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本日も宜しくお願いします
今日も魔獣討伐です
先日のゴブリン討伐に参加した新人冒険者4人は全員、正式にクランの一員として活動を許された。それぞれ古参のパーティーに組み込まれて依頼を熟している。
本日ミレイは、ゴブリン討伐の時にも組んだ剣士のトルジムをリーダーとして、楯役のゲンタシン、弓術のエステル、魔術師のダルテパの5人パーティーでフォレストウルフの討伐に来ている。
クロピドの街から西へ約1時間、20匹ほどの群れが街道沿いに出没して商隊が襲われる被害が数件続いているそうだ。問題はフォレストウルフの群れに上位種が交じっていて、かなり狡猾に行動するらしく、商隊の護衛だけでは防ぎきれなかったり、追い払うだけで精一杯だったりという現状だそうだ。
時刻は昼前、一行はフォレストウルフがよく出没するとされる地点から街道を外れて森に入った。ミレイとエステルが『索敵』を発動しながら奥へと進んでいる。件のフォレストウルフは早朝と夕刻によく出没する様だ。恐らく、商隊が街を出発する時刻と到着する時刻を狙っての行動だろう。つまり、奴らは今の時間帯、巣穴にいる可能性が高い。商隊を襲っている実働部隊以外の群れの仲間を取り残さないために、巣穴ごと殲滅したい。
フォレストウルフは聴覚と嗅覚に優れている。皆、無言で、出来るだけ音を立てないように進んでおり、更に、ミレイが風の魔術で一行の臭いや僅かに立てる足音を後方に向けて流している。風の魔術はダルテパも使えるが、戦闘時のために、魔力を温存しているのだ。ミレイは魔力量が多いので、これくらいなら支障は出ない。
2時間ほど進んだ頃、『索敵』に反応があった。エステルも同じタイミングで気づいた様だ。2人で視線と指差しだけで会話し、リーダーであるトルジムにも伝える。風の魔術をダルテパに引き継いで、『隠密』の使えるミレイが1人で斥候に出る。
一行が待機している場所から400歩ほど進んだ先にフォレストウルフの反応がある。慎重に近づいて木々の陰から窺うと、木立が途切れてポッカリと空いた広場の様な場所が見えた。直径が30歩ほどの広さがある。広場の向こう側は崖が立ち塞がっていて、洞穴が開いている。洞穴の傍には、見張りだろう2匹のフォレストウルフがいる。洞穴の中を『索敵』でよく観察すると、フォレストウルフの気配がたくさん感知される。
(当たりだな)
そっとその場を離れて、一行が待機している場所へ戻ると、無言で地面に図を書き状況を示した。トルジムも同じく無言で素早く作戦を立てて、図に指示を書き込んでいく。皆が理解した事を確認して、作戦を開始した。
エステルの弓矢とミレイの風属性の中級魔術『飛斬』で見張りの2匹のフォレストウルフを倒す。仲間を呼ばれないように一撃でだ。同時にトルジムとゲンタシンが飛び出し、洞穴の入り口で警戒する。それぞれ楯と剣を構えて洞穴を睨むこと数秒。巣穴から追加のフォレストウルフが飛び出して来る様子はない。どうやら、奴らに気づかれずに済んだ様だ。残りの3人も洞穴の前に出てきて、倒したフォレストウルフをミレイの『収納』に取り込む。
次に、ダルテパとミレイが火系統の攻撃魔術を洞穴の中に向けて放つ。ダルテパは上級魔術『紅炎波』、ミレイは中級魔術『火炎弾』だ。ダルテパの『紅炎波』は高温の火炎が川が流れるが如く穴の中に注ぎ込まれ続けている。その火炎の流れは穴の太さ目一杯に広がって100歩ほども進む。ミレイの『火炎弾』は球体の火炎が50歩ほどの距離まで飛ぶ。これを何発も続けて放つ。入り口の近くにいたフォレストウルフは2人の魔術で直接焼かれて消し炭になり、魔術の届いていない場所にいたフォレストウルフも攻撃魔術により高温になった洞穴の中で蒸し焼きになって、あるいは空気が薄くなって窒息して死んでいく。
数分後、ダルテパの魔力量が残り少なくなった頃、攻撃を一時中断した。ミレイとエステルが『索敵』で窺う。奥から複数のフォレストウルフがこちらへ向かってくるのが感知される。
「フォレストウルフ10数匹、出てくる!」
ミレイの声に皆が散開する。
トルジムとゲンタシンが前衛、ミレイは少し下がり中衛の場所で『身体強化』を発動、エステルとダルテパは近くの木に登った。
「出現まであと5、4、3、2、出るよ!」
「グガァ~~~ア!!」
