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本日も宜しくお願いします

前世を思い出します

 長い夢を見ていた。


 夢の中で私はミレイという名の冒険者だった。焦げ茶色の髪で大柄、美人とは言い難い容姿だった。


 農家の生まれだった。両親と父方の祖父母、兄弟合わせて10人家族だった。6人兄妹の2番目で、上には兄がいた。4才頃から農作業や家事の手伝いや、当時赤子だった妹の面倒を見ていた。2年後に弟が、さらに4年後に双子の弟と妹が生まれた。

 10才頃からは、家事手伝いや下の子達の面倒は妹に任せて、兄と一緒に農作業を中心に手伝っていた。農作業は力仕事だ。そのせいか女にしては体が大きく、力も強くなった。


 転機が訪れたのは20才になって1月ほど経った初冬の頃だ。妹に結婚の話が持ち上がった。

 私と違って妹は細っそり体型、顔は母似で田舎娘にしては器量も悪くなかったため、村の独身男衆からの人気が高かった。妹を巡って熾烈な争いもあったらしい。その競争を制して妹の心を射止めたのは村の中心的な家の息子だった。

 妹の方でも満更ではなかった様で、婚約は受け入れた。お相手は、妹が16才の成人を迎えたら早々に結婚したいと希望していた。しかし妹は「お姉ちゃんよりも先に嫁に行くことはできない」と言い張り、すぐの結婚を頑として受け入れなかったのだ。


 私は妹と違って父親似の厳つい顔立ち、男と肩を並べても負けない位に体格がよく力も強かったので、付いたあだ名がオーガ女。しかも昔から、妹や弟達が苛められたら相手の所へ飛んでいってこてんぱんにやり返してきた。そのせいで同年代からはひどく恐れられていた。

 妹の願いを叶えるために「ミレイに嫁ぎ先を」、と村の世話役達で話し合いが持たれて、何人か候補が出されたが、誰も首を縦に振らなかった様だ。

 狂暴なオーガ女を嫁にもらおうなんて勇者はいなかった。私だって肝っ玉の小さい奴の嫁になんぞ行きたくない。


 私は村を出ていく決意を密かに固めた。実は小さい頃から冒険者に憧れていたのだ。


 村の東側に広がる森には魔獣が生息しており、あまり増えすぎると村が襲われる危険が高くなる。なので年に1回、収穫の終わった秋に冒険者を数人雇って、村の男衆総出で7日間かけて魔獣の間引き討伐を行う。討伐隊は男衆が中心だが、実は私も2年前の18才から参加している。

 1年目の初日こそオタオタしたが、周りの大人たちを真似て動いているうちに直ぐに慣れて、棍棒でぶん殴れば簡単に死ぬような、ランクの低い小物なら問題なく討伐できるようになった。

 今年はさらに効率よく動けたと思う。もちろん、私が配置されたのは森の外縁であり、比較的危険度が低い場所だ。戦闘力が高い者ほど森の奥まで入る。依頼を受けて来てくれる冒険者達は最奥だ。奥地での戦いを避けて小物たちは森の外縁に逃げてくる。それらを村人達で仕留めていくのだ。


 倒した魔獣は、冒険者達の討伐した物は冒険者達の物になり、村人達で討伐したものは村の物になる。

 森の外に運び出された魔獣を解体するのは、村で待っていた女衆やお年寄りと子供達だ。大人が解体の中心を担い、年寄りや子供達は大きな肉塊を手頃なサイズに切り分けたり、肉の鮮度を長引かせる効果のある葉っぱに包んだり、道具を洗ったり研いだり、それぞれが出来ることを手伝う。村総出の作業だ。

 7日間の間引き討伐が終わったら、村を挙げての焼き肉祭りだ!討伐前に収穫した野菜なども一緒に提供される。今年の恵みに感謝し、来年の豊作を祈願する。冒険者達も参加して、明け方近くまでドンチャン騒ぎだ。


 狩った魔獣は、祭りで食べきれないほどの量があるので、残りは各家に均等に分配される。皮や骨、歯、角、魔石など素材として売れる物は行商人に売って、衣類、塩や農機具、武器や防具など、村で必要な物品を購入して、これらも村人に配られる。

