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本日も宜しくお願いします
怪我からの復帰!
目が覚めると見知らぬ天井が見えた。ここはどこだろう・・・とぼーっと考えていると、だんだんと記憶が甦ってきた。
(そうだ、オーガ討伐に出ていて、最後に団長を庇ってやられたんだった! 団長は大丈夫か!?)
「ぐあぁっ!・・・ぅうぅぅぅ~、痛ってぇ~」
「急に動いたら傷に障るぞぉ」
慌てて起きようとして、横腹の痛みに悶絶して、ベッドに沈みこんだ。
私が目覚めた事に気づいたクラバモスが声をかけてきた。看病してくれていた様だ。
「ここは? 団長は無事なのか? 他の仲間は?」
慌てて聞くが、声がずいぶん掠れている。
「そぉ矢継ぎ早に聞かれても答えられんぞぉ。まずは水でも飲みなぁ」
体を少し傾けて、手渡されたコップの水を一気に飲み干す。と、もう一杯注いでくれる。二杯目は少しゆっくり飲んでいると、クラバモスが経緯を説明してくれた。
「ここはクランの2階にある治療室だぁ。おめぇはオーガに腹ぁ掻っ切られたんだよぉ。そのオーガはぁ団長が仕留めたぁ。他のオーガはぁちゃんと生死を確認して討伐は完了している。他は大きな怪我を負ったやつぁいねぇよぉ。おめぇは、応急手当を施してから団長が急いでクランまで運んで、治療師にちゃんとした治療を施して貰ったんだぁ。馬ぁ使い潰す位の勢いで飛ばしてぇ、3日でクロピドまで走り抜けたんだぁ。お前ぇは暫く熱に浮かされて苦しんでたんだがなぁ、昨夜辺りから熱も下がって安定してきたって訳よぉ。今日は怪我をして5日目だなぁ」
「5日も寝てたのか。腹減った」
「がははははっ。腹ぁ減ったなら、もう大丈夫そうだなぁ。スープでも持ってきてやるよぉ」
そう言ってクラバモスは部屋を出ていった。
クラバモスを見送って、視線を天井に戻したミレイはオーガにやられた時の事を思い出す。正確にはその少し前の事だ。オーガが死んでいないと気づいたあの時、世界がゆっくりと動いている様に感じた。自分の体もその世界の遅さに囚われたようになり、動けなかった。「団長が危ない」と思ったら、急に動けなくなったのだ。あれは心が恐慌状態に陥っていたのだと思う。改めて自分の心の弱さを自覚した。
そしてあの時、危なかったのが他の冒険者だったなら、冷静に対処できたのではないだろうか? その違いは何なのか?・・・その心持ちの違いに正しい名前を付けると、後戻り出来ない気がする。「尊敬しているから、クランにとって代わりの利かない存在だから」こう考えるのが無難だな。
リリカはエタノルから来た「人質」だ。一応、リリカが後宮を出奔した事がバレないように細工してきたが、それで完全に大丈夫だとは言い切れない。誰かと踏み込んだ関係を築くのは避けるべきなのだ。クランの団長と一冒険者としての関係を保つ事を決意する・・・が、しかしこの気持ちは、この先も制御しきれるのだろうか、自信はなかった。
ぐるぐると考えを巡らしていると、慌てて走って来る足音が聞こえてきた。ガバッと扉を開いて飛び込んで来たのは、団長だった。
「ミレイっ!」
「団長、ご無事で良かったです」
「バカ野郎!俺の心配より自分の体の事を考えろよ!危うく死ぬところだったんだぞ!」
団長は大声をあげながらずんずんとベッドに歩み寄ってきた。
いつもの穏やかな団長とは思えない勢いにびっくりして、ミレイは目をしばたかせる。
「ミレイ・・・良かった。生きててくれて、ホントに良かった」
そう言って、団長は寝ているミレイに覆い被さる様に抱き締めてきた。怪我に響かないように頭部だけを優しく包み込んでくれる。
ミレイは今度は目を大きく見開いてしまう。
(さっきの私の決意を揺るがすような行動は慎んで欲しい!勘違いするからっ!特別になれるかもなんて、絶ぇ~っ対に思っちゃダメだ!)
