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本日も宜しくお願いします

幹部が帰還してきました

団長って・・・危険!

 クランに入団して9ヶ月が経った。この間、色々な依頼を(こな)した。ゴブリンなどの魔獣の討伐は数回あった。ワイルドボアやソードディア、ホーンラビットなど食料になる魔獣や、リザードマンやアウルベアー、ポイズンスパイダー、トレントなど素材が汎用されている魔獣は常時、採取依頼がある。たまに希少な薬草の採取依頼が来たりもする。あとは商隊の護衛(通常、商隊は専属契約している護衛集団を持っているが、荷物が増えたり、貴重な積み荷があったりした場合、臨時で冒険者を雇うことがある)をやったりだ。今は冬に入り依頼が減って、連日、訓練の日々を送っている。


 そんな冬のある朝、訓練場にクラバモスの大声が響き渡った。


「てめぇらぁ! 狩りの準備をしろぉ! 西の森に狩りに行くぞぉ!」

「はぁ? 冬の今時、獲物なんて早々見つからねぇよ! 舐めてんのか?」

「そうだ、そうだ。雪の中を探し回れってのか? クラバモス、とち狂ってんのか?」

「狂っとらんわぁ! ギルドからの要請だぁ。今日から3日間、食用の肉を、種類を問わず通常の1.5倍で買い取ってくれるそうだぁ! さぁ! てめぇら、狩りまくれぇ!」


 何でも、王都で急遽、お祭りが行われることになった。祝いの食事や酒が市民にも振る舞われるらしく、食料品をかき集めているそうなのだ。


「何か、慶事でもあったんすかねぇ?」

「さぁなぁ。儲かるなら何でも良いだろぉ? さっさと準備しろぉ」

「へい、へーい」


 その日から3日間、20人ほどで西の森に行き、雪中行軍で他のクランの冒険者と競うように狩りをした。日頃の行いが良かったのか、晴天が続いて比較的狩りがやりやすかった。冬でも活動している獣や魔獣は少ないが、ミレイとエステルの『索敵』がしっかり仕事をし、それなりに獲物を見つけることができた。

 その3日間の成果は、

  ホーンラビット、    25匹

  ナインテールフォックス 12匹

  フォレストウルフ    10匹

  ソードディア       3匹


 冬の割には、そこそこの成果に大いに盛り上がったクランだった。        



 後で知ったのだが、遠征に出ていた王太子殿下が帰還して、その凱旋のお祝いだった様だ。

 王都では秋の収穫祭と春の新年の祝いの2回、盛大な祭りがあって、さらにここ数年は王太子殿下が遠征から帰還する度に凱旋の祝いが行われているそうだ。その都度、王都内では祝いの食事や酒が市民にも振る舞われているらしい。

 王都出身のミレイは皆に羨ましがられたが、ミレイ(リリカ)はそんな祝いに参加したことは無い。秋と新年の祭りにも呼ばれた事が無い。祭りの存在自体知らなかったのだ(多分、王太子妃や他の側室たちは呼ばれてたのだろう)。

 

 「う、うん、ま、まぁねっ王都民の特権だよねっ」


 適当に返しながら冷や汗を垂らすのだった。





▲▽▲▽▲▽


 冬の狩りから10日ほど経った頃、長期の依頼に出ていた団長と副団長、他数名の幹部が帰ってきた。


「団長、皆さん、お帰りなさい! ご無事で何よりです!」

「お疲れだったなぁ。クランの方はぁ問題なかったぜぇ!」

「良い女はいましたかい? ひゃっはっはっ」

「副団長! お土産あるっすか?」


 わいわい、がやがや。

 古参の仲間は帰還した幹部達を囲って和気あいあいと話しているが、彼らと面識のない若手数名は遠巻きにその様子を眺めていた。新人の立場であの輪の中に突撃できる勇者はいなかった。