 

 冒険者の中にはたまに女性もいる。初めて女性冒険者を見たとき、衝撃を受けたものだ。当時の私は12才だった。祭りの間じゅう女性冒険者にくっ付いて回って、冒険談をせがんだ。彼女は色々な事を教えてくれた。様々なランクの魔獣の事、女性が冒険者として活動するのは非常に難しい事、しかし魔力があれば攻撃魔術や身体強化の魔術を身につけることで男性と同じように戦える事、冒険者に登録できるのは16才からで、大きな街に行けばギルドの窓口があること、冒険者にはランクがあり、最高位にまでなると貴族並みの待遇を受けられる事などだ。

 その後も2回くらい討伐依頼で女性冒険者が村に来たことがあって、話を強請(ねだ)った。その時はまだ子供だったし、実際に自分が冒険者になるなんて思わなくて、どこか違う世界の話のように聞いていたものだ。


 そして今、妹の結婚の事があって、自分の将来について考えた時に、誰かに嫁ぐ事なんて想像もできなかった。そして小さい頃からの憧れである冒険者になる未来を想像したとき、これしかない! と思えたのだ。村から私が消えれば、妹も素直に結婚するだろう。

 

 村から一番近い街まで歩いて10日ほどかかると聞いた。迷ったり雨で足止めを食らう可能性も考えて、倍の20日間は覚悟しておいたほうが良いだろう。今から出たら、ギリギリ雪が降り出す前に辿り着けるかも知れないが、冬は冒険者の仕事が減ると聞いた。路金も必要だ。出発するのは早春が良いだろう。それまでに十分な準備をすべく、頭の中で何が必要か、どうやって準備するかを計画するのだった。

 

 私は冒険者になるための訓練を兼ねて、森で狩りをすることにした。冬支度が終わったら、自分の時間もそれなりに取れる。防寒対策をして頻繁に森に入った。

 森は秋の間引き後なので、たいした獲物はいないが、一人で森に入る分には逆に好都合だ。安全を優先してあまり欲張らず、コツコツとやっていく。狙うは、雪が降っても比較的活動的なホーンラビットやナインテールフォックスなど低ランクの魔獣が殆どだ。

 獲物は毛皮を丁寧に剥がして鞣す。肉は薄く細く切り分けて、薫製を作った。角や魔石は小さいものしか手に入らないが、無いよりは良いだろう。また、雪の下にしか生えない薬草も探して採取しておく。希少な物なので高値が付く。

 そうやって採取したものを、旅で自分で使うものと売るものに分けて、旅装と食料、薬、路金などを準備した。


 いよいよ出発するという前夜になって家族に自分の決意を話した。当然、家族は反対した。特に妹は泣きながら、「行かないで」と訴えてきた。離ればなれになる寂しさや、危険な職業に就く姉を心配する気持ちと、そして私を犠牲にするようで罪悪感があるのだろう。

 しかし、私の決意は変わらなかった。自己犠牲ではなく、本当に憧れていたのだと、何度も話したが、どこまで伝わったか。家族には出発はもう少し暖かくなったらって言っておいたが、翌日の早朝まだ暗いうちに家を出た。騙して申し訳ないが、そうでもしないと力尽くで止められそうだったからだ。




▲▽▲▽▲▽


 そうやって村を飛び出し、最初の街で冒険者登録を行った。最初のランクは10級からだ。そして依頼を(こな)して路金を稼ぎながら王都に向けて移動した。

 最初は薬草採取や、他の冒険者の荷物持ちなど簡単な仕事を(こな)したり、低ランクの魔獣を狩って素材を売ったりしていた。

 ある時、荷物持ちで知り合った世話好きな先輩冒険者に槍術を習う事ができて、もう少し上のランクの討伐依頼も徐々に請けられるようになった。そして王都手前の街まで来る頃にはランクは8級まで上がっていた。 

 

