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本日も宜しくお願いします

今日はちょっと短目です

王太子と初顔合わせなるか?

リリカはここ5日間ほど、午後の時間を裁縫に費やしていた。


 ひとつは、贈り物にするハンカチの刺繍。もうひとつは王太子殿下の誕生祝賀会で着る自分のドレスの準備だ。ハンカチは、絹の無地の白いハンカチを探すところから始まった。リリカはお金がないので、購入するという手段がとれない。王城や後宮をうろちょろした結果、後宮で廃棄されたシーツを見つけて、そこからハンカチの大きさに布を切り出した。そして図書館で殿下の王紋を調べて、それを刺繍した。我ながら上手くできたと思う。王城の倉庫で調達した綺麗な紙とリボンで包装した。


 ドレスは一から作りあげる技量は流石にないので、エタノルから持ってきたドレスを手直しすることにした。後宮のごみ置き場に廃棄されていた、どなたかのドレスを見つけてきてパーツを切り出して、自前のドレスに組み込んで何とか、今の体格に合わせた。

 そんな努力も一瞬の油断で台無しにされてしまうのだが。


 

 誕生祝賀会当日、会場は王太子妃殿下のお屋敷に程近い庭園だ。その庭園の一角に、大きな舞台が設置されており、黄金や宝石で装飾された豪華な椅子が置いてある。舞台の前には、側室が座る椅子と、その傍らにある卓上には飲み物や軽食が準備されている。椅子に腰かける側室を取り囲むように侍女が立っていて、彼女らをすっぽり覆うほどの日除けの天幕が張られている。そのような塊が、側室の人数分、いや、リリカの分を除いた30席、舞台を囲むように扇状に配置されている。リリカの席は舞台から一番遠い場所に、簡素な椅子と卓のみが置いてあった。

 既に多くの側室たちが集まっていて、談笑している。色とりどりの豪華なドレスを身に纏い、いつも以上にたくさんの装飾品と、いつも以上に強めの香水をつけた側室たちは、談笑しながらも時折、然り気なさを装いつつ、舞台上にある殿下の席とおぼしきキラキラの椅子の方をギラギラとした目で見ている。殿下はまだ現れていない様だ。

 リリカは自分に準備されている椅子に座った。今日の側室たちはリリカの事は視界にも入らない様で自身を如何に美しく見せるかにしか関心が無いようだ。

 それにしても、側室たちの必死さに笑いが込み上げてくる。笑いを堪えた顔を見られない様に俯き加減にした。


(前世で見た娼婦も、太客に対して同じような目付きをしていた。男を狙う女の眼というものは、貴賤に関係ないのだな)


 程なくして、こちらへ近づいてくる男性の集団が見えた。侍女頭のエンロックスが先導している。

 その集団の中から一人、先行して来た近衛騎士の野太い声が響き渡る。


「王太子殿下の御成りである!! 頭を下げよっ」


 その場にいた全ての者が居住まいを正して頭を下げた。リリカもそれに倣う。

 輿入れから半年以上経って、初めて見る夫である。

 殿下一行の足音が近づいてきて、壇上に上がったのが分かった。

 そして優しげで耳心地のよい声が聞こえた。


「みな面を上げよ。楽にするとよい」


 顔を上げて、そっと殿下のお顔を拝見する。

 遠くからなので細かい所までは見えないが、お綺麗な顔をお持ちだ。白金色の髪、菫色の瞳、優しげな声の割には背が高く体格は、がっしりしていて美丈夫。

 はぁ、流石は大国の王太子殿下。


「皆、私の誕生を祝ってくれて嬉しく思う」


 そう言って、舞台近くにいる極一部の者たちに笑顔を向ける。殿下に笑顔を向けられた妃殿下や上位の側室たちは頬を染めて微笑み返し、殿下の寵を得る事が出来ない他の側室たちに優越感に満ちた表情を見せている。そんな表情を見せられた下位の側室たちは笑顔をひきつらせながら、口元は悔しさに歪んでいる様だ。


(女の戦い怖えぇ~。女の嫉妬怖えぇ~。まさしく魑魅魍魎だわ。殿下も分かってて煽ってない?)


 殿下の前に列ができはじめる。妃殿下から順に殿下へ寿いで、贈り物を手渡していく様だ。一人ひとりの言葉に殿下も丁寧に言葉を返している。


(順番がくるまで暫くかかるな。それにしても・・・残忍と噂のパミドロル王の息子ってんだから、同じ様な感じだろうと勝手に思ってたけど、なかなかに優男じゃん。まぁ、表の顔と裏の顔は違うんだろうけど)

 

 そうこうするうちに、側室の列が短くなってきた。リリカはその列の後ろに並ぼうと、側室たちの席の間を歩いていった。


 油断していた。下手に魔術を使っては、殿下を守る近衛騎士に感知されて、面倒な事になるかもと危惧したため『索敵』や『隠密』を切っていたのが一つ。側室たちがリリカに関心を向けていなかったのが一つ。初めて殿下に会う事に緊張していたのもあったかも知れない。既に挨拶を終わらせた側室の一人がこちらを見て含み笑いをしている事に気がついてなかった。

 あっ、と思ったときには、果実酒の入ったグラスが中身をぶちまけながら私の胸元に当たって落ちていくところだった。当然、私のドレスは果実酒の濃い色の染みが盛大にできていた。


 周囲からクスクスと笑い声が聞こえる。グラスを投げたであろう側室は明後日の方向を見ている。

 とても殿下の御前に出られる状態じゃなくなった。贈り物の包みも汚れてしまった。たぶん中身も被害を受けていると思われる。


「・・・・・」


 呆れ果てて何も言う気になれない。

 ふと舞台を見ると、殿下は順番の側室と談笑していて、こちらの騒ぎには気づいていなさそうだ。舞台の袖には侍女頭が立っていて、冷めた目でこちらを見ていた。


 リリカは、そのまま静かに回れ右して家に帰った。


「はぁ~っ、クソつまんない事しやがって・・・」


 私の呟きを聞いたものは誰もいなかった。



毎日更新中

王太子とはニヤミスで終わってしまいました

明日は、リリカに友達が?!

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