「おーいぃ! 新人どもぉ! こっち来ぉーいぃ!」


クラバモスに呼び寄せてもらい、新人達4人、おずおずと幹部たちの前に出る。


「おいっおめぇら、自己紹介しやがれぇ」

「うすっ。フマルっす。得物は槍っす。よろしくっす」

「バナザです。長剣です。お願いします」

「アラバ、戦斧だぜっ。よろしく頼む!」

「ミレイと言います。得物は槍と、魔術も少々。お願いします」


「ああ、俺は団長のフィンだ。宜しくな。活躍を期待しているよ」

「副団長のデクトだ。クラン“蒼天の鷹”の一員として恥じない行動を心がけてくれ」


 団長と副団長は20代前半くらいの青年だ。2人とも背が高い。団長は白金色の髪を長く伸ばして後ろで一本に纏めている。意思の強そうな瞳は楝色(おうちいろ)で、唇は薄めだ。旅装の上からも頑健な体格であろう事が窺い知れるが、背が高いお陰か、横にデカすぎずスラリとした印象を受ける。思わず見惚れる程の美丈夫だった。副団長は銀髪を肩の長さで切り揃えており、瞳は浅緑色、生真面目な性格が現れている相貌(そうぼう)だ。こちらも頑健な体格である。

 他の幹部達(4人いた)もそれぞれ名乗りあった。彼らの年齢は少し高めの30代前半。みな体格はがっしりしている。

 幹部達が帰還したことで、今夜はクランの全員が揃った。そうなると始まるのが当然、宴会。総勢65人の大宴会だ。クランの備蓄を飲み干す勢いで酒が飲み交わされ、肉や野菜が振る舞われた。


「団長ぉ~! こいつぁ今期一番の期待の新人ですぜぃ! がはははっ」

 

 ミレイはクラバモスにがっしりと肩を組まれて、団長の向かいに座っている。


(絡み酒かよっ)


「クラバモス! 腕、重いっ! うざいっ! 放せっ!」

「可愛くねぇぞぉ、ミレイ。ちったぁ愛想良くしろぉ?」

「そうか、それは頼もしいな」


 団長フィンの話し方は穏やかで、聞き心地の良い声をしている。その表情も声に(たが)わず穏やかだ。その表情や話し声に若干の既知感を感じるが、思い出せない。

 その団長のうっすら笑みを湛えている形のよい唇がコップに触れて・・・・・口内へ酒が流し込まれる様子を目で追ってしまっていた事に気づいて、慌てて目を逸らす。


(あっぶねぇ、見惚れてた。美形、危険)


「ミレイぃ飲んでるかぁ? 飲み足りねぇんじゃねぇかぁ?」

「飲んでるよっ! うざ絡みすんなよっ、このハゲ!」

「誰がハゲだぁ、ふっさふっさだぜぇ!」

 

 クラバモスがツルツルの頭ではなく、もじゃもじゃの黒髭をミレイの頬に擦り付けてくる。


「うぎゃぁ~。ジョリジョリすんなよっ!」

「ふっさふっさだろぉ!? 羨ましいだろぉ?」

「ぃやぁ~! やめてぇ~!」

「はっはっはっはっ、仲良いね」


 団長が可笑しそうに笑う。


(美形は笑い顔も美形。冒険者の、しかもクランの団長をやってるようには見えないね。どっかの貴族のボンボンかな? 三男あたりが道楽でって、有りがちかもね)


 クラバモスが、副団長に飲み比べを挑みに行ったお陰で解放されたミレイは、団長と少し話をした。美形相手にちょっと畏まった話し方になるのは、致し方なかったと思う。ミレイだってお年頃の女子だ。


「そう、9ヶ月になるんだ。どう? クランには馴染めた? さっきのクラバモスの様子を見る限り、大丈夫そうに思ったけど」

「はい、お陰さまで、皆さんに良くして頂いておりますですっ」

「得物は槍だっけ?」

「はいっ槍を少々。それから投擲なんかもやらせて頂いておりますですっ」

「ふふっ、もう少し楽に話してくれて良いよ。クロピド生まれ? 」

「王都の下町ですっ。両親が亡くなってからは、スラムの方で自活を。たまたま、知り合った冒険者の方に色々教えて頂いて、それで魔獣の討伐をやりたくて、ここクロピドへ移動してきましたっ」