 ここで運命的な出会いがあった。魔眼持ちの女性冒険者だった。名をメルファランと言った。彼女がポイズンスパイダーにやられて動けなくなった所に出くわし助けたのだ。(後で聞いたのだが、臨時で組んだ知り合いの冒険者に嵌められて、そいつらを追っ払うので精一杯で、そのまま動けなくなってしまっていたそうだ)メルファランは感謝して、私に魔力があることを教えてくれた。


 魔力は基本的に庶民には少なく、生活が便利になる程度の生活魔術が使える者が2~3割ほどいる位で、ほとんどの人は全く何もできない。片や貴族は潤沢な魔力を持っており、魔術はその一族独自の術を親から習うか、魔術学校や家庭教師から学ぶのが一般的だ。

 なぜ魔力量にこのような違いがあるのか。それは貴族がその財力を使って、魔力の多いものを一族に取り込んできた歴史があるからだ。魔力の多いもの同士が婚姻し、魔力の少ないもの同士が婚姻する。

 しかし例外がいて、庶民でもそこそこ多い魔力(貴族よりは劣るが)を持つものがいる。それは貴族の庶子などで魔力の弱いものが生まれると市井に下り。そして何世代か経た頃に先祖帰りで魔力持ちが生まれるのである。

 私も大方そのような理由で魔力が多かったのだろう。多いと言っても庶民にしては、という程度であるが。


 そしてメルファランは魔術の手解きまでしてくれたのだった。残念ながら攻撃魔術は適性が無かったらしく覚えられなかったが、身体強化の魔術と簡単な生活魔術には適性があった。おかげで冒険者としての活動の幅が広がり、ぐんぐんと頭角を現した。


 そのままメルファランと出会った街を拠点として活動するようになった。メルファランや他に数人、信頼できる仲間も得て、パーティーを組み精力的に依頼をこなす日々。充実していた。

 しかし、そのうち能力の頭打ちに悩むようになる。6級になってからランクが上がらなくなったのだ。もっと多彩な攻撃魔術が使えれば、更に上を目指せた筈なのに。せめて魔力量がもっとあれば...。


 上のランクを目指すのは、もちろん冒険者としては当然なのだが、もうひとつ大きな理由があった。出身の村の秋の魔獣の間引き討伐。あれに呼ばれる冒険者のランクが5級以上なのだ。5級に上がったら、あの討伐依頼を受注して村に帰り、立派になった自分を家族に見てもらう。それを目標に頑張ってきたのだ。あと一歩なのだ。


 そんなあの日、オーガの村を殲滅する討伐依頼に参加した。まだ20匹ほどの小さな村だという情報だった。オーガは凶暴で残忍な性格であり、人を襲って食べるから増えると厄介だ。増大する前に叩いておくのが目的だ。いくつかのパーティーの合同で赴いた討伐。こちらは40人ほどいたし楽勝の筈だった。しかし前情報には誤りがあった。オーガが80匹以上にも膨れ上がっているなんて。さらにはトロールがいるなんて、誰が予想できただろうか。


 たちまち混戦となり、連携の取れないまま苦しい戦いを強いられた。私は必死に槍をふるい戦った。身体強化を纏った時の攻撃力はかなりのレベルであり、頑丈なオーガを1匹、また1匹と屠っていくが、悲しいかな、私の魔力量は長時間の戦闘に耐える物ではなかった。私の魔力が切れてきて動きが鈍ってきた頃、他の冒険者の状況はもっと悲惨だった。殺られたり逃走してしまったりで冒険者の人数は半数以下にまで減っていた。相手のオーガも半分程に減っていたが、トロールは健在だった。絶望的な空気が広がり疲れも相まって、注意力が低下していたのだと思う。相手をしていたオーガの攻撃を後ろへ避けた時、後頭部に打撃を食ったのだ。崩れ落ちながら振り返り最期に見たのは、棍棒を振り下ろすトロールの残忍な顔だった。


(ああ、魔力がもっとあれば、こんなところで死なずに済んだのかな?)


「ミレーイ!」


 遠くでメルファランの叫び声が聞こえた気がした。


 ミレイ、24才だった。



毎日更新中

明日、前世の知識を使って頑張ります

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