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本日も宜しくお願いします

新人の初々しさとは・・・

 今日は、クラン“蒼天の鷹”に入団して初めての依頼だ。入団して半年が経過して、やっと参加のお許しが出たのだ。

 今回の依頼は、ゴブリン村の掃討だ。場所はクロピドから馬で3日程南にある農村の近くだ。農村の女性が攫われる被害が出ている。村の男衆が居なくなった女性たちを探していて、森の中でゴブリン村を見つけたのだ。

 今回、我々の編成はクラバモスをリーダーとした9人パーティーだ。古参の冒険者が5人と初参加の新人が4人いる。新人は槍を使うフマル、長剣のバナザ、戦斧のアラバ、そしてミレイだ。新人の初陣としてゴブリン討伐は丁度良かったのだろう。これがクランの一員として活動を許可されるかどうかの試験でもある。


 昨日、(くだん)の農村に到着した一行は、村の広場で夜営した。農村に宿はなかったからだ。

 クラバモスは村長に詳しい話を聞くために村長宅に泊まった。翌朝、村長の家から出てきたクラバモスの顔の肌艶が妙に良かった気がするが、見なかった事にした。

 早朝、案内の村人の先導で森に入り、程なくゴブリン村を見渡せる大きな岩の上にたどり着いた。

 ゴブリン村は出来たばかりなのか、規模はまだ小さく、簡素な造りの柵で囲んだ中に、小屋が6つ建っている。屋外に10匹ほどゴブリンが見える。ミレイが『索敵』で探ると、ゴブリンは5つの小屋に分散しており、外のも含めて全部で24匹いる様だ。残りの1つの小屋には人と思われる存在が3人感知された。

 ミレイが『索敵』結果をクラバモスに伝えると、彼は素早く作戦を立てて指示を出す。各自が自分の役割を理解したのを確認したクラバモスは早々に作戦開始の号令を出した。


 クラバモス以外の古参の冒険者1人と新人の冒険者1人が組んで4組に分かれている。弓矢と魔術による遠距離攻撃を行い、それを合図に突入だ。2組が真正面から突入、1組は柵の外側を迂回して裏に回る。ミレイの組は、中に突入する2組から遅れて侵入し、人が囚われていると思われる小屋へ救出に向かう。クラバモスと案内の村人は岩のところで待機だ。

 ミレイたちが問題の小屋に着くと、こちらの動きに気づいたゴブリンが3匹駆け寄ってきた。『身体強化』はすでに掛けてある。右端のゴブリンに風属性の中級魔術『飛斬』を飛ばすと同時に真正面のゴブリンに向かって踏み込む。ゴブリンが持つ粗末な棍棒を弾き飛ばして、後ろから襲ってきた残りのゴブリンの鳩尾に石突きを突き込む。後ろのゴブリンが吹っ飛んで行くのを、耳と『索敵』で確認しながら、棍棒を弾かれた衝撃から立ち直った正面のゴブリンの首に槍の刀身を突き込む。

 周囲を確認すると、正面のゴブリンは首から大量の血液を噴出させながら、こと切れており、最初の『飛斬』を飛ばしておいたゴブリンは首と胴が分かれて倒れている。石突きで飛ばしたゴブリンは向こうの方で小屋の壁に叩きつけられて絶命している様だ。

 相方の古参の冒険者トルジムは既に小屋の中を(あらた)めており、準備していた大判の布で身を包んだ女性たちを連れて出てきた。1人は自分では歩けないらしくトルジムが抱き上げている。残りの2人も、歩みは弱々しく、顔は蒼白だ。1人はブツブツと何事か独り言を呟いている。彼女たちはミレイが倒したゴブリンどもの死体が目に入って「ひやぁ!」と悲鳴を上げた。女性たちの気持ちも分からないでもないが、今はまだ、彼女たちの心を(いたわ)ってあげられる状況ではない。

 トルジムと2人で女性3人を急かしながら、脱出するべく移動を開始する。出来るだけ急ぎたいが、女性たちの歩みは遅い。そうすると女性たちを奪われまいと新たなゴブリンが2匹追ってきた。ミレイが殿となって追っ手のゴブリンを相手する。それほど時間をかけずに倒したところで、残りのゴブリンたちも討伐組の働きで全滅したらしい。ゴブリン村の入り口からクラバモスと案内の村人が歩いて来るのが見えた。ほっとした女性たちはその場で踞って、泣き崩れたのだった。


 彼女たちを休ませておいて、後処理を行う。ゴブリンたちの死体から魔石を抜き取り、討伐証明である右耳を切り取って、後は村の中央に掘った穴の中で燃やす。村の小屋や柵は完全に破壊して、廃材はゴブリンを燃やした穴で同じように処分した。

 作業を終えた一行は農村に戻った。囚われていた3人の女性たちは既にゴブリンを出産した事のある者と、今まさにお腹にいる者がいた。全員が心を病んでいる。彼女たちの手当ては農村内で行われるらしいが、その後、どの様に対応するのかは分からない。聞こうとも思わない。前世の頃であれば、彼女たちが生かされることはなかっただろう。この時代はどうだろう?何れにしても厳しい現実と向き合っていかなければいけないのは彼女達で、それを代わってあげる事はできない。

 我々は村長に依頼完了の書類を貰って、早々に帰路に就いた。往路では、どこかお遊び気分の浮わついた雰囲気を持っていたミレイ以外の新人たちだったが、復路では、古参たちに戦闘の評価を受けたり、指導されたり、真剣な様子であった。ミレイ以外の新人たちは初依頼達成の感動よりも、思う様に動けなかった自分の不甲斐なさに打ちひしがれていたのだ。

 ミレイはクラバモスに手際の良さを褒められたが、こちらは、そんな評価は当然とばかりに素の態度であった。「可愛くねぇ新人だぁ!」とはクラバモスとトルジムの感想だ。そんな風に、来たときと同じく3日かけてクロピドに戻った。


 前世で中堅の冒険者をやっていた経験があるので、新人の初々しさが無いのは自覚している。自分でも「可愛げがない」とは思うけど、まぁ仕方がないわな。




毎日更新中

明日も討伐に参加します

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