最初に飛び出したフォレストウルフはエステルの弓矢とミレイの風属性の中級魔術『飛斬』で倒れたが、フォレストウルフは怯まずに次々と飛び出してきて、上位種も含めて12匹が現れる。奴らはこちらを取り囲む様に素早く散開して、混戦になる。上位種は崖の高い位置に上がり、指令を出している様だ。
「ふんっ! はっ! ふっ!」
トルジムは長剣を軽々と扱い、たちまち3匹のフォレストウルフを屠る。その動きは演舞の様で、見るものを感動させるものがあるが、いまは見惚れる余裕のある者はいなかった。
「むんっ! はっ!」
ゲンタシンは楯を鈍器の様に当てて左側のフォレストウルフの頭をかち割り、剣を突き刺して右側のフォレストウルフを倒す。
「はあぁっ!」
ミレイは目の前のフォレストウルフに魔力を纏わせた槍を突き込む。フォレストウルフの頭部を破壊した槍を素早く引き抜く、と同時に背面飛びをして、後ろから襲いかかったフォレストウルフを避けつつ『飛斬』を飛ばす。空中に飛んだら通常は地面に降りるまで大きく動きを変えられない。そこを狙って別なフォレストウルフが、その高い跳躍力を使って飛びかかってくる。
「残念でしたっ!・・・ふんっ!」
ミレイは『障壁』で作った足場を蹴ってその攻撃を軽々避け、次の足場を支えにして槍を突き立て、フォレストウルフの命を削り取る。着地したミレイの周囲には3匹のフォレストウルフの死体が転がっていた。
「ガウッ!」
「グウルルルル・・・」
一瞬のうちに8匹の仲間が倒されたフォレストウルフ達は上位種の一声で一旦下がる。そして5歩ほどの距離を取って3人の周囲をぐるぐる回り始める。周囲を回りながら時々飛びかかって波状攻撃をするつもりらしいが、これは悪手だ。混戦で手を出せなかったエステルが弓矢を射かけて1匹が倒れる。ダルテパも残り少ない魔力でも使える火属性の初級魔術『火弾』でフォレストウルフを撹乱する。ミレイも『飛斬』で1匹殺った。
「ガルルルルルッッ!」
残りのフォレストウルフは2匹だ。上位種が煩わしそうに鳴いて、自らミレイに飛びかかってきた。ミレイを狙ったのは一番弱そうに見えるからだろう。上位種は通常種の3倍はあろうかと言う巨体と、それに見合わぬ素早い動きで襲ってきた。
「はぁっ!」
ミレイはギリギリで左側へ避けて心臓の辺りに槍を突き込むが、魔力を纏わせているにも関わらず、ミレイの槍は浅い傷だけを付けて逸らされる。上位種だからか魔力耐性が高い様だ。着地したその足を起点に再度ミレイへ飛びかかるフォレストウルフの上位種。
「うわぁっ!」
「ふんっ!」
ミレイが慌てて後退したその場所に飛び込んだゲンタシンがその左手の楯でフォレストウルフの上位種を止める。
肩を入れて、全身で受け止めたゲンタシンであったが、フォレストウルフの勢いに押されて、半歩ほど地面を滑る様に後退させられる。だがフォレストウルフの上位種も無傷では無かった。一瞬、脳震盪を起こして動きを止めたのだ。その瞬間、トルジムの長剣がその首元に振るわれた。
「うりゃぁー!」
トルジムの渾身の一撃で振るわれた長剣であったが、フォレストウルフの首に深々と食い込んで、しかし切り落とすことはできずに半ばで止まる。
「はあぁっ!」
そこへゲンタシンが下から剣を振り上げて、喉元から切り裂き、二振りの剣でもって漸くその首は切り落とされたのだった。首から血を吹き出しながら倒れるフォレストウルフの上位種。地響きがした。
ミレイ達がフォレストウルフの上位種と戦っていた頃、残りの1匹はエステルとダルテパのいる木に向かって跳躍していた。三段跳びの要領で木を駆け上がり、2人に襲いかかる。が、冷静に射ったエステルの矢を左目に受けて、ダルテパの短剣に右目を刺され、それらが脳に達し、フォレストウルフは絶命した。
洞穴内の温度が下がるまで休憩してから、外に見張りを2人残して洞穴に入り探索する。しばらくは魔石も残らない消し炭ばかりであったが、その奥には無傷ながら死んでいるフォレストウルフの成体や幼体が何匹も倒れていた。それらをミレイの『収納』に回収しながら進むと、左右に蛇行しながら続いていた洞穴が最後に大きく左へ回り込んで、その先に広い空間があった。生き残って襲いかかった集団はここに居たのだろう。生きているものがいない事を確認して、洞穴を出て、ミレイの土魔術で洞穴の入り口を崩して塞いだ。
遺骸を回収できたフォレストウルフの数は36匹にも及んだ。5人で手分けしてフォレストウルフの解体を済ませてから帰路に就いた。
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明日は長期で不在だった幹部が帰還します