「へぇ。どうして魔獣を?」

「あの、両親が・・・仕事で他の町に行く途中で、魔獣に・・・」


 適当に作った来歴をすらすらと話すミレイ。後宮を出るときに一応話を作っておいたのだが、詳しく話すのは今日が初めてだ。今まであまり聞かれなかった。冒険者の不文律と言うやつだ。団長は一応、クランの長として素行調査をしているのだろう。

 少し俯いて肩を震わせておけば、それ以上詳しく突っ込まれる事もなく、(いたわ)られる。


「それは辛い思いをしたね」


 沈痛な面持ちをしても、団長は美形だった。美形は何しても、美形。

 美形の沈痛顔はこちらの罪悪感をぐりぐり抉ってくる。


(騙してすんませんっ)


 心の中だけで謝りつつ、明るい笑顔を向けた。


「いえ、もうその辺は乗り越えたので大丈夫ですっ! 魔術も得意で、色々役立てると思いますっ。宜しくお願いしますっ!」


 その後も、ミレイは使える魔術の事や、今までの依頼の成果などをべらべらと話し続けたのだった。自分ばかり話して団長の事を聞くのを忘れていた事に気付いたのは翌日だった。美形相手にいつになく舞い上がっていたらしい。


(美形、危険)




▲▽▲▽▲▽


 クランの訓練時間に団長を始めとした幹部が参加するようになると、訓練の時間がピリッと引き締まったものになった。いままでも真剣に取り組んでいたし、ダラけていた訳ではないのだが、言い表せない空気感の違いがある。その空気感の一番の原因は副団長デクトかもしれない。


「次!・・・もっと鋭く切り込め!

 次!・・・相手の動きをよく見ろ!

 次! そんな逃げ腰でどうする! 打ってこい!」


 さっきから剣を得物にしている若手を集めて、訓練(しごき)をやっているのだ。順番に副団長デクトに斬り込んでいくが、誰もが副団長デクトの一太刀にねじ伏せられて、怒鳴られている。

 ミレイたち槍組はアクビルを指導者にして、いつもの5人で鍛練をしている。そこへ団長フィンがやって来た。団長は槍も使いこなせる様で、私たちに稽古をつけてくれると言う。

 皆が順番に団長と打ち合ったが、誰もが軽くいなされて、隙を突かれて、簡単に負かされてしまった。


(普段の得物ではないのにも関わらずこの戦闘力。すごすぎる!)


「ミレイは(すじ)が良いね。相手の攻撃を捌いた後、攻撃へ転じるときにもう少し滑らかになると良いね」

「はいっ、ありがとうございますっ」

「フマルは相手の動きをしっかり見るように。筋肉の動きや視線で、次の攻撃を予測するんだ」

「はい、頑張ります!」


 しかも、団長の指摘は的確だ。私たちの欠点を素早く見抜いて、指導してくれる。槍組の指導の後、さらに戦斧や弓の組の指導まで行っていた。


(美形で武術にも精通していて、恐らく貴族。なのに高貴な人間にありがちな高慢さや近寄りがたさは欠片もなく、非常に世話好きで懐の深い男。こんな完全無欠な人間っているんだなぁ。程度の差はあれど、皆が団長を慕っている筈だ。団長のこの人望が、クラン“蒼天の鷹”を団結させているのだなぁ。良いクランに出会えて良かった)


 ミレイはすっかり団長に心酔してしまった。事ある毎に、団長に話しかけ、教えを乞い、付きまといすぎて、クラバモスに(たしな)められてしまう程だった。団長もミレイの事を弟のように可愛がってくれている。「弟」と言うところにちょっと感じるものがなくはなかったが、ミレイは恋愛がしたいわけではないので、それはそれで良いのだ。

 

(団長に信頼される冒険者に、「ミレイが居れば安心だ」と言われるような冒険者になりたい! いや、なるぞ!)


決意も新たに、冬が明けるまでの期間、訓練に没頭するミレイだった。


毎日更新中

明日は因縁の討伐です

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