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本日も宜しくお願いします

死体を利用する表現が出てくるので、苦手な方は読まないようお願いします

 待ちに待った成人、16才だ。

 準備は整った。

 後宮を出ていく準備だ。


 槍術を含めた武術の鍛練と魔術の訓練はここでやれることは十分やった。

 倉庫の物品や廃棄ドレスから切り出した布を、盗品だとバレないようにチマチマ売って、貯めたお金で装備を調えた。

 動きやすい木綿の服に、防水性の高いリザードマンの革のブーツとグローブ。防具はアウルベアーの革鎧に部分的に金属で補強された、比較的軽くて動きをできるだけ制限しない物だ。胴体、肩、前腕、股、脛にそれぞれ装着する。その上にフード付きのローブ(これも防水性の高いリザードマンの革)を纏う。


 武器はもちろん槍だ。刀身はリリカの顔の倍の長さがあり、柄も入れた全体の長さはリリカの身長の1.5倍程だ。身体強化にものを言わせて振り回す。そして魔力との馴染みが良くて価格を抑えたものを選んだ。つまり、柄が鋼、刀身がミスリルだ。全体がミスリル製のが欲しかったが、高すぎて流石に手が出なかった。予備に鉄の槍も一本準備した。こちらは身長よりもやや短目で、狭い場所でも扱える。そして投擲用の鉄の棒とナイフを沢山。素材剥ぎ取り用の大型のナイフ。


 他に、夜営道具や細々とした日用品。図書館から借りた(頂戴した)、書籍を数冊(植物・薬草図鑑、魔獣図鑑、魔術書)、地図。『収納』が使える事を知られないように、背負い袋も用意した。着替えなど、軽いものを入れておく。


 それから食料。『収納』内は時間が経過しないので、パンと調理済みの食事を入れておく。1ヶ月位は食いつなげる量を用意した。


 髪の毛はバッサリ切った。リリカは美人と称しても良い顔を持っている。ミレイの時でさえ、強姦されそうになったことが片手で足りない位はあったのだ。リリカは確実に狙われる。せめて、男の子であれば特殊な趣味を持った相手でない限り、狙われる機会は減るだろう。もっと成長したら女性だとバレるだろうが、その頃には冒険者としての実力や信頼できる仲間も得ているだろう。新人の間だけ遣り過ごせれば良いのだ。


 一番大事な市民証。街の出入りの時に提示を求められる。これを手に入れるのは大変だった。

 王都パミドロネートのスラム街で行われている救済事業がある。王太子殿下の発案で始まったものだ。スラムの住民を奉仕活動に従事させて、20回参加すれば、市民証が貰えると言うものだ。つまり、真面目に働く意思はあるが、市民証を持っていないためにちゃんとした職業に就けないものを掬い上げる事業だ。奉仕活動の中身は元々国が業者にお金を払って行っていた、下水道の掃除や、火事の後の瓦礫の撤去、スラムの掃除、救護院(お金のない人でもかかれる治療施設)の手伝い、孤児院の手伝いなどで、これらをスラムの住民に格安の賃金で就かせる事で国庫の負担を軽減しつつ、スラムの縮小を図ると言う訳だ。

 賃金は1回につきパン一個分だ。最初、「どれだけケチなんだよ!」って思ったんだけど、これだけ安いのには理由があった。この奉仕活動に参加するのは子供の割合が多い。スラムの子供たちはお金を持っていると、スラムの大人に奪われる。場合によっては殺されてお金を取り上げられる。だから、賃金を貰ったその足で、パンを買ってスラムに戻る前に食べてしまう。これがスラムの子供たちにとって一番安全なのだ。

 これにリリカもコツコツ参加して、ついに市民証を手にいれたのだ(殿下、ありがとう!)。もちろん偽名だ。名はミレイと記載されている。後宮からスラムへは遠いので、夜中に出発する必要がある。そして1日、奉仕活動をして後宮に帰ったら、夜中だ。月に一度程度参加して、2年近くかかった。


 そして、スラムで11才くらいの黒髪の女の子の死体を見つけておいた。私の身代わりだ。こんなに条件の整った死体は見つけるのに1年以上かかった。『収納』に入れておいたその死体を後宮を出立する日、私の服を着せて、後宮の家のベッドに寝かせておいた。食事を与えられず、餓死した(てい)だ。発見される頃には白骨化して顔は分からなくなっているだろう。彼女には申し訳ないが、祖国に迷惑をかける訳にはいかない。彼女にしてもスラムの路地裏で朽ち果てるより高級ベッドの上で寝ていた方が良い・・・かも知れない、気がしないでもない。運が良ければ弔って貰えるかも知れないし。

 



▲▽▲▽▲▽


 パミドロネートを発って、クロピドの街まで来た。移動には定期運行の長距離馬車を利用した。朝一番の馬車に乗って昼過ぎに着いたが、入街審査に長時間かかったので、いまは夕方だ。審査自体は問題なかった(ホント、王太子殿下様々だわ。市民証をありがとう!)。審査待ちの長蛇の列に並んだのだ。ようやくクロピドに入って、取り敢えず安宿に部屋を借りて一息ついた。

 この街で冒険者になろうと考えている。王都やクロピドの街には黒髪の人は、多くはないが一定数見掛けるので、リリカの髪色もそれほど目立たない。万が一、後宮にリリカが居ないと気がついて(死体がリリカではないとバレて)捜索されたとしても、直ぐに見つかると言うこともないだろう。ましてや一国の姫が冒険者になってるなんて誰も考えないと思う。