そう思いながらも、ミレイも腕を団長の背中に回した。
「え? え? 団長? どうしたんですか? え? 」
「ミレイがオーガに腹をやられて倒れたとき、その出血の多さに生きた心地がしなかった。ミレイを失いたくないと思ったんだ。もうあんな無茶はしないでくれ」
「あ、あのっ、心配して下さってありがとうございます。私は大丈夫です。団長がクランまで運んで下さったと聞きました。対応が早かったから助かったんだと思います。団長は命の恩人ですね!」
「いや、ミレイこそ私の命の恩人だよ。君があのオーガに気づかなかったら私がやられていただろうな。迂闊な自分が恥ずかしいよ」
「お役に立てて良かったです。でも、団長も私も傷つかない、もっと良い遣り方があったと思います。咄嗟の事で慌ててしまって、無茶な事をしてしまった自覚はあります。ご心配をおかけして申し訳ありません。精進します」
「そうだね、お互い様と言うことにしようか。これを糧にもっと成長しよう」
「はいっ!」
「2人の世界に浸ってるところ悪いけどよぉ、入っていいかぁ?」
いつから居たのか、クラバモスがスープの載った盆を持ったまま、呆れ顔で開け放したままの扉の所に立っていた。
抱き合ったままだったミレイと団長は慌てて離れて、団長は立ち上がる。頬がちょっと赤い。
「く、クラバモス、あとは頼む。俺は仕事に戻るよ」
団長はそう言って慌てて出ていった。
「クラバモスぅ、覗き見なんて趣味が悪いぃ」
「てめぇらが扉全開でイチャコラしてやがったんだろぉ!? 俺のせいにするなよぉ」
「イチャコラって何だよっ。人聞きの悪い事を言うなぁ!?」
「はぁ、無自覚かよぉ。先が思いやられるぜぇ」
「何だよ、無自覚って、どういう意味だよ。下世話な言葉で団長を汚したら許さないぞ」
「そんな事よりぃ、スープ持ってきてやったんだから食えよぉ。ちぃっと少ないが病み上がりだからなぁ、これくらいで我慢しとけぇ」
「あ、あぁ、ありがとう。悪ぃな。うっつぅぅっ」
腹の痛みを堪えながらゆっくりと上半身を起こして、スープを受けとる。食堂のおばちゃんの作るスープはいつも美味しい。
スープを飲み干した後、薬を飲んだら眠気に襲われてそのまま意識を手放した。体が回復するために休息を求めているのだろう。
治療師の施す治療とは、魔術を使って体に干渉し、傷の治癒速度を上げると言うものだ。治療師の腕前にもよるが、浅い傷なら瞬時に跡形もなく治すことができる。傷が深くなればなるほど治癒に時間がかかる。ミレイの様に腹を切られた様な傷の場合、もし内臓を大きく傷つけられていれば、治療師がいくら術を施しても救命できない。また、ばい菌の感染には対抗できないので患者は発熱してしまう。熱冷ましの薬を飲ませるが、場合によっては、傷は治したのに感染症で亡くなってしまう事もあるのだ。筋肉は傷が塞がっても筋肉の細かい繊維がズタズタになったままであり、暫く痛みが続く事になる。また、失った血液は治療では戻らないので、そこは自然回復を待つ必要があるのだ。
ミレイは意識を取り戻してからも更に3日ほど、ベッドの上でうつらうつらと殆ど寝て過ごした。その後は痛みを堪えながらも歩く練習から始めて、徐々に体を戻していった。寝ている間に随分と体力と筋力が落ちてしまって、冒険者活動に復帰することが許されるまで、実に1ヶ月の時間が必要だった。本当は簡単な依頼(薬草採取など)ならもっと早くに始めても良かったのだが、重度の過保護を発動してしまった団長が許さなかったのだ。
団長がこれほど過保護になったのには訳がある。実は団長は今までミレイを男と思っていたのだが、傷の手当ての時に女である事に気づいたのだ。ミレイが意識を取り戻した翌日に、改めて団長が見舞いに来てくれてその話になった。
「クランに女性だからと無理強いするような冒険者はいないし、いたとしたら厳罰に処するから安心してくれて良い。団長の自分を信じて、もっと早くに教えて貰いたかった。討伐依頼の時もミレイの安全には配慮するし、その事を後ろめたく考えなくて良いからな」
団長にとって女性とは「守るべき対象」なのだろう(決して、私が団長の特別だから何て事は絶ぇ~っ対ないっ!)。今まで母以外に私の事を「守ろう」としてくれる人なんて居なかったから妙にむず痒い。
怪我の後の療養はクランの基本方針なので、素直に従った。しかし仕事時には、女性だからと特別扱いは不要であると伝えた。女なので当然、膂力は低い。それが不利になる事は分かっている。純粋に戦闘力に見合った扱いをしてくれるようにお願いした。
「そうだね。分かったよ。ミレイの冒険者としての誇りを傷つける様な事を言ってしまってすまない」
団長は困ったように微笑んで、ミレイの願いを聞き入れてくれた。
が、一旦発動した過保護は、そう簡単には解除されなかった。
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リリカの恋の行方は?
団長にとってミレイって?




