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本日も宜しくお願いします
友達って良いね♪
リリカが後宮に入って、1年が経った。春の誕生日に11才になった。
王太子殿下の誕生祝賀会から半年、色々な事が変化した。
まず、王太子妃殿下のお茶会に呼ばれなくなった。
これはホントよかった。無駄な時間を過ごさなくて良いし、ドレスの準備も要らない、嫌がらせを警戒する必要もない。
次に、食事が出されなくなった。
始めは、マルボが時々サボる程度だった。マルボに抗議すると「私は仕事で色々と忙しいのです」とキレぎみに返された。侍女頭にも訴えたが、改善しない。厨房に取りに行ったら、「ご側室の人数分の食事は既に準備して侍女が持っていった、余分な食事はない」と言う。
仕方がないのでマルボが来ない日は、『隠密』を使って厨房に侵入し、食材を調達して自分で食事を準備するようにした。そのうちにマルボが来る回数が減っていって、1ヶ月ほど前からは全く来なくなった。
後宮の厨房からばかり調達すると流石にばれて対策されそうだ。なので、朝食は後宮の家で調達した物を食べて、昼食と夕食は王城の方で摂るようにしている。王城の下働きたちのための食堂があるのだ。お仕着せを着ていれば、誰かに見咎められることもなく食事ができる。下働きは人数が多いし、入れ替わりもそれなりにあるので、初めて見る人がいても誰も疑問に思わないのだ。そして最近は常連なので、それなりに顔を覚えられている。ここの食堂は質はともかく、それなりに美味しいし、何より温かい食事がたっぷり食べられる。
最近は後宮の家には寝に帰るだけで、殆どの時間を王城で過ごしている。午前中は兵士の訓練場で武術の鍛練をするか、魔術訓練場で魔術の訓練をしている。
昼食を摂った後は、下働きに交じって王城の仕事をしている。やはり、「働かざる者食うべからず」だ。食事を頂く分の労働をせねば。外の情報が色々と手に入るしね。
夕食を摂った後は後宮の家に帰って寝る。
そして時々だが、王城の外にも出るようになった。通行許可書など持ってないから正門は使えない。流石に『隠密』を使っても通れないと思う。そんな簡単に通れるなら間者が入りたい放題だ。
実は、王城の独身兵士が生活する兵舍の裏に外へ出られる抜け道があるのだ。兵士が夜の街へ遊びに行くための道だ。そこを使う。これでやっとお金を手に入れる手段ができた。王城や後宮の倉庫で調達した物品や廃棄された側室たちのドレスを切って布にした物を街で売るのだ。その金で自分の服や靴や必需品を買っている。リリカも女子だ。お年頃だ。そろそろ倉庫の調達品じゃなく、普段着くらい、店で自分で選んだものを着たくなったのだ。無駄使いせず、『収納』貯金もしている。将来、何かと入り用も出てくるだろう。
鍛練は順調に続けている。訓練場には、訓練用の槍が揃っているし、そして他の兵士と模擬戦ができるのが良い。腕が上がったし、背もさらに伸びた。
魔術の訓練も順調だ。中級魔術は四属性とも習得できた。やはりリリカは魔術の適性が高いようだ。今は中級魔術を極めんと頑張っている。発動速度や命中精度、威力の向上が課題だ。
友達もできた。王城の下働きの女の子だ。彼女は入城して2年目らしく、やっとできた後輩(と言うことになっている)に、張り切って仕事や仕事以外の事も色々と教えてくれる。身分を偽っているこちらが罪悪感を覚えるくらい良い子だ。
「リリィー!」
昼食を食べているリリカに駆け寄ってくる小柄な女の子。ツインテールにした焦茶色の髪がピョコピョコ跳ねている。
「一緒に食べよっ」
「フィリン、お疲れぇ~。席取ってあるから、早く食事貰って来なよ」
「うん、ありがと。あっ今日はホロホロ鳥のスープだね♪これ好きなんだぁ」
また髪をピョコピョコ跳ねさせながら、受け取り口へと駆けていく。元気な子だ。世の中の悪意など何も知らないかのような純真な雰囲気を持っているが、あれで中々の苦労人だ。父親は騙されて借金を背負い、奴隷として連れていかれた。母親は病気患いで一日の殆どを寝ていて、妹と弟が面倒を見ている。妹が6才、弟が4才で、働けるような年じゃない。そんなとき母親の友達の伝で王城の下働きの仕事を得ることができて、フィリンは一家の大黒柱になったのだった。街で働くよりも王城の給金の方が遥かに良い。母親の薬代と家族の最低限の暮らしを賄えるくらいに貰えている。貯金をするほどの余裕はないみたいだが。
「今日は書庫の整理の手伝いに行ったんだけど、すんごい大変だったんだよ!本は重いし、埃は凄いし。それに私、字が読めないから内容毎に纏めろと言われても分かんなくてさぁー。めちゃ怒られたぁ」
フィリンは、自分の分の食事を持ってきて席に着くなり喋り出す。薄茶色の瞳をクリクリさせて、頬っぺを不満げに膨らませている。
可愛い。
「それは大変だったね。手伝いは午前で終了?」
「うん。「お前は使えないから午後は来なくていいよー」だって♪へへっ」
「あはは、バカにされて嬉しいなんて、被虐趣味?」
「ばっ、そ、そんな訳ないでしょぉー!!」
「あはははは」
「リリィ~~! 午後の仕事、覚悟しなよ!」
「あはは、お手柔らかにお願いします、先輩」
「先輩って、ホントにそう思ってる? いっつも私の方が年下に見られるじゃん」
フィリンは14才だが小柄で、成長著しいリリカと同じくらいの身長だ。
「う~ん、フィリンって10才だっけ? なら、私の方が年上だな」
「ちょっとー!? 14才だよ! リリィより2才年上だよ! 大人だよ」
リリカはホントは11才だが、王城で働けるのが12才からなので、そう言う事にした。リリィと言う名も勿論偽名だ。
「あれ、そうだっけ?」
「まじで午後の仕事、キツいのばっかり振り分けてやる!」
「うそうそ、嘘でーす」
軽口を交わしながら楽しく昼食を食べる。
後宮に来てからはずっと一人でいたので、こんな軽口を言える友達はありがたい。
そんな穏やかで充実した日々を送っているリリカだった。
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