 クロピドを拠点にしているクランの情報は、王都でも少し手に入れていたが、ここでも改めて調べて、評判の良さそうな所に入団するつもりだ。今のところ候補は3つある。

 老舗の大きなクラン“暁の剣”。長く存続していると言うことは実績もあり、安定していると言うことだろう。

 設立して6年ほどの、新しいが急成長中のクラン“蒼天の鷹”。急成長していると言うことは、変に守りに入ったり、古株がでかい顔をして(うるさ)いとか無さそう。

 少数精鋭のクラン“焔と瑞風”。2パーティー分の人数しか居ない様だ。人数が少ないのは、入団条件が厳しいのか、冒険者が直ぐに辞めてしまうからなのか。火属性と風属性の人が立ち上げたのかな?





 ▲▽▲▽▲▽


 翌日、朝食を食べた後、ギルドに向かう。宿で聞いたら、クロピドにギルドは2つあり、1つは街の中心部のやや東寄りにあって、主に貴族からの依頼を受けつけているギルド。もう1つは西門近くにあって、冒険者を相手にするギルド。冒険者の管理、クランとの折衝などの業務をやっているそうだ。 

 王都から来た馬車の停車場が北門近くだっため、泊まった宿は北門近くにある。


「西門まで遠いな。まぁ、街を探索しながらぼちぼち行きますかね」


 クロピドの街は、東側に領主の館があり、それを取り囲む様に貴族街が広がっている。

北側は北門からクロピドの中心部にかけて商業街が広がっている。西門付近は工業地帯で、鍜治屋、皮革加工業、縫製業などが(ひし)めいている。南側は平民街だそうだ。ただし、明確に分かれているわけではない。北側に居住している者もいるし、南側で服屋や食堂を営んでいる者もいる。西側もしかりだ。


 そんな街並みを眺めながら、店を覗きながら、のんびり歩いて、昼前にギルドに到着した。ギルドは石造りの重厚な建物で、窓は小さく、扉は分厚い鉄板でできており、開け放たれている。出入りする人はそれなりにあり、建物内の喧騒が外まで聞こえてきている。石の階段を数段登って建物内に入ると、正面奥に受付カウンターがあり、左手の方へ部屋が広がっており、そちらは酒場になっている様だ。喧騒は主に酒場からの物の様で、カウンターには数名の冒険者がいるのみだ。

 手の空いている受付の職員がいたので、そのちょっと優男風の男に話しかける。


「あの、冒険者に成りたいのですが、登録をお願いします」


 やつはちょっと面倒くさそうな顔をして茶色い髪をかき上げながら、書類を出してきた。


「字は書ける? じゃあ、これに記入して。身分証もってる? あるなら出して」


 書類には、名前、年齢、性別、出身、現在の住まい、得物、魔力の有無、特技などの欄があった。

 ミレイ、16才、女、パミドロネート、宿未定、槍、あり、家事一般と記入して、市民証と合わせて提出した。


「ふーん、わざわざパミドロネートからこっちに来たんだ。何であっちで働かないの?」

「魔獣の討伐依頼は王都には少ないから」

「魔獣の討伐したいの?危ないよ?危険なんだよ?女の子にはお勧めできないなぁ」

 良いやつじゃん。それとも、女子だって気づいたからか?


「うん、大丈夫。魔力あるし」

「なるほどね。でも、理想と現実は違うよ。後悔すると思うなぁ」

「冒険者登録、受け付けてくれるの?くれないの?もし無理なら、他の街に行く」

「いやいや、無理ってことはないんだよ。ないんだけど、ほら、冒険者が死んだり怪我したりしないように気を配るのも俺らの仕事だからさ」

「・・・・・・」


 無言で申請書類と市民証を取り返して、他の職員の前に移動する。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待って。先輩として助言しただけじゃん」


 優男が慌てて追ってきて、もう一度書類と市民証を私の手から奪う。


「はぁー、分かりましたよ。書類を受理します。手続きの間、あそこのベンチで座って待ってて」


 そう言って、向かって右側の壁際に並んでいる木のベンチを指差す。


「ありがと。よろしく」


 にっこり笑って言えば、もう一度ため息をつかれた。

 ベンチに座って、手続きを待つ。


(心配はありがたいのだけど、今の私にはありがた迷惑でしかない。

それでも、ちょっと強引だったかな。後で謝っておこう)


 優男はクレマスと名乗った。冒険者証を渡しながら、ギルドの規約やクランについて説明をしてくれた。

 クレマスのお勧めのクランは“蒼天の鷹”だそうだ。新人への面倒見が一番良いし、普段から無茶無謀を冒さない、堅実に依頼を(こな)すクランなんだそうだ。

 依頼はクランに出されるが、狩った魔獣の素材の買い取りは冒険者個人からも受け付けてくれるそうだ。


 クロピドから西へ伸びる街道を行くと、次の街まで徒歩で10日ほどかかるが、途中には小さな村が点在しているそうだ。これらの村を結ぶ街道は森に沿って、あるいは森を貫いて続いている。森は“西の森”と呼ばれている。その西の森に魔獣が出るそうだ。森の浅いところに出る魔獣のランクはそれほど高くない様だ。暫くは一人で魔獣を狩って素材を売って生活しようと思う。クラン選びは大切なので慌てたくない。


毎日更新中

暫くソロ冒険者活動


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