイに中に入るように促す。
(話って、何だろう?)
団長の言葉に素直に従ったミレイを先に部屋へ入れて、後から部屋に入った団長は、扉を閉めるなり自分よりもずいぶん薄い肩(女性にしては逞しい肩だが)を抱き寄せると何も言わずに唇を奪った。
部屋は暗いままだ。
「んっ!?」
ミレイは驚きに目を瞠るが、団長は構わずによりぐっと抱き寄せて喘ぐ唇を激しく貪る。
(え、なんで? キス? なんで? あれ? 夢? なんで、こんなことになってんの?)
「んんっ」
体をがっしりと抱えられていて、逃げられない。ミレイは知らず、団長の服にしがみつく。
気持ちよくて、ただキスをしてるだけなのに、やたら気持ちよくて、鼻から声が出る。
「んっふ、ぁ」
いつの間にか、団長とミレイの体が入れ替わり、ミレイは壁と団長の間に挟まれている。
団長の匂いがする・・強く。
舌の音が鳴る・・気持ちいい。
ミレイは目を開けていられなくなって、団長の体にしがみついたままもたれた。
「ん・・・んん」
大好き。もっと、キスしたい。自らも顔を傾けて、キスをした。
唇が軽く、ちゅ、と音を立てる。
息苦しくなって口を開けたら、被さるように大きな影が乗っかってきて・・・
「お、重いっ」
団長の重さに耐えきれず、背中を壁につけて、ズルズルと滑るようにして尻餅をつくと、ミレイの肩に乗ってきた団長の頭部から、穏やかな呼吸音が聞こえてくる?・・は?
『身体強化』を発動して団長の体を押して少し離して覗き込むと、寝落ちした団長が気持ち良さそうな寝息を立てていました。
「はぁあ!?」
寝入ってしまった団長を、そのまま客室のベッドに寝かせて、イライラしながらもミレイは自分の部屋に戻った。キスの途中で放置された憤懣冷めやらぬミレイは、暫く寝付けなかったが、酒の影響もあり、いつに間にか眠ってしまった様だ。
翌朝、団長がミレイの部屋を訪れて起こされた。団長は昨夜の自分の所業を忘れなかったらしく、謝罪をしてきたのだ。どうやらバジリスクの毒の影響を僅かに受けていたらしく、バジリスク討伐に参加した冒険者たちは皆、普段にないくらい酒に呑まれて、大なり小なり「やらかした」らしい。
「酒や毒のせいにして無かった事にするつもりはない。ミレイにキスしたかったのは本心なんだ。俺はミレイの事が好きだ。誰よりも大切だし、守りたい。俺の唯一になってくれ!」
謝罪した上で、団長はミレイに告白してくれた。
「・・・うぅ、はい。私も団長の事が好きです」
以前、「誰とも深い関係にならない!」と誓った決意だったが、昨日の熱いキスと、今日の団長の真摯な告白に抗える筈もなく、ミレイは「決意」を簡単に放棄してしまった。
ミレイの真っ赤になった頬を団長の手の甲が優しく擦る。団長の顔は甘く蕩けており、そんな顔で見つめられて、ミレイは嬉しいやら恥ずかしいやらで、更に顔の赤さが増して、脳が沸騰しそうだった。
その後団長は、クランの皆の前でも2人の関係を宣言して、ミレイに恋慕していた一部の者を除いて、殆どの仲間に祝福されたのだった。ミレイは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
さらに団長のことをフィンと呼ぶようになったミレイを皆が冷やかして、また真っ赤になるのだった。
▲▽▲▽▲▽
フィンと付き合い始めたミレイは、また「安心・安全の冒険者活動」に戻った。フィンが自分のパーティー以外にミレイが入るのを認めなくなったのだ。
今日も魔獣の討伐に来ている。今回はスパイダーエイプの群れの討伐だった。今は一仕事終えて、帰路の夜営準備中だ。ミレイは薪を集めるために木立の中を歩いている。
「わっ」
木の陰から不意に腕を引かれ、力強く抱きしめられた。慌てて顔を上げると、強い楝色の目と視線がぶつかった。
背にまわる腕の力を強められて、ミレイも同じように腕を回して抱きしめた。ミレイがフィンの肩口に頭を置けば、フィンも頬を寄せてくる。
フィンの温もりを全身で感じ、フィンの匂いに満たされる。
「こんな所でどうしたの?幹部の方々と打ち合わせをしてたんじゃないの?」
「ミレイと2人きりになりたくてな。ミレイは違ったか?」
「勿論、私も同じだよ。依頼の最中は団体行動だから、中々2人きりになれないものね」
フィンが身動ぎしたのでミレイが頭を持ち上げると、フィンの顔が近付いてくる。目を閉じると、すぐにフィンの唇が重ねられる。
2人は、木立の陰でいつまでも飽きること無くキスを交わした。
どうかこの幸せな時が、願わくば永遠に続きますようにと心の中で願いながら。
こんなにも愛しく思う人と出会って、想いが通じあって、同じ景色を見て、同じ日々を歩いてゆけることを幸せだと思う。でもミレイは頭の冷静な部分で、この幸せは永遠に続く事はないのだと分かってもいた。
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幸せは永遠には続かないのか?