幕間 王太子の策略
私の策略は順調に進んでいる。
次男のフィトナジオンは成人と共に、予定通り王位継承権を放棄して市井に下り、冒険者になった。その際、軍の中・下級兵士から信頼できる者3人を連れていった。その後、侵略戦争が嫌で自ら軍を離れた者、上に意見を訴えたせいで追放された者など、元軍人を6人ほど仲間に引き入れ、2年後にクランを設立した。クランは順調に成長している様だ。これらの人員はフィトナジオンが王家の任務に復帰する際、彼の直属の部隊となるだろう。
またクランの依頼で地方や辺境に赴いた際に、協力を得られそうな辺境貴族と接触を図ってくれている。私の乳兄弟のクロルドとも無事に連絡が付いて、彼はクランの経理や雑務、折衝などの事務方として入ってくれたそうだ。
長女のフェナミンは護国派の重鎮の家の嫡子に降嫁した。この家が将来の我々の強力な後ろ楯と成ってくれるだろう。
三男のアルギニンは今年成人を迎える。まずは軍士官の補佐官の任に就いた。数年ここで働かせたあとは、今度は宰相の補佐官として経験を積ませる予定だ。
三女のハイドララは辺境貴族に降嫁が決まった。彼女には辺境貴族の掌握の任務を与えた。もしそれが無理でも、情報を流してくれるだけでも良い。
次に我が妃である、カオリンだが、王派の重鎮の娘だ。彼女は気位が高く、外見を磨くことにしか興味がない。王太子妃としての魅力は感じない。だが、王派の内部情報をべらべらと教えてくれるから、そう言う意味では重宝してきた。最初は『魅了』を発動して懐柔したが、長年接してきたことで私への好意が心に刷り込まれたのか、今では私の信奉者だ。私が甘く誘えば、喜んで実家も裏切るだろう。これまで、閨でも慎重に子が出来ないようにしてきたが、もう大丈夫だろうと子種を与えた。
翌年、王子が生まれた。正直、自分の子にこんなにも愛情を感じるとは思っていなかった。目に入れても痛くないとはこの事だ。何に代えてもこの子を守りたい。カオリンがまだ実家の影響を受けている段階で子ができていたら危なかったと思う。本気で王派の傀儡に成り下がってしまっていたかも知れない。
そして側室達だが、実は、全部で何人いるのか分かっていない。20人くらいまでは確認していたが、その後は面倒になって放置している。父王や母が、貴族たちに請われるままに際限なく受け入れているのだから、付き合い切れない。
勿論全ての側室を相手になどしない。どの側室を寵愛の対象にするかは、母への献金額で決まる様だ。上位の9人が寵愛の対象になっている。そのうち、上位の6人まではほぼ変わらないが、その下の3人は時々入れ替わる。献金競争をさせているのだろう。反吐が出そうだ。彼女らの実家は大変だろうな。
その日どの側室と閨を共にするかは、母が決めている。だいたい3日毎に母の使いが来て、後宮の今夜の相手の屋敷へと案内される。今は周囲を油断させるために、愚息として従順に受け入れているが、望んでもない女を抱くのは正直、辟易している。
カオリンに子ができてから、上位の側室2人、シリマリンとミルリノリンにも子種を与えた。利用価値のある家の出で、かつ上手く懐柔できたからだ。彼女らも懐妊した様だ。無事に生まれてくれると良い。できれば姫が欲しい。2人の子がもし王子だったら、カオリンにもうひと頑張りしてもらおうか?
貴族達の状況は、護国派はフィトナジオンとフェナミンが着実に纏めてくれている。私は王派である軍部の上層を後ろ楯に付けている。王派も一枚岩ではない。私が王位継承した後、私に忠誠を誓ってくれそうな者をじわじわと増やしてきた。まだ私を傀儡にできると見くびっている者には穏便に退場していただく為に、彼らの弱味となる情報の収集を怠らず続けている。王派に取り込まれていない軍部の中・下層からは将来、出世させるべき人材を見極めている。
今年ついに、父王から遠征の命令が出た。辺境の小競り合いの鎮圧だ。まずはお手並み拝見と言うことだろう。そろそろ愚鈍な王太子から脱却する準備を始める時期かもしれない。この遠征に成功して、内外に力を見せつけよう。
大丈夫だ、私はやれる。仲間や国民の命が私の肩に掛かっているのだ。これからもこの道を突き進むつもりだ。




