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本日も宜しくお願いします
今日のお茶会はどんな?
2度目のお茶会は、「毎日、暑くてダルいから、水辺で涼みながらお茶会しちゃうぞ☆」って内容らしい。
(はぁ~、嫌な予感しかしないんだけど)
前回と違う、二番目に綺麗なドレスを着て会場に向かう。靴は同じだ。いや、さらに薄汚れていて、しかも成長したせいで爪先がきつい。普段は靴の踵を踏んづけて履いてるので、後ろがクチャクチャだ。
王太子妃殿下のお屋敷に近い庭園の池のそばに、お茶会の場が設置されていた。綺麗に刈り込んだ芝生の上に植物で編んだ造りの涼しげな椅子が並んでいる。会場に近づいて行くと、周囲を警戒している衛兵がジロリと睨んできたが、すぐに私だと気がついたらしく、目を逸らして警戒を解いた。その横を通り過ぎ、妃殿下へ挨拶してから末席に座った。妃殿下は「いらっしゃい」と微笑んで答えただけだった。
参加者が揃って、和やかにお茶会が始まる。今日は私の前にもお茶と茶菓子が出された。しかし、『鑑定』で見ると、お茶が馬の尿で、茶菓子には下剤が混入している様だった。そう、食事の毎に『鑑定』をかけていたら習熟度があがって、ここまで分かるようになりました!
(じゃなくて、何!? 馬の尿と下剤って、何!? 下品すぎるでしょ! お姫様方、下品すぎる)
さっきから、側室たちが会話しながらもチラチラとこちらの様子を窺ってくる。皆、期待に目をキラキラさせているけど、その期待には応えられないからね、悪いけど。
リリカがお茶やお茶菓子に手をつけないでいると、でも、そこで妃殿下が「逃がさないぞ」とばかりに口撃してくる。追加で周囲からの援護口撃もとんでくる。
「リリカさんも召し上がって。王都で評判のお菓子を取り寄せたのよ。お茶は体を涼しくしてくれる効果がある特別なお茶よ」
「まぁ、道理で、汗が一瞬で引きましたわ。香りも味も涼しげで美味しい」
「ええ、お菓子も甘過ぎず、それでいて奥行きのあるお味ですわね。さすがカオリン様、情報通でいらっしゃる」
「わざわざカオリン様がこの日のためにお取り寄せになられたお菓子とお茶ですもの、頂かないなんて方、いらっしゃいませんわよね」
引き攣った笑顔になるのは仕方がない。
「そのような大変に珍しいものをありがとうございます。でも残念ながら、今日はお腹の調子が悪くて、頂けそうにありません。差し支えなければ持ち帰り、明日にでも頂かせてもらいますわ」
「まぁ大変、薬師を呼びましょうか? 大変優秀な先生ですのよ。きっとよく効くお薬を処方して下さいますわ」
(いや、この菓子に混じってる下剤は、その薬師が処方したんだろうが。そんな先生に診てもらいたくないわ)
「お気遣い頂きありがとうございます。これは昔からの持病のような物で、一日絶食すれば、翌日には治りますから心配ありません。この様な日に体調を崩してしまい、申し訳ございません」
「持病なら尚更、薬師に診てもらって、体質を改善する方法を診断して頂くのが宜しいのではなくて?」
「いえ、わたくしごときにその様なお手数をおかけする訳には参りません。お気持ちだけ有りがたく頂戴いたします。それに本当に症状はたいしたことないんですの」
「そう・・・」
妃殿下は少し残念そうに、それでもそれ以上の追求は諦めてくれた。
(ふぅ、助かった・・・か?)
妃殿下と側室たちはこちらへの興味を失った様で、また私には分からない話題で盛り上がっていた。
(でも、何かまだ完全に諦めてなさそうなんだよなぁ)
やがて話題は庭園に咲く花の事に移った。何でも水辺にこの時期にしか咲かない花が見頃を迎えているとか。そこで「皆で鑑賞しましょうよ」と誰かが言い出して、「そうしましょう」「そうしましょう」と皆が動き始めた。
お腹の調子が悪い(事になっている)私は遠慮して座ったままでいようと思っていたのに、それを許さぬ声がかかる。妃殿下だ。
「リリカさんは後宮に来たばかりだから初めてでしょ? 是非、一緒にいらして? 絶対にご覧になるべきよ」
「・・・はい、是非」
仕方なく、ぞろぞろと移動を始めた一団の後ろを、少し間を空けてついていく。50歩程歩いた先にあった小川に沿ってそれは咲いていた。全体の高さは膝下くらいで、小刀の様な尖った葉っぱの中に紛れるように、蝶が舞ったような形の薄紫色の花がいくつも付いている。近づいてよく見ると、花弁は透き通る様に薄い。
(へぇー綺麗だ。確かに一見の価値はある)
立ったまま膝に手を置いて頭の位置を下げて、感心しながら覗き込んでいたら、背後に近づく人を『索敵』が感知した。その人物がそろりと両手を私の背中に近づけてくる。その両手が背中を押すために力を込めた瞬間、さっと横へ避けるように振り返って背を伸ばした。力をかけるべき対象物が突然消えたために勢いを殺しきれなかった人影はそのまま川へと傾いでいく。
どっぼーーーんっ!
びっくり顔を作って(びっくりしてないけど)川を覗きこむ。そこには四つん這いで川に浸かっている侍女の姿があった。川は浅く、四つん這いでも顔が水に浸かることはないようだ。
「大丈夫ですか!?」
心配そうに聞くが、決して助けようなんてしない。近づくの、危ない、危険。
「騎士様、早く助けて差し上げてください!」
必死な様子を取り繕って、衛兵に声をかける。
少し離れた場所に控えていた衛兵達が集まってきて服が濡れるのも厭わずに川の中に入り、落ちた侍女を助けあげた。
そんな騒ぎを遠目に眺めていた妃殿下と側室たちに白けた空気が広がる。その侍女が私に何をしようとしていたのか? だとか、誰の侍女なのか? だとか、追求する様子はない。そして、そのままこの会は解散になった。
(子供かっ!)
毎日更新中
明日は、また少し時間が進みます
成長、生活の変化、情報収集・